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3.推進システムの効率化
3−1 コンバインド・サイクルエンジン
(GEによるコンバインド・サイクルエンジンの開発)
 1970年代に航空転用型舶用ガスタービンの世界的メーカーとしての地歩を固めたGE(General Electric)は、1981年、GEを世界の優良企業に仕立てた立役者として有名なJack WelchがCEOとなった直後、エネルギー関連でいくつかの重要な決定を行っている。
■原子力発電事業からの撤退。
■高分子膜型燃料電池PEMFC基礎技術のカナダ国防省への売却。
■コンバインド・サイクルエンジンへの注力。
 
 Welchは市場で1−2位のシェアと競争力を保てない事業から撤退する旨明言し、それに該当すると決定された事業は切り落とし、残した事業はあらゆる手段を尽くして1−2位を保つことを基本方針とした。しかし、PEMFC技術のカナダへの売却がその後バラード社の隆盛を招いたことを考えると、Welchも複雑な心境と思われる。GEは1959年に世界最初のPEMFCを世に出し、1964年にはその改良型が人工衛星ジェミニ5号に搭載されており、PEMFCの草分け的存在であるが、PEMFC基礎技術をカナダ国防省に売却後は燃料電池の表舞台には出ていない。そしてその分だけGEはガスタービンに注力している。
 コンバインド・サイクルエンジンは出した熱エネルギーを捨てずに複合エンジンの中で利用し、全体のエンジン効率を上げることが基本であり、1973年10月の石油ショック以降、各国で各種コンバインド・サイクルエンジンが検討されてきた。現在発電及び船舶推進用エンジンとして最も普及しているのはガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合エンジンである。コンバインド・サイクルエンジンの出力は、2−5節で述べたマイクロガスタービンに比べて大きく、ガスタービンと組み合わせた蒸気タービンも発電効率の向上に一役買っており、残りのエネルギーも熱として利用できるので全体効率は更に高くなる。
 
 GEが最も力を入れたのは、このガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインド・サイクルエンジンであった。1980年以前において、GEは発電用及び船舶推進用大型ガスタービン及び蒸気タービンの生産メーカとして世界一の座を確保しており、コンバインド・サイクルを成功させることはガスタービンと蒸気タービン両方の売上増につながり、GEの経営方針に合致するものであった。
 コンバインド・サイクルの理屈は至って簡単である。ガスタービンのパワータービンを回転させた後の廃熱をボイラーに送って蒸気を作り、蒸気タービンを回転させ、更に動力を取り出す仕組みである。燃料として石油の代わりに天然ガスを使えばクリーンな全体効率の高いエンジンが得られる。コンバインド・サイクルの全体効率を上げるためには構成要素となるガスタービンと蒸気タービンのそれぞれの効率が高いことが基本である。ガスタービンがGEの主力商品であるといっても、コンバインド・サイクルの競争者がなかった訳ではない。他のガスタービン・メーカーであるロールスロイスやプラット・アンド・ホイットニーも開発に凌ぎを削ってきた。GEが先ず取り組んだのは発電用コンバインド・サイクルであるが、発電用コンバインド・サイクルでは、パワータービンに送られるガスの温度は1,100−1,500℃の範囲であり、タービンを回した後、ボイラーに送られる際にはその温度は600℃前後となる。この熱エネルギーを使ってボイラーが水蒸気を作り、高圧、中圧、低圧蒸気タービンへと順次送られ、今まで捨てていた熱エネルギーを回収する。ガスタービンの燃焼室からの噴射エネルギーをパワータービンの羽根にぶつける時、タービン翼はその高温に耐えなければならない。ニッケル合金にセラミックをコーテイングした翼は1000℃位までしか耐えられないので、翼を中空にして圧縮空気或いは水蒸気を送り込んで冷却する方法が考えられているが、空気冷却タイプでは1,350℃、水蒸気冷却タイプでは1,500℃の噴射ガスに耐えられるとされている。2000年、GEは水蒸気冷却タイプにより、コンバインド・サイクルで60%の熱効率を達成し、世界を驚かせた。
 
