C 問題とされる慣行
C.1 序論
調査の対象は、韓国政府が自国の造船産業に供与したとされ、1997−2000年の生産活動に有利に働き、かつ今後の生産活動に有利に働くと見られる補助金である。補助金と疑われる措置は、前受金返還保証および非商業的条件による引渡し前融資等である。
特に、今回の提訴の明示的対象となった、補助金と疑われる韓国の措置は、以下のような韓国輸出入銀行(KEXIM)の制度を含むものである。
−前受金返還保証、および
−引渡し前融資
提訴によれば、上記の慣行はWTO補助金及び相殺措置に関する協定(ASCM)第3条に違反し、したがって貿易障壁規則(TBR)に基づく措置を執る権利を発生させるものであるとされる。同規則の第2条(1)は、「国際貿易規則により措置を執る権利が確立される対象となるような、第三国により採用または維持される貿易慣行」を貿易障壁と定義している。
特に、KEXIMの前受金返還保証および引渡し前融資制度は、「唯一の条件とするか複数の条件の一とするかを問わず、法的にまたは事実上、輸出実績の如何を条件とする補助金」を禁じたASCM第3.1条(a)により禁止された輸出捕助金であるとされる。
提訴によれば、上記の輸出制度が禁止された性格のものであるとする主張にかかわりなく、たとえ禁止された措置でないと判明しても、かかる補助金が不利な影響を及ぼしている以上、ASCM第5条に基づく措置の対象になるとされる。
用語
一般的な注釈として、KEXIMがその制度の説明において用いる「輸出信用」という概念は、加盟国の輸出信用機関または直接融資者が一般に理解している意味、すなわちあらゆる場合において輸出信用は買主に対する信用であるという意昧には該当しないようである。例えば、引渡し前融資制度は、実際には買手に対する信用を内容としていないにもかかわらず、「引渡し前輸出信用」と称されている。ただし本報告書の目的に関する限り−可能な限り−加盟国が一般に理解している意味において語句を使用するように努めた。それでもなお、KEXIMがその制度において使用している各種の名称は、その使用を避けることが不可能な場合があるため、報告書の特定の部分に言及する際には、慎重を期する必要がある。
C.2.1 序論
韓国輸出入銀行(KEXIM)
韓国輸出入銀行(以下「KEXIM」)は韓国輸出入銀行法に基づいて1976年に設立された。KEXIMは韓国経済の成長と発展を促進し、諸外国との貿易を円滑化することを目的としている。この目標を達成するため、KEXIMは融資、保証、貿易関連金融等、各種の金融サービスを提供している。しかしながらその主目的は資本財およびサービスの輸出、海外投資、大規模資源開発のための金融を提供することにある。
韓国輸出入銀行法第4条にしたがって、KEXIMの資本金は4兆ウォンであるが、これを韓国政府(54.8%)、韓国銀行(39%)および韓国開発銀行(6.2%)が出資している。後者2行はいずれも政府所有の金融機関である。
漢拏重工業の出資転換(9.47%)により、KEXIMは同造船所の大口株主となった。
KEXIMの金融業務
その目的を達成するため、KEXIMは各種の金融手段を開発しているが、それらは三種の範疇に分類することができる。
(a)国内サプライアー向け金融
この範疇には以下のような制度がある。
−国内サプライアー向け輸出融資
−引渡し前信用
−技術サービス信用
−海外投資・プロジェクト信用
−大規模資源開発信用
−輸入信用
−SME向け融資、および
−貿易手形再割引
調査の対象となった全造船所が「引渡し前信用」制度を利用している。さらに大宇、現代尾浦、現代重工業は「国内サプライアー向け輸出融資」も利用している。
(b)海外の買主向け金融
この範疇には以下のような制度がある。
−海外の買主向け直接融資
−プロジェクト金融
−外国銀行向け再融資措置、および
−海外事業信用
このプログラムは調査対象期間中は利用されていないようである。
(c)保証
この範疇には以下のような制度がある。
−融資保証、および
−プロジェクト関連保証(前受金返還保証を含む)
調査の対象となった全造船所が「前受金返還保証」制度を利用している。
すなわち、造船産業に関しては、調査対象期間中においてKEXIMは国内サプライアー向け輸出融資、引渡し前信用および前受金返還保証を供与していた。
I. 国内サプライアー向け輸出金融
説明
KEXIMは韓国造船所に輸出契約に関連して融資を提供した。特に、造船所が買主と代金後払い契約に合意した場合に融資が提供された。
このプログラムを受ける資格は多くの要素により決定される。
(A)有資格国
