3. 因果関係
3.1 序論
貿易障壁規定(TBR)第10条(3)項に則り、韓国による助成に加えて他の要素が独自にまたは結合してEU共同体域内の造船業に対して不利な影響を与えたかどうかが考査された。
3.2.1. 概論的分析
韓国において製造された商船とEU共同体域内で製造された商船が、同一の使用目的で、直接競争関係にある場合は、船価と引渡日が主要競争要素となっていることは、第1次報告書で、明らかとされた。
上記の通り、第1次調査が実施された時期、韓国の造船所は市場シェア(クルーズ船を除く)を1997年の30.4%から2000年1月より11月までの間で39.6%に伸ばした。これは特に、船価下落、廉売、そして利益率低下という点において、EU共同体域内の造船業が被った損害、貿易への悪影響、そして深刻な権利の侵害と合致する。更に、韓国の船価値下げは韓国の財政危機と重なり、韓国造船業による外貨獲得努力(特にリストラ中の造船所)によって説明できる。第4次報告書において、閣僚理事会に対して欧州委員会は、「当委員会は、韓国造船業における顕著な過剰設備が、充分なキャッシュフローを確保するために新造船受注を何としても生み出さねばならない必要性と相まって、全体的な船価と市場の回復を阻止している、という見解を取りつづけるものである<注7:EU文書2001年5月3日最終版COM(2001)−219」と結んでいる。>
顕著な市場シェア拡大によって、韓国造船所は造船部門の大多数の船種において世界のリーダーとなる機会を得た。上記の理由によって、2001年に韓国造船業の売上全体と市場シェアが減少した(30.8%)際も、プロダクト・タンカーやケミカルタンカー、更にコンテナ船部門などにおいては強い立場を維持することが可能であった。これらの部門において韓国造船業は、1997年に11%、2001年に18%の市場シェア増を獲得しており、一方EU域内造船所の市場シェアは(1997年に15%、2001年には4%)減少している。更に2001年、韓国造船業は、LNG船市場においても2000年から急激に市場シェアを延ばし、ほぼ80%を獲得した。
潜在的顧客に対して韓国造船業が提示する低船価に直面した際、EU共同体域内造船業は、独自の船価を維持して市場シェアを失い各造船所の閉鎖に追い込まれるか、あるいは助成された韓国造船所の低船価に足並みを揃えて収益性の悪化を結果として受け入れるかの選択しかなかった。1998年以来、EU共同体域内造船業は特定の部門において船価を下げた。これは1997年の段階で既にマイナスとなっていた収益性に有害なインパクトを与えるものとなった。これは助成された韓国造船業による船価をめぐる行状の重大なインパクトを示すものである。
深刻な権利の侵害に関しては、ASCMの第6.3(c)項は顕著な廉売、船価落込み、そして売上損失の原因が助成の影響であることを明示することを求めている。この点に関しては、上記分析は助成された韓国造船所を含む具体的な例を明示するものであり、助成が無かった場合は、それらの韓国造船所も船価を上げざるを得なかったであろうと思われる。
特に、閣僚理事会に提出された委員会の報告書の数々は助成を受けた造船所によって提示された船価が非常に低いレベルのものであることを示しており、これは債務リストラ<韓国政府によるワークアウト制度>を通して大規模な助成を供与されたことによって、債務返済コストが顕著に軽減された事実によるものである。
言い換えれば、債務リストラが実施されなかった場合を仮定すると、これら韓国造船所は、債務返済のために非常に高い船価を設定しなければならなかったはずである。かくして、助成の供与はこれら造船所が提示した船価に対して直接影響を与えるものであった。これは、理論的には破産し、助成によって生き残った造船所に対する措置以外の何物でもない。すなわち、債務リストラ<ワークアウト>なしには、大宇、漢拏(現三湖重工)、大東の各造船所は、清算されていたはずであり、債務返済のための最低レベル(39%まで)以下の船価を提示できたという事実は、助成を供与されたために他ならないことは明確である。
第1次調査期間の終焉と、今回の調査期間中に、LNG船市場が爆発的に成長した事実を踏まえ、EU共同体域内造船業が被った被害と韓国の助成との間の因果関係に関して徹底した追加調査が実施された。
以下の表とグラフは、1992年以来LNG船市場における顕著な変化を示すものである。
表12「地域別CGTベースLNG受注の発展」<表 省略>情報源:ロイズ船級協会
注:スタンダードLNG船は約138,000立法メートル、CGTでは約70,000CGTの容量である。
グラフ「LNG船市場の発展」<グラフ省略>
