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【3】今後の見通し
 シンガポールの海事産業は、向こう2年間は比較的好調が続くと予測している。向こう数年間の受注残は全体として50億Sドル有るとしており、2002年は修繕、新造、オフショアの全分野でかなりの売上が見込めるとしている。
 しかしながら、シンガポールの海事産業が、中国、中東地域の造船会社に代表される低コストで勝負する造船会社との価格面での競争に直面している事実には変わりがない。中国に対しては一般修繕と切替工事の分野で潜在的脅威であるとしている。中東地域の造船会社に対しては、シンガポールの主たる市場であるタンカー修繕において競争関係にある。
 このような厳しい環境の中で、シンガポールの造船会社はその競争力のある品質と納期厳守をセールスポイントとし、強みとしている。これらを生かした船舶修繕・改造及び特殊船建造などの市場開拓がシンガポールの船舶修繕の分野でのシェアーを守る大きな要因となるとともに今後のかぎを握るとしている。
 シェアーを維持するため、コスト競争力が、シンガポールの海事業界において主要な関心である。大手造船所はこの国の高い地価と人件費が高いこともあり、以前よりシンガポール国外への移設やジョイントベンチャー企業の設立などを通して対応している状況である。すなわち、船主の修繕費低減要求にこたえるため、付加価値が高く、より高度の技術を必要とする仕事をシンガポールの親会社で行い、ルーチンワークや一般修繕を近隣諸国で行っている。また、2002年5月のケッペル日立造船のケッペルコーポレーションマリン・オフショア部門への統合など、人的、財政的、物理的資源のより効率的な利用により競争力維持・向上をはかるため企業間の統合等も視野に入れたダイナミックな動きが現在シンガポールの海事産業界で起こりつつあるように見える。
 これらの一環としてASMI(シンガポール海事産業協会)のもと、業界が共同して、造船所における生産性向上およびコスト削減を目指した新しい手法、工程、技術の検討、導入を行ってきており、政府も生産性、安全性向上等に関する活動している。現在も多くの造船所の間で協力関係があり、さらに、会社ごとに個別の技術力の強化、アップを図っている。さらに、労働者の安全確保、技術向上を図るため、キャンペーン、トレーニング等を組み込んだ積極的な取り組みを行っており、成果をあげている。
 このような努力により、数社の大船主と造船会社間でパートナーシップを形成するなどシンガポールの造船所が短納期で複雑な修理仕事を処理する能力は、多くの船主の信頼を得ている。
 シンガポール海事産業界は、原油の高値および海底油田開発の増加によるかなりの仕事量の増加を見込んでいる。2002年も船舶修繕・改造、新造船、オフショアの全部門で好調が続き、原油価格の大幅な下落がないことを前提に、むこう数年間は比較的良好に推移するとしている。
 船舶修繕・改造部門は2002年も好調が続くと考えられる。LPG船、LNG船は従来日本で修繕を行っていたが、シンガポールが一定の技術力を保持し、日本と比較して低コストであるため、今後シンガポールでの修繕にシフトしていく可能性が大である。
 新造船部門でも特殊船等を中心に好調が続くと考えられる。2002年の引渡し量の増加が見込まれる。また、オフショアサプライ船の需要が高くなると見込んでいる。
 オフショア部門ではメキシコ湾、西アフリカ等埋蔵原油探査活動が活発化しているが、これに対応してより深い水域、より厳しい環境での作業を可能とするオフショア構造物の新造、高性能化の需要増が引き続き期待される。
 シンガポールの海事産業の特徴は、適応性、意欲および対応能力である。海事産業の適応性、戦略的位置、発達した支援産業により、世界の船舶修繕とオフショア構造物の新造、グレードアップ市場でシンガポールは今後も大きなシェアーを占めていくと思われる。
 強固な基盤と高品質な仕事の実績、機動的な対応を今後も維持できれば、特殊船を代表例とする、一定の技術力のもとスケールエフェクトがあまり効かない艤装比率の高い船舶や、英語のハンデがなく安定した低金利等を生かした購入品の多い船舶等の分野を中心に、国内産業における造船業の存在意義を保持しつづけるとともに、今後も国際的にも一定の地位を確保できると思われる。
 ただし、原油価格の高値安定が、現在のシンガポール海事産業界好調の根源であるため、この条件が覆るような状況が発生したときにこの業界は正念場を迎えるように見受けられる。







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