III. 前受金返還(払い戻し)保証
KEXIMの前受金返還保証プログラムについては、CESAは、韓国の輸出事業者(造船事業者)が契約不履行に陥った場合に政府系銀行による韓国製船舶の買主への(補助金協定第1条1.(a)(1)(i)の規定上の)潜在的な資金の移転に係るものであると非難している。保証は韓国の輸出事業者の保険料の支払いに応じてKEXIMにより供与される。申し立てによると、KEXIMの保証は、輸出事業者に対し、KEXIMが支援しない場合に問題の企業が韓国の金融市場で得られるより有利な条件(非市場的な低保険料の賦課)で金融支援を行うことによって、「利益」を供与している。保証は輸出された韓国製品の未払い分の100%を保証する目的で提供されるので、KEXIMの前受金返還保証プログラムを通じた金融措置を施された取引は必然的に輸出取引であり、関連する保証は明らかに「法律上輸出が行われることに基づいて」いる。従って、それは本質的にASCM第2条3に規定される特定性を有する輸出補助金となる。
CESAは、前受金返還保証はASCM附属書Iの輸出補助金の例示表(j)項によってカバーされないと主張している。ASCM附属書I(j)では、「政府(又は政府の監督の下にある特別の機関)が、輸出信用保証制度、輸出信用保険制度、・・・について長期的な運用に係る経費及び損失を補てんするためには不十分な料率によってこれらの制度を運用すること」と規定している。保証はプログラムの長期的な運用コスト及び損失をカバーするものではなく、従って、ASCM上禁止される輸出補助金を構成している15。
説明
このプログラムの下、KEXIMは、海外の購入者が韓国造船所に支払った前払い金を、韓国造船所が関連契約に基づく義務を遂行できなくなった場合に前払い金に発生する利子を含めて払い戻す保証を提供している。
KEXIMの「国内供給者向け輸出融資」スキームの適用資格を有する韓国の資本財の輸出事業者(造船所を含む)は申請できる。受益者は前払いを行った外国の買主か又は外国の買主に前受金返還保証を行った外国の銀行である。
造船事業者は、様々な金融機関が前受金返還保証を提供し、これが契約書への署名に必要な前提条件となっている(保証の条項は全ての標準的な契約様式に含まれている)と述べている。ときどき保証を供与する金融機関は買主により指定される。他の場合には、買主は潜在的な保証者によって満たされるべき信用格付けの要求を設定する。そうでなければ、造船事業者は最も有利な条件を提供するものを選択する。
申請及び認可手続き
申請者は、取引の早い段階で前受金返還保証の条件及び状況についてKEXIMと協議し、とりわけ、関連する輸出契約、担保物件及び申請者の負債状態に関する資料を提供することを要求される。要求事項について調査する際、KEXIMは以下を含む多くの要素を考慮する。
−申請者が契約上の義務を遂行する能力
−申請者の信用性
−契約の合法性
−担保物件の価値
KEXIMがこれらの調査結果に満足した場合には、前受金返還保証が発行される。
前受金返還保証の申請及び認可手続きは、産業分野によって大差はない。
従って、造船分野に適用される特別な規則はない。
保証額
前受金返還保証の保証額は、建造の完了(例えば、船舶の引渡し)前に造船事業者に実際に支払われた全前払い額及びそれに発生する利子の額の合計によって決定される。また、保証方法も取引が短期か長期かにかかわらず、同様である。前受金返還保証は通常保証の発行日から船舶の引渡しまでを保証するため2年又は3年の保証期間を有している。
保証は買主の銀行に与えられることもある。KEXIMは、受益者(買主)が異なる内容を要求しない限り、標準的な前受金返還保証書を発行する。購入者によるこれらの要求が合理的かつKEXIMにとって受入可能であれば、前受金返還保証の内容は修正される。
保険料の計算
保険料は受益者ではなく申請者によって支払われる。保険料は船舶引渡し前に輸出事業者に対して支払われた前払い金の総額及びそれに発生する利子に基づいて計算される。
1998年1月22日、KEXIMは前受金返還保証の保険料システムを、提案される取引に想定される信用リスクを反映して、固定金利システムから最低金利システムに変更した。
基本的に、保険料は2つの要素から成っている。すなわち、最低保険料率(Minimum Premium)及び追加的な拡張(Additional Spreads、例えば、信用及び市場リスク拡張)である。最低保険料率は前受金返還保証の発行に関連する基本的リスクを反映している。KEXIMは現在の最低保険料率は0.4%で、他の国内商業銀行が国内造船所に提供する前受金返還保証に課せられるものと類似のものであると話している。
追加的な拡張は以下の商業的な要素により決定される。
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提案される輸出取引のリスクレベル、申請者の信用格付け及び金融上のステータス、申請者の契約履行能力、及び、申請者により提供される担保物件のタイプ |
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韓国内で前受金返還保証プログラムを運用する他の商業銀行の拡張レベル |
