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6. おわりに
 以上、造船の原寸型定規につき、手作業の作画現図およびコンピュータでの数値現図のアウトプットと位置付けて、解説を書き下ろしてみた。
 
 型定規の作成には、線図・構造現図・展開といった作業よりは、三次元空間理解の必要性は少なく、現図作業の入門に適する。
 また逆に造船工作法の知識を要するので、マーキン工程以降の作業もこなせる多能工として位置付けるとよい。
 造船所の中核をなす技能者・リーダーは、ここから育ってくるはずである。
 
 また、かつて木型・木定規が中心であった時代は、「大工」の技能が基礎とされていたが、現代はテムプレート・フイルム、スチール・テープが普及し「木工」の範囲は局限されている。造船所の作業の中では軽度の労働で、老年者・女性向きといえなくもない。
 数値現図の成熟により、型定規作成が所要工程に分散した大手造船所の撓鉄場一隅で、協力して曲型を組む障害者夫婦の働く姿をみたとき、この分野の開拓に携わってきて、まあ意義があったか・・・の感慨があった。
 
 以下、関連する雑件を付加して、おわりとする。
 
6.1 先行艤装と現図
 近隣国の大型造船所で、完成した船殼二重底ブロックをドック横に運んで「先行艤装工程」と称し、先ずフロアの間に管サポートを持ち込んで、縦向きに取付溶接、次いで管を横から挿入し、Uボルト止めするのを見た。盛んに窮屈なブロックを出入りしての2人2時間ほどの作業である。工作手順と運搬にロスが多く、これなら単なる「ブロック艤装」で、現図は関係ない。
 
 もともと先行艤装とは、小組立工程でフロアにマーキンされた位置に下向きで管サポートの取付溶接、大組立工程のタイコ(対構?)張りの前に配管を下ろし込む・・・殻艤一体の総合工作法であって、特定の艤装密度の高い機関室周りのブロックのみ例外として独立工程が計画される性格のものである。
 このため当然に出図タイミングを押さえて、艤装図にて現図作業をすることになる。
 空間的により近く適切な船殻構造への合理的な管サポート設計など、このような工作指導理念から結果してくる。
 
 やむをえない設計なら[写真6.1.1 構造と配管の干渉]は、事前に加工工程で処置されるのである。
 
 船殼工程での艤装用開孔ならびに艤装品取付、塗り分け線の位置出し、シーチェスト:海水取り入れ孔の篩板:ストレーナーや、外板への傾斜開孔管端フランジの形状。曲り外板に沿って設置するヒーティングコイル・ユニット作成組立のための現寸下図・・・あたりが艤装図での現図作業である。
 
 今や「先行塗装」や「ブロック塗装」の掛声で、吃水文字のブロック取付までに精度が上がってきた。
 
写真6.1.1 構造と配管の干渉
 
6.2 型定規作成と整理保管
 つぎは、現図アウトプットの管理運用の問題である。
 単独一隻限りの建造、同型・類型船ありでの連続建造、時間を置いての間欠建造などの条件にて変わるし、ブロック外注や加工先の区別でも変わる。
 型定規の兼用の範囲は、各番船別、ブロック・シリーズ別、各単位ブロック別など管理の括りや、加工組立系列別でも限定するようになる。兼用の範囲が狭くなると型定規の作成量が増える。
 現図以降の工程で処理された設計変更、次船へのフィードバックの型定規への織り込みも、先送りすると漏れになることが多い。
 とりあえず図面から余裕を見て発注された鋼材のスクラップ減しも、次が同型船なら、部材原寸が出た時点で見直さないと間に合わない。これも型定規作成作業の一環である。
 保管場所は、型・定規類に傷みや狂いがこないよう留意したい。
 
 数値現図では、電子データ記録となるからバックアップさえ取っておけば、ここでの問題は大方解消する。訂正などは、直接関係する工程から行うよう意識を変えよう。
 
6.3 型定規の検査と品質向上
 現図のミスは、後戻り再取材、バラシ再取付け、手待、工程遅延など、次工程以降に多大の損害を与える。ミスはあってはならず、型・定規の全品を徹底検査にかけても、その手間はペイする。だが、だからだといって作成工程の後に検査工程を、必ず重ねることはない。責任も不明確になり、どちらかというと両工程が凭れ合う形になりやすい。
 
