2−2 海事事情
2−2−1 港湾
トルコには主要な港が5つある。同国の2000年の海上輸送取扱量は1億4,902万9,000トンで、98年より23%増となっている。このうち陸揚げ量は1億370万7,000トンに対して積載量は4,532万2,000トンで陸揚げ量の1/3にすぎない。主要5港の取引量は以下の通り。
Izmir港(取引量:3,141万9,000トン)
Aliaga港(取引量:2,459万8,000トン)
Istambul港(取引量:1,746万9,000トン)
Mersin港(取引量:1,284万2,000トン)
Iskenderun、Hatay港(取引量:1,182万トン)
石油類のばら荷は海上輸送全体の39%にあたる5,800万トンにのぼる。石炭・鉱石のばら荷は全体の27%にあたる3,974万トン。一方、コンテナ・RO−RO船による輸送は全体の9%にあたる1,394万トン(2000年)。1998年から2000年にかけて同国でのコンテナ・RO−RO船による輸送は17.2%増加し200万個に達している。
2−2−2 海運
トルコ海運は現在960隻650万mmTの規模(IMO Report)にある。Seatrade Reviewによれば、トルコ海運界は海事省(Ministry of maritime Affairs)の設立を切望し、船隊の近代化への対応の必要性を指摘4している。
2−2−3 船員
船員行政全般は、首相府海運省(The Prime Ministry, Undersecretariat of Maritime Affairs=Maritime Undersecretatiat of the Prime Ministry)が統括している。
船員教育機関の管理は教育省の管理下にあり、海上安全に関しては運輸省の管轄である。また、海運集会所(Chamber of shipping)の支援によりトルコ船員教育基金(Turkish Maritime Education Foundation)が設立され、船員教育特にイスタンブール工科大学・海事学部の開設に多大な援助が行われた。
一般船員事業
トルコ船員の数は正確に把握されていないが、BIMCO-IMFの統計資料によると、登録船員の数は職員14,000人、部員48,000人を超える船員供給国である。また、商船に乗り組む船員の就業期間は10年及至15年であると報告されている。したがって、トルコ海運が現状のまま推移すると船員の年間需要は次のようになる。
職員:1,400人(10年就業)及至933人(15年就業)平均1,167人/年
部員:4,800人(10年就業)及至3,200人(15年就業)平均4,000人/年
船員の年間需要は現状の海運規模が維持されれば職員約1,167人、部員4,000人となる。船員の初任給は、外航商船に初級免状所有者が三等航海士もしくは三等機関士として乗船する場合、船種及び就航航路によって若干異なるものの約1,000米ドル及至1,300米ドル。この国の大卒者の初任給が平均約700米ドル及至800米ドルであることを鑑みると、給与の面ではある程度魅力のある職業といえる。
船員教育及び訓練
国家企画庁(The State Planning Organization)が策定した国家強化のための五大強化分野に「教育」が挙げられている。特に船員教育および訓練の分野では近年UNDP資金の活用によるIMOの技術協力等を得て、その質的向上のための指針が整ったこともあり、教育施設の整備充実に関する関係者の意識は高い。
トルコの船員教育に関する管轄官庁は文部省(Ministry of National Education)であり、船員教育及び訓練機関として次の3校がある。
・イスタンブール工科大学・海事学部/ITU・MF
(Istanbul Technical University, Maritime Faculty)
・国立商船専門学校/ADMLM
(National Vocational Maritime Professional School)
・イスタンブール海洋水産高校/IDSUML
(Istanbul Marine and Water Products Vocational High School)
イスタンブール工科大学・海事学部は教育省の管轄下にあり、首相府の諮問機関である高等教育委員会(High Education Commission)の所管に属す。
また、海事資格証書および海技免状の実施機関としての機能を与えられており、この件に関しては首相府海運省(Prime Mnistry, Undersecretariat of Marine Affairs)の所管のもとに海技試験等を実施している。
国立商船専門学校及びイスタンブール海洋水産高校は他に6校ある職業高校とともに文部省・職業教育局(Vocational and Technical Education Department)の管轄下にある。
海技免状制度等
首相府海運省(The Prime Ministry, Undersecretariat for Marine Affairs)の管轄で実際の海技試験はイスタンブール工科大学・海事学部で年4回実施している。
現行の海事免状制度は船員規則(Seamen Regulations)に定められ、海技試験の実施はトルコ海事登録及び海技試験規則(Turkish Maritime Register and Regulation for Seamen Examination)に従って行われる。
国際海事基準を十分かつ完全に実施するために、海事教育とともに海技免状制度の見直しが行われており、イスタンブール工科大学・海事学部は新しい海技免状制度の起案の委託を受けて、その作業を実施中であるがいまだ成案を得ていない状態である。現行の海技免状制度によると海技資格は次の4つの資格階級にわかれている。
Deck Officers |
Engine Officers |
