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(b)民間銀行:「指導」の発動
 入手可能な情報は、韓国の民間銀行は独自に行動することはなく、WTO助成及び相殺措置協定第1条.1(a)(1)(iv)に定義するところの政府の委託を受け、あるいは指示により行動していることを、余すところなく証明している。以下に主要事項を述べる。
 
(i)金融分野と企業分野での危機の連関
第一段階:公的資金による金融分野の支援
 1997年の韓国の金融危機は海外の通貨危機の結果生じ、さらに韓国にIMFからの金融支援を要請させることになった。この金融危機は、金融機関の破綻を生じさせ、金融分野における大規模な構造改革の恐怖を発生させた。しかしながら、企業分野の危機拡大のため金融危機も拡大していった。これについてIMFは、以下のように記録している。「特に1994年から1996年にかけて、韓国の財閥は、国内銀行からの借り入れを急激に増加させて積極的な投資拡大を実施したが、韓国の財閥は、さらに海外からの短期借り入れも急激に増やした。1996年の国内消費の減退と、韓国の貿易条件に急激な悪影響を与えた円安のため、韓国の財閥は能力の限界点で成長することができなくなり、投資の多くを借入金に依存していたこともあって、1997年中は前例のない数の財閥が破産に向かっていた。企業破産は、韓国の金融機関の貸借対照表に深刻な悪化をもたらした。27(傍線追加)
 
 企業のリストラを促進するため巨額な金融資金が必要とされ、また、金融システムの脆弱さから生じたこのような状況の下、韓国政府は、初めに金融機関の生存と清算の問題を取り扱うことを選択した。韓国政府は、この政策を金融機関のリストラと向き合いながら実施した(生き残れる金融機関には豊富な資本注入、生き残れない金融機関には清算か合併を迫ることによった。)。このようにして、例えば、1998年1月から2000年9月までの間に、5行の商業銀行が閉鎖され、11行の商業銀行は5行に統合された。韓国政府は、金融分野のリストラを、公的資金を含む豊富な支援措置により支えた。1998年には、韓国政府は64兆ウォンに上る公的資金を、金融分野のリストラのために準備した。政府と韓国預金保険機構(KDIC)の資金は銀行への直接資本注入に使われ、韓国資産管理公社(KAMCO)が不良債権を購入することにより銀行の債務負担を軽減する、というのが計画であった。このため、政府は用意した資金全額を不良債権の購入と、金融機関の資本強化に費やした。2000年になると、いわゆる金融機関構造改革第二段階、すなわち強化された債権分類基準(早期予見基準)の導入による銀行のさらなる破綻問題に対処するための措置と、BIS(国際銀行基準)に定める適正資本が最低要求水準を下回るのを未然に防止するための措置であるが、これに韓国政府は新たに40兆ウォンを用意した。
 
 しかしながら、もし企業分野のリストラに何の措置も執らず、金融分野の危機に対応するのみだとすれば、金融危機全般への対応が不足していたであろう。IMFは、2001年の初めに以下のように指摘している28
 「金融システムを強化するための顕著な措置が執られているが、継続する企業分野の脆弱性から派生する問題が大きく残っている。金融システムにおける統合整理と資本強化、経営のリストラ、融資規則の強化及び監督の強化、の面は著しく進捗している。これらの構造改革は、公的資金による巨額の資本注入によって支えられている。」
 
