1. 試験目的
財団法人日本船舶標準協会にてJIS化を検討しているIS0 10088規格において規定されている固定式燃料タンクの耐火試験の方法に関し、規格内容の妥当性等について確認するために、本性能確認試験を実施する。
この試験は、船の長さ24m以下の舟艇(モーターボート、ヨット等)に装着するガソリン及びディーゼル用の燃料装置及び固定式燃料タンクの設計、構造、材料、試験などの要件について定めた国際規格「IS010088:2001 - Small craft? Permanently installed fuel systems and fixed fuel tanks」の附属書B(規定)耐火試験(別紙参照)の規定に基づき、固定式燃料タンクに対する耐火試験を実施し、次の内容について検証を行うものとする。
a)耐火試験方法の検証及び問題点の検討
b)日本の舟艇に使用されている固定式燃料タンクの耐火性能の検証
c)ISOへの提案及び試験結果のJIS原案への取り込みに関する検討
規格に記された耐火燃料タンクについては、(1)実船を模擬した形状の船殻にタンクを組み込んで試験する方法と、(2)タンク単体での火災試験の2つの方法が示されている。
本試験においては、最も厳しい試験条件と考えられる(2)の単体での耐火試験(委員会での要望)を主に実施し、(1)の実船を模擬した形状の船殻での試験も比較として実施した。
2. 検証試験規格
ISO 10088:2001-Small craft-Permanently installed fuel systems and fixed fuel tanks Annex B Fire-resistance testing
(参照規格 ISO/CD21487:2000-Small craft-Permanently installed petrol and diesel fuel tanks)
3. 試験内容
3.1 試験実施日
平成14年10月7日〜 10月9日
3.2 試験項目
IS0 10088規格:附属書B(規定)固定式燃料タンクの耐火試験
3.3 供試品
IS0 10088規格に関連する製品として、委員会メンバーより燃料タンクの提供を受け、耐火試験の供試品とした。
供試品−1) |
ディーゼル用固定式燃料タンク(ヤンマーディーゼル(株)提供)
FRP製、容量270リットル(W935×L975×H425)
タンク厚さ:7mm(FRP 7層構造)
使用燃料ホース:燃料取り出し管 7×IB
空気抜き管 15×2B(添付燃料ホース仕様書参照) |
供試品−2) |
ガソリン用固定式燃料タンク(ヤマハ発動機(株)提供)
FRP製、容量200リットル(W780×L955×H345)
タンク厚さ:5mm(FRP 5層構造)
使用燃料ホース:(添付燃料ホース仕様書参照) |
供試品−3) |
ガソリン用固定式燃料タンク及び模擬船殻(ヤマハ発動機(株)に製作依頼)
FRP製、容量200リットルの燃料タンク(上記供試品−2)を、舟艇を模擬した船殻に組み込んだ試験体。模擬船殻はベニヤ(木材)にて形状を作り、内面をFRPでコーティングしたもの。
使用燃料ホース:(添付燃料ホース仕様書参照) |
供試品については、添付図面参照、及び写真1〜写真3参照。
3.4 試験環境及び使用機器
1)試験環境
ヤマトプロテック株式会社 中央研究所
茨城県稲敷郡河内町長竿道前1951
消火試験室 C試験室:横7m×縦8m×高さ5m
2)消火装置
αフォーム強化液消火装置 ヤマトプロテック株式会社
3)温度測定機器
GR-3500 PCリンク型高機能レコーダ キーエンス
4)圧力試験装置
窒素ガスによる加圧試験セット (図1 試験装置の概要図参照)
3.5 試験方法
3.5.1 燃料タンク単体での耐火試験
燃料タンク単体での耐火試験は、以下の手順にて実施する。
1) |
供試品燃料タンクは、試験前にAnnexAの圧力テスト(20kPa)にて、燃料タンクに漏れが無いことを確認する。 |