Class I (Long Distance)Master Chief Mate |
Class I Chief Engineer Second Eng/Officer Engine Officer |
Class II (Short Distance)Master Deck Officer |
Class II Chief Engineer Second Eng/Officer Engine Officer |
Class III (Restricted)Master |
|
ClassIV (Port)Master Deck Officer |
ClassIV Engineer(Motor) Engineer |
|
Long Distance=遠洋 Short Distance=地中海・黒海 Restricted=沿海、港内 |
統計資料による海技試験合格者の数は以下の通りである。
(1961年から1993年までの合格者)
Class I(Long Distance) |
Master |
85 |
Deck Officer |
53 |
Class II(Short Distance) |
Master |
98 |
Deck Officer |
688 |
Class III(Restricted) |
Master |
2,286 |
Class IV(Port) |
Master |
651 |
計 |
|
3,862 |
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Machinery Officers |
(単位:人) |
Class I(Long Distance) |
Chief Engineer |
49 |
Watch Engineer |
503 |
Class II(Short Distance) |
Chief Engineer |
148 |
Engieer |
610 |
Marine Technician |
Master |
2,286 |
Marine Steam Engine Technician |
Master |
651 |
Marine Engineer |
|
1,550 |
計 |
|
4,587 |
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この海技免状制度は上述の通り、新海技免状制度の導入によって大幅に改定される予定である。
最近の新任船舶職員の出身校別の数字は以下の通りである。
イスタンブール工科大学・海事学部(ITU・MF) |
100−150 |
国立商船専門学校(ADMLM) |
50 |
イスタンブール海洋水産高校(IDSUML) |
200 |
その他(一般大学海洋科学部や工業高校機械科の出身者) |
25 |
計 |
375−425 |
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新規就業船舶職員は約400人であり、船舶職員の年間需要の約1,167人を満たすには至っていない。このため、不足する船舶職員の短期養成コースの設立が望まれており、イスタンブール工科大学・海事学部に2年教育の短期大学を併設し、1994年中にスタートすべく準備が進められている。学卒者が海技免状の最高位である一級船長・機関長の資格を得るための最短コースとして、乗船経験に加え受験・スクーリングおよび乗船経験を行うサンドイッチ教育方式を探ることによって、短大卒業後7年の最短期間の教育モデルを策定している。併せて、そのスクーリング終了に関する資格証明書の交付も組み込まれている。
船教育機関の教去訓練施設
イスタンブール工科大学・海事学部(ITU・MF)
〈概略〉
ITUの歴史は古く、1773年に伝統的エンジニアリング教育としての造船及び地図作成に関する教育に始まり、今日では11の学部を持つ。4,656名の卒業生の中には前大統領スレイマン・デミレル氏の名前もあり、著名人を数多く輩出している名門校である。
一方、海事学部は1884年にMerchant Captain Boarding Schoolとしてスタートし、幾多の変遷を経て1981年現所在地であるTuzlaに移り、Merchant Marine Academyとなった。1981年にITUの分校として法制化が進められ、1992年7月3日正式にITU・海事学部としてスタートした。教授および教育職員総数は100名で、学生は航海学科100名、機関学科50名を募集している。高卒20歳未満の未婚男子が応募者の条件で150名の募集に対して1993年度は約3,000名の応募者があった。
航海学科卒業者にBachelor of Science Degree in Deck Operationsが、機関学科卒業生にはBachelor of Science Degree in Marine Engine Operation Engineeringが与えられる。また、海技免状はClass I Deck OfficerもしくはClass I Engineer Officerが与えられ、三等航海士もしくは三等機関士として遠洋航行区域の船舶に乗船できる。
在学中の学費・寮費・食費・制服代などは全て官費で賄われ、給与がごくわずかながら支払われる一方、卒業後トルコ商船への就業義務が課せられる。その期間は、在学4年に対して8年、在学5年に対して10年であるが、相応の金額を支払うことにより、就業義務が免除される方法もある。
4 |
欧州委員会は2002年12月、老朽化等で危険とみなされる船舶66隻のリストを発表したが、このうち26隻はトルコ船舶であった。トルコ船舶は安全規定を遵守しないことで有名といわれる。(出典:Le Monde 02年12月5日付け) |
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