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韓国内での前受金返還保証市場における競争力の程度 |
KEXIMは、主要な国内の信用格付け会社による信用格付けが「A」ランク以上である申請者に対しては、追加的な拡張を適用していない。
関連する造船所
調査した全ての造船所は前受金返還保証スキームを取り入れていた。
評価
調査期間中、KEXIM及び協力造船所は、KEXIMの金融の個別条件に関するいかなる情報も機密事項であり、KEXIMの条件および状況に関するいかなる情報開示も深刻な商業的損害を引き起こすとみなした。その結果、全体プログラムの一般的な情報のみしか得られなかった。
特に、KEXIMは前受金返還保証の保険料から引き出された収入を提供するのみである。歳入サイドから、KEXIMは、1976年以来KEXIMによってカバーされた保証取引はたったの1件しかないと主張した。この情報は立証できなかった。さらに、企業再建を行っているもしくは法廷による財産管理下にある造船所の信用リスク評価について、立証できる情報は何も得られなかった。
KEXIMは、全保証額の約70%が造船産業に提供されたことを認めた。
KEXIMは、韓国造船事業者の義務不履行による結果として支払った1件の払い戻しを例外として、KEXIMがこれまでに前受金返還保証の下で支払ったことは一度もなく、申請者の船舶建造契約の不履行による損害を被ったこともないと主張した。しかしながら、KEXIMがたった1度だけ払い戻し金を支払った件についても、国内の商業銀行が申請者のために担保物件として保証書(Letter of Guarantee)を提供した。従って、国内の商業銀行は直ちにKEXIMに全額を返済した。以上に照らし合わせると、KEXIMは前受金返還保証プログラムの管理費は無視し得るものであり、KEXIMはほとんど全ての料金を純利益として得ていると主張した。
資金面での貢献
保証は(ASCM)第1条1.(a)(1)(i)に規定される資金の移転を伴う可能性のある措置である。従って、KEXIMの保証は同条に規定される資金面での貢献を成している。
利益
造船所は非市場的な金利で保証を得ていたため、利益が存在する。特に、政府による保証は、保証を受ける会社が保険料として政府に支払う額と会社が同等の商業的保証に対して支払う額との間に差がないのであれば、利益の供与とみなされてはならない。この場合、利益はこれら2つの額の差額でなければならない。
KEXIMの説明に対する注釈の中で、大宇への保証については特別な言及がなされている。この点において、KEXIMは、大宇に対して全未払い契約額の24%に当たる9億5400万ドルの前受金返還保証を提供した。KEXIMが大宇の全未払い契約額を通常以下、すなわち、警戒(precautionary)及び不十分(substandard)と分類したことに言及することは重要である。この分類は、KEXIM自身、大宇が契約を履行できるかどうか重大な疑念を抱いていたこと及びKEXIMが保証義務を行わなければならない可能性が極めて高いことを示している。従って、リスク保証と同等の非常に高いリスクプレミアムが課されないのであれば、少なくともKEXIMは大宇に保証を供与することを中止することが予想されただろう。
しかしながら、調査期間中、会社が財政危機に陥り、法廷管理の再建又はワークアウトに至ったあとKEXIMが前受金返還保証を提供しつづけることが確立されてしまった。例えば、2000
年のKEXIMの大宇への1兆4246億ウォン(うち1兆3740億ウォンは要注意と分類されている)に及ぶ保証提供(KEXIM's exposure)である。大宇造船は1兆3630億ウォンの保証を得ることによって主要な受益者となった。既に提出済みのTBR報告書で説明した通り、この会社はワークアウト下にあった。これらの状況の下、KEXIMが前受金返還保証を提供するに当たり商業的な保険料を課したかどうかが問題となる。
KEXIMが商業的な手段で行動したという事実はこれらの会社の信用リスク評価を通じて検証されるべきである。韓国政府は、IMFへの決意書簡(Letter of Intent、1999年3月10日)において、KEXIMを含む特殊銀行はリスク管理が十分ではないと認めている。韓国政府は「以下のリスク管理を改善する。(i)信用リスク評価、ローンの管理運営、信用提供制限をよりよく行うためのシステム、(ii)リスク(利率、信用、市場及び運用リスクを含む)を銀行ベースてモニター及びコントロールするためのシステム、(iii)リスク管理及び内部監査のための確立されたガイドラインに従った評価のためのシステム」と主張している。
結果として、KEXIMは前受金返還保証の保険料に対する適切な信用リスクを適用せずに前受金返還保証を提供している。
