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第2章 IMOにおける国際的な海上テロ対策の検討
 9月11日の同時多発テロ発生を契機に、米国においては、即座に海上におけるテロ対策についても種々の対策を打ち出し、実施に移しているが、テロ行為の防止には、一国の取組みだけでは不十分であり、国際的な取組みが不可欠であることは論を待たない。
 米国は、国内における海上テロ対策の強化と併行して、海上の安全と海洋環境の保護に関する国連の専門機関である国際海事機関(International Maritime Organization,IMO)に対して、積極的に国際的な海上テロ対策の強化を働きかけ、現在、IMOにおいて早期の海上テロ対策確立を目指して審議が進められている。本章では、IMOにおける海上テロ対策の審議の状況を概説する。
 
1. 第22回IMO総会(2001年11月)
 
 IMOにおいては、従来から海上における犯罪行為等の防止について取り組んできており、最近では東南アジアなどで増大する海賊問題への取組みを強めてきているところであった。9月11日の米国のテロ事件の2ヵ月後に開かれたIMO総会では、海上におけるテロ対策が、主要議題として取り上げられた。
 総会では、以下の措置を呼びかける事務局提案の「旅客及び乗員並びに船舶の安全に脅威を及ぼすテロ活動の防止のための措置及び手順の見直し」が決議されるとともに、発展途上国における海上テロ対策強化のために150万ポンドの技術協力を実施することも合意された。
 
・IMOの関連委員会・小委員会における、従来の海上保安関係のIMO決議や回章文書5の見直し及び保安強化措置の早急な検討
・海上航行の安全に対する不法行為の鎮圧に関する条約(1988年ローマ条約)未受諾国による同条約・議定書受諾の検討
・各国による当面の海上テロ対策の強化
・港湾における保安対策強化のためのIMOによる技術協力の実施
 
 
 また、米国からは、海上テロ対策強化のため、以下の措置について早急に検討を行うべきとの提案が行われた。
 
・海上人命安全(SOLAS)条約で搭載が義務付けられている船舶自動識別装置の適用期日の見直し
・船舶、港湾及び海洋プラットフォームに関する保安計画
・船員の身元・経歴確認
・コンテナの管理体制
 
 海上テロ対策のための措置を早急に確立すべきとの点において、多くの国が米国の提案を支持し、2002年末に関連条約の改正を採択すべく、以下の日程で集中的に海上テロ対策の審議を行うことが合意された。
 
2002年2月
海上テロ対策中間作業部会
2002年5月
第75回海上安全委員会(MSC)
2002年12月
第76回海上安全委員会(MSC)及び海上テロ対策条約改正採択のための外交会議
 
 なお、巻末に本IMO総会の審議結果報告を資料3として添付した。
 
2. 海上テロ対策中間作業部会(2002年2月)
 
 2001年11月のIMO総会における合意を受けて、2002年5月に開催される第75回海上安全委員会(MSC)での審議に先立ち、具体的な海上テロ対策について事前に検討を行うことを目的に、2002年2月11〜15日に中間作業部会が開催された。当初のIMOの作業計画にはなかった会合であったため、本会合の経費は米国の負担により開催されたものであり、国際的な海上テロ対策の確立にかける米国の意気込みを垣間見ることができる。
 テロ対策について、米国を始め、オーストラリア、フランス、韓国、マーシャル諸島、フィリピン、ロシア、スペイン等の各国や各種国際機関から、提案や情報提供のための文書が会合に先立ち提出された。この中でも、米国提案は、包括的な海上テロ対策を提案するものとなっており、中間作業部会においては、米国提案をベースに審議が進められることとなった。
 以下に、海上テロ対策の主要項目ごとに、米国提案と中間作業部会における審議結果を示す。また、中間作業部会の審議結果報告を巻末に資料4として添付した。
 
2.1 船舶自動識別装置(AIS)の設置前倒し
 
<米国提案>
 既にSOLAS条約で設置が義務付けられている船舶自動識別装置(AIS)の設置期限(最も遅い船舶では2008年)を、条約を改正して2004年7月1日に早める。
 
【審議結果】
 AIS設置前倒しについては大多数の国が支持。ただし、内航船の適用除外を多数の国が主張。また、設置期限については、装置の調達・設置工事に要する期間を考えると2004年7月1日は現実的でなく、もう少し遅らせるべきとの意見がかなりの国から出されている。設置期限をペンディングとしてSOLAS条約改正案が作成された。
 
2.2 船舶自動識別装置(AIS)の到達距離の長距離化
 
<米国提案>
 AISによる通信の到達距離(現在は船舶間で10〜15マイル、船舶・陸上間で20〜30マイル)の長距離化のための手段とその性能要件について、IMOの関連委員会で検討する。
 
【審議結果】
 今後検討を進めることについて、合意された。
 
2.3 船舶・海洋施設の保安計画
 
<米国提案>
 500総トン以上の貨物船及び全ての旅客船・海洋施設に、所定の要件を満足する承認された保安計画の保持を義務付ける。
 
【審議結果】
 保安計画の義務付けに反対する国はなかった。ただし、内航船の適用除外を多数の国が主張したほか、一部の国が海洋施設(特に固定式)への適用に問題がある旨主張。
 適用対象をペンディングとしたSOLAS条約改正案が作成された。なお、保安計画に関する規定を国際安全管理(ISM)コードヘ組み込むべきとの意見もだされ、今後併せて検討を行うこととされた。
 
2.4 港湾の脆弱性評価及び港湾の保安計画
 
<米国提案>
 所定の基準に基づく港湾の弱点の評価実施を義務付けるとともに、港湾施設に、所定の要件を満足する承認された保安計画の保持を義務付ける。
 
【審議結果】
 船舶と陸上の接点である港湾においても保安上の措置が重要である点については、各国の認識は位置したものの、広大かつ多様な行政が関与する港湾における保安措置実施の難しさ、船舶の保安のみならず港湾自体の保安をも含みうるその内容等について様々な意見が提起された。
 港湾の脆弱性評価を義務付けること、船舶の保安に関する港湾におけるの保安措置を定めた保安計画の保持を義務付けることが合意され、SOLAS条約改正案が作成された。なお、港湾の範囲や船舶の保安に関する港湾の保安措置の解釈は各国の判断に委ねることとされた。
 

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A584(14)「船舶の安全並びに旅客及び乗員に脅威を及ぼす不法行為の防止に関する措置」
MSC/Circ.443「旅客及び乗員並びに船舶の安全に脅威を及ぼす不法行為の防止に関する措置」
MSC/Circ.754「旅客フェリーの保安」







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