2) |
供試品の200〜270リットル燃料タンクを、タンク側面より150mmまで完全にカバーできるサイズのオイルパン(直径1.48m、1.73m2)に、火源であるヘプタンを満たし試験を実施する。試験時のヘプタンの燃焼熱によるオイルパンの変形を避けるため、オイルパンには水とヘプタンを入れて実施する。(火源が3分以上持続できる量のヘプタンと、タンク下面から燃料までの距離を調整するために水をはる。) |
3) |
供試品の容量200リットル及び270リットル燃料タンクを用いて、ガソリン50リットル、軽油65リットル(タンク容量の25%)を入れた状態にて、2.5分の耐火試験を実施する。2.5分の燃焼後、速やかにヘプタンの燃焼を消火し、タンクの破損を確認する。(ヘプタンの消火には、強化液消火器を使用する。) |
4) |
供試品タンクは再度圧力試験を行い、タンクの破損、漏れ及び異状等が無いことを確認する。 |
3.5.2 模擬船殻での耐火試験
模擬船殻での耐火試験は、以下の手順にて実施する。
1) |
模擬船殻の組み込んだ供試品燃料タンクは、試験前にAnnexAの圧力テスト(20kPa)にて、タンクに漏れが無いことを確認する。 |
2) |
模擬船殻では、供試品の200リットル燃料タンクに、ガソリン50リットル(タンク容量の25%)を入れた状態にて、タンクの周りにヘプタンを満たす(タンクの外側75mmの距離までの隙間にヘプタンを満たす。燃料タンクの底面が完全にヘプタンに浸かるまで満たす。) |
3) |
2.5分の耐火試験を実施する。消火後、タンクの破損を確認し、圧力試験(2kPa)を行い漏れ等が無いことを確認する。 |
4. 試験結果
4.1 消火確認試験(予備試験)
本試験において、大火が発生した場合においても消火設備がうまく働き消火するかを確認するため、本試験に向けて消火確認試験を実施した。試験用ヘプタンの燃焼皿は2m2サイズ(直径1.6m)とし、供試品試験タンクの破裂等が発生した場合を考慮し、2m2サイズのオイルパンを、さらに4m2サイズのオイルパン(一辺2m角)の中に置いて使用した。
1)予備試験1
2m2サイズのオイルパンにヘプタン及び水を張り着火、燃焼実験を開始した。ヘプタン燃焼温度はすぐに(着火後10秒程度で)600℃にまで達し、ヘプタンは気化して4m2のオイルパンに充満して、4m2のオイルパンでのヘプタンのフリー燃焼となった。火力が大きくなりすぎたため、1.5分にて消火した。(αフォーム強化液消火装置は充分な消火性能を有していたことを確認した。)
2)予備試験2
予備試験1の結果より、2m2のオイルパンのヘプタン燃焼でもかなり大きいこと、及び4m2のオイルパンの使用方法における問題点を確認したため、本試験に使用するオイルパンは、1.73m2(直径1.48m)サイズに変更することとした。また、耐火試験時に火源が4m2のオイルパンでのヘプタンのフリー燃焼に移行しないよう、1.73m2のオイルパンを4m2のオイルパンの上方にレイアウトして、再度予備試験を実施した。
ヘプタン燃焼試験は2.5分実施し、αフォーム強化液消火装置にて消火した。
(2.5分間の燃焼試験及び消火方法が有効であることを確認した。)
4.2 燃料タンクの耐火試験(本試験)
試験順序は、危険度を考慮して、供試品−1のディーゼル用燃料タンク、供試品−3のガソリン用燃料タンク及び模擬船殻、供試品−2のガソリン用燃料タンクの順に実施したが、便宜上、番号順に記載する。
1)供試品−1(ディーゼル用燃料タンク)
耐火試験前の20kPaの圧力試験においては、漏れが確認できなかった。
耐火試験においては、開始後10秒程度でヘプタン燃焼温度は600℃にまで達し、供試品ディーゼル用燃料タンクは完全に炎に包まれた。(写真8)途中、燃料ホース等が燃えているのが確認された。