第二段階:韓国政府による企業リストラの促進
 IMFとの合意に基づき、韓国政府は企業と金融に対する大規模な構造改革に従事した。韓国の対IMF義務条項を満足させるため、同様の一連措置の一部としての企業リストラに沿うよう、商法と金融法が改められた。韓国政府は、企業のリストラを促進させるため、法的制度的な枠組みを強化する具体的な措置を執った。韓国政府が好んだ解決策は、いわゆる「ロンドン・アプローチ」と呼ばれるものである。1998年に韓国政府に伝達されたIMFの政策指針では、既に銀行に対し、苦境にはあるが生存可能な企業顧客を自主的に再編させることを進めることが盛り込まれていた。現に、世界銀行の下、韓国政府が了承した大半の企業リストラ措置は、金融機関に対し、まず企業が自主的に再編することにより問題を解決する可能性を検討するよう、努力させた。従って、韓国政府により執られた全ての措置は、一連の再編プログラムにおいて、債務の整理を促すことを目的としていた(例えば、企業再編の意欲をそぐような税制の排除や債務を系列企業へ転換することを妨げている規制の見直し、企業統合や買収と資産の売却を促進させる税制の提案、である)。このため、韓国政府は、五大財閥とそれに続く64財閥、さらにその余の財閥を分けて取り扱うことを予め決め、五大財閥とそれに続く64財閥については適当なリストラ策も提示した。さらに韓国政府は、1998年の初頭から、将来の企業再編に向けての基盤を整備するため、精力的に立法作業に乗り出した。このようにして、1998年の早期に全ての関連法令が制定され、改正された(例:破産法の改正、企業再生法の制定、和解法の制定)。
 このようにして、韓国政府はリストラの実施するための必要な枠組みを創設すると、ワークアウト・プログラムを開始してきた。また、韓国政府は、例外的な環境に直面した国家を救うため、金融機関が、破産等の手段よりも企業債務の整理を選択するよう、明白な新しい法的環境を創設した
 
(ii)企業リストラにおける金融機関に対する本質的指導
 上記に説明した通り、自主的リストラを含む一体的措置は、IMFの融資条件に適合させ、金融危機に区切りをつけるための例外的なものとして、韓国政府によって指揮された。一般的に、商業銀行に対する資本注入は、これらの銀行にとっては、韓国政府の企業リストラ・プログラムに参加するよう、強力なインセンティブとなった。さらに、韓国政府が株式の過半を握った銀行では、この傾向が顕著であった(特にハンビット、ソウル、韓国第一銀行、チョ・ハン銀行等いくつかの国有銀行)。金融分野のリストラの結果として、顕著な銀行資産を保有する韓国政府は、銀行分野で主導的な役割を果たすようになった。2001年の初めにIMFは以下のように記録している29。「政府は銀行分野で資産の65%を保有し(大銀行3行で過半数の株式を有し、大銀行2行以上で相当の株式を有するに至った。)、同様に4のノン・バンク系金融機関を所有している。」資本注入の結果、韓国政府が株式の過半を所持し、あるいは相当部分を所持している銀行において、銀行が韓国政府の企業リストラ枠組みに協力しない、ということは考えがたい。金融機関にとって、金融機関の死活を直接制せられている韓国政府から指示された、企業リストラ・プログラムを拒否する理由は何もない。さらに、いくつもの例があることであるが、KAMCO(韓国資産管理公社)による不良債権の買収は、商業銀行に替わってKAMCOが債権者となることであり、企業リストラ措置に際し、韓国政府により強い力を与えることになった(とりわけ国営銀行による提案に多い。例えばKDB(韓国産業銀行)のDHI(大宇重工業)の事例がある。)。
 
(iii)企業リストラに協力的でない銀行に対する韓国政府の特別な圧力
 銀行が企業リストラ・プログラムヘ協力することを納得させるため、韓国政府は、金融機関に対する支援の対象をFSC(金融監督院)から「この銀行は責務を果たしている」という認証を受けた者に明確に限定する、という強力なメッセージ送った。特に、韓国政府は、「銀行が企業リストラの進展にすべからく協力するというインセンティブを強化するために、金融監督院が企業分野のリストラ進展に責務を果たしていると認めない銀行に対しては、KAMCOによる不良資産の買収、資本注入その他全ての公的資金を一切投入しない。」ということを明確に言及した。
 
 上記の言及は、リストラ作業の極めて早期に、即ち1998年10月27日付けの韓国政府からIMFにあてたレター・オブ・インテント(同意書)の中に初めて現れた。この文言は、2000年7月12日付けの最後の書簡に至るまで、以後2年間に渡り追随して出された全ての書簡の中で繰り返された。この間、金融監督院により「リストラに責務を果たしていることを示す証明書」の発給は拒否されたものの、強力な金融措置をもって銀行に企業リストラヘの協力を迫るという韓国政府の意向は、明らかに記述されている。
 