(発電とコンバインド・サイクルエンジン)
 1990年代に入り発電の分野では、従来の大型発電所による集中化によって発電効率を高めようとした時代から一転し、電気を使用する場所に小型の発電機を設置する分散型発電の時代に入り、その動きは急速に加速している。前節でも述べたが、分散型の方が送電に際してのエネルギーロスが少なく、原子力発電に伴う地域問題や大型発電所建設に伴う環境問題もなく、その上、分散型コンバインド・サイクルエンジン発電は、熱エネルギーの利用効率と資源の節約・とりわけ化石燃料の節約が期待される。米国で小型発電システムを製造・販売する会杜はエンジンの種類にかかわらず、この数年間異常な好況であり、この傾向は今後も続くと考えられている。例えば、キャタピラー社は米国一のディーゼルエンジン製造会杜であるが、2006年度の売上目標を$300億としているが、この目標達成の第1の担い手が発電用エンジン部門の過去6年の年率20%以上の伸びが今後も続くことであるとしている。GEの発電システムの伸びは信じられないペースである。分散型ガスタービン発電システムは、2000年度は前年度比70%増の$25億の売上を達成したと報告されている。
 
(舶用とコンバィンド・サイクルエンジン)
 GEは第3−1図、第3−2図に示す、出力6,000SHPのLM500、20,000SHPのLM1600、33,600SHPのLM2500、40,500SHPのLM2500+、57,330SHPのLM6000の5種類の航空転用型ガスタービンを製造している。いずれの形式も発電用としての使用が先行し、その実績に基づいて船舶推進用に転用されている。但し、LM6000は未だ船舶への使用を検討中の段階であり、舶用としての実績はない。LM6000が舶用として使用されると、200MW以上の動力を必要とする大型貨物船や合計280,000SHPを必要とする空母にも使用可能であり、ガスタービン舶用推進機関の使用範囲が大幅に拡大されることになる。ガスタービンではパワータービンに入る空気温度が高ければ高いほど、また、コンプレッサーからパワータービンに至る空気力学的特性が良ければ良いほど、大きな運動エネルギーが取り出せるが、これ等を実現するため競争各社は高温や使用環境に耐える材料の開発、例えば舶用であれば、空気中の塩分に耐えるための材料開発に凌ぎを削ってきた。LM2500+はLM2500の改良型であるが、上記諸点の設計改良により、公称出力はLM2500の21%増しの40,500SHP、熱効率は38%に達した。
 
 船舶推進用としてコンバインド・サイクルエンジンを使う場合、初期投資が大きく、重量及びスペースの観点から大型船でないと使用不可なので、特別な理由がない限り使用されることは少ない。1990年代、クルーズ船の大手オペレータ、ロイヤル・カリビアン社(RCCL)の環境に対する実績はあまり芳しいものではなかった。1994年、マイアミ及びプエルトリコでの油流失に関連して$900万の罰金、1997年、更に別件で$1,800万の罰金を支払わされた後、環境問題に対する会社方針を抜本的に改め、国内外規則以上に厳しい社内基準を作って適用することとした。その延長線上で、船上で使用するエネルギーと水のリサイクル及びガスタービンの積極的利用の方針を打ち出した。
 2000年6月、世界最初のコンバインド・サイクルエンジン発電・電気推進船COGES(Combined Gas Turbine and Steam Turbine Integrated Electric Drive Engine System)クルーズ船が商業運航を開始した。その後、RCCLの4隻のクルーズ船及びRCCL同系列のセレブリティー社の4隻のクルーズ船にCOGESが採用されている。第3−3図はこれらのクルーズ船に採用されたCOGESシステムの系統配置図である。ガスタービンはGEのLM2500+2基が使用されている。通常捨てられているガスタービンからの高温排ガスはボイラーに導かれ、蒸気タービンを駆動して蒸気タービン発電機を回す。蒸気タービン発電機により作られた電力は、ガスタービンにより作られた電力と一体となって、推進用、客室サービス用、その他の電力として供給される。また、COGES配置はディーゼル電気推進に比ベコンパクトであることから、同型の船舶に比較して各50室の客室が増加したという。また、上記各船はコンバインド・サイクルで発電用に使われた残りの廃熱エネルギーもランドリー用等に徹底的に利用するように設計されている。







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