上のグラフが示すように、1992年と1993年に市場はEU共同体域内造船所と日本の造船所で独占されていた。その後、1994年から1999年にかけて、LNG船市場は新造受注に関して言えば比較的低迷する時期に入った。但し、韓国造船所が初めて連続して12隻という顕著な受注を獲得した際、1996年から1997年にかけて、新造受注のピークが見られる。この2年間に、韓国の造船所は市場シェア75%、その1年後には87%を達成した。これらの受注は韓国ガス会社(KOGAS)によって発注されたものであり、受注契約は韓国の4造船所に対して平等に発注され、各造船所が3隻ずつ受注するものであったことは特筆すべき重要事項である。このうち2造船所に関しては、これが初のLNG船受注であり、残りの2造船所は、やはりKOGAS向けにLNG船を建造した経験があった。
2000年と2001年には、LNG船市場が上記の通り爆発的に発展し、韓国造船業は初めて外国からLNG船受注を獲得した。韓国造船業は例外的に受注を確保し、2000年には9隻、2001年には18隻もの受注を獲得した。
LNG船船価の進化は以下のグラフに示すとおりである<注8:OECD報告書「近年における新造船価の展開」C/WP6(2002)6文書25.03,200、7ページから引用>。
グラフ4−3「コンテナ・ガスキャリア船価の変遷」く省略>
上のグラフが示すように、韓国造船所によるKOGAS向けLNG船受注の獲得と符合する1997年には、船価が高いレベルにあり、またこの他には特に市場における受注契約がないといった状況であった。これ以降、船価は下がり続ける。この船価下降は、特に1999年、138,000立法メートル容量の標準LNG船に対して2億米ドルよりも低い船価が市場に初登場したときに顕著となった。1999年の年末と2000年の初頭において、船価は最低レベルまで落ち込んだ。これは大宇が初めて外国からの受注を獲得した時期と符合する。これ以来、船価は多少回復し安定したが、次のグラフ<注9:OECD報告書「近年における新造船価の展開」文書C/WP6(2002)6、25.03.200の17ページより引用>が示すように、韓国造船業は2000年と2001年の2年間、手持工事量と船価において、世界をリードし続けた。
グラフD「新造船価の展開−LNG船(120,000−140,000立法メートル)-」<グラフ省略>
特定の訴え得る助成を供与された主な受益者の一つである大宇が、LNG船部門における韓国造船業の発展において顕著な役割を果たしたことは、更に特筆すぺきである。1億5千万米ドル以下の船価を世界で初めて提示したのも大宇であり、2000年に韓国造船業のLNG船受注の半分以上(韓国造船業全体の受注では約3分の2)、また2001年にもLNG船受注では韓国の半分以上(韓国造船業全体の受注では約2分の1)を獲得したのもまた大宇であった。
また、他の韓国の二造船所は、国内リストラ助成は受けなかったものの輸出助成のみを供与された(現代と三星)が、この2社もLNG船受注を数件獲得できた事実も特筆されるべきである。
上のグラフで示されるように、韓国は2000年と2001年に、市場規模が急増したにもかかわらず顕著な市場シェアを獲得することに成功している。また、債務リストラ<ワークアウト>が実施されなかった場合を仮定すると、韓国造船業は債務返済のため、劇的に高い船価を提示しなければならなかったはずであることは、本報告書の3.2.1「概論的分析」で更に説明されている。かくのごとく、助成の供与はこれら造船所に対して船価提示において直接的影響を与えたのである。これは特に、理論上は破産し、助成なしでは生き残れなかった造船所に対する措置以外の何物でもない。すなわち、債務リストラが実施されなかった場合を仮定してみると、大宇が破産に追い込まれていたのは確実であるし<注10:上記B.2.2*(訳注:このB.2.2が何を指すのか不明。)の企業再建に関する記述を参照のこと>、債務返済可能な最低レベル(39%まで)を下回る船価を提示できたのは、助成を供与されたために他ならないという事実は明白である。最後に、韓国造船業においてLNG部門で最も積極的だったのが大宇であったことも示された。本報告書の表11に、EU共同体域内造船所が失った受注の詳細を示している。
もしEU共同体域内造船業が市場シェア再参入できないとすれば、それは生産能力がフルにクルーズ船建造に使用されており、韓国造船所のように迅速にLNG船を引き渡しできる立場になかったという特定の事情によるものである、という主張が<韓国側によって>出された。同様に、EU共同体域内造船業は、収益率の高いクルーズ船部門に集中するためにおざなりとなっていたLNG船市場において、過去の栄光である優位を回復しようとしているだけであるという主張も出された。
確かにLNG船の引渡期日は、発注する際の重要な決定基準の一要素である。LNG船は通常、ガスターミナルプロジェクトの一部であり、ターミナル完成の暁には遅延無く引き渡される必要がある。しかしながら、船価と、技術的信頼性の高いLNG船を建造する能力も、等しく重要な決定基準であることには変わりない。
