6. 建造方式の選択
a)建造計画
契約で決められた性能と保証すべき品を備えた船を適正なコストで建造するためには、慎重な事前検討が必要である。このため基本的には建造計画書(又は要領書)を作成し、管理者と作業者間とが個人差のない共通目標と、実行に対する共通認識を持つようにすることが望ましい。
これらについては詳述しないので、(社)軽金属溶接構造協会規格「アルミニウム合金製船殻工作標準」及び同「工作精度標準」を是非参照されたい。
建造計画書乃至建造要領書には、建造大日程、資材手配日程、工事時数予算等を示すとともに、
●建造方式 |
●組立/搭載順序 |
●伸し、かわし要領 |
●ブロック分割 |
●主溶接順序 |
●部材端部固着要領 |
●組立場所/ジグ計画 |
●溶接要領 |
●軸系工事要領 |
等の技術内容を規定する。日程と工事時数を纏めて表示するSカーブで計画値に対する消込みを行い、日程/時数を管理すれば効果的である。
b)建造方式
建造方式を大別すれば次のようになる。
何れの建造方式を採るかは建造船の種類、大きさ、構造方式、設備能力(含面積)、建造経験、技術レベル、慣習、環境等を考慮して判断するが、何れにしても
●計画した作業能率
●計画した工作品質・精度
が確保できるものでなければならない。そのためには主として次の事項に留意しなければならない。
●アクセスが良好なこと(運搬、作業、検査等)
●マテハンが良好なこと
●作業姿勢が良好なこと(下向姿勢等)
●組立・建付容易なこと
●クレーン、工作機器具が最大限使用できること
●工期の長短、生産量の大小
ブロック建造方式が主流である大手造船会社のアルミ船部門はブロック建造方式を採っているところが多く、また、船台回転率を上げるためにはブロック方式が有利ではあるが、アルミ合金製ブロックは一般に合わせ精度の確保が困難で、スムーズに仕上げるにはかなりの経験が要る。従って、小型船建造造船所では殆ど一体型建造方式を採用している。
なお、何れの建造方式を採るにせよ、工事には小組立段階から色々工夫したジグを極力広範囲に活用することが望ましい。
一体建造方式とする場合、正立、倒立何れの方式を選ぶかが問題となる。一体建造方式における両者の差違、長短所は大略次のようになる。
項目 |
正立方式 |
倒立方式 |
建造船台 |
船台上 |
組立定盤上+船台上 |
建付基準 |
キール |
上甲板 |
船台準備 |
倒立方式より容易 |
船体支持ジグが必要 |
建付精度 |
倒立方式より劣る |
良好 |
溶接姿勢 |
上向きが多い |
下向きが多い |
ブロック化 |
倒立方式より容易 |
困難 |
先行艤装 |
可能 |
困難 |
反転 |
不要 |
必要 |
建造設備 |
右は不要 |
反転に必要なクレーン容量、吊上げ高さスペースが必要 |
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図6−1、図6−2に倒立及び正立建造方式の実例を示す。
両方式の優劣比較は難しいが、倒立建造方式の場合、船台準備、反転の手間(社内クレーンがない時は外注クレーン車で反転)及び費用はかかるが、デッキベースで大骨・小骨・隔壁が正確に組立てられ、作業姿勢も下向きが多く、かつ強度上最も重要な骨同士の溶接が確実に行われる等のことから、工事精度、品質が良く工事もし易いので、倒立方式の方が有利ではないかと思われる。
船体支持ジグの設置高さは中央部で1,000〜1,500程度が普通である。図6−8にジグの一例を示す。
立体ブロック建造方式の場合は、各立体ブロックは倒立方式で製作されることが多い。
ブロック建造の場合のブロック分割とブロック切り口の伸し量、平面及び立体ブロック組立法の例を図6−3〜図6−7に示す。図6−9に旅客船の倒立建造例を示す。
図6−1 倒立一体建造の例(14GT 帆立養殖船)
図6−2 正立一体建造の例(19GT 旅客船)
図6−3 ブロック分割例(40m型警備艇)
図6−4 船底外板の組立例
図6−5 船側外板の組立例
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図6−6 船尾構造立体ブロックの組立例
図6−7 船首構造立体ブロックの組立例
図6−4〜6−8は LWS W 8101による
図6−8 船体支持ジグの例
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