第3章 船殻構造の設計
3.1 設計方針
3.1.1 構造力学と構造設計との関係
構造設計は建造費、保守費、修理費および損失補償費などを含めたその船一生の経費を最小とする船体構造の方式、材料、各部の寸法などを決定することで、経済観念をベースとしなければならないことが、構造力学などの学問と根本的に異なっている。最適構造を得るためには、近視眼的に建造費の低下のみを考えず、船の一生のことをも考えるべきであろう。
船が一生の間にどのような外力を受けるかは、自然が相手であるため100%正確に測り知ることはできない。絶対に損傷を起さない船というものは存在せず、またこのことを保証することもできない。すべてある確率(多数の中の何%を保証するか)に基づくものである。経済性を失なわずにこの確率を高くして行くのが技術であり、自然の本性を見きわめるのが技術の基礎となる学問である。
3.2 構造設計の順序
3.2.1 構造寸法決定の手順
鋼船の船殻構造は大別して、横式構造(トランスバースシステム)、縦式構造(ロンジシステム)および両者の混合構造に分けられる。
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第3.1図 構造寸法決定手順
(a)横式構造
(b)縦式構造
(c)混合構造
3.2図 構造方式(外板、甲板の防とう方式)
(1)横式構造
第3.2(a)に示すように横式構造は、
(1)船側外板に船側肋骨を設ける。但し、長大な船倉内、機関室には4〜8肋骨毎に特設肋骨(深さが普通肋骨の約2倍以上)を配し、特設梁、実体肋板と結合する。
(2)甲板に肋骨の位置ごとに甲板梁を設ける。特設肋骨の位置には特設梁を設ける。
(3)単底には肋骨の位置ごとに肋板を設ける。二重底には約3.5mを超えない心距で肋骨の位置に実体肋板を設ける。中間の肋骨の位置には組立助板(外板付の形鋼を正助板、内底板付の形鋼を副肋板)を設け、中心線桁板および縁板に肘板で、肘板間は形鋼支柱で正・副助材を連結する。( 第1.10図参照)
(4)中央部0.5L間では、中心線桁板と縁板の間に、間隔がそれぞれ4.6mを超えないように側桁板を設け、各組立肋板の個所で形鋼支柱を設けなければならない。
(5)甲板下縦桁、船側縦通桁、中心線内竜骨または中心線桁板が縦強度に寄与し、外板、内底板、甲板等の板類が縦強度の中心部材となる。横強度は梁、肋骨、肋板または助材が付属する板類とともに効くことになる。
横式構造は、ブロック建造のとき小形の縦通材の継手が少ないので、船台上の作業が楽である。漁船の魚艙や機関室下部の小客量のタンクなどのように水密の助板を多数必要とする場合は、横式構造が有利である。小型船の船側構造には横式構造が有利である。
(2)縦式構造
第3.2図(b)に示すように縦式構造は、
(1)船側外板は船側縦肋骨を設け、実体助板の設けられている位置と合せ、4.8mを超えない間隔で特設肋骨を設け、外板と縦肋骨を支持する。
(2)甲板には縦通梁を設け、特設梁で支持する。その位置はなるべく二重底の実体助板の位置と合せ、実体助板−特性肋骨−特設梁で一連の構造を構成するようにする。
(3)二重底内は船底外板に船底縦肋骨、内底板に内底縦肋骨を設け、約3.5mを超えない心距で実体助板を設ける。
(4)中心線桁板には肋板間に、ほぼ1.75mを超えない心距でこれに隣接する船底縦肋骨に達する肘板を設け、桁板、外板及び船底縦肋骨に固着させなければならない。ただし、肘板の心距が1.25mを超える場合は、中心線桁板には防撓材を設けて補強する。
縦式構造は、船殻重量が軽く(材料軽減)、超大型船とは長大な船艙を有する船には縦強度の点で有利である。船底部の凹損対策には縦式構造の方が有利である。また、甲板の有効面積が大きくとれないときには、甲板梁を縦式構造とすると有利である。
(3)混合構造
第3.2図(c)に示すように混合構造は、