 最後にはIMFでさえも、韓国政府の銀行への指導に懸念を示しており、その影響に関する明示的な意見を出している30。「また監督者は、担当者に対し、リストラ過程において、債務者が問題企業の救済を行うよう追い込むことを差し控えるよう要請し、海外からの投資(資産の購入を含む)については、開かれた姿勢を維持するように要請した。長期にわたり、市場が企業リストラ・プロセスを推進することを許容するためには、より強力なコーポレート・ガバナンス習慣が必須である。」(傍線追加)。さらに加えて以下のようにも述べている。「この点については、韓国経済は成熟しており、今や韓国政府は、市場の操作と商業上の意志決定への介入から足を洗い、替わって規律の適用については将来的に市場に委ねることが重要になろう。」(傍線追加)
 
(iv)企業リストラの過程で発生した銀行の貸し倒れは間接的に韓国政府が負担する。
 負債リストラの際、金融機関には巨額の貸し倒れが発生すると予想される。このような貸し倒れが、金融機関の財務状態を悪化させるリスクがある場合、韓国政府はさらに支援を供与することを保証している。実際のところ、金融機関を支援するという韓国政府の誓約は、広く解釈の余地を残したものである。2000年7月15日付けのIMF宛のレター・オブ・インテントにおいて、韓国政府は、資本の流動性の問題に直面している金融機関の支援の継続に務めると明記している。同時に、金融機関は、企業リストラ・プロセスに積極的に関与することが奨励された(これによりさらに貸し倒れが起こることは明らかである)。先に述べたように、実際のところ、構造リストラ・プロセスヘの参与を渋る金融機関は、公的資金の供与を受けられないとされていた。実際IMFは次のように警告している31。「資産規模にして6位から64位の財閥の場合、債権者主導の負債ワークアウト・フレームワークの下で負債のリストラが実施されているが、初期の裏付けによれば、負債リストラは十分ではなく、合意に達したワークアウトの一部は、さらに持続可能なレベルまで債務を減らすために再検討の必要があるだろう。」さらに、IMFは次のように付け加えた。「健全な銀行システムの構築の過程は完了には程遠い。彼らは、厳格な融資格付けガイドラインと監督の強化の導入を歓迎したが、進行中の企業リストラ・プロセスにより、さらに貸し倒れが発生する公算が高く、銀行の資本強化にさらなる努力が必要である。」
 さらに、問題のある銀行に関して、金融監督院は1998年4月以来、迅速な是正措置を講じるトリガー(引き鉄)システムを採用している。BIS自己資本率または、銀行の全体的評価が最低基準を下回った場合、金融監督院は問題を是正するために迅速かつ適切な措置を講じることが義務づけられた。これには、必要ならば、韓国政府及びKDICによる資本注入が含まれる32。このスキームに基づいて、さらに6行が韓国政府による資本再構成を受けた。最新の事例は2000年11月である。韓国政府は、話し合いにおいて、これらの銀行は大宇危機により特に影響を被ったため資本再構成が必要であったと述べている。
 
 このことから、資本の流動性の問題が発生した場合、最終的に韓国政府の介入があることがわかっているため、金融機関が「負担付き」の債務リストラの取り決めに参加する余裕がったこと、今もそうであることがわかる。
 
(v)韓国政府は積極的に企業リストラに介入
 韓国政府は歴史的に産業政策において重要な役割を果たした。しかし、この役割を完全には放棄していない。1997年の危機に続いて、韓国政府は、CSIP33制定における五大財閥(大宇を含む)との合意に参加することにより、企業リストラに最初から積極的な役割を果たした。たとえば、韓国政府は、その合意において、合意条件が成功裏に履行されるように、企業部門と金融機関の協力の強化を保証した。
 
 さらに、韓国政府は、生産能力余剰の問題に対処するために、5大財閥間での資産の売却、交換を通じて、7つの主要産業における構造改革を行うことを提言した(「ビッグ・ディールズ」プロジェクト)34。さらに、韓国政府は、これらの措置を積極的にフォローし、世銀に報告することを保証した35
 
