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人口と開発に関するアジア議員フォーラム
第3回大会
バンコク宣言
1990年10月18日
タイ国、バンコク
 
序文:
1. 1990年10月15日から18日まで、タイ、バンコクにて開催された「人口と開発に関するアジア議員フォーラム第3回大会」に出席した21ヵ国の国会議員は、人口と開発に関する以下の内容を宣言する。
(a)1987年に北京で開催された「人口と開発に関するアジア議員フォーラム第2回大会」で設定された目標の達成に向かって、重要な成果が得られたことを満足をもって注目する。
(b)人口問題を開発計画の中に更に組み入れていくことは、アジアのすべての国において人口増加率を安定させるために不可欠であり、ひいては、人口と資源と環境のバランスを維持し、持続的な開発を達成する共通の努力にとっても重大であることを認識する。
(c)女性の健康・福祉を向上させ、また、出生率、乳児死亡率、妊産婦死亡率を減少させる上での家族計画プログラムおよび社会・経済開発活動の重要性を改めて強調する。
(d)とりわけ、法律制定の協議を進め、政府および民間の支援を結集することによって人口・開発問題に対する効果的かつ統一的な取り組みを達成するための活動を促進し、支援する責任を受け入れる。
(e)西暦2000年までにアジア地域の年間人口増加率1パーセント達成をめざし、確固たる決意をもってこれを支援することを繰り返し表明する。
(f)健康を達成するための重要な方策として、また、出生率を効果的かつ安全に低下させる方法として、家族計画の受け入れ促進が急務であることを強調する。
(g)男女平等の原則とは、人間の権利および責任において男性と女性が平等であることを意味するものであると宣言する。
(h)出生率の低下を持続させる最も確実な方法は、社会的および人的資源の開発に投資し、母子の健康を向上させ、女性の地位および教育を引き上げ、家族計画を男女両方にできるだけ広く普及させることであると認識する。
(i)アジア各国で若者と高齢者の人口が増えていることの社会的、経済的影響に対して懸念を表明するとともに、彼らが社会および経済の発展に積極的に参加することを促す特別プログラムを考案する必要があることを認識する。
(j)原則として、アムステルダム宣言「将来の世代のためによりよい生活を」の中で明確にされた人口問題の目標・目的ならびにプログラムの優先順位や取り組み方を支持する。
(k)軍縮を推進することによって、人口・開発活動のために資源を活用することが必要であると再確認する。
 
アジアにおける人口動態の状況
2. 地球全体としては出生率が急速かつ大幅に減少しているにもかかわらず、現在のアジアの人口31億人は今世紀末までに37億人に達するであろう。全体的に見て、最も人口が増加するのは、新生児および彼らの将来への投資が最も遅れているとみなされる最貧諸国であろう。例えば、南アジアでは全般的に年間2.34パーセントで人口が増加しており、1990年代には3億5000万人の増加に対し、避妊具の使用がめざましく進んでいる東アジアでは2億人の増加にとどまるだろう。
 
3. この人口増加の比重は、変化の中心となっているアジアの諸都市で最も重い。このような都市の発展によって工業化が進み、豊かさが増して、消費も伸びた。しかし、同時に、産業汚染が悪化し、森林や農地は破壊され、地球の温暖化傾向が進み、アジアの都市部人口の半分はスラム居住者や不法居住者になってしまった。また、アジア地域では保健サービスが改善されたことなどから、人口の高齢化も進んでいる。高齢化傾向は、非常に大量の社会的資源を必要とする深刻な社会・経済的および心理的意味合いを生み出している。
 
将来への投資
4. アジア諸国の社会的、経済的および政治的状況の相違に留意し、また、各国の国家主権を尊重する一方で、すべての国の国会議員がそうであるように、我々は開発に関する仮説を評価しなおす必要があることを認識する。そのためには、とりわけ以下の事柄が必要である。
(a)環境破壊およびその原因に対する高まりつつある懸念を真剣に受け止める。
(b)とりわけ、人間を苦しみから解放し、人口増加の速度を低下させ、バランスのとれた開発を行なうことを目的とした、人的資源および社会プログラムの開発を通じて、貧困ならびに急速な人口増加に対する直接的かつ全面的な行動をとる。
(c)現在の都市化傾向に代わり得る道を切り拓く。
(d)強力かつ確固たる家族計画プログラムに対する投資を行なう。
(e)人材として、あるいは社会・経済開発における優先課題として、女性に対する投資を行なう。
(f)国家開発の土台としての民族自決を強調する。
 
5. アジア議員フォーラムは、経済発展は、人間開発を犠牲にして手に入れることはできない、またそうであってはならないことを強調する。出生率、死亡率、移動率を低下させる方策は、関連する社会・経済・環境要因を考慮した諸施策で補強・補足されなければならない。従って、人口政策およびプログラムは、健康や家族のための福祉を越えて、社会的、経済的不平等、失業、女性の役割と地位、教育と非識字、環境悪化などの問題を取り上げなければならない。
 
