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第4章 EUにおける排ガス削減技術に関する研究開発体制
4−0 【概要】
 欧州連合(EU)では欧州域内における技術開発事業に対して助成措置を行っている。これを代表する研究開発の助成スキームがEU研究開発枠組計画(EU Framework Programme)であり、広範囲な分野において技術的な研究開発事業に対して資金助成を行っている。さらにこの制度を補完的に支援するネットワークとして「BRITE EURAM計画」、「EUREKA」、「VINNOVA」等があり、これらはEU研究開発枠組計画を中心として相互に連携しながら各種事業の円滑な実施を支えている。EU研究開発枠組計画の概要は以下のとおりである。
 
4−1 【第5次EU研究開発枠組計画】
 研究開発のための主要な資金は、欧州連合の研究総局(Directorate General for Research)によって管理されており、1998年から2002年までの研究開発事業については第5次EU研究開発枠組計画の中で措置されており、これに係る予算総額はほぼ150億ユーロが計上されている。この中で、船舶関連技術をはじめ、大気汚染物質の排出削減に関連する事業として低硫黄船舶用燃料について研究されたMARTOBプログラムもこの枠組計画の中から資金助成を受けている。
 
4−2 【第6次EU研究開発枠組計画】
 欧州委員会内における研究及び技術革新に対する優先度が上がっているのを反映して、第6次EU研究開発枠組計画では175億ユーロの予算が計上されている。これは、同計画の2002年11月からの公式スタートに先立ち、同年9月30日にEU閣僚理事会において正式に採択されたものである。第6次計画では、2003年から2006年までの4年間で実施される研究開発事業を対象に資金助成が行われることとなり、第5次計画の予算総額と比べて17%も増加しており、EU域内における技術開発に対する理解と関心の高さをうかがい知ることができる。
 
 この予算のうち特定部分については将来を見越して、EU域内における科学及び技術的視点からのニーズを反映した欧州域内に共通する公共的政策課題の改善に役立つものに充てられる。これには、交通、エネルギー及び環境政策の特定の側面に関わる研究が含まれており、船舶の機械装置や推進機関に関わるものも想定されている。
 
 数多くの事業がこの研究開発枠組計画の中に盛り込まれているが、これら各事業は主要課題ごとに定義付けられた主題別分野(Thematic Areas)に割り振られており、その分野ごとに予算割りも行われている。陸上交通はじめ船舶技術を含む海事分野に係る技術は、測定、試験技術等とともに、同枠組計画の中では「食品安全と健康リスク及び持続可能な発展と地球規模の変化」という(海事分野を想起させない誤解を招くようなタイトルではあるが)主題別分野の範疇で取り扱われており、当該分野の予算割当て総額は6億ユーロとなっている。なお、直接比較は難しいが第5次計画における海上交通分野に関する研究事業に対するEU資金は9,600万ユーロが割り当てられた。ちなみに、陸上交通には1億3,100万ユーロ、鉄道に2,900万ユーロ、技術系プラットフォームには2,200万ユーロとなっている。
 
 第5次研究開発枠組計画では、当初、グループ化していた個別事業を統括してより規模の大きい研究開発事業へと転化していたが、この方式では研究のための研究に終止する恐れがあった。このため、第6次の枠組計画では、研究テーマに対する分野分けを厳密に行い、研究テーマの最終目標を明確に設定することにより時代のニーズに合致した成果物をより効果的、迅速に生み出そうという思想が取り入れられている。このため、テーマ分野の定義付けが公共予算の生産的かつ研究開発成果の公共社会へのより有効な還元に結びつくこととなる。
 
4−3 【主題別事業計画(Thematic Programmes)】
 第5次研究開発枠組計画の下で運営されていた主題別事業計画の中にEU発展事業計画(Growth Programme)があり、14の研究分野について予算がついていた。このうち6分野が海洋に関連するものであり、その主要テーマの内容は次のようなものであった。
1. 「FC SHIP」舶用燃料電池
2. 「LIFETIME」2ストローク高性能舶用エンジンにおける燃料及び排出ガス削減
3. 「SMOKERMEN」舶用エンジンからの煤煙削減
4. 「STEAM INJECTED DIESEL ENGINE(STID)」蒸気噴射式ディーゼルエンジン
 
4−3−1 【事業例:FC−SHIP】
 「FC SHIP」は一般商船において燃料電池技術を応用するための2ヶ年にわたるパイロット研究である。FC−SHIPと命名されたこのプロジェクトには、電気メーカー、エンジン製造業者のMTU FriedrichshafenとWrtsil Corporation、造船業者Fincantieri、並びに、ノルウェー船級協会、ドイツ船級協会、ロイズ船級協会及びイタリア船級協会等々20社以上の企業や研究機関が関与している。ノルウェーの船主協会がとりまとめたこのプロジェクトの目的は、一般商船で使用可能な船舶用燃料電池システム開発のための基礎データを固めることにある。
 