 企業のリストラに韓国政府が積極的な役割を果たしたことを示す状況は、この他にも2001年初めにKDBに対し社債買い入れの主役を割り当てたことがあげられる。この社債スキームに関して、IMFは次のように述べている。「担保付社債の利用増大と債券市場ファンドの開設については、満期債券が目白押しとなっており、現在の債券市場が弱含みであることを考慮すれば、何らかの政府の介入は正当化されると認める。しかしながら、IMF(ディレクター)は、これらの措置は過渡的なものてあり、歪曲を最小限に抑え、一時的な財政問題に直面している更生の可能性のある企業に限定されるべきであり、一部の企業が「倒産させるには大きすぎる」という認識を避けるようにと、韓国政府に対して警告した。IMF(ディレクター)は、債券市場の問題に対する永続性のある解決策は、企業部門における負債依存度を低減することを目的とした構造改革の努力を必要とすることを強調した。」36
 
 更に、IMFは最近、次のように述べている37「政府は、予算を通じ商業活動に融資及び債務保証を供与している。しかし、政府はまた、このような支援を予算外でも供与している。これは融資及び保証の受益者にとって隠れた助成となる。」そして、IMFは次のようにアドバイスしている。「金融危機の影響が弱まりつつある今、企業部門及び金融部門への公的機関による直接の関与を減らし、信用保証基金活動の助成部分を削減し、企業部門及び金融部門が純粋に商業ベースで運営されることを許す事により、自らの財政上の役割を再評価し、さらに明確に定義する機会として利用すべきである。金融部門及び企業部門における、残存する政府関与の財政的影響については、これを明確に報告し、明確な予算上の承認を行うべきである。」
 
政府の指導の結論
 上記のフレームワークは、民間金融機関は(i)それ自体が構造改革の過程にあった、(ii)財務体質が弱体化していた、(iii)部分的または完全に韓国政府が所有していた、(iv)将来の資金流動性に関して韓国政府に本質的に依存していた、ことを示している。このような状況で、民間金融機関は、韓国政府の金融危機管理政策の礎であった企業のリストラ・プロセスへの参加に関する決定を追られたのである。ワークアウト/リストラ合意が理論的には「任意」であっても、韓国政府が採用した措置パッケージは、(金融監督院の監督の下での)金融部門の強制的構造改革と連結しており、銀行に対する魅力的存支援パッケージは、銀行が参加を要請されたフレームワークの条件を明白に設定するものであった。実際、韓国政府は(FSCを通して)、金融機関がCRAを遵守するよう説得することを明確な政策目標とした。このメッセージは、韓国政府が構造改革への参加を渋る金融機関には支援を提供しないと宣言したことにより、さらに明らかなものとなった。当時の国内金融機関が財務面で困難に直面していたことを考えれば、個々の銀行が政府のガイドラインにしたがわないでいられたと考えるのは困難である。対照的に、外国の債権者は、参加の機会を与えられたにもかかわらず、構造改革のプロセスに参加することを拒否し、国内金融機関、最終的にはKAMCOが、外国債権者が保持する債権を買い取らざる得なかった。
 それゆえに、フレームワークの存在は、ASCMの第1条1(a)(1)(iv)の要件を満たし、銀行は関連した企業の負債リストラの編成に関して受託させられた、または指示を受けたと言うことができる。
 
金銭的貢献についての結論
 上記の分析に照らして、ワークアウト・スキームの下で大宇に供与された支援は、ASCMの第1条1(a)(1)(iv)に規定される資金面での貢献といえる。
 
利益(ベネフィット)
 大宇造船(DSME)が受けた利益は、分社化による債務免除額、債務の出資転換額、償還期間繰り延べまたは金利の調整を通じて節約された利息額を合計したものである。これによると、大宇造船が受けた利益は2兆9,600億ウォン(22億6,000万USドル)と推定される。詳細はANNEXを参照のこと。
 
