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2.1.10 板厚処理:モールドラインからの出し切りと外周端
 現図形状は、板厚のない面として、モールドラインで描かれている。だが、実際の部材には板厚があり、現図形状のままで切り出すわけにはゆかない。
 この問題を考えよう。
 まず前提となる板厚は、一般にモールドライン面の「どちらかにある」ようにされる。なぜなら、もともと鋲接構造時代からの伝統ではあるが、溶接になっても:−
●板厚差を一方にのみ逃し、板継の揃え面を「面一(つらいち)」にすると合せやすい。
●「つらいち」面に骨(スティフナー)類を配置すれば、骨の板付縁には段差不要。
 例えば、特に山形など条鋼の段付「裾引き:ウェブ端削ぎ落し」は、極力避けたい。
●板継でのサーピン取りも、片面で済む。
・・・など利点が多いからである。
 そうすると、2つの部材がT取合いとなる隅肉溶接部は、板逃が各々2通りあるから、2×2=4通りの組合せが生じる。この4通りをT取合いが傾斜を持つ状況として、[図2.1.21 倣い開先の処理]に示した。「倣い開先」とは、板厚取合い面を密着::メタルタッチにすることで、別書『造船現図展開』では、角度の面から「倣度または削り度」と説明している。
 呼び方は違うが同じ内容で、倣度にて倣い開先を切るのである。
 この図で、MとLを重ねたは、モールドラインの記号である。
 
(拡大画面:24KB)
図2.1.21 倣い開先の処理
 
1)一致
 この場合のみ倣い開先V端は、現図通りである。
 もし倣い開先を取らず直切とすれば、相手部材は押し出され、現図通りの組み付けはできないし、面側にギャップが開く。
2)出し切り
 倣い開先Vの肩位置が、現図となる。開先Vは、その位置から「出し切り」される。
 部材外周形状は、現図より大きくなるのである。
 倣い開先を省略し直切のままとすれば、1)のように相手部材は押し出さないが、同じようにギャップが口を開ける。
 隅肉溶接の脚長が4mmのところに2mmギャップがあると、ギャップ分の増し脚長6mmが要求され、溶接量は、62÷42=2.25倍となる。溶接歪みもそれだけ大きくなる。現図工程が面倒でも、倣い開先はキッチリ指示しないといけない。
3)補正A
 倣い開先V端は、取り合う相手の板厚以上に現図より小さくなる。
4)補正B
 上記での補正Aの板厚以上が、板厚以下に置き代わる。
 
演習題:−
 上記3)4)の補正で簡略に、倣度を無視、相手板厚分だけ差し引いた直切にすれば、どのような不都合がおこるか?
  
 
 倣い開先を取るとして、切断位置は開先最先端(最大外周)を示すのが原則だから、型定規もこの原則に沿わねばならない。しかしながら、あと説明するが、モールドラインの決まり方から、2)の「出し切り」の場合が、比較的に多くなる。そこで、この場合のみ原則を外し、特例として、[図2.1.22 出し切り開先]のように、開先の肩の位置●→で開先要領を示してよいように約束することにする。
 
(開先断面)
 
(記号)
図2.1.22 出し切り開先
 
 また、この図の出し切りは隅肉X開先であるが、この形状決定は現図工程で行うことになる。なぜなら設計図には脚長が記入されているだけで、強いて言えば、倣い開先Vが暗黙裏に想定されているに過ぎないからである。
 図の(開先断面)に見るように、すぼみ度側は直角より少ない溶接で脚長が取れるが、開き度側は開先を切らないと、単なる隅肉では裾野が流れて多量の熔着をさせないと脚長が取れない。そこで脚長と同等のX開先になるよう選ぶのである。
 
 倣い開先は、倣度によってI→V→X→Iと変化する。最後のIは、脚長を問わない、わかし込みである。
 その様子を[図2.1.23 倣い開先変化](船首尾甲板の外板付断面)(船首尾フロア面)にて例示しておく。図の外板付上にあるY字状のマークは、あとまとめるが、開先切替え位置の符号である。
 
(船首尾甲板の外板付断面)
 
(船首尾フロア面)
図2.1.23 倣い開先変化
 
 これらの場合、倣度は連続的に変化するが、倣い開先の方は:−
図2.1.24 倣い開先の切替]で摸式的に示すように、ある程度丸めて断続的とするのが実際的で、角度はどちらかと言えば、連続線となるが先端として当たり、切替え位置で段差の生じる反側にギャップが出るように決めるべきだろう。切替え位置も近くにスキャロップやスロットがあれば、そこに決めると切断がやりやすい。船首尾部の曲り外板面付横断面部材での倣い開先記入のガイダンスに、前もって正面線図上に切替え位置を連ねた線を描いておくと便利である。
 
演習題:−
 倣い開先(VX)のある切断辺上のスキャロップ、両辺に倣い開先のある隅切(いずれも水切を含む)は(R心位置、開先度など)どのようにするか?
  
 
図2.1.24 倣い開先の切替
 
 また、倣度があっても、あえて倣い開先を取らない場合がある。例えば:−
●浅いスティフナーのクリップ端のように、倣い開先部が短い。
●直切のままでも倣度によるギャップは僅かで、下向き溶接になる。
・・・などであるが、この場合でも[図2.1.25 板厚補正]に見るように、部材長は取付(線)長より僅かだが短くする必要がある。
 このような現図と板厚に関わる型定規の取り扱いを、一括して「板厚処理」と称している。板厚処理は、現図工程での詳細設計補完の主たるものであり、倣度、相互の板厚、隅肉脚長、溶接姿勢、例外判断の関連全体を漏れなく標準化してないと実行できない。まだまだ不十分な造船所が多いように思われる。
 
図2.1.25 板厚補正
 
 ちなみに数値現図では、標準化された板厚処理は、大部分が自動化できる。切巾補正、開先選択決定、延尺適用、外周端計算と併せてシステム化すべきである。NC切断より、むしろこの方が、数値現図の狙い目と言ってよい。折角のこの狙いを生かさない導入が、目につくが、残念でならない。
 初期のNC切断は、ガス溶断だったので、複数トーチの組合せブロックを工夫すれば、サーピンはムリでも、XY開先はIと同じように切断できた。だが、その後のプラズマ、レーザ切断の登場は、逆に開先切断をVまでIまでと不自由に追い込んだようである。そのための弊害もまた目につく。開先取りが二次加工となってもよいから、やはり後工程の取付溶接優先でありたい。







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