輸出取引がKEXIMによって「ハイリスク国」に分類される国を含んでいないこと。
(B)有資格借主
指定された資本財を輸出又は生産する韓国の輸出事業者。
(C)適格な輸出取引
関連する輸出取引の支払猶予の条件は、前払い金、最低金利及び償還期間についてのOECD取極めの要求に合致すべきである。船舶取引の場合、(船舶輸出信用)了解の指針に合致していなければならない。
(D)信用要件
原則として、韓国造船所の信用度は、関連する融資の義務を全額償還できるほど十分高くなければならない。
新規融資は過去に融資の義務を履行できなかった又は申請書に記載した以外の目的で輸出融資を使用した会社には提供できない。さらに、以下の会社への融資は敬遠される。
会社として、
−過去3年(会計年度)間連続して純損失が記録されている。
−融資申請時点で、未払い債務が株主の資産を超えている。
−信用格付けが「慎重(cautious)」未満。
−債務の資本比率が同種の産業の平均の2倍を超えている。
さらに、KEXIMは輸入国の政府又は中央銀行若しくはKEXIMにとって受入可能な信用度の高い国際金融機関の保証書(letter of guarantee)を要求している。
上記信用要件は、融資資格に関する単なる前提条件である。たとえある借主が上記要件を満たしていたとしても、KEXIMは、収益性や財政的な強さの状況を含めたプロジェクトの全体的な分析に基づいて融資を拡張しないことを決定するかもしれない。また、KEXIMは、契約に規定された支払いを綿密に監視するために、韓国の借主がKEXIMの指定した銀行口座を通じて買主から支払いを受けることを要求するかもしれない。
手続き上、申請者である造船所は輸出契約を行うと直ちに要求条件及び信用の状況を示した上でKEXIMに申請する。その後、銀行は以下の要素に基づき全体的な評価を行う。
−造船所及び保証者の信用性
−契約の合法性
−造船所の建造能力
−担保物件の価値
申請に関するより詳細な分析の後、KEXIMは造船所との契約を締結する。
融資の上限は、輸出契約額の100%から要求される即金払い(船舶の場合は輸出契約額の20%)を差し引いた額までである。最長償還期間は8.5年である。
KEXIMは問題とされる期間中は、外貨建ての固定金利を提供していた。
−船舶:8%(了解に基づいた利率)
−プラント及び他の資本財:CIRR(取極めに基づいた利率)
韓国政府によれば、利率は8%未満ではありえないという。KEXIMは、利率は契約額、担保物件の価値、償還期間及び信用リスク評価によって決定されると話している。
関与している造船所
大宇(調査対象期間中に2回)、現代尾浦(調査対象期間中に1回)及び現代重工がこの輸出融資プログラムを利用している。
評価
調査中、KEXIMと協力造船所は、KEXIMの融資の個別条件に関するいかなる情報も機密情報であり、KEXIMの融資条件及び状況の公開は深刻な商業的損害を引き起こすとした。その結果、プログラム全体についての一般的な情報しか得られなかった。
ASCM第1条によれば、補助金は、(1)「政府又は公的機関が資金面で協力していること、・・・(途中含む)・・・政府が資金調達期間に支払を行うこと、又は政府が民間団体に対し、(これらのこと)を委託し若しくは支持すること」及び(2)「措置によって利益がもたらされていること」が満たされる場合に存在する。
ASCM第3条によれば、補助金は「法令上又は事実上、輸出が行われることに基づいて(唯一の条件としてであるか二以上の条件のうち一の条件としててあるかを問わない。)交付される(附属書Iに掲げるものを含む)」(輸出補助金の例示表)場合には、禁止される。輸出が行われることに基づいて交付される補助金はそれ自体禁止されるため、悪影響を示す必要はない。輸出信用プログラムはASCM附属書Iの規定に含まれるものであり、従って、附属書Iの規定上十分合致する政府プログラムは、その事実によって(ASCM)第3条1(a)に抵触する禁止される補助金である。
上記要素を順番に検討する。
資金面での貢献
融資は、(ASCM)第1条1.(a)(1)(i)に規定される資金の移転である。従って、KEXIMの融資は当該条文に規定される資金面での貢献を構成する。
利益
造船所が非市場的な金利で融資を得た分だけ利益が存在する。特に、ASCM第14条(b)によれば、政府による融資は、融資を得た会社が政府融資のために支払った額と、同等の融資を会社が市場から得た場合に支払う額との間に差がないのであれば、利益の供与とみなしてはならないとされている。この場合、利益はこの2つの差額となる。
