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5. 耐火試験後の考察
 本試験の実施によって以下の事項が確認された。
 
5.1 耐火試験方法及びその問題点
 
1)タンク単体での耐火試験
 ヘプタン燃焼による燃焼火力は非常に大きく、試験体の燃料タンクを完全に炎が包み込むものであった。この火災状況下でタンクに接続されているすべてのホース類及びパーツが、2.5分の耐火試験に耐えうるものとする試験規格は、かなり厳しいものである。今回実施した供試品燃料タンクの試験においては、すべて燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えており、2.5分の耐火試験に耐えうる物でなかった。一方、FRP製の燃料タンク単体としては、本試験でも特に機能的には問題が見られず、主にタンクに接続されている部品、ホース類にとって過酷な試験であった。
 タンクに接続されている燃料ホースは、ISOに準拠した耐火燃料ホースを使用することとなるのだが、ISO規格の耐火燃料ホースの試験(IS0 7840:1994 Small craft-Fire-resistant fuel hosesで、燃料ホースに対して2.5分の耐火試験が課せられている。これは燃料ホースに燃料が満たされている状態で実施する耐火試験である)と、今回のように燃料ホース内部に燃料が満たされていない状態で実施される燃料タンクの耐火試験では、燃料ホースの耐火性能にも、おのずと差が出てくるものと思われる。すなわち、IS0 7840の試験を合格した燃料ホースでも、このIS0 10088の燃料タンクの耐火試験においては、合格できないケースも有り得るものと推測される。また、IS0 7840の耐火燃料ホースの耐火試験でも同様だったが、燃料タンクと燃料ホースを接続する金属部品周りは、耐火試験にて急激に温度が上昇し、燃料ホースの耐火性能を落とす結果となった。
 よって、今回の試験は「燃料タンクの試験」ではあるが、事実上「燃料タンクとそれらに接続されたホース及び配管部品の耐火試験」と考えるのが妥当といえる。また、タンク単体での耐火試験は、試験体の燃料タンクを完全包み込むサイズのヘプタン燃焼皿の自然燃焼での火災試験のため、燃焼発熱量が大きく、試験実施においては、今回使用したように、消火器メーカーの試験設備を借用する等、大規模な施設が必要となる。(他国の様に、屋外で火災試験を実施できるのであれば可能と考えられるが、我国においてはどこでもできる試験ではない。)今回は、試験の危険性を少しでも下げるために、試験品タンク容量を200〜270リットルとしたが、実際の舟艇で使用される400リットル以上の燃料タンク(1000リットル等)を試験するとしたら、より燃焼発熱量が大きな試験となり、危険極まりない。
 また、実際にこのタンク単体での耐火試験のような火災事故の発生は想定しにくく、もうひとつの試験方法である模擬船殻での試験の方が、安全であり、尚且つ現実味のある火災事故モードと言える。
 
2)模擬船殻での耐火試験
 模擬船殻での耐火試験は、上記タンク単体での耐火試験と比較すると、易しい(厳しくない)試験となった。実際の燃料タンクのレイアウトを模擬した船殻で、燃料が漏れた場合を想定している。燃料タンクの周辺(タンク側面)は、ヘプタン燃焼の炎に曝されるが、タンク底部は、ヘプタンの中に浸っているため、結果的にヘプタン燃焼の自然燃焼面積が減少し、燃焼発熱量も下がることにより、より易しい試験となる。
 しかし上記試験と同様に、タンクは完全に炎に包まれ、接続されている燃料ホースが燃えており、2.5分の耐火試験に耐えうるものでなかった。
 今回の検証実験では、「模擬船殻での耐火試験」の方が実施し易いことを再確認した。
 このことは、以前ISOの会議(TC188:スモールクラフト専門委員会)において、日本からの「本試験方法と試験実績」に対する質問に対して、US GenmarのMr. Tom Haleの回答と一致する。
 (Mr. Tom Haleの回答(参考):タンク単体での試験は厳しいので、自分のところ(Genmar)では、艇内に設置した状態での試験を実施している。タンク区画の略断面を合板で作り、両端にヘプタンが漏れないように低いBHDで蓋をする。試験は、屋外で風の無い時をみて実施する。Horn状の消火器で2.5分経過したら消火する。タンクの開口部はすべてVapor Lockするように蓋をしているし、ベントは遠くに出しているので、これまでにガソリンに引火したことは無い。これで引火したらタンクの欠陥となる。)
 
5.2 日本の舟艇に使用されている固定式燃料タンクの耐火性能の検証
 
1)ISO 10088規格の耐火試験結果
 今回の試験方法と判定基準では、すべての供試品燃料タンクが不合格という結果だった。
 すべての試験体において、燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えており、2.5分の耐火試験に耐えうるものでなかった。しかし、これは燃料タンク単体の性能を表わすものではないと思われる。
 
2)燃料タンク単体性能
 燃料タンク単体では、外部表面は焦げて真っ黒になっているものの、接続部のホース類が満足な状態であれば、2.5分の耐火試験後でも問題ないものと推定される。(ISO 10088規格の主旨には反するのかもしれないが、すべての接続部に燃料ホース等を使用せず、金属配管で試験したら、燃料タンクの評価ができるものと思われる。)
 燃料タンク周りの配管には、ゴム製のホースを使用しないとか、耐火燃料ホースの試験でも実証したように、燃料ホースの外周を防熱し燃料ホースを保護することで、本規格をクリアーすることが可能と推測される。
 