欧州委員会の世界の造船状況における第5次報告書は、この点を指摘して、次のように述べている。「市場分析によると、韓国造船業が市場進出できたのは、非常に低い船価を提示したことによる。多数のLNG船を早期引渡期日を以って建造する彼らの能力もまた、多数の受注を獲得する際に重要な要素であったかも知れない。」<注11:欧州閣僚理事会向け欧州委員会による世界造船状況に関する第5次報告書COM/2002/0205最終版30.04.2002文書参照>
もし韓国造船業がEU共同体域内造船所よりもLNG船を早く引き渡す能力を時折ながらも保持していると仮定するならば、それは債務リストラが存在しなければ現在の形で存在できるはずもない、ある特定の会社(この場合大宇)の建造能力に部分的に基づいているという事実は強調されるべきである。
また、EU共同体域内造船所がLNG船市場から自主的に撤退したという事実に関しては、表12で充分に示されているように、1993年から1999年の市場展開が、需要の点でこの期間におけるEU造船所の市場におけるプレゼンス<市場でシェアを獲得しているという存在感>を正当化できなかったためである<需要が無かったため、市場プレゼンスを維持する意味がなかった>。かくして、需要がより高い他部門に焦点を当てるという経済的決定が正当に下されたのである。
KSA(韓国造工)は、調査の更新が損害のみに限られているため、前回調査期間に供与された助成との因果関係は立証できない、と主張している。この問題を論じるためには、反復する助成と反復しない助成を明確に区別する必要がある。
多くの助成のタイプは、特定の助成プログラムが使用される度に、助成が供与され受益者に恩恵が授与されるという点において、反復するものである。例を挙げれば、調査を受けたKEXIM(韓国輸出入銀行)の輸出補助制度の場合、輸出貸付金あるいは輸出保証が、特定の契約調印において市況条件よりも優遇条件で与えられる毎に、恩恵が韓国造船所に授与されるのである。かくして、反復助成に関しては、これら輸出補助制度が輸出契約において使用される度に、助成の例を挙げることができる。これらの例では、助成の効果が助成供与の直後に発生し、通常の場合、問題の契約が存続する期間(すなわち、契約によっては9ヶ月から2乃至3年に渡る新造において)支出されるのである。
以前のTBR報告書において、韓国の全造船所がKEXIM輸出補助制度の恩恵に与っている事実が証明された。ゆえに、前回調査期間に渡る(1997年1月1日から2000年11月30日まで)KEXIM助成の効果は、2000年12月1日までに発効する契約全部が完了するまで消滅しない。新造契約の調印と、当該船舶の実際の引渡しまでの間の重要なタイムラグ(時差)を考慮すると、KEXIM助成の効果は、結果として、翌2乃至3年に渡って継続する可能性が高い。
更に、問題のKEXIMプログラムは現在も存続する。ゆえに、このプログラムが韓国造船業によって利益を得るために使用されつづけるであろうと想定するのは理にかなっている。残念ながら、最初の調査時、韓国輸出業者は、機密性を主張して特定の契約に関する情報の提供を拒んだ。この機密性の主張が未だに撤回されていない事実を踏まえ、欧州委員会はKEXIM制度に関する結論については、入手可能な情報のみに頼らざるを得ないのである。
これに対して、反復しない助成(すなわち一度限りを条件に供与される助成)は、特定の契約に連結しないため、異なる原因特定方法が用いられなければならない。欧州委員会の相殺政策において、反復しない助成は通常固定資産の取得と連結されるため、助成の全額は当該資産の耐用年数に渡って長引く<注12:規制2026/97第7条(3)項参照>。例を挙げると、債務免除の形の助成(受益者が長期的競争力を強化するため、また何らかの生産品資産を購人するために使用すると想定される)は、資産償却に関する業界で使われる通常の期間に渡って長引かせることが可能である。
長期にわたる反復しない助成の供与は、助成によって生じた損害が最大限に捕捉されることを確実なものとする<確実に最大限のダメージを与える>。すなわち、巨額な助成の場合は特に、短期間に渡る属性が経済的現実を打破し、このような助成を相殺法規やWTOパネル勧告の管轄外に置くものとなるのである<法規やWTOでは規制できない、法の網の目を抜ける悪質なものである>。
リストラ過程の間、(大東が1998年、漢拏が1999年、大宇は2000年)に韓国造船業に供与された助成は、巨額がからむ一度限りの助成の数々によって成り立っており、これが現在と将来の生産性に寄与している。ゆえに、このような助成は、たとえば機械や設備の場合ならば10年から12年の間といった具合に、造船業界における資産の耐久年数に渡って受益の起因とみなされなければならない。
上記を考慮して、KSAの主張は受け入れられない。上記で説明されているように、輸出とリストラの両助成制度が、調査更新期間に渡っても韓国造船業に恩恵をもたらしているのである。
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