 やはり、「品質は作り込まれる」のを原則としたい。品質は全て作成者の自己責任に属するとするのである。作成のプロセスに確認作業を織り込んでゆく。
 
 初心者が作成した、ミスすれば代換材料がない、どうも今ひとつ自信がない、など特別の時だけ検査を掛ければよい。
 実は事後の検査より、事前の注意指示が効果的である。
 
 それでもミスは起こるが、そのときは事情・内容を記録に残し、再発防止の「歯止め策」を検討して打ち出す。その蓄積が品質向上につながる。
 
 数値現図では定形繰り返しの手順は、システム内に自動化されており、手作業で起こりやすいウッカリや思い違いミスはない。もし新規のミスが起これば「歯止め策」をシステムに内蔵させることができて、使いこむほどシステムの機能は向上する。
 メインテナンスが重要なゆえんである。
 
6.4 日程計画
 型定規の作成にかかる作業量は、全現図作業の7〜8割をしめ、しかも設計の出図日程と加工の開始日程との間に押し込む必要があり、日程管理上の目玉となる。
 
 とにかく「お互い助け合って、やるっしかない」の心意気はいいが、それではムリ・ムラ・ムダの容認となる。
 生産性の安定・向上のためには、どうしても具体的な管理手法が必要である。
 
 作業の単位はブロック別が一般的で、その管理単位別に作業量を見積もり、その日程期間に山積みし、消化計画を立てる。
 一人作業が望ましいが、期間に限られる時は二人で分担する。それでも山崩しができなければ、出図の前倒しを要請する。仮図受領でもやむをえない。
 
 ブロック別作業量は船殼基本図[中央断面、鋼材配置、外板拡張]にブロック分割をいれ、部品数を推定し、経験値に照らして予測する。
 [所要概算時数]=[部品数]×[生産性推移表から読んだ時数/部品
 外注であれば、時数=価格・・・と置き換える。
 ここで部品数とは、型定規作成対象の部材品種数で、両舷対称や共通部材は1と数え、時数(価格)/部品は単位部品当たりの係数を意味する。
 生産性推移表とは、この係数値の予算と実績を暦日ベースで記録したもので、類似ブロック別に作成し追跡される。
 この所要概算時間の一船分集計が、型・定規の作成予算となる。
 生産性の向上は、時数(価格)/部品の減少、予算絶対値の削減として結果する。
 
 実際の個人別スケジュールでは、現図同一場所での作業集中を避け、各人の技倆特性を加味して、実行計画にする。
 [個人割当て時間]=[所要概算時間]×[個人能力係数」
 この能力係数は、平均値を1.00となるよう、各個人実績から割り出し、定期的に評価して更新する。相対値であることに留意。
 
 数値現図では、時数/部品および能力係数のばらつきが少なく、場所の集中の問題もなく、日程管理も容易となる。
 
6.5 延尺
 手作業現図でも、鋳物尺に倣って、基準FS(フレーム・スペース)定規に縮み代を加味し、すべての型定規の船長方向に反映させたことはあった。だが対象は、全横肋骨構造の船に限られた。
 数値現図になって、この考えを復活させたのが「延尺」である。最後に、その実際を簡単に紹介しておこう。
 具体的な縮み量の数値は、板厚×溶接種別により異なり、それぞれの造船所の工作法に応じて求めるべきものである。
 
 [図6.5.1 皮板の延尺]
 縦横骨や板継の溶接線各種当たりの縮み量:伸び率を、正規の縦横寸法に積算するのである。
 図示寸法の(括弧)内が、その延尺:追寸法。括弧ナシは、正規:区間寸法である。
 また○で囲んだ+αは端伸しである。
 
 [図6.5.2 内構ウェブの延尺]
 傾いた図例のようなウェブの場合は、左下の三角形と考えて、延尺の基点と方向点を定める。これにより基準軸が決まる。
 基準軸に対して傾く溶接線は、縦横成分に分けて、延尺を掛けるようにする。結果、ウェブは、縦横に変形した型として作画される。







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