1−5 EPAの取り組み
(EPAのエンジン関連プロジェクト)
EPAは1970年の創設以来、数々の船舶関連技術開発プロジェクトを実施してきた。また、各州及び地方自治体等が環境基準を満たすための技術援助を実施すると同時に、民間の隠れた技術の発掘のために種々の方策を講じてきた。EPAは、環境問題に関し第一次方針を決定する立場にあることから、舶用エンジンについてもEPAが定めた排ガス基準に基づいてEPAが機器の形式承認を行い、それに基づいてUSCGが検査を実施する関係になっている。 参考資料11及び 12には数多くの造船・海運関係プロジェクトが紹介されているが、そのうちエンジン関連或いはエンジンの環境性能向上に使用可能と思われるプロジェクトは以下のとおりである。
■グリーン・ウォーター・トラスト基金(Green Water Trust)
1)代替燃料プログラム−メリーランド州大豆委員会と共同でリクリエーション用ボートの燃料として大豆油を使用することを検討。
2)Help Stop the Dropプロジェクト−本プロジェクトは、エンジンからの燃料の洩れ或いは給油時の洩れからメキシコ湾の大気及び海水汚染を防止する方策を研究。
■環境リーダーシップ・プロジェクト(Environmental Leadership Project)
舶用工業・海運を含む各産業の環境性能向上を助けるプログラム。本プログラムには、環境マネージメントシステム、複数手段に依る基準適合保証、第3者の適合確認、責任の度合い、汚染防止法、公共との関与方法、指導者等の問題が含まれる。
■プロジェクトXL(Project XL)
1995年3月、クリントン大統領の環境規則再創造イニシアティブ(Reinventing Environmental Regulation Initiative)の一部として発足したもの。本プロジェクトはコスト効果の高い機器やシステムの開発を目的としている。本プロジェクトの参加者は、最終的により大きな環境利益を与える機器やシステムを提供できるという条件の下、EPAの許可を得て、環境規則の一部を柔軟に解釈することが許される。但し、結果は規則通りの解釈を適用した場合よりも良くなければならない。
■エネルギー・スター・ビルディング・プログラム(Energy Star Building Program)
1995年、商業用、産業用ビルディングのエネルギー効率を向上させるため、下記グリーン・ライト・プログラムの後続プログラムとして設立されたもの。勿論、船舶も建造物の一種として参加可能である。本プログラムが全米全ての建造物に適用された場合の燃料節約額は$25十億に達し、大気中へのCO2の放出は35%減少すると予測されている。
■グリーン・ライト・プログラム(Green Light Program)
1991年発足したこのプロジェクトは、EPAの環境プロジェクトの中で最も成功したプロジェクトである。このプロジェクトは、米国の産業界が効率の良い照明手段を使うことによって、大気汚染を減らすことを目的としている。本プロジェクトには、政府機関、大小の民間企業、学校その他合計2,345の団体が参加し、1997年3月までに$289百万の電力が節約された。
■NICEプロジェクト(National Industrial Competitive through Energy,Environment,and Economics)
本プログラムはDOEの助成プログラムで、全プロジェクト・コストの45%が助成される。プロジェクトの目的は、産業廃棄物をその発生源で削減し、以って廃棄物を最小化することによってエネルギー効率を高め、コスト競争力を上げることである。本基金を受けた団体は、導入を予定している新型機器或るいはプロセスを設計、テストし、それ等が汚染を減らし、エネルギー効率を上昇させるものであることを実証しなければならない。
■環境設計プロジェクト(Design for the Environment)
本プロジェクトではある会社が新しい機器、プロセス、技術を採用しようとする時、EPAの既存の製品、プロセス、技術のファイルの中からその会社がその性能、コスト、汚染防止能力、環境リスクに照らし、自分に合った最良のものを選べる仕組みができ上がっている。
■環境技術確認プログラム(Environmental Technology Verification Program)
1990年以降、汚染の防止、モニター、コントロール、クリーニング等に関する技術や装置が多く出てきて、その有効性を立証する何等かの特別な手段が必要となった。本プログラムは、この状況を打開するため1995年10月に設立され、公共及び民間のテスト及び評価機関の協力の下、EPAの6つのETVセンターが評価を実施するものである。1995−2001年は試行期間であり、業務が完全にETVセンターに移ったのは2001年である。
6つのETVセンターは、最新モニタリングセンター/大気汚染コントロール技術センター/グリーンハウスガス技術センター/飲料水システムセンター/水質保護センター/リサイクル・廃棄物処理センターである。これらのETVセンターの役割はあくまで機器評価であって、EPAの機器認証業務ではない。これらのETVセンターで評価された造船関連の機器及びシステムは下記である。(括弧内は件数)
■グリーンハウスガス技術センター
空気/燃料比コントローラー(1)
燃料電池及び燃料電池熱動力システム(2)
マイクロガスタービン及びマイクロガスタービン熱動力システム(3)
天然ガス脱水技術(1)
揮発性有機化合物VOC(Volatile Organic Compound)蒸気回収システム(1)
■リサイクル・廃棄物処理センター
高効率塗装スプレー・ガン(3)
革新的液体塗料(1)
粉体塗装技術(1)
塗装プロセス技術(2)
UVキュアー塗料及び塗装器具(2)
(EPAと州政府等の協力プロジェクト)
EPAが州或いは地方自治体と進めているクリーン・エア・プログラムは枚挙にいとまがない。1997年、EPAが海軍、カリフォルニア州、ロングビーチ港湾局、南カリフォルニア商船協会、太平洋商船協会の協力を得て実施した、舶用エンジンからの排ガスが陸上に及ぼす影響についての調査は本格的なものである。
EPAが現在ピュージェット・サウンド・クリーン・エア局(PSCA)その他と進めているクリーン・エア・プログラムについては1-3節で述べたが、このプログラムの発会式のためにシアトルに飛んだ環境庁長官クリスティー・ホイットマンは、このプログラムがクリーン・ディーゼルを達成するための官民合同プロジェクトの国家モデルになるだろうと述べている。当該プロジェクトの要は、前述の通り新しい極低硫黄燃料の使用である。極低硫黄燃料を使用することにより、排出トラップの使用が可能となり、残留しているPM、NOxその他の大気汚染物質を捕捉することが可能となる。このプロジェクトでは、極低硫黄燃料の供給元を開拓することも目的の一つに含まれている。また、対象となるエンジンは、舶用、バス用、トラック用等5,000基以上に及ぶ大きなプロジェクトである。即ち、5,000基以上のエンジンが本プロジェクトの下でアップグレード中である。
同様のプロジェクトは、ニューヨーク州やカリフォルニア州でも行われている。現在のEPA規則は500PPm硫黄を含む燃料の使用を認めているが、新しいEPAの燃料基準では2006年にディーゼル燃料中の硫黄が15PPmとなることを要求している。EPA/PSCAプログラムでは、とりあえずTosco Co.が30ppm以下の燃料の開発に同意している。
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