韓国政府は、これらの融資に適用される利率は(船舶輸出信用)了解に規定される最低金利に従っており、すなわち、8%であると主張した。さらに、韓国政府は、調査対象期間中に銀行又は他の商業機関によって適用された標準金利の情報を提供した。これらは1998年に全て8%を超え、17%にまでいたる例であった。
上記の点を考えると、問題となっている融資プログラムは、融資の受領者に利益を供与しているとみなされる。
輸出を行っていることに基づくもの
韓国政府は、融資プログラムは韓国からの資本財の輸出を含む取引に適用されるのみであると主張する。融資は、法律上輸出契約が存在することに基づく。従って、プログラムはASCM第3条1(a)に規定される輸出補助金を構成していると結論できる。
禁止される補助金の発行
輸出補助金は、ASCMの注釈5「輸出補助金には当たらないものとして附属書Iに規定する措置は、この条の規定又はこの協定の他のいかなる規定によっても禁止されない」に該当するものでなければ、禁止される。
韓国政府は、問題となっている融資はASCM附属書Iの関連規定である、「適用除外(safe haven)」に該当し、従って、禁止される輸出補助金ではないと主張している。この点で、問題となっている輸出信用の実施は、以下に規定する附属書Iの(k)項の「適用除外(safe haven)」に該当すると主張された。
政府(又は政府の監督の下にある若しくは政府の権限の下で活動する特別の機関)が、輸出信用に用いる資金を自ら獲得するために実際に支払わなければならない利率(又は輸出信用に用いる資金と償還期間、他の信用条件及び通貨を同一にする資金を獲得するために国際資本市場において借入れを行ったとしたならば、支払わなければならなかったであろう利率)よりも低い利率て輸出信用を供与すること又は輸出者若しくは金融機関が輸出信用の供与を受けるために負担する貴用の全部又は一部を支払うこと。ただし、政府が輸出信用を供与すること及び費用を支払うことが輸出信用の条件について相当な利益を与えるために行われる場合に限る。
もっとも、加盟国が千九百七十九年一月一日において少なくとも十二の原加盟国が参加している公的輸出信用に関する国際的な約束(又は当該約束を継承する約束であってこれらの原加盟国によって採択されるもの)の参加国てある場合又は事実上当該約束における利率に関する規定を適用している場合には、これらの規定に合致する輸出信用の供与は、この協定により禁止される輸出補助金とはみなされない。
ブラジルの航空機のための輸出金融プログラムにおいて、OECD取極め及びその附属書は、係争中の危機的な産業分野に関する限り、「国際的な約束」を構成するとして受け入れられている。附属の(船舶輸出信用)了解もASCMに規定される「国際的な約束」となり得るとみなさない理由はない。
KEXIMによって作成されたスキームの規定は、了解のパラ3の規定に該当すること、すなわち、「船主への信用供与を可能にするために造船事業者の存する国において造船事業者に対して供与される、政府の支持を伴う信用」に関連することを示している。従って、了解に規定される条件に合致するのであれば、「国内供給者への輸出融資」スキームは禁止される輸出補助金を構成しない。
調査中、韓国政府及びKEXIMは、関連する条件が十分尊重されるべきと主張している。しかしながら、適用除外(safe
haven)による例外は、(韓国の)措置が禁止される輸出補助金であるという申し立てに対して首尾よく弁護するため、輸出信用の条件がこれらの[輸出信用条件に関する国際的な約束の]規定に合致しているという肯定のための証明を政府に対して求めている。上記は、ブラジルの航空機のための輸出金融プログラムに関する上級委員会(2000年7月21日)によって、問題となっている条項は肯定的な弁護となっているため、証明責任は弁護する側のWTO加盟国、すなわち、本件の場合は韓国にあることが認められている。しかしながら、韓国政府は調査中に関連する証拠を提供することができなかった。
上記にもかかわらず、利用可能な情報ではKEXIMが了解を尊重しているかどうか結論を導くことができない。しかしながら、直下に記されるスキームの限られた影響を考慮すると、この問題について結論を引き出す必要があるとは考えられない。
影響
問題となっているプログラムが韓国の輸出事業者にほとんど利用されないとすれば、市場に重大な影響があるとはみなされず、従って、域内産業が被っている悪影響に重大な影響があるとはみなされない。
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