10. まとめ
10−1. 遮熱型エンジンの試験と性能
平成13年度に完成した遮熱型エンジンの運転を行い、その性能向上試験を実施した。天然ガスを燃料とし、主燃焼室に予混合気を導入し、圧縮比16の予混合圧縮着火(HCCI)燃焼をさせたところ、始動性が極めて悪く、ヒーター、コンプレッサー、EGRなどの補助が必要であった。エンジンの燃焼室壁が高温となり、自力運転が出来るようになるとノッキングが発生し、エンジンの破壊を経験した。ノッキングを抑制するためEGRを30%以上まで増加させ、過給により吸入酸素量を増加させ、全負荷条件では全体の85%以上の燃料を主室に、15%を副室に供給すると正常な運転が実現出来、高負荷運転させる事が出来た。その結果、平均有効圧1.53MPa(熱効率37%)排気ガス温度800℃を得た。
10−2. エンジンの熱流検討と設計検討
エンジンの熱流検討では投入燃料408kWに対し、エンジン出力と、排気ガス熱量を排気タービン、蒸気タービン、燃料改質器にどの様に分配させ、動力として取り出すかの検討を、従来データーを用いて計算した。その結果、エンジンの排気ガス温度900℃以上、排気タービン出口の温度750℃以上、改質器の入り口温度730℃以上とした場合、燃料改質量が80%となり、エンジン出力は21%増加し、排気タービン仕事54kW、蒸気タービン仕事15kW、コンプレッサー等の仕事、伝達ロスを差し引き、正味出力を計算した所、235kWとなり、その効率は57.5%であった。(目標値60%)
また、改質装置の検討では従来出された多くの文献でのデーターを参考に改質率を求め、CO2 改質では50%、H2O改質では65%改質されると推算し、合計80%の改質が実現できる事が判った。
10−3. 熱交換器の検討と実験評価
熱交換器の設計検討を詳細に実施し、高温ガス側から低温ガス側に熱が移動する場合、熱流抵抗の最も大きな部分を小さくする方法として受熱、放熱部分の面積とその熱を効率良く、隔壁に伝導する方法ため、多孔質金属材を隔壁に密着接合させる事が最適との結論を得た。上記検討結果に基づいて試験片を作成し、蒸気、排気ガスの熱交換試験を実施したところ熱通過率が目標値、280W/m2・kに対し、211W/m2・kとなり、コンパクト高効率熱交換器の定義である200W/m2・kを上回った。多孔質金属と隔壁の接合性の改良、金属に熱伝導率の良い金属の被覆を行えば改良が進むとの確かな感触を得た。
10−4. 燃料改質装置
燃料改質装置については10種類の改質触媒を選び、改質温度、SV値を変えて改質率を調査した。その結果、CO2とメタンの改質ではNi、Ru、CeO2、MgOが、H2Oとメタン改質ではRu、CeO2、MgOが最適触媒との結果を得た。改質率はCO2 が700℃で58%、H2Oが600℃で55%であった。排気ガス熱からの熱流を受け、改質反応が逐次継続した時、改質の積分値が雰囲気温度に依存する平衡改質率まで進行すると考えられるのでCO2は70%以上、H2Oは65%以上の改質が期待できる。金属多孔質材を隔壁に接合し、触媒を付着させた装置を試作した。
10−5. CO2吸着、離脱装置
改質に必要なCO2を排気ガス中から抽出し、メタンと反応させるため、文献よりジルコニウム酸リチウムが良いとの情報を得たので、試験用粉末を作成し、その吸着性と離脱性について温度を変えて調査した。その結果、550℃で吸着が始まり、700℃で離脱する事が判った。吸着率は目標値10%に対し、3%と低く、K2CO3等を添加し、その収率を改善させる必要がある。CO2の吸着、離脱装置については吸着材を付着させた多孔質材に低温排気ガスを送り付着させ、隔壁を挟んで高温排気ガス通路を設けた装置を試作し、離脱性を調査したが十分な効果を確認できなかった。
11. 結言
極めて困難な技術開発を短期間で予定通りに進めることは難事業であったが、本年度は徹底した技術検討を行った結果、多くの新技術開発の成果を上げることが出来た。天然ガスを用いて温度の高い燃焼室雰囲気で予混合気を供給し、ディーゼル燃焼させるためには燃料の燃焼特性の把握が重要で、その要因を理解した上でEGR量の制御、着火源となる副室燃料の燃焼タイミングの制御を行った所、十分な性能を得る事が出来た。この燃焼の制御では燃料性状、雰囲気ガスの成分、温度、などをパラメーターに30種の燃料化学種の変化を計算し、燃焼速度を推定した。その結果を基に吸気温度、EGR量を決めたため早期に最適値を探す事が出来た。
エンジンシステムの熱流計算では全体の熱流を詳細に計算し、熱エネルギーの配分を考えた結果、排気タービン、蒸気タービンの回収エネルギーが明らかになり、燃料改質装置の燃料改質量が推定できた。また、これらの計算結果を基に改質装置の設計を行った所、現実性のある改質装置の概略構造が設定できた。
熱交換器の構造についても熱流の計算を徹底的に行い、受熱側、放熱側の受熱面積、伝熱面積、材質、気体流速等の条件を算出し、その計算値を基に試作品を作り、評価したところ、コンパクト熱交換器の基準を上回る極めて満足すべき結果を得た。
改質装置については触媒の選定、反応速度、温度など、パラメーターを変え、天然ガスの改質量を計算し、その計算値を基に触媒が担持されたサンプルを試作し、試験し、CO2改質は目標値に達し、H2Oは僅かに目標値に到達できなかった。
二酸化炭素の吸着、離脱については先ず、文献に記載された資料を用いて、温度をパラメーターに吸着、離脱の特性を測定し、十分な結果を得る事は出来なかったものの、今後の改良点等が判った。
以上、本年度は多くの困難な技術開発・研究に産学協同で取り組んだがそれぞれ有益な結果を得、開発は大幅に促進した。
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