6.1.5 航路特性
本調査で検討した航路の特性を下記の表に示す。市場規模予測は「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要に関する調査書」(2001年6月発行)から抜粋した。
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積載率の予測方法及び陸上貨物輸送コストは、6.1.2項で述べた変数を用いて試算した。 |
減価償却と資本価値
全てのタイプの船舶の減価償却は、MS Excel(c)に組みこまれている二重定率法を用いて試算した。船の資本価値は、取得購入価格から減価償却累積額を差し引いたものである。船舶の市場価格に対する物価上昇率の影響を加味し、この試算における資産価値は物価上昇率と共に増加させている。
この方法では、船舶の耐用年数の最初の数年間で大幅に価値が下がるように計算されているが、これは、同程度の船齢の中古船の相場価格を合理的に再現しているといえる。
修理と保守コスト
一般に、修理と保守コストは船齢が上がるに従って上昇すると仮定できる。ただし、これは船の過去の運航状況や、所有者がどの程度、船を航海に適した状態に保つよう努めていたかによって、かなりの違いがあるものと思われる。
本調査では、修理及び保守コストは、上記6.1.2項で示した相関関係に従って上昇すると仮定する。
このファイナンス分析から、少なくとも貨物の流通が多い航路に関しては、一般的に必要と考えられている積載率を達成できると推測できる。前述したように、この仮説を立証するための、ユーザの選択に関する詳細な調査は実施されていない。しかし、積載率を達成するために必要な市場シェアと「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要に関する調査」で試算した確保可能な最大市場シェアを比較することによって、この仮定の実現性について予備評価を行い、現実的でない航路や船舶サイズを今後の検討から排除することができる。
比較結果を以下の表30にまとめる。
RO−RO船の大きさ |
航路 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
小型(1,000DWT) |
11.0% |
56.4% |
0.4% |
2.9% |
1.9% |
23.7% |
中型(2,000DWT) |
21.9% |
112.8% |
0.8% |
5.7% |
3.8% |
47.4% |
大型(4,000DWT) |
43.8% |
225.6% |
1.6% |
7.6% |
7.6% |
94.9% |
最大市場シェア(予測) |
8.50% |
12.60% |
5.20% |
42.20% |
48.80% |
8.20% |
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備考:航路の定義 |
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航路1 |
東海岸 |
チュンポーン |
航路2 |
東海岸 |
スーラト |
航路3 |
バンコク |
チュンポーン |
航路4 |
バンコク |
スーラト |
航路5 |
バンコク |
ソンクラー |
航路6 |
東梅岸 |
ソンクラー |
表30から、航路2及び航路6に関しては、調査の対象とした全ての大きさのRO−RO船を使用した場合も、十分な貨物量を確保することが困難であるといえる。しかし、判断の根拠となったこれらの数字が正確でない可能性もある為、小型のRO-RO船に関しては今後の分析の対象とする。
航路1の場合、中型または大型の船舶の運航に十分な貨物の確保は困難と思われるが、小型船の運航は実現可能と思われる。従って大型船については今後の分析の対象から除外する。他の航路の場合、本調査の対象となった最も大型の船舶を含め、十分な貨物を確保できるものと思われる。
6つの航路に関して9つのシナリオを考察した。各シナリオ及び各船舶の購入価格を、以下の表31に示す。
RO−RO船の大きさ |
購買資金調達 |
一般金融機関:新造船 |
一般金融機関:10年の中古船 |
ODA |
小型(1,000DWT) |
830万USD |
420万USD |
12億円 |
中型(2,000DWT) |
1,100万USD |
550万USD |
16億円 |
大型(4,000DWT) |
1,650万USD |
830万USD |
24億円 |
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上記モデルの結果から、RO−RO船の運航にあたって、一般市場の中古船購入が最も安価なものとなることがわかる。これはごく当たり前の結果であり、海運業界の有識者は、貨物運賃の低い市場では船舶所有者は古<て低品質の船舶を使用すると指摘している。これは、中古船による運航は保守コストが高いが、新造船への投資に比べると最終的な費用が低くなるという事実を示している。
この原価分析で網羅されていない点は、新造船を使用することによる運航の質と信頼性向上に関する評価である。新造船を使用することで、船の運航に十分な貨物を確保できる、あるいは、現在よりも高い貨物運賃を設定できるという可能性も出てくる。従って、中古船の使用によってコストの削減が可能になったとしても、中古船の使用が最適だという決定的な論拠とはならない。新造船を使用した場合のフィージビリティー分析において、RO−RO船による貨物取扱量を増やすためには、RO−RO船の運賃が現在の道路貨物運賃より低くなる必要があるという仮定に、サービス品質の改良が反映されている。新船の場合の運賃割引率は中古船の場合の15%から5%へ下方修正した。
表32: |
ROE達成に必要な最低貨物運賃:中古船(バーツ/トン) |
RO-RO船の大きさ |
航路 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
小型(1,000DWT) |
431 |
333 |
484 |
466 |
649 |
549 |
中型(2,000DWT) |
N/a |
N/a |
354 |
343 |
