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【2】雇用1賃金・生産性
(1)概況
 98年のアジア経済危機により外資系企業を中心とする生産調整や雇用調整が行われた。シンガポールの雇用環境は急速に悪化し、解雇者は2万9000人に達し、98年の年平均失業率は3.2%(97年の年平均失業率は1.8%)となった。景気回復を反映し99年平均失業率では3.5%、2000年平均失業率は3.1%に低下した。
 しかしながら、2001年はアメリカ経済の低迷を受け、年平均失業率こそ3.3%に踏みとどまったが、12月の季節調整済み失業率は4.7%と、アジア経済危機真っ只中の98年12月の4.4%を超え、過去15年間で最悪の失業率となった。また、2001年の解雇者は2万6千人に達した。
 2001年12月8日、賃金相場形成の秩序維持のため、経営者団体、労働組合、行政の3社で構成する全国賃金委員会(NWC)は、業績の悪い企業の賃金凍結もしくは削減を容認すると勧告した。同勧告では、企業が事業の継続が困難になった場合は解雇もやむなしとの考えを示すとともに、労働時間短縮、残業カットなどの削減策を実施し、雇用確保に最大限努めるべきであるとしている。また、業績の好調な企業については月額可変給などにより賃金を上げるべきであるとしている。
 
表5 シンガポールの労働事情の推移
  1997 1998 1999 2000 2001
労働力 労働人口(年中央値、1000人) 1,876.0 1,931.8 1,976.0 2,192.3 2,119.7
労働力平均年齢(才) 36.9 37.4 37.4 n.a. 37.8
就労者 就労者数(年中央値、1000人) 1,830.5 1,869.7 1,885.9 2,094.8 2,046.7
失業者 失業者数 年平均(1000人) 34.8 62.7 69.5 65.4 71.9
12月、季節調整値 37.8 84.3 60.5 60.2 101.8
失業率% 年平均(1000人) 1.8 3.2 3.5 3.1 3.3
12月、季節調整値 2.0 4.3 2.9 2.8 4.7
解雇者 解雇者数(1000人)  9,784 29,086 14,622 11,624 25,838
賃金 名目(前年比、%)  5.7 2.8 2.7 8.9 2.3
実質(前年比、%) 3.5 3.1 2.6 7.5 1.3
労働コスト 単位労働コスト(全産業)(前年比、%) 0.7 4.0 -10.4 -0.2 7.3
単位労働コスト(製造業)(前年比、%) 0.7 -1.2 -16.9 -3.9 12.2
注8) 出典:Economic Survey of Singapore 2000、2001人材省ホームページ
注9) 解雇数は従業員数25名以上の企業を対象とする。
注10) 実質賃金は消費者物価上昇率をもとに算出する。
注11) 賃金は賞与を含む。自営業者は含まない。
 
表6 産業部門別解雇者数の変化の推移
(単位:%)
  1997 1998 1999 2000 2001
製造業 3,700 -27,600 4,400 25,800 -12,600
金融・ビジネスサービス業 26,000 6,500 23,100 31,100 13,700
卸売業・小売業・ホテル業・レストラン業 12,700 -13,500 7,200 18,700 1,900
運輸・通信業 6,200 -500 4,500 10,400 1,900
建設業 45,800 -4,700 -18,000 1,100 -20,600
その他 25,900 16,300 22,000 21,400 17,300
全産業 120,300 -23,400 39,900 108,500 1,600
注12) 2001年は暫定値
 
(2)外国人労働者に対する政策
 外国人労働者(未熟練/半熟練労働者:月額賃金2000S$以下)の雇用は厳しく管理されている。また、業種毎に総労働者数に占める外国人労働者の比率・上限が決められており、外国人労働者の雇用の際には政府に外国人雇用税(levy)を支払う義務を負う。
 
表7 外国人労働者数の上限と外国人雇用税
(1999年1月1日改定、2001年5月現在有効)
産業部門  外国人労働者数の上限 外国人雇用税(月額) 
改正後 改正前 
製造業 全労働者の50% S$240:最初の40%
S$310:残りの10%
S$330:最初の40%
S$400:残りの10%
船舶製造・修繕業 シンガポール人労働者1人につき3人まで S$30:熟練工
S$295:未熟練工
S$100:熟練工
S$385:未熟練工
建設業 シンガポール人労働者1人につき5人まで S$30:熟練工
S$470未熟練工
S$100:熟練工
S$470:未熟練工
サービス業 全労働者の30% S$240 S$330
家事労働者   S$345 S$345
 
【3】物価
 消費者物価指数は前年比0%台後半〜1%半ばの範囲で推移している。2001年は自動車、石油、携帯電話の価格は低下したが、タバコ、調理済み食品、電気料金等の上昇により全体としては前年比1.0%の上昇となった。
 
表8 消費者物価指数上昇率(%)の推移
  ウェイト 1998 1999 2000 2001
食料(加工食品を除く) 12.6 -1.0 1.3 0.5 0.0
加工食品 14.9 1.4 0.6 0.6 1.3
衣料 4.4 1.9 -1.4 2.0 1.3
住居 22.9 -1.3 -1.9 -0.8 0.5
運輸・通信 18.0 -4.9 0.6 2.1 -1.4
教育 7.3 3.1 1.5 1.3 2.2
医療 3.1 4.3 0.6 1.5 3.3
その他 16.8 -1.1 -0.8 1.5 3.2
全体 100.0 -0.3 0.0 1.3 1.0
注13) ウェイトは2001年のみ
 
【4】貿易・国際収支
 経済危機以降低迷を続けたシンガポールの貿易は、99年4月ターニングポイントを迎え、8ヶ月,ぶりに輸出が、14ケ月ぶりに輸入がそれぞれプラスの伸びに転じた。2000年の輸出は前年比22.4%増の2,397億2,500万Sドル、輸入は同24.3%増の2,197億7,600万Sドルで199億4,900万Sドルの黒字となり、回復基調に乗ったかに見えた。
 しかし2001年に入ると、世界的なエレクトロニクス不況、米国経済の低迷さらに追い討ちをかけた同時多発テロの発生を背景に、シンガポールの対外経済は大幅な落込みを示した。2001年の輸出は前年比8・5%減の2,194億4,600万Sドル・輸入は前年比10.6%減の1,963億8,300万Sドルとなった。貿易規模の大幅縮小下で230億6,400万Sドルの黒字となった。
 輸出では、中継貿易拠点として一端シンガポールで陸揚げした後再度他国に輸出する「再輸出」が前年比2.3%減の995億8190万Sドル、シンガポール製品を輸出する「地場輸出」は前年比12.9%減の1,184億4,430万Sドルと大幅に落ち込んだ。地場輸出のうち石油製品は前年比5.0%減の217億1,650万Sドルに留まったが、非石油製品とりわけ輸出額の約6割を占めるエレクトロニクス製品が前年比20.7%減の約590億Sドルと大きく落ち込んだ。
 輸入は、輸出需要の落込みに対応した原材料、部品等の調達の減少や国内消費の低迷により、大きく落ち込み、エレクトロニクス製品・部品は前年比21.8%減の435億5,770万Sドルとなった。
 サービス貿易収支、所得収支は大幅な黒字、移転収支は経常的な赤字であったが、全体として経常収支は2000年を上回る320億4,400万Sドルの黒字となった。
 しかしながら、証券投資等の資本提供国としての役割を担っているため、資本・金融収支が339億1,600万Sドルの赤字となり、総合収支は16億Sドルの赤字に転じた。
通貨レートの推移を図に示す。
 
表9 国際収支の推移
 
図 シンガポールドルの交換レートの推移







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