耐火試験開始後2.5分経過時点にて、消火開始。燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えて続けており、泡消火剤による追加の放水消火を実施した。(燃焼は、開始後3.5分経過時点にて消火完了)
耐火試験後の圧力試験においては、燃料ホスが燃え尽きているため、加圧できなかった。燃料タンクの他のプラグ類(ゴムホース等使用)も燃えているため、加圧試験は断念した。供試品ディーゼル用燃料タンク単体は、破裂等はなく、内部燃料の漏れも確認されなかった。(目視にて)
2)供試品−2(ガソリン用燃料タンク)
先に実施された試験結果より、燃料ホースが燃え尽きた後、内部の燃料は気化しタンクより放出することが予想されるため、供試品には.50リットルのガソリンの替わりに、45リットルの水と、5リットルのガソリンを入れ、耐火試験を実施した。
耐火試験前の20kPaの圧力試験においては、漏れが確認できなかった。(本試験体は薄肉設計のため、加圧試験において太鼓上に膨らむのが確認された。)
耐火試験においては、開始後10秒程度でヘプタン燃焼温度は600℃にまで達し、供試品ガソリン用燃料タンクは完全に炎に包まれた。(写真11)途中、燃料ホース等が燃えているのが確認された。また、燃料ホースが燃え落ちた後、燃料タンク口からは火炎の放出が確認された。
開始後2.5分経過時点にて、消火開始。燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えており、泡消火剤の追加の放水消火を実施した。(燃焼は、開始後3.5分経過時点にて消火完了)
耐火試験後の圧力試験においては、燃料ホースが燃え尽きているため、加圧できなかった。供試品ガソリン用燃料タンク単体は、破裂等はなく、内部燃料の漏れも確認されなかった。(目視にて)
3)供試品−3(ガソリン用燃料タンクと模擬船殻)
燃料タンクの外側75mmの距離までの隙間にヘプタンを満たす。(燃料タンクの底面が完全にヘプタンに浸かるまで満たした。)供試品燃料タンクには、50リットルのガソリンを入れ、耐火試験を実施した。(試験では、ホースが燃え、タンク内からのガソリンの放出が予測されるため、模擬船殻に壁を付けた。)
耐火試験前の20kPaの圧力試験においては、漏れが確認できなかった。(本試験体は薄肉設計のため、加圧試験において太鼓上に膨らむのが確認された。)
耐火試験においては、タンク単体の燃焼試験と比較すると小さな燃焼になった。開始後40秒程度でヘプタン燃焼温度は500℃にまで達し、開始後1.5分経過程度で、燃料ホース等が燃えて、ヘプタン燃焼は大きくなり、供試品燃料タンクは完全に炎に包まれた。(写真14)
耐火試験開始後2.5分経過時点にて、消火開始。燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えており、泡消火剤の放水消火を実施した。(燃焼は、開始後3.0分経過時点にて消火完了)
耐火試験後の圧力試験においては、燃料ホースが燃え尽きているため、加圧できなかった。供試品ガソリン用燃料タンク単体は、破裂等はなく、内部燃料の漏れも確認されなかった。(目視にて)
供試品燃料タンクの耐火試験についての総合的試験結果は表1となる。
すべての試験体について、燃料タンクに接続されている燃料ホースが燃えており、2.5分の耐火試験に耐えうる物でなかった。(しかし、タンク単体では、問題ないものと推定される。)
表1 供試品試験結果
供試品 |
名称 |
試験結果 |
判定 |
1 |
ディーゼル用燃料タンク |
燃料ホースが燃え、加圧試験不合格 |
不合格 |
2 |
ガソリン用燃料タンク |
燃料ホースが燃え、加圧試験不合格 |
不合格 |
3 |
ガソリン用燃料タンクと模擬船殻 |
燃料ホースが燃え、加圧試験不合格 |
不合格 |
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