4−3−2 【事業例:LIFETIME】
 「LIFETIME」は2000年4月1日に始まり、36ヶ月間の研究期間を設定して、長期間使用される大型船舶用エンジンの性能劣化問題及びそれに伴う大気汚染物質の排出量増加問題について調査研究するものである。第1の目標は、多種多様な直結駆動方式エンジンに応用可能な性能、大気汚染物質の排出量及び動作パラメータとの相関関係を明らかにすることである。第2の目標は、第1の目標によって明らかにされた相関関係を用いて制御システムのプロトタイプを開発することであり、この事業の最終目標は、大気汚染物質の排出量レベルヘの影響を抑えながら、長期にわたってエンジン性能を最適な状態に維持することにある。この事業では、ギリシアのDanaos Shipping Company社による技術協力を受けた他、MAN B&W Diesel A/S、ABB Service A/S、ドイツ船級協会及びHapag−Lloyd Container Lineの協力支援もある。このLIFETIME事業の研究成果の一つに、オンラインによる排出ガスの排出レベルのアセスメントを可能にする電子制御式のエンジン性能/排気ガス監視装置(NOx−BOX)の開発がある。
 
4−3−3 「事業例:SMOKERMEN」
 「SMOKERMEN」事業の主要な目標は、船舶用ディーゼルエンジンからの煤煙排出量を可視限界以下に削減することにある。中・高速運転時及び超低速時でのエンジン負荷条件下でのディーゼル機関からの煤煙排出を抑制しようとするものである。この事業は2002年7月1日に実施され36ヶ月間継続される。国際内燃機関学会(CIMAC)のギリシア支部及びアテネ国立工科大学の他に、スイスのABB Turbo Systems、オランダのWoodward Governor、そしてドイツ船級協会がこの事業に参画している。
 
4−3−4 「事業例:STID」
 「STID」は、燃焼室に蒸気を噴霧することによって窒素酸化物(NOx)及び煤煙粒子の排出量を削減することを目指している。この方法で高圧蒸気を使用していることも、エンジン効率の改善をもたらすものと見られている。ノルウェーの海洋技術研究所(MARINTEK)が中心となって、2000年7月1日に36ケ月間の予定で開始された研究開発事業である。この事業には、Wrtsil Corporation、スウェーデンのChalmers工科大学及びノルウェーの科学技術大学からそれぞれ技術者が共同事業パートナーとして参加している。
 
4−4 【主題別ネットワーク(Thematic Networks)】
 EU研究開発枠組計画(EU Framework Programme)の制度を補完する機能として先に述べた主題別ネットワーク(Thematic Network)があるが、これは、共通の科学・技術目標を有する製造業者、ユーザ、大学、研究機関等を集合、連携させる役割を演じている。つまり、所与の分野での最先端技術を考察し、研究ニーズを探り、EU研究開発枠組計画の助成の対象となるような共同事業の形成及び発足を支援するために、企業及び研究機関の専門家等に対して協力を要請して関係者を結束させるためのメカニズムである。この主題別ネットワークは、ある特定分野における研究の推進を可能にするのみならず、関連する研究事業を全体としてまとめていく機能も有している。
 
 海事分野において主題別ネットワークの概念を取り入れ、この機能を活用することは、多くの場合、有益な研究課題の目標設定に有効であり、EUからの予算獲得にもその効果を発揮する。現在、一般的な主題別ネットワーク分野として以下のものが存在する。
1. PRODIS(造船における製品開発及び技術革新)
2. TRESHIP(船舶に起因する環境影響を軽減させるための技術)
3. ERAMAR(海事分野への研究領域の応用)
4. ERANET(陸上及び海事分野間の技術交流のための代表的研究開発ネットワーク)
 
4−4−1 「事業例:PRODIS」
 「PRODIS」の目的は、物流を陸上から海上輸送へとシフトすることにより、陸上での交通渋滞や大気汚染を緩和することにより、船舶をより環境に優しい交通媒体とすることにある。PRODISは2001年末に終了している。
 
4−4−2「事業例:TRESHIP」
 「TRESHIP」は、船舶航行に伴う環境影響を減少させることを目的とした技術開発のための共同研究開発事業を監視し、推進させることを主眼にしている。
 
4−4−3「事業例:ERAMAR」
 海事分野でのいくつかのプロジェクトの成功を収め、造船研究開発フォーラムは、「ERAMAR」として知られている‘包括的’な主題別ネットワークによって海事分野に関する研究開発機構の再編作業に着手した。ERAMARは2002年初めに着手され36ヶ月間の予定で運営される。
 
4−4−4 「事業例:ERANET」
 「ERANET」の主たる目標は、航空を除く海運、鉄道、道路輸送間の協力を通じて、技術研究開発の成果を広く欧州域内に普及することである。この協力関係の主な要素は、技術移転及び国とEUの研究開発プログラム資金間との調整である。燃料及び排出ガス制御は、ERANETの下での主要な課題の一つである。







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