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D. 因果関係
D.1 序
 TBR第10条(3)により、韓国の政府助成に加え、他の要因が、個別に又は組み合わさって、域内企業に悪影響を及ぼしていないかどうか調査を行った。
 
 韓国で建造された商業用船舶及びEUで建造された商業用船舶は同様の用途に使用されるものであり、価格をひとつの競争上の主要因として、相互に直接的な競争を行っていくものである。
 
 上述のとおり、調査対象期間において、韓国造船所はマーケットシェア(クルーズ船を除く)を97年の30.3%から、2000年1月〜11月には39.5%に拡大した。これは、同時に、EU造船事業者に、特に販売価格の引き下げや低船価での販売、利益の低下といった損害及び著しい害をもたらした。さらに、韓国での船価下落は韓国の経済危機と同時に起こっており、韓国造船事業者(特にリストラ中の事業者)による外貨獲得のための努力として一部説明され得る。委員会は第4次報告書において、実際に次のように結論づけている。「委員会は、韓国造船業の重大な設備過剰が、十分なキャッシュフローを確保するための受注を生み出す必要性と組み合わさり、概して船価及び市場の回復を妨げている、との見解を維持する。」64
 
 潜在的な取引先に対する韓国の低船価の提示に直面し、域内企業はマーケットシェアを失い個別の造船所の閉鎖のリスクを犯して価格を維持するか、利益面で逆効果となるが、韓国造船所の助成を受けた低船価に合わせるしかない。確かに1998年以来、域内企業はいくつかの分野で船価を引き下げた。これは、1997年時点で既に赤字となっている当該企業の利益に有害なインパクトを与えた。これは、政府助成を受けた韓国造船所によって、船価設定行為に重大なインパクトを与えられた。
 
 かつて、域内企業には構造的な問題があったため、韓国の船価政策は域内企業が被っている損害の原因ではないと主張されている。域内企業は、構造的な問題を有し、特別な租税免除措置(例:ドイツのKGスキーム、1998年に廃止)による間接的な利益又は2000年末までに結ばれた契約に対する助成金(助成は2000年12月31日以降行っていない)を通じた直接的な利益を得たことは真実である。しかしながら、調査の結果、政府助成を受けた韓国造船所の行為により欧州の状況がますます悪化していることが判明した。
 
 著しい害について、ASCM第6条3(c)は、補助金の効果が、重大な低船価販売、船価引き下げ及び確立された販売量の喪失の原因であることを示すよう要求している。
 
 低船価販売、船価引き下げ及び販売量の喪失については、上記の分析は政府助成を受けた韓国造船所を含む具体例に言及している。助成によって引き起こされた低船価販売、船価引き下げ及び販売量の喪失については、政府助成がなかった場合に、問題の事業者は本質的に船価を上げざるを得ないだろうということを示している。
 
 特に、理事会への委員会の報告書は、助成を受けた造船所が提示している船価が非常に低いことを示している。これは、負債の運用コストが負債の建て直しを通じた莫大な助成金の付与により相当縮小されている事実による65。「調査した契約が経済的なレベルの価格にある、すなわち、直接コスト、適切な一般経費、債務の支払い(例:元金及び利息の償還)及び利益要素を加えた額をカバーしている、と結論付けられたモデルはひとつもないということは注目すべき。多くのケースで船価は損得なしのレベル(利益を除いた通常価格)にも達していない。平均して、韓国造船所のこれらの受注による損害は、インフレ率を考慮して、実際の建造コストの20%と計算される。いくつかの受注は、新しい株式の発行(HHI)又は大宇及び漢拏/三湖のケースでは、負債の建て直し(支払猶予、利子猶予、債務帳消し、出資転換)を通じ利益が見込めるレベルに近いが、負債を軽減できた企業に関するものである。」(下線追加)
 
 委員会の第4次報告書はより明確である。「漢拏/三湖に関する以前の分析によれば、大規模な負債の再建により造船所は契約コストを約6%軽減させた・・・」(下線追加)
 
 言い換えれば、負債の再建がなければ、これらの造船所は、負債の返済を可能とするため劇的な高船価で販売せざるを得なかったはずである。従って、助成金の供与はこれらの造船所の船価に直接的な影響を与えた。負債の建て直しがなければ大宇、漢拏、大東は整理されていたことが確実である66という事実に鑑み、技術的に破綻し助成金で生き残っているのみの造船所にとって、このことは一層あてはまる。負債返還に必要な最低レベル(39%まで)より低い船価を提示することができるのは、助成金の受領に全面的に依存していることが明確である。
 
世界的な供給力過剰
 いくつかの関心のある団体が、域内企業の被った損害は、調査対象期間に生じた造船部門における世界的な設備過剰によるものだと主張している。この点については、世界の造船事情に関する委員会の理事会への報告書67に、世界の商船の供給は明らかに需要を超過している、すなわち、世界的な供給力過剰があると明確に書いている。最も関心ある団体はこのステートメントに同意する。この供給力過剰は、韓国の価格政策と共に、最近の需要増にもかかわらず、船価が上昇しないという事実を導く。さらに、この供給力過剰の状況の相当な部分が韓国の造船所の活動による。第1に、1994年から1996年の間に建造能力を大幅に拡大し、韓国の全ての造船所は調査対象期間中、1997年以降の破綻過程の下においてさえ操業していた。第2に、韓国造船事業者は、使用していない設備を再稼動し、修繕設備を新造設備に変更した。従って、世界的な供給力過剰は、韓国造船所のこうした行為を引き起こした政府助成と引き離して考えることはできない。
 
 しかしながら、考慮される船舶のセクターに基づいて区別すべきである。確かにいくつかのセクターでは、調査対象期間中ある程度の過剰な供給力の存在にもかかわらず、韓国造船所がマーケットシェアを拡大できる反面、域内企業の市場での立場は著しく低下した。
 
欧州造船所の限られた大きさ
 関心を有するある団体は、域内企業が被った損害は欧州造船所の限られた供給力と関連しているのではないかと主張した。調査の結果、調査対象期間中、ある域内製造者の生産性は確かに欧州造船所の供給力(の不足)に妨げられたことを示している。しかし、供給力を拡大させることができれば、コスト削減によるより競争力のある価格を提示する結果、より多くの契約を交わすことを可能とし、全ての域内企業が重要な規模の経済学を達成することが可能となる。
 
韓国造船所によるダンピングの実施
 申し立てには韓国の製造者によるコスト割れ販売、すなわち、ダンピングの証拠が含まれている。類似の情報が世界の造船事情に関する委員会の理事会への報告書にある。損害が韓国造船所(韓国の製造者と市場部門の異なる組み合わせを含む)によるダンピング実施の帰結だという事実は助成金に関する調査結果に影響しない。
 
 上記に基づく観点から、韓国造船所の販売価格の著しい減少及び調査期間中の低船価販売だけでなく、建造量とシェアの著しい増大は、欧州企業が損害を被ったことと同時に起こっている。この損害に貢献する他の要素は、助成金と域内企業が被った損害との間の関連を破壊するようなものではない。

64 COM(2001)219最終版(2001年3月3日)
65 例えば、世界造船事情に関する委員会から理事会への第3次レポート COM/2000/0730最終版(2000年11月16日)
66 B.2.2の企業再建の記述参照
67 とりわけ、世界の造船事情に係る委員会から理事会への第3次報告書(COM/2000/0730最終版(2000年11月16日))を参照のこと。







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