467 |
N/a |
大型(4,000DWT) |
N/a |
N/a |
281 |
348 |
364 |
N/a |
達成可能な運賃 |
300 |
397 |
231 |
282 |
457 |
575 |
|
備考:航路の定義 |
|
|
航路1 |
: |
東海岸〜チュンポーン |
航路2 |
: |
東海岸〜スーラト |
航路3 |
: |
バンコク〜チュンポーン |
航路4 |
: |
バンコク〜スーラト |
航路5 |
: |
バンコク〜ソンクラー |
航路6 |
: |
東梅岸〜ソンクラー |
N/a |
: |
貨物運賃が高くても十分な積載率が見込めないため、評価から削除した。 |
表32は調査の対象となった6つの航路に関し、10%の税引きのROE(株主持分利益率)を確保するために必要な最低貨物運賃をまとめたものである。市場において、最低必要運賃より高い運賃の達成が可能で、明らかに採算のとれる航路については太字で強調する。最低必要運賃と市場での達成可能な運賃の差がわずかな場合には下線を引く。これらの場合、必要な貨物運賃と達成可能な運賃の差は、分析許容誤差内(約10%)である。
この表から、航路のうち3航路では、適切な積載率を確保することができれば今後のRO-RO船事業の見通しが明るいことがわかる。航路2及び6の場合、小型船の運航が可能と思われる。航路5の場合、2,000DWT以上の船を使用する必要がある。航路1の場合、小型船の運航に必要な貨物運賃は達成可能な貨物運賃を超えており、大型船を使用した場合は、十分な貨物の確保が困難であると思われる。航路3と4に関しては、どんな大きさの船舶を使用しても運航は不可能と思われる。
RO-RO船の大きさ |
航路 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
小型(1,000DWT) |
551 |
418 |
615 |
587 |
831 |
705 |
中型(2,000DWT) |
N/a |
N/a |
441 |
423 |
588 |
N/a |
大型(4,000DWT) |
N/a |
N/a |
346 |
438 |
455 |
N/a |
達成可能な運賃 |
360 |
470 |
284 |
341 |
540 |
671 |
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備考:航路の定義 |
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|
航路1 |
: |
東海岸〜チュンポーン |
航路2 |
: |
東海岸〜スーラト |
航路3 |
: |
バンコク〜チュンポーン |
航路4 |
: |
バンコク〜スーラト |
航路5 |
: |
バンコク〜ソンクラー |
航路6 |
: |
東梅岸〜ソンクラー |
N/a |
: |
貨物運賃が高くても十分な積載率が見込めないため、評価から削除した。 |
表33は、一般金融機関の融資を受け一般市場から新造船を購入した場合、本調査の対象となった6つの航路に関して、10%の税引き後ROEを確保するために必要な最低貨物運賃をまとめたものである。前述の中古船購入の場合と同様、市場において、最低必要運賃より高い運賃の達成が可能で、明らかに採算のとれる航路については太字で強調した。収益性が僅かな場合は下線を引いた全体的には中古船の場合の結果と同様であるが、新造船の価格は、貨物運賃の割増を考慮してもこれを上回る。
航路2及び6の場合、小型船の運航が可能と思われる。ただし航路6の場合の収益は僅かしか見込めない。航路5の場合、2,000DWTの船でも可能性がないわけではないが、十分な収益をあげるためには4,000DWT以上の船が必要である。航路1、3及び4の場合、いずれの規模の船舶も十分な利益を達成することは困難と思われる。
表34: |
ROE達成に必要な最低貨物運賃:日本製新造船、ODA融資(バーツ/トン) |
RO-RO船の大きさ |
航路 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
1,OOODWT |
432 |
334 |
486 |
468 |
652 |
552 |
2,000DWT |
N/a |
N/a |
357 |
345 |
470 |
N/a |
4,000DWT |
N/a |
N/a |
283 |
350 |
367 |
N/a |
達成可能な運賃 |
360 |
470 |
284 |
341 |
540 |
671 |
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備考:航路の定義 |
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航路1 |
: |
東海岸〜チュンポーン |
航路2 |
: |
東海岸〜スーラト |
航路3 |
: |
バンコク〜チュンポーン |
航路4 |
: |
バンコク〜スーラト |
航路5 |
: |
バンコク〜ソンクラー |
航路6 |
: |
東梅岸〜ソンクラー |
N/a |
: |
貨物運賃が高くても十分な積載率が見込めないため、評価から削除した。 |
表34は、日本の新造船をODAの融資を利用して購入した場合に必要となる最低貨物運賃を示す。
表32,33と同様、十分な収益が見込め、明らかに採算のとれる航路については太字で強調した。この結果は全般的に、その他の購買融資オプションによって中古船を購入する場合と類似しており、各航路における船舶事業の可能性についても一般市場から中古船を購入する場合と同様である。航路2及び6の場合、小型船の運航が可能と思われる。航路3の場合、4,000DWTの船舶が使用された場合にのみ収益が見込める。航路4の場合、中型あるいは大型船に必要な最低貨物運賃は市場で達成可能な貨物運賃よりわずかに高い。航路5では、中型船の場合も大型船の場合も、必要とされる最低貨物運賃は予想される市場での達成可能運賃を下回る。航路1の場合は、明らかに採算があわないと判断できる。
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