 韓国政府は、民間金融機関が商業ベースでの検討を踏まえ行った措置であるから、利益の供与には該当しないと主張している。そのため、銀行が純粋に商業ベースの検討に基づき行動していれば、市場では獲得し得なかったであろう条件をリストラ企業に認める措置がリストラの条件に含まれているかどうかを検討する必要がある。言いかえれば、韓国政府のフレームワークなしでも、民間銀行が同様の行動を取っているならば、ASCM第1条1.1(b)に該当する利益は存在しないことになる。造船事業者の資本力及び信用力(equityworthiness、Creditworthiness)は、それぞれ異なるため、この点を確認するためには韓国造船事業者の立場を個別に調査する必要がある。
 
 大宇に関しては、民間金融機関は、以下の点で商業ベースの判断に則っていないことを示唆する要素が存在する。
 
債権者は大宇グループが出した再建計画(CSIP)を、同グループの信用度が十分ではないとの判断から、3度続けて却下した。
ワークアウト以前には、銀行は韓国政府から圧力をかけられて始めて大宇に融資を提供した。世界銀行は次のように述べている38「大宇グループが昨年夏に深刻な資金流動性の問題に直面した際、政府は国内の融資機関に強い圧力をかけ、10兆ウォン相当の証券担保で保証した4兆ウォンの大宇の商業手形を購入することを強要した。株価の下落と共に、担保となった証券の価値は1兆ウォンまて下がった。国営の韓国資産管理公社(KAMCO)は国内の民間融資機関に対し、商業手形の額面の80%の支払を提示したが、融資機関は20%の割引に強く反対している。金融機関の財政体力は衰弱しており、多くの金融機関がこのような追加的な損失を吸収できる状態ではなく、政府の助けを必要とするであろう。」
大宇グループは、過去2年間に大宇重工の買収に関心を示す投資家をみつけることができなかった。
外国の銀行は、リストラ計画への参加を拒否し、国内の債権者に債権を売り渡して手を引いた。世銀は次のように述べている。「4大関連会社について提案されたワークアウトに外国債権者が反対したのを受けて、国内の債権者は外国債権者から48億4,000万ドルの無担保債務を買い取る調停策に同意したのである・・・」39
債権が出資に転換された際に使用された株価は市況を反映していない。2001年2月1日に大宇造船の株式が公開された際には、1株あたり3,500ウォンで取引きされており、同社の経営の継続のために、債権者が債権と相殺した買入れ価格である7,850ウォンの半額にも満たない。同社の市場評価と債権者の評価の間のこの大幅ギャップは、債権者が商業ベースの判断に基づいて行動しなかったことを示している。
大宇造船の大口債権者40は、韓国産業銀行(KDB)、韓国資産管理公社(KAMCO)、韓国輸出入銀行(KEXIM)であり、これらはすべて韓国経済の発展を支援する目的で設立された公的機関である。これらの公的機関が被る損失は、無制限に韓国政府により負担されることが可能であることを考えれば、純粋に商業ベースの判断に則らずに決定を下す余裕があり、実際にそうしていることがわかる。さらに、大宇グループが韓国の生産高/GDPの相当な部分を担っている四大財閥のひとつであることを考慮すれば、韓国政府が韓国全体に対して(金融、政治、社会面で)ネガティブな影響が及ぶのを避けるために、このような企業複合体を倒産から救うことに特に注意を払うのは当然のことであろう。
ワークアウト・スキームを利用する企業は、通常の破産処理手続きでは認められていない措置の恩恵を受け、それにより国庫にさらに負担を与える。特に、ワークアウト企業に限り、ワークアウト対象外の債務者は受けることができない大幅な税制優遇措置を受けることができる(税制優遇措置についての以下の分析を参照のこと)。
 
 最後に、独立した民間銀行の商業ベースの判断による措置に債務の繰り延べが含まれることは当然の行為であると仮定しても、リストラが行われた債務の総額(漢拏、大宇だけで38億USドル)を見れば、最終合意に達したパッケージは、非常に寛大なものであり、大宇及び漢拏の債権者が吸収した損失は、政府の支援があるという確証がなければ、自らが相当な財政難に直面している民間商業銀行が受け入れられるような額ではないということがわかる。大宇、漢拏に対する寛大なパッケージは、ほぼ同じ金融機関グループ(ほとんどがKDB、KAMCO、KEXIMのような国営または国が支配する金融機関)によって提供されたことを考えると、より明白である。これらの金融機関は、その特別な性格上、韓国政府から無制限の支援を受けている。
 
