1. 事業の目的
今日、二酸化炭素等による地球温暖化の防止及び窒素酸化物等による大気汚染の防止は人類にとって大きな課題となっている。この課題に対する有望な方策の一つとして、排気ガスエネルギーを用いて天然ガスを改質し、発熱エネルギーの大きい水素と一酸化炭素を得、これを燃料とするエンジンの開発が挙げられており、この燃料を予混合圧縮着火させるエンジンシステムは画期的なクリーンエンジンとして大きな期待が寄せられている。
(財)シップ・アンド・オーシャン財団では日本財団からの補助金を受け、平成10年度から11年度にかけて、天然ガスを燃料とする超低燃費かつ窒素酸化物等を大幅に削減できる舶用天然ガスエンジンの実現を目標とした改質技術に関する研究開発を実施し、天然ガスと排気ガス中の二酸化炭素を触媒中で反応させ、排気熱を吸収することにより発熱量の高い水素と一酸化炭素を効率よく供給する技術の開発を行った。また、平成12年度から13年度にかけては、高い熱効率を得るための排気エネルギー回収システム及び窒素酸化物の排出が少ない燃焼方式の研究、及び改質ガスを燃料として確実に燃焼させる第1次セラミックス遮熱単気筒エンジンの製作を行うこととし、その試作を実施した。
平成14年度ではこれまでの成果を基にし、それぞれの構成要素が統合されたエンジン全体システムにおける水素と一酸化炭素混合燃料の最適な燃焼方式を得るシステムの開発及びこれを燃焼させた場合に熱効率の高い燃焼室を持つ単気筒遮熱エンジンの試作・評価・研究開発を行い、本エンジンシステムの優位性を実証すると共に、天然ガス燃料の実用改質装置とエネルギー回収装置である熱交換器の開発を行い、総合的熱利用を展開する多気筒エンジン開発の目処を得ることとし、本エンジンシステムの研究開発を通じて地球環境問題の解決に貢献するとともに造船技術、関連技術の向上及び我が国造船業の発展に寄与することを目的として実施した。
2. 事業の実施概要
2.1 事業の概要
平成10年度から13年度にかけて得られた天然ガス改質システムに関する研究成果に基づき、実用性のある天然ガス改質システムの開発、排気エネルギー回収システム、エンジンシステムの研究を継続実施し、超低燃費エンジンシステム実現の見通しを明らかにした。また、熱効率の大幅な向上のためには廃棄される熱エネルギーの再利用が必要であるため、排気ガスやオイル等の熱を高い効率で回収できる多孔質金属型熱交換器の試作を行った。
一方、改質ガスである水素と一酸化炭素の合成燃料では混合気濃度の可燃範囲が広く、燃焼速度も極めて早い気体燃料であるため、圧縮比が高いディーゼルエンジン用の燃料として用いる場合は、過早着火やノッキング等の異常燃焼が生じ、燃焼制御が難しいと言われている。本研究開発では予混合と噴射燃料の燃焼を組み合わせ、空気の酸素濃度を制御し、改質ガスを速やかに確実に燃焼させると共に、窒素酸化物の生成を抑制する研究を行った。
さらに、極めて高い熱効率の実現には、改質率の高い天然ガス改質装置の実現が必須であるが、実用装置の製作ではエンジンの特性、条件に合わせた極めて複雑な機能を簡単なシステムにまとめる必要があり、例えば、排気ガス温度、排気ガス中の二酸化炭素濃度等の差により触媒の種類、活性度が大幅に変化するので、その条件に合致したシステム作りを実施した。
実施した研究開発項目は以下のとおりである。
(1)排気エネルギー回収システムの開発、研究
1)高効率で容積が小さい熱交換器の評価及び改良設計・試作・評価
a |
作動流体が異なる熱交換器構造の計算と設計 |
b |
多孔質材と平板を接合した効果的熱流構造の決定 |
c |
輻射熱を併用した高い熱通過率を持つ熱交換器構造の設計・試作・評価 |
d |
放熱量を低減させた魔法瓶構造を持つ熱交換器の設計 |
(2)エネルギー回収、燃料改質システムを含んだエンジンシステムの効率評価
シミュレーション計算により、高効率熱交換器、多段触媒層を持つ高改質率燃料改質装置、高効率タービン、蒸気タービン等からなる排気エネルギー回収システムを取り付けたエンジンシステムの熱効率改善の算定
(3)改質ガスを燃料として高熱効率で窒素酸化物の排出が少ない燃焼方式の研究
1)一次試作エンジンの燃焼改良試験
a |
天然ガス燃料による一次試作遮熱エンジンの運転と不具合部品の改良 |
b |
天然ガスを燃料としてHCCI(Heat Insulated Single Cylinder:予混合圧縮着火方式)エンジンの高熱効率を実現する試験 |
c |
基準改質ガスを用いた燃焼の実験 |
d |
EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)により吸入空気中の酸素濃度を変え、改質燃料の生成を制御する装置の開発 |
2)天然ガス改質燃料を用いた改良エンジンの設計検討、試作・評価
a |
主・副室への燃料供給電子制御装置の開発 |
b |
EGR率、燃料供給量を制御する電子制御装置の開発 |
c |
部分負荷時の性能の評価(改質燃料とメタンの混合) |
(4)実用燃料改質装置の開発
1)複数の機能を集約した実用装置の設計検討、試作・評価
a |
複数機能を集約した実用燃料改質装置の評価 |
b |
CO2吸収、離脱装置の設計・評価 |
c |
CO2 吸収、離脱化学反応で行わせる装置の設計、試作、評価 |
d |
H2Oを加えた改質装置の設計・試作・評価 |
e |
CO2及びH2Oの複合多段触媒による改質装置の設計、検討 |
2.2 委員会
下記のとおり委員会を開催した。
|
開催日時・場所 |
主な検討・決定事項 |
第1回 |
平成14年6月14日
東京都港区虎ノ門1−15−16海洋船舶ビル
(財)シップ・アンド・オーシャン財団10階会議室 |
・委員長の選任
・平成14年度事業計画書及び事業実施計画書(案)の審議
|
第2回 |
平成14年10月7日
東京都港区虎ノ門1−15−16海洋船舶ビル
(財)シップ・アンド・オーシャン10階会議室 |
・平成14年度事業の進捗状況及び今後の予定についての報告 |
第3回 |
平成14年12月6日
神奈川県伊勢原市西橋本3−9−3
(株)鈴吉製作所 3階会議室 |
・平成14年度事業の進捗状況及び今後の予定についての報告
・試作エンジン、試作改質・熱交換用多孔質材、試験装置等の視察 |
第4回 |
平成15年2月25日
東京都港区虎ノ門 海洋船舶ビル
(財)シップ・アンド・オーシャン財団10階会議室 |
・経過報告
・平成14年度報告書案について |
|
3. 緒言
近年燃料電池の開発が盛んで自動車用、発電用に大きな期待がかけられているが、燃料電池の実質的熱効率は未だ35%程でこの燃費を改善するため反応温度の高い固体酸化物形燃料電池にガスタービン、蒸気タービンを組み合わせたハイブリッドシステムにより60%の熱効率を目指している。しかし、セラミックス製発電膜を多量に要し、構造が複雑、大型、などの要因を含め試算するとそのコストは極めて高額で通常エンジンの100倍以上、大きさは50倍以上になり、その現実性が疑問視されている。
一方、エンジン技術の改善では、低エミッション、高効率化を目指すため、ディーゼルエンジンが有力であるとの考えから液体燃料の高圧圧縮化が進展し、パティキュレート、