(1)主に船側は横式構造、甲板と二重底のみを縦式構造としたものが多い。
(2)横・縦両方式の接する個所の強度の連続性を保持するよう注意する必要がある。
混合構造の利点は、貨物の積付が容易で、重量軽減にもなり縦強度が大きいことである。第3.3図にこの部分の例を示す。これは、二重底構造が倉内の縦構造から、機関室の横構造に移る点を、外板展開図で示したものである。フレーム24番より前方は縦式構造二重底で、No.1〜No.7(No.4は側桁板となっている)の船底縦肋骨がある。これが24番より後方の機関室区画に入るとき(ここはタンク部分のみ横式二重底で、その他は単底である)、No.1、No.2は油密桁板に連続するからよいが、No.3ロンジ、側桁板、No.5ロンジはブラケット(B)で23番の助板に撃ぎをとって急激な変化を防いでいる。
混合構造は、船底と甲板を縦式構造とし、船側を横式構造としたものをいい、工作の点でも、縦強度の点でも有利である。この場合でも、船首尾部及び機関室の船底は横式構造がよい。
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第3.3図 縦・横構造の移行する部分
(上・外板展開図、下・縦断面図)
3.2.2 肋骨心距の決定
肋骨心距は一般配置図の段階ですでに決定さるべきものであるが、単底肋板、肋骨、外板、甲板などの寸法を定める要素の一つとして重要なものであるから、ここにその決定法を説明する。
横置フレームの心距は、船舶構造規則では倉内はおおむね450+2L(mm)(Lは船の長さ、m)とし、船首尾倉内および巡洋艦形船尾は隣接する肋骨との距離の最大は610mmと前項の式のいずれか小さい値におさえることとなっている。また、船首尾倉およびクルーザースターン並びに船首隔壁と船首から0.2Lの個所との間の横肋骨の心距は、610mmと前式のうち小さいものを超えてはならない。
一般の傾向としては、船首尾倉を除いては横肋骨心距を標準よりやや広い目としたものが多く(+100mm、−50mmの程度)船首尾倉はこれより10%位狭くするようである。肋骨心距を大にすれば、肋骨の数は減ずるが外板、甲板(甲板梁も肋骨ごとに設ける)の板厚と肋骨の寸法が増すから、これらを適当に組み合わせた場合に構造重量が最小となるわけである。しかし工作との関係もあり、やや広い目にとるようになっている。200トン未満の小型船となると、肋骨心距は全船通して同一とするのが簡便である。
船側縦通フレームの心距は、おおむね550+2L(mm)を標準としている。ただし、できる限り1.0mを超えないこととしている。
3.2.3 各部寸法の決定
構造様式および肋骨心距が決定(概略配置図検討時に決定されることが多い)された後、各部の寸法を決定することになる。
対象船舶の種類・船質・船の長さ等によって適用される構造規則又は構造基準等が決められる。
各部材の寸法は、採用された規則・基準等の規定にしたがって求めなければならない。
鋼船の場合は、鋼材の市販寸法および在庫量なども考慮して実船に用いる部材寸法を決定する。
その順序としては、一般的には第3.1図に示すように、船尾材、舵、外板、平板竜骨、フレーム、単底又は二重底構造、甲板、甲板下縦桁、梁、梁柱、隔壁、深水タンク、船首尾防とう構造、甲板室、船楼の順に計算を行い寸法を求める。
このうち強力甲板、外板等の縦強度に寄与する部材の総断面積は、構造規則に規定された船体横断面の断面係数を満足するよう定めねばならない。すなわち、3.7に説明するような方法で、まず最小厚さで計算し、合格しない場合、これに板厚増・部材寸法増などの修正を加える等をして、断面係数を満足するまでこの計算を行うことになる。従って、ここに若干のゆきつもどりつがある。
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