 さらに、これらの金融機関は、他の企業ワークアウトにも参加していることを考えると、貸し倒れ総額だけでも、金融機関自身が崩壊して当然の規模である41。FSSによれば、韓国の22の商業銀行、特殊銀行は、2000年に総額4兆2,000億ウォン、1999年に5兆5,000億ウォンの赤字を出している。KDBだけでも2000年の赤字は1兆4,000億ウォンにのぼる。商業銀行ならば、債務者の代わりに自分が倒産するような道は選ばないはずである。韓国政府が金融機関に、将来の流動性の確保を実質的に保証する(先の「政府の指導」の項目の分析を参照のこと)ような取引を奨励していなければ、金融機関がこよのような「追加負担」のある負債リストラに応じる余裕があったかどうか非常に疑問である。資本の流動性に問題が発生した場合、最終的に韓国政府が介入してくれることがわかっていたことが、このような選択を助長したことは確実である。
 
特定性
 特定性の問題に関して、CESAは、債務免除、債務の出資転換、利子軽減に関する決定は、一様に通常の再建手続きの枠外で行われたようであり、それゆえに造船事業者に特定的なものであると主張している。
 CESAは、再建を実施する上で、韓国の銀行は政府と共にそれぞれの企業の負債繰り延べ計画の条件をひとつひとつ起草し、実施したが、その際、韓国の会社再建法に盛込まれており、一般に適用される企業再建原則や慣行に従うことを求められなかったことは明らかだと主張している。
 
輸出補助Export contingency
 ASCMの第3条1により、法令上、または事実上、輸出が行われることに基づいて(唯一の条件としてであるか、二以上の条件としてであるかを問わない)交付される補助金は禁止されている。第3条1の注釈では、補助金の交付が法的には輸出が行われることに基づいたものでない場合においても、当該補助金の交付が実際の又は予想される輸出又は輸出収入と事実上結びついていることが事実によって立証されるときは、この基準は、満たされるものとされている。さらに、第2条3は、第3条の規定に該当する補助金は、特定性を有するものとみなす、と定めている
 
 韓国政府の回答によれば、加害的廉売されたとされる新規造船受注のほとんどすべて(1997年には201隻中200隻、1998年には175隻中175隻、1999年には226隻中223隻、2000年には189隻中187隻)が輸出契約であった。しかしながら、注釈4に従うと、輸出を行う企業に助成が供与されたという事実だけでは、輸出助成と見なされる理由にはならない。それゆえに、全ての受注が輸出向けであったという事実は、通常、(補助金が)輸出に対して付随しているとの申し立てを裏打ちするためには、それだけで十分ではない。
 
 しかしながら、韓国政府が特に輸出企業を優遇していたことを示す証拠が発見されている。特に、企業リストラの適格性に関し、韓国産業銀行(KDB)はそのウェブサイトで決定は必ずしも中立的、客観的に下されるわけではないと延べている。特に、「企業リストラ活動において、KDBはどのような役割を果たすのか?」という問いに対して、KDBの上級マネージャーは次のように答えた。「KDBは債権を有する他の韓国の銀行と協力して、一時的な資本流動性の不足に悩まされている企業56社を特定し、それぞれに合わせたワークアウト・プログラムを通じてこれらの企業の回復を支援している。商業銀行は大幅なリストラを実施し、新たに信用を供与する能力が限られているため、KDBはいくつかの、信用度の高い、輸出志向の企業と、一時的な資本流動性の問題を抱えている中小企業を選択的に支援している。42
 