さらに、前受金返還保証スキームについて、申し立てはKEXIMの危機的な状態により正当化されていないと思われる条件での漢拏への支援に対する言及を含んでいる。漢拏の保証に課された保険料は、保証が破産した会社に供与されたという事実をまったく反映していない。これに対する回答として、漢拏は、財政難のためKEXIMは漢拏に他の金融機関からの追加的な支払い提供の保証を要求したと主張した。現代が三湖の管理を開始した後は、KEXIMはこのような追加的な保証を要求しなくなった。しかしながら、KEXIMは債務の出資転換(既に提出済みのTBR報告書参照)により漢拏の株保有者となった。このような動きは、KEXIMによって認められたものだが、KEXIMが顧客の株保有者となることは経営方針にはないことであり、極めて例外的である。KEXIMは、他に一度だけ、大宇に対して債務の出資転換が行われたと話している。漢拏への債務の出資転換の続行に対するKEXIMの意欲は、必ず、漢拏の信用リスク評価における商業上の基準の適用に対する公平性の問題が喚起される。
上記の観点から、前受金返還保証プログラムは造船所に利益を供与したとみなされる。
輸出を行っていることに基づくもの
韓国政府は前受金返還保証の規定は輸出契約の存在に基づいて行われていると述べた。さらに、それは性格にKEXIMによって提供されるプログラムの目的であり、造船所によって韓国からの輸出製品の製造のための支払いをカバーする保証を提供すると説明されている。従って、プログラムはASCM第3条1(a)に規定される輸出補助金を成していると結論できる。
禁止される補助金の発行
輸出補助金は、ASCMの注釈5の条件「輸出補助金には当たらないものとして附属書Iに規定する措置は、この条の規定又はこの協定の他のいかなる規定によっても禁止されない」に該当しない場合は禁止されている。
韓国政府は、問題となっている保証はASCMのAnnex Iに関連条項である「適用除外(safe haven)」に該当し、従って、禁止される輸出補助金ではないと主張している。この観点から、問題となっているスキームは(ASCMの)Annex
I(j)の「適用除外」に該当すると主張している。Annex Iの「適用除外」条項は以下の通り。
政府(又は政府の監督の下にある特別の機関)が、輸出信用保証制度、輸出信用保険制度、輸出される産品に係る費用の上昇に対処する保険制度若しくは保証制度又は外国為替の変動の危険に対処する制度について長期的な運用に係る経費及び損失を補てんするためには不十分な料率によってこれらの制度を運用すること。
韓国政府は、前受金返還保証スキームの保険料は、低い管理コストに関連してKEXIMにプログラムの長期的な運用費用をカバーさせられるようなレベルに設定されていると主張している16。
それにもかかわらず、韓国造船所のためにKEXIMによって提供された保証は、(ASCMの)Annex I(j)に規定される輸出信用保証とみなすことはできず、従って、上記の条項で分析することはできない。特に、これらの保証は船舶の引渡し前に支払った合計額の償還を確保するために外国の買主に利用可能とされる。上記で説明したように(B.1項参照)、輸出信用保証は第三者(通常は銀行若しくは輸出信用代理店)によって外国の買主のために造船所に有利になるように提供されるものであり、造船所によって買主に有利になるように提供されるものではない。
従って、前受金返還保証スキームの保険料がKEXIMにプログラムの長期的な運用費用を保証できるようなレベルに設定されるという事実は(j)項が適用されないので重要ではない17。
結論として、前受金返還保証プログラムは、ASCM第3条1(a)に規定される禁止される輸出補助金に該当する。
影響
前受金返還保証の条項は船舶の建造契約に必要な前提条件である。前受金返還保証の仕組みは造船所にとって、運転資本の重要な出所である。造船所が前受金返還保証を提示できなければ、いかなる頭金の交渉もできず、従って、必要な運転資本を獲得することができない。従って、造船所がこの追うな保証を銀行から得ることができなければ、買主にとって契約を決定することは極めてありえないことである。
これは特に金融危機の真っ最中に財政難に直面した造船所にとっても同様である。結果として、助成された保証スキームの実際の利益額は船価の総計に比べて小さいかもしれないが、その影響は、その存在が契約の締結に決定的なものであることから非常に重大なものとなる。他方、商業レベルでの保険料の支払いは、経営難にある造船所にとっては、そのコストをカバーするために価格を引き上げさせ、リスクが契約を喪失するため極めて高価なものになる。
15 CESAは、このような補助金に対して、仮に禁止されていないとしても、悪影響を及ぼしているので、相殺措置を採ることができる(actionable)と主張している。
16 逆に、CESAは、韓国政府の資本注入によって示されているように、KEXIMは全体的に費用を確保できないと主張している。確かにKIXIMは、1997年から2000年の間に韓国政府がKIXIMの資本金を8710億ウォンから2兆6760億ウォンに増加したと述べた。特に、韓国中央銀行と韓国政府がそれぞれ9000億ウォン及び8660億ウォンを注入した。
17 いかなる場合にも、上級委員会はブラジルの航空機輸出金融プログラム(2000年7月21日)においては、問題となっている条項が肯定的な弁護を成しており、証明責任は弁護する側のWTO加盟国にあると規定している。すなわち、本件の場合、(説明責任は)韓国にある。しかしながら、韓国政府は調査期間中、関連する証拠を提示することができなかった。
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