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1.3 構造規則の必要性(指導書P.4参照)
 構造墓準がなぜ必要となるか、よく理解してもらいたい。これらはあくまで普通の構造で、普通の使い方をする船について定めた最低基準であることを忘れてはならない。したがって、構造基準によって船殻設計のできる部材は限られたものである。
 
 小型鋼船に対する構造規則および構造基準にどのようなものがあるか、その名称と適用範囲については常識として知っておくとよい。
 
 造船用鋼材については基礎知識として重要であるので、よく読んで理解してほしい。この程度のことは造船技術者として常識化しておく必要がある。
 
 第1表にリムド鋼、セミキルド鋼、キルド鋼の3種類の鋼材の性質を比較する。造船用材として使われるのは溶接性の良好なキルド鋼とセミキルド鋼であり、とくに厚板ではリムド鋼はあまり使われなくなりつつある。
 
第1表 リムド鋼、セミキルド鋼、キルド鋼の比較
  リムド鋼 セミキルド鋼 キルド鋼
脱酸の程度 ほとんど脱酸しないか、わずかに脱酸する。 中程度の脱酸 完全に脱酸する。
同じ炭素量での抗張力・降伏点 最も低い。 リムド鋼より高い。 最も高い。
伸び 大差ない。 同左 同左
衝撃値 劣る。 リムド鋼より優れている。 最も優れている。低温における切欠じん性は細粒鋼が特に優れている。
溶接性 サルファーの偏析のある場合、サルファークラックを生じやすい。 切欠じん性の点ではキルド鋼に劣る。サルファークラックは少ない。 細粒鋼は優秀。
成分の分布 不均一 ほぼ均一 均一
成分的制限 C<0.25%、Mn<0.60%が望ましい。脱酸剤をあまり加えてはならない。 Si<0.03% リムド鋼より制限は少ない。ただし、脱酸剤をあまり加えてはならない。 最も制限が少ない。普通、Si=0.15〜0.35%であるが、必要に応じてSiを低くしAlを多くして脱酸を行う。
 
補講(鋼材の性質と検査)
 船舶は、ほかの陸上製品に比べて大型で、多数の人命と貴重な積荷を運搬している。そして、航海中での波浪による荷重の変動、動揺・振動など複雑な外力を受けているので、鋼材の性質いかんによっては重大な事故の原因にもなる。したがって、船殻部材および艤装品類は十分に信頼のおける材質のものでなければならない。このため、鋼材は国および船級協会の規則にしたがって、試験・検査され、合格しなければ使用できないことになっている。この検査は、鋼材メーカーにおいて試験官立会いのもとに行われ、造船所に納入される。
 この検査に合格した鋼材を船級材と称して、製鉄所のマークとともに各船級協会の記号・級別記号の認印がおされる。また、船級材にはその鋼材の成分、機械的試験の結果を示し、その品質を保証するミル・シートが必ず付いている。
 国の規格として、日本工業規格(JIS)には溶接構造用圧延鋼材があり、その引張強さ別に成分、機械的性質を定めている。(指導書P.7の第1.2 表、P.8の第1.3 表・第1.4 表、P.9の第1.5 表を参照のこと。)
 各船級協会においては、おのおのの鋼のグレード別にその満足すべき条件を定めている。このグレードはNK、AB、LRほか4船級協会で作成した世界統一規格であり、軟鋼については、
グレードA 普通鋼
グレードB A級とC、D級との間の鋼
グレードD ハイグレード鋼
グレードE とくに、切欠ぜい性に耐えうる鋼
の考え方で規格が定められている。しかし、各船級協会によって、この世界統一規格の受け入れ方が異なっているので、必ずしも各船級協会規則の要求程度が一本化されているわけではない。
 D級鋼は、クラックに対して強い耐久性をもち、E級鋼はクラックが伝播しにくい強い性質をもっている。クラックの発生、伝播を最小限に食い止める目的に使用されるものをクラックアレスターという。船級協会規則においては、船の大きさによってクラック・アレスターとして必要なリベット継手の場所を定めているが(このようなリベット・シームについては指導書P.90〜P.91を参照のこと)、この際、E級鋼を使用すれば、その場所のリベット継手は設けなくてもよいことになっている。
 
 JIS規格材SM400A、SM400Bは常識として知っておいてもらいたい。この400という数字は引張強さ400〜510(N/mm2)で強さの最低要求を表している。(引張強さのことを抗張力ということもある。)SM400AとSM400Bとの違いは、伸びの相違(指導書第1.5 表)、化学成分の相違(指導書第1.2 表)にある。
 
 指導書第1.3図の鋼材の応力−ひずみ曲線は重要であるので、指導書の説明をよく読んでほしい。ヤング係数、降伏点、引張強さ、伸びなどの重要な概念をはっきりと理解することが大切である。鋼材のヤング係数E=21,000kgf/mm2(205,940N/mm2)は記憶しておくとよい。
 
 弾性と塑性、じん性とぜい性、疲れは指導書をよく読んで理解すること。
補講(鋼材の低温ぜい性)
 鋼材に切欠(ノッチ)をきざみ込んで荷重をかけると、切欠の先端に応力集中を生じて切欠のない場合に比べて同じ断面積でも容易に破断する。その抵抗力の大きさは、破断までの吸収エネルギーの大きさにより示すことができる。第5図、第6図に示すような、試験方法で求められる。第5図をシャルビー衝撃試験、第6図をアイゾット衝撃試験といい、広く用いられている。いずれもハンマーの持上げ各αと振上がり角βとの差により試験片を破談するのに要した衝撃吸収エネルギーから求められる。
 
シャルピー衝撃
第5図
 
 
アイゾット衝撃
第6図
 
 
 シャルピー衝撃値(kgf・m/cm2)=衝撃吸収エネルギー(kgf・m)/切込部の断面積(cm2)この衝撃値の大小によりその抵抗力の大きさを比較する。第5図の方法で求め、上式で計算したものをシャルピー衝撃値、第6図の方法で求めた衝撃吸収エネルギー(kgf・m)をアイゾット衝撃値という。
 抵抗力の大きさ(衝撃値)は、温度によって変化し、ある温度以下の低温になると急激に抵抗力が減少し、延性を失ないきわめてもろくなる。(第7図参照)これを低温ぜい性といい、抵抗力の大なるものを切欠じん性を有するという。この急変化を生ずる温度を遷移温度と呼んでいる。衝撃値の大小がその材料の切欠じん性の程度を表す尺度となる。
 
 
第7図
 
 
 許容応力とは、使用材料を定めたときにそれが安全に機能を果たすために許される最大の応力をいう。これに対して使用応力という言葉があるが、これは、実際にその部材または要素に作用すると考えられる応力を意味し、使用応力の最大値が許容応力を越えないように部材の寸法を設計するわけである。安全率というのは、一般に、
により定義される。一般に極限強さとしては引張強さを採っている。
 船体では許容応力を船の長さの大小により変えているが、この理由については指導書P.50を参照すること。







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