 韓国が金融危機の最中にあったことを考えれば、KDBが貴重な外貨を稼いでくれる企業を優先したい気持ちになったのは自然である。先に実証したように、輸出の潜在的能力に鑑みて、造船所は優遇の対象として理想的である。KDBが大宇の主債権者(後に説明するが、大東と漢拏の主債権者でもある)であったことを考慮すれば、上記のKDBのコメントはさらに重要な意味を持つ。それゆえに、上記の造船会社の支援に関するKDBの決定は、このような輸出優遇政策による判断の影響を受けたと考えられる。それゆえに、企業リストラとの関係で交付された補助金は、ASCMの第3条に照らして、輸出に付随するものと見なすことができる。
 
 上記にかかわらず、次に説明するように、補助金が大宇に対して特定的であったことを示す明確な証拠がある。
 
法律上の特定性:ワークアウト・スキームは特定の企業に制限されていた
 ASCMの第2条1(a)は、交付当局が「補助金の交付の対象を明示的に特定企業に特定している」場合、明白に特定性を認めるとしている。
 韓国政府及び韓国造船工業会(KSA)は、ワークアウト・スキームは広範な産業部門に渡るものであり、特定性はないと主張している。しかしながら、適用範囲については、韓国政府が事業規模が6位から64位の第二階層の中小財閥に対してのみ、裁判所によらないワークアウト・プログラムを設けたことが立証されている。それゆえに、このワークアウト・プログラムは、主としてこれらの60の産業グループ向けのものであった。それゆえに、特別再建計画が、限られた数の企業向けでしかなく、経営危機に陥っている全ての可能性のある韓国企業に適用されるものではなかったという点で、再建計画は受益企業に特定的なものと見なされる。
 
適格性は自動的ではなく、債務額についての客観的尺度は存在しない。
 韓国政府及びKSAはまた、ワークアウト・スキーム参加の適格性については、受益者の更正の見込み(バイアビリティ)に基づいて金融機関が独自で決定するため、客観的であり、同スキームに特定性はないと主張している。ASCMの第2条1(b)は、(補助金の)交付当局に「補助金の交付を受ける資格及び補助金の額に関する客観的な基準又は条件」を制定することを義務づけ、「交付を受ける資格は自動的に付与されるものであり、かつ当該基準及び条件が厳格に遵守されていること」としている。。
 適格性の問題について、韓国政府は、適格性基準を満たす企業はすべてワークアウト計画に応募することができるとする情報を提供した。しかし、適格性は、候補企業が債権を有する銀行への申請に限られており、計画の承認は自動的ではない。ワークアウト計画は、債権を有する銀行によるその件限りの特別な決定によるという事実に鑑みれば、リストラパッケージは一件一件違い、当該ワークアウト計画の当事者である企業にしか影響しない。銀行が企業に援助を供与するかどうかの決定は、純粋に任意裁量による。実際のところ、韓国政府は、決定は任意ベースで行われていると主張している。法により定められた義務行為はなく、同様の状況に対する措置が異なった場合の罰則も存在しない。企業が援助を受ける適格性は自動的ではない結果、債権者は「更正の見込みのある」企業に対する援助の供与を拒否しても、更正の見込みのない企業に援助の供与を認めても、その行為を正当化する必要はない。たとえば、2000年11月3日に出された、債権を有する銀行による更正の見込みのある企業の最新の査定において、特定の企業は関連する基準を満たしていないのにもかかわらす、「特別待遇」を受けた43。さらに、債務免除金額についての客観的な条件は存在しない。債務免除金額の決定は債権者の裁量に完全に任されている。それゆえに、同じ状況にある企業に異なる金額の債務免除が与えられることもありえる。
 
事実上の特定性:大宇は主要な受益者である
 ASCMの第2条1(c)によれば、表面的には特定性が認められない場合にも、とりわけ、限定された数の企業による補助金の利用、特定企業による補助金の支配的な利用、特定企業に対する均衡を失した多額の補助金の交付が存在すると信ずるに足る理由がある場合には、補助金は事実上、特定的であると見なされることがある。
 この点に関しては、調査の結果、大宇グループ(造船事業を含む)に特別な措置が取られており、同グループはワークアウト・スキームの主要な受益者であることが判明した。特に、同スキームの恩恵を受けている大宇グループ企業は相当数にのぼる。具体的には、2000年8月現在、ワークアウト・プログラムに参加することを、それぞれ債権を有する銀行に認められた104企業のうち、12社が大宇グループの関連企業であった。
 韓国政府は、大宇グループの抜本的構造改革を目的として、大宇危機に対処する特定の措置を講じた。具体的には、韓国政府は大宇に対する債権を有する銀行の損失の分担に関する計画を略述した包括金融市場安定化パッケージを発表したのである。同パッケージには、とりわけ、以下の条項が含まれていた。
 
