II−8 MarAd/USCGの助成プロジェクト
MarAd
米国は世界海上荷動きの20%、年間約10億トンの貨物を輸出入する世界最大の貿易国である。
1999年9月にMarAdは議会に米国海上運輸システムの評価(An Assessment of the U.S. Marine Transportation System)と題する報告書を提出し、2020年には米国の国際及び国内海上貨物量は現在の2倍に達し、また現在既に陸上交通の過密が耐え難い状況に達していると述べ、環境問題を解決しつつ、これら貨物量の急速増大や陸上交通の過密化に対処する研究開発プロジェクト実施の必要性を強調している。MarAdはMARITECHの時点ではI−2章で述べたように60プロジェクトのうち40プロジェクトを管理していたが、現在ではMarAdの造船・マリン技術部も大幅に縮小され、造船及び船舶修理業に対する研究開発助成活動は全て海軍に任されている。
MarAdの研究開発予算は1996会計年度以来ゼロであるが( 参考文献9)、プロジェクトのコーディネーター、技術援助、現物出資、運輸省その他省庁の研究開発予算の流用等により研究開発助成活動を続けている。MarAdが現在実施している研究開発活動は大なり小なり上記MTSに関係するが、陸上交通の過密化を船舶輸送(フェリー、コンテナバージ等)置き換える可能性研究、船舶排気の大気汚染のコントロールと新技術に対する援助、バラスト水新技術のデモンストレーション等である。大気汚染のコントロール技術は代替燃料(LNG、バイオ燃料等)に関するものが大部分であるが、将来の船舶の設計、建造、運航方式を抜本的に変えるであろう燃料電池プロジェクトについても積極的に援助している。
<1>燃料電池推進フェリーの設計(Design of Fuel Cell Propelled FerryBoat)
コスト総額:10万ドル(MarAd)、実施企業はサンフランシスコ湾海上交通局WTA(Water Transit Authority)。WTAはサンフランシスコ市とTreasure Islandの間に世界最初の燃料電池推進フェリーを運航することを計画し、MarAdの助成を受けて設計が開始されている。2003年夏までには詳細設計及び見積り資料を作成し、その後3年以内に実船が建造される予定であり、長期にわたってウォッチが必要なプロジェクトである。
<2>港湾用燃料電池発電バージ(Emission Free Power Barge)
期間:2002年3月ステージ1終了、コスト総額及びMarAd助成額不明
MarAdがSure Power社の技術を実証するため実施するプロジェクトで、港内に停泊中の大型航洋船に燃料電池発電バージにより給電し、クリーンな港湾を実現しようというものである。本プロジェクトは2つのステージから成り立っている。ステージ1はSure Power社の燃料電池技術が船舶の過渡的負荷に対応出来るかのテスト、ステージ2はバージ上にシステムを塔載しシステム全体の信頼性を確認する実船テストである。プロジェクト全体のコストを節約するため燃料電池以外にマイクロガスタービン発電装置も搭載される。
<3>連邦バラスト水技術デモンストレーション(Demonstration of Ballast Water Treatment Technologies)
期間:2003年開始、コスト総額:210万ドル(NOAA Sea Grantプログラム及びFWSが出資、MarAdはテストに使用するRRF船その他の現物出資)。
米国ではバラスト水の洋上交換に代る処理技術について過去2年間小規模実船、陸上施設あるいは実験室規模のテストは各所で行われてきたが、大規模な実船テストは行われなかった。今回MarAd、NOAA及びFWS(Fish and Wildlife Service)が共同してバラスト水技術のデモンストレーション・プロジェクトを立上げ、民間企業から基金助成、MarAd船の使用、あるいは両方についてのプロポーザルを求めている。本プロジェクトは2つの段階に分かれている。第1段階は西岸あるいは東岸の定点にMarAdが管理しているRRF(Ready Reserve Force)貨物船を浮かべ、各種技術を比較しその内の成功技術で洋上テストを続行する。第2段階ではその成功技術を実際に運航している米国籍貨物船に適用してパイロット・デモンストレーションを実施する。
<4>スマート・バージ・ソフトウエアの開発(Development of SmartBarge)
期間:2001年5月第1段階完了、コスト総額:不明(MarAd、FHWA、ピッツバーグ港湾局共同出資)
開発主体はカーネギーメロン大学。ピッツバーグ港湾局は2001年ミシッシピー川下流のニューオリンズからバトンルージュまでの区間で試験的にコンテナバージ輸送が開始されたので、ピッツバーグまで延長される日も近いと判断しSmartBargeの開発に踏み切った。トラック輸送のロジスティックスは簡単なので現状では荷主は黙っていればトラック輸送を選ぶ。SmartBargeは複雑なバージ輸送のロジスティックスを荷主に理解させ、バージ輸送のコスト効果を数字で示すものである。
USCG
USCGはMarAdに比べれば遥かに多くの研究開発を実施している。MarAdの「海事研究・技術開発――議会報告」5によればMarAdの研究開発予算は1996〜01会計年度の6年間ゼロであったが、USCGは毎年1,700万〜2,200万ドルの研究開発予算の割り当てを受けている。2001年の同時多発テロの関係もありUSCGの2002年度の全体予算は要求額より3億ドル、2001年度より6億4,500万ドル多い54億ドルが認められ、ここ数年間抑えられてきたUSCGも予算的には活動しやすい状況になっている。
USCGの研究開発センターはコネチカット州グロトンにあり種々の研究を実施している。USCGが実施すべき研究項目として予算教書で取り上げられている項目は海上ターゲット(船舶、異物等)の発見、識別及びクラス分け、密輸発見技術、未来コミュニケーション及び戦術データ交換コンセプト、インテリジェント内陸水運システム、人間エラー減少及び疲労解析、リスク管理、決定支援、リソース配置、水中有害生物種(ANS:Aquatic Nuisance Species)、油濁対応、安全、防火・消火である。
USCGはまた、連邦機関にまたがった機構である船舶構造委員会(Ship Structure Committee)の中心的役割を果たし、船舶、海洋構造物の設計、製造技術、ライフサイクル・リスク・マネージメント等の研究方針を定めカナダ政府機関も交え定期的に会合を持っている。USCGがNSRP ECBのメンバーに参加していることは前述の通りである。
5 Maritime Research and Technology Development――A Report to congress, June 2002, MarAd
<5>訓練船「Kings Pointer」の天然ガス推進改造設計(T/V Kings Pointer Natural Gas Conversion Design)
USCGの研究開発基金によりT/V Kings Pointerを天然ガス/ディーゼル混焼船に改造するための設計を助成。MarAdは本プロジェクトとは別に2000年末サンフランシスコ湾のフェリー・オペレーターRed & Whiteと低速フェリーHarbor Queenの混焼化に関連する物理的、法規的及び経済的性能調査に関する技術協力契約を結んでいる。
<6>天然ガスとディーゼル燃料の排出比較(Emission Comparison of Natural Gas and Diesel Fuel)
期間:2001年10月、総コスト:不明(USCG基金)
本プロジェクトの主体はハンプトンローズ運輸局(HRTA:Hampton Roads Transit Authority)でHRTAが運航するほぼ同型の天然ガス機関駆動船とディーゼル機関駆動船の大気汚染物質排出量が比較計測された。資金を負担したUSCGの他、エネルギー省、MarAd、Lyons造船所等が参加している。
|