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刊行によせて
 
 当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
 
 本書は、日本船舶輸出組合及び日本貿易振興会が共同で運営しているジャパン・シップ・センター船舶部のご協力を得て実施した「英国における統合的海洋管理政策に関する基礎調査」の調査結果をとりまとめたものです。
 関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。
 
2003年3月
財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団
 
はじめに
 
 我が国の海洋管理については、これまで様々な問題点の指摘がなされている。例えば、縦割り行政による総合的国益の喪失や、中央集権体制による地方行政の主体性の不在、または環境保全と経済活動の調整機能の欠如などである。これらの問題は、社会的ニーズに行政機能が追いついていないことが最大の原因ともいえる。
 英国は、行政制度に関する限り、いち早くエージェンシー制と云われる民営化の導入を図り、積極的に地方への権限委譲も進めてきている。英国は言わば行政制度先進国の一つとも言える。
 2002年5月に英国政府は「私たちの海の保護」と題する海洋管理報告書を策定し、引き続き11月には、「変化の海」と題する同報告書のフォローアップ諮問文書を発行した。
 これによると、我が国の行政が指摘を受けているような問題点を実は英国も抱え、これらを如何に解決するかを現在でも試行錯誤しつつある姿が浮かび上がってくる。問題点に対する答えが100%揃っているものは存在しない。しかし、少なくとも理念は形成されつつある。
 理念の一つは、管理主体の考え方である。英国にも「海洋法」といった一義的な法律は存在しないが、同法の策定は他に手段がないと判断された時に最終的に策定すれば良いと断定している。換って登場するのが「Stewardship」という日本語に訳し難い概念である。これは、海洋管理を地域社会に属する人々の手に委ねていく事を意味している。この理念で政策全体が貫かれている。海岸線管理の計画ひとつ見ても、行政単位ではなく地理的特性の単位(堆積セルと呼ばれる)で話し合いが行われ、計画がしかれていく。関係行政機関は各関係の会議に参加していくという形態が取られている。
 もう一つの理念は、「生態系ベースのアプローチ」というキーワードである。常にそのサイトに生きている生物種への影響を予測考慮して管理を行うということであるが、これはた易い事ではない。経済活動と環境保護のギリギリのバランスを生態系ベースで決定していくには科学的根拠データの不足は否めない。現在生息する生物種についてさえも生態情報はほとんど把握できていない。とは言え、英国は理念を先行させ徐々にデータ拡充を図ろうとしている。
 これらの取り組みは緒についたばかりである。成果が出るのはまだ時間が必要である。しかしこれらの杜会的実験とも言える英国の取り組みは、我が国の政策議論にとって有益であろうと思われる。
 本報告書が関係各位のご参考となれば幸いである。
 
Japan Ship Centre(JETRO)
船舶部 次長 加藤光一
リサーチャー 内山 昇







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