投資信託会社及び投資信託管理会社が所有している大宇社債関し、50%〜95%の償還率の保証
過半数の株主による、過半数の株主が不在の場合は公的資金による、金融機関の資本再構成
投資信託会社2社(韓国投資信託及びDaehan投資信託)44及び大宇社債を保証するためのソウル保証保険向けの特別基金
金融機関が保有する無担保社債のKAMCOによる買い入れ
 
 パッケージの発表に対して、Kang Bong−Kyun金融経済大臣は、「最新の措置により大宇グループのワークアウト計画をスピードアップし、透明で包括的な方法により金融市場の不安が一掃されることが期待される」と述べた。
 
 IMFは韓国政府が「財閥の複雑な構造改革のフレームワークを迅速策定した」ことを賞賛さえしている。IMFはまた「大宇の関連会社を債権者とのワークアウトの話し合いに取り込むことに韓国政府が積極的であったことを歓迎した。最終的なワークアウト計画は、資産売却、再建の見込みのない会社の整理、その他の形の事業のリストラにより、財務上の構造改革にとどまらず、経営上の構造改革を図ること、また、ワークアウトの合意は、国内外の債権者を同等に扱う、公平かつ透明なものであることを、政府が担保することが必要不可欠だとIMF(ディレクター)は言及した。その他の大財閥に関しては、IMF(ディレクター)は、リストラ努力を確実に継続させるために、取締まり及び制裁措置をさらに活用するとする政府の意向を歓迎した45。」
 結論として、特定の種類の、主に公的金融機関である債権者に対して特に巨額の負債を有し、財政難に陥っている大型企業に選択的にワークアウト・スキームが適用されたという事実により、ワークアウト計画のもとで大宇に供与された補助金は、ASCMに規定される特定性があることが立証される。

27 IMFプレス発表通知(1998年6月17日付け、N.98/39)
28 2001年1月1日付けIMF PINの1/8
29 基準とコードについてのIMF監視報告書(韓国)、2001年1月23日付け
30 2001年1月1日付けIMF PINの1/8
31 IMF PIN99/115(1999年12月29日)
32 金融監督院は銀行のポジションを評価し、その結果をKDICに通告する。これを受けて、KDICは必要な資本額を決定する。
33 CSIPの項で説明したように、この計画には、主要目標の設定の他に、7つの主要産業における方針提言が含まれていた。(通称、ビッグ・ディールズ)
34 詳細は先のCSIPの項を参照
35 1999年11月24日のIMF政策マトリックスを参照
36 IMF PIN 1/1/01の1/8
37 基準・コード適合に関するIMF報告書:韓国、2001年1月23日
38 2000年9月18日付け世界銀行の「東亜摘要」を参照。
39 2000年9月18日付け世界銀行の「東亜摘要」を参照。
40 2000年10月31日現在。詳細は補遺を参照。
41 財政危機の初期には事実上銀行は崩壊していた。「政府の指導」の分析の項で先に説明したように、1998年1月から2000年9月の間に、民間商業銀行5行が閉鎖され、11行が5行に統合された。
42 KDBウェブサイトはhttp://www.kdb.co.kr/
43 Hyundai Engineering & Construction Co. Ltd.及びSsangyoun Cement Ind. Ltd.
44 韓国政府は、これらの2機関が破綻した場合、両機関が債権市場の大部分(大宇社債を含む)を保有しているという事実に照らして、国家経済に「不利益」を及ぼすとした。それゆえ、大宇の破綻は、両機関に大きな影響を与えた。
45 IMF PIN99/115of29/12/99







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