5.3 タンクの耐火試験実施後に残った課題(第60回舟艇ぎ装専門分科会/平成14年11月22日)
 
1) 燃料ホース類については、この耐火試験によって燃焼しないものを採用するか熱的保護ができるように規格上明確化する(金属配管の使用など)。併せて海外でこの件についてどのように対応しているか調べる。
2) タンク単体に対するテストと模擬船殻のテストが規格上同等に扱われているので、位置付けを明確化する。
3) 国内でこのテストを実施する場合、今回のようなテストを毎回実施することは、負担が大きすぎる。材質などが同一設計の場合には、以後のテストは実施しなくてもよい(代理特性)ことを規格上明確化する(プロトタイプテストの採用)。
4) ISO/CD21487(ガソリン及びディーゼル用固定式燃料タンク)においても同様な耐火試験が規定されている。また、圧力試験が詳細に規定されるなどISO 10088を具体化した内容となっている。試験結果とこの規格との関連性について調査、確認する。
 
6 耐火試験実施後の調査及び検討
6.1 Mr. Tom Haleへのヒアリング
 
 試験結果にて、試験時の燃料ホースの扱いについての疑問が残った。本件について、実際に試験を実施しているUS GenmarのMr. Tom Hale氏に再度問い合わせることとした。ヒアリングの結果、(1)この燃料タンクの試験はABYC及びUSCGの規格に基づきできたこと。(2)タンク単体の試験が目的で、その他の部位の試験は含まないこと。(3)そのためには、燃料ホースを保護することはやぶさかでない。等の貴重な見解を得た。
 以下に、Mr. Tom Hale氏からの回答を原文で記す。
Genmar has the fire test performed at anindependent laboratory. We do not do the test ourselves. The vent hose used is TYPE A-1 hose. A-1 hose also meets the 2.5 minutes fire test. The hose is permitted to be shielded for the purpose of the test, if you want to shield it.
Tom Hale
 (中略)
The ISO 10088 tank fire test is based upon long standing ABYC and USCG tests. This is a fire test for fuel tanks and only fuel tanks. It is not a test for any other component. For the safety of the testers, you need to vent gasoline tank vapors away from the fire. It does not matter what you use for hose, because the test does not apply to the hose. You can use a type A-1 hose, or a fire shield. It does not matter what you do to the vent hose because the vent hose is not being tested. There is nothing in the standard that limits what you do to this hose, except that it "shall be extended with out straps, outside the areas of fire-resistance testing.” Why straps have any bearing on this is not clear, but there is no other constraint on the hose.
Tom Hale
 
 よって、今回実施した燃料タンクの耐火試験は、実際米国で実施されている試験と比較して厳しい結果になったこと、及び、本来の目的である燃料タンク単体の試験でなかったことが判明した。
 
6.2 米国の試験機関(IMANNA)の調査
 
 燃料タンクの試験機関として、米国の試験機関(IMANNA)の存在を知った。この試験機関にてどのような試験が実施されているのか、聞き取り調査を試みたが、ヤマハ発動機(株)林氏からの問合せについては、回答なし。平成14年12月現在、有効な情報が得られていない。今後の、調査等が必要と考えられる。
 
6.3 ISOへの提案
 
 今回の耐火試験結果及びその後の調査結果に基づき、以下の要望を、ISOの意見照会等の折、日本から発信することとしたい。
(1)Annex Bの耐火試験に、「燃料タンク単体の評価を目的とし、付属部品の評価は含まない」旨を明記する。
(2)Annex Bの耐火試験に、「燃料ホース等の付属部品の防熱を認める」旨を明記する。
 
6.4 試験結果のJIS原案への取り込みに関する検証
 
 今回の耐火試験結果及びその後の調査結果に基づき、ISOへの提案同様に、JIS化原案にも折り込む。
(1) Annex Bの耐火試験に、「燃料タンク単体の評価を目的とし、付属部品の評価は含まない」旨を明記する。
(2) Annex Bの耐火試験に、「燃料ホース等の付属部品の防熱を認める」旨を明記する。
 
6.5 今後検討すべき課題
 
 今回の性能確認試験、及び調査の結果、国内製造のタンクの評価について、以下の課題が残った。
(1) 日本国内で、実際にこの燃料タンクの耐火試験を実施するとした場合、試験を実施できる場所(実施できる機関または試験所)が限定され、また試験に掛かる費用も大きく、容易に実施できるものではない。
(2) 実際の燃料タンクでは、今回実施したサイズ以上のものが多く、より危険度の高い試験となることが容易に想像される。
(3) よって、ある程度同一の設計に基づいて設計、製作された燃料タンクを、同一のシリーズと考え、代表タンク一試験にて同一デザインの燃料タンクのついては採用を認めるといった、プロトタイプテストの採用の可能性について、今後検討すべき課題と言える。
(4) 海外の試験機関及びその試験方法については、今後引続き調査が必要と考えられる







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