6.世界人口の半分を占める女性は、社会投資において最優先されなければならない。しかしながら、女性が単に避妊行為者、あるいは経済成長の手段とみなされてはならず、人間としての尊厳や価値においては男性と平等であると考えられねばならない。男女は平等な教育の機会を与えられるべきである。他の開発途上地域と同様に、アジアでは、食料生産および燃料と水の蓄えはほとんど女性に任されている。女性は開発の中心であり、従って、農業・環境の管理、社会・経済開発はもとより、国家建設においても極めて重要な役割を果たさねばならない。
 
7. 女性のニーズを無視すれば、危機的な結果を招く恐れがある。人口増加が抑制できなくなり、乳児や幼児の死亡率が上がり、経済が弱体化し、農業生産の効率が低下し、環境の劣悪化が進む。すなわち、社会がばらばらになり、あらゆる人々の生活の質が低下する。少女および女性にとっては、機会が平等でなくなり、学校教育の機会が減り、健康状態が悪化し、賃金が下がり、法律による十分な保護がなくなり、選択のできない生活になることを意味する。
 
行動プログラム
8. 人口と開発の複雑な問題に対応しようという行動プログラムは、いかなるものであれ、その性質上、以下の3つの基本原則に根ざしたものでなければならない。(1)人口、資源、環境は切っても切れない関係にある。(2)この3つの要因を十分に考慮することなく開発を持続することはできない。(3)経済成長は人口増加、環境に対する配慮、および社会の進出とのバランスがとれていなければならない。ゆえに、効果的な開発戦略とは、少なくとも、人口増加を減少し、人口分布のバランスを保ち、環境を保護し、社会のあらゆる分野の人々、とりわけ最も恵まれない人々に、十分な食料供給を保証し、貧困を廃絶しようとするものでなければならない。更に、母子の死亡率を減らし、女性の地位と役割を向上させ、高齢者に保障を与え、青年特有のニーズに対処し、保健医療や家族計画サービスを促進しようとするものでなければならない。
 
人口増加の抑制
9. とりわけ、急速な人口増加がバランスのとれた開発を妨げ、森林を破壊し、土地や水源の劣悪化を招く。これは食料の供給を脅かし、生活の質を低下させるものである。国会議員としては、その少なからぬ影響力ならびに優れた機関を活用して、人口増加率の低減を促進するために、以下の行動を開始あるいは支援すべきである。
(a)国家開発計画の一部をなすものとして、包括的な、国家レベルの人口戦略の策定および強化を奨励する。
(b)人口計画を開発計画の他のあらゆる面に取り入れる。
(c)出生率調整のための政府および社会の支援を促す。
(d)非政府組織を含むあらゆるルートを通じて、男性、10代の若者、新婚夫婦など、すべての人口区分に家族計画の情報やサービスを広く普及し、簡単に入手できるようにすることによって、家族計画サービスを利用する女性の数を増やす。
(e)地域の参加を奨励するため、家族計画サービスを各地の習慣や嗜好に適合させる。
(f)職員管理の改善および職員訓練の拡大により、家族計画プログラムを強化する。
(g)法律上の裏づけを得て、必要財源を調達することにより、避妊具の生産を促進する。
(h)安価で、簡単で、信頼性があり、安全でしかも可逆的な避妊方法の開発に関する研究のために十分な公的資金を確保する。
 
死亡率、特に妊産婦および乳・幼児死亡率の低減
10. 出産には常に危険が伴う。しかし、開発途上地域の母と子にとって危険は甚だしい。毎年少なくとも50万人の女性が、妊娠あるいは出産にかかわる原因で死亡しており、その99パーセントは開発途上国においてである。アジアの一部の地域では、女性の18人に1人は、出産で命を落としている。世界全体では、5歳以下の子供の死亡率がさらに高まっており、毎年およそ1400万人にのぼる。最も悲しむべきは、これらの死亡は、簡単かつ効果的で費用もかからない方法で防ぎ得ることである。例えば、
(a)人口動態的影響、および若年妊娠、高齢妊娠、多産、出産間隔の短さが健康に及ぼす影響に対する認識創出のための特別の情報や啓蒙キャンペーンを開発する。
(b)プライマリー・ヘルスケアおよびサービスの改善・拡充を行ない、これらのサービスを家族計画サービスの中に組み入れる。
(c)すべての子供を対象に予防接種プログラムを広める。
(d)栄養および健康に関するプログラムを拡大・改善する。
(e)栄養上および家族計画上の理由から、母乳で育てることを奨励する。
(f)安全分娩のための従来の介添え人や治療人、および一般的な子供の病気の診断や簡単な治療法に関する訓練プログラム、フォローアップ、管理を強化する。
 
バランスのとれた人口分布と資源
11. 世界に今、都市革命が起こっていることはほとんど疑うべくもない。1950年以降、開発途上国の都市部の人口は4倍以上に増えた。アジアでは、2000年に都市人口の割合は35パーセントに達するものと推測されている。このような都市人口の増加は、とりわけ社会の最貧層に対する、不可欠な社会サービスの伝達や基礎必需品の提供を著しく損ない、農地を破壊し、広がりつつある人口と資源の不均衡をさらに悪化させる。この状況を正すために必要な方策には以下のようなものがある。
(a)中小規模の都市センターの開発・拡大のための投資によって大規模な都市センターの拡大を相殺することを目指し、国家開発計画を強調し、それに組み込まれた国家戦略を策定し、実践する。
(b)都市部における健康・家族計画サービスをはじめとする社会プログラムに関する、より十分な統計のデータベースを開発する。
(c)実施可能な所では、産業・社会・教育施設を主要な都市センターから離れた場所に移す。
(d)母子保健医療および家族計画(MCH/FP)のサービスや教育も含め、農村部における基本的な社会・医療設備を改善・拡充する。
(e)農村部における雇用機会を創出・拡大する。
(f)都市の経済的、文化的側面の一部として、移住者が主に従事している小規模な商売やサービス、食品加工、低コストの輸送および建設などの非公式部門を開発する。
(g)スラムの撲滅など、既に都市部に居住している人々に十分かつ余裕ある基礎サービスを提供することをめざして都市のインフラストラクチャーを開発する。
 
環境保護
12. 増え続ける人間の要求は、土地、水、空気など、すべての開発を左右する天然資源の基盤を破壊している。この過程において人口は重要な役割を果たす。技術の種類、消費量や廃棄量、貧困や平等の度合いを問わず、人が多くなればなるほど環境に大きな影響を及ぼす。これは、特に、開発途上国の土壌や森林の破壊と地球の温暖化について言えることであり、いずれも、人類の幸福と生存にとって最大の脅威となっている。アジアにおいて人口と資源の持続可能な関係を築くためには、とりわけ以下のことが要求される。
(a)人口増加の速度を緩め、積極的にその安定化を図る。
(b)バランスのとれた都市開発のための適切な指示および方策を与える。
(c)村の森林および、最も貧しい農民や女性の農地権を保護する法律を採用する。
(d)現存する農地の生産性を向上させるとともに、荒廃した農地を復元・再生させるために、農業資源のもととなるものに投資する。
(e)恵まれない人々を中心に、社会のあらゆる部門に十分かつ時宜を得た食料を供給することを保証する。
(f)環境に安全でない肥料や殺虫剤の使用、および産業廃棄物の投棄を禁止する。
(g)森林破壊を防止するための適切な法律を公布する。
(h)環境に安全な産業工程を開発・導入する。
(i)農民に対し、水および灌漑の管理を改善し、生物肥料を使用する教育・奨励する。
 
女性の全面参加
13. 女性のためのプログラムに投資をすることは、女性にとって選択肢を広げ、地位や扶養の面で子供に依存する度合いを減らすことを意味する。それはつまり、開発計画のあらゆる段階で、女性の能力、権利、ニーズを考慮し、女性が出産だけに限らず、自らの社会に対する貢献によってその地位と安定を確保できるようにすることである。家族計画が成功すれば、その他にも自由の可能性が生まれてくるため、社会が行なうべき最も重要な投資である。同じことは、女性の健康と教育に対する投資にも言えよう。特定の措置が必要なものは以下のとおり。s
(a)家族計画事業を進める組織では、すべてのレベルで女性の意見尊重と参加を保証すること。
(b)貧困層や移民をはじめとする女性の地位を向上させ、結婚における差別的慣習を廃止し、妊婦の死亡率を低下させるために、問題の所在を明らかにし、法案を作成し、政府と世論を動かして支持を得ること。
(c)女性が生産的資源を所有、管理するのを妨げたり制限したりする法律や慣習をすべて廃止すること。
(d)非識字の女性に対する特別な配慮を含め、女性には男性と同等な教育と訓練の機会を与えること。
(e)開発における女性の重要な役割について文書に著し、発表すること。
(f)全国統計で性別による分類を行なわないこと。
(g)生産や人口再生産(リプロダクティブ)に対する女性の権利や責任について、なるべく多くの人々の正確かつ完全な情報を与えること。
(h)農業および非公式部門において、女性が可能な限り担保なしで融資が受けられるようにし、市場へのアクセスを容易にすること。
(i)雇用機会均等と同一労働同一賃金とを保証する法律をつくり、実施すること。
(j)女性の労働市場進出を阻む障害がないよう、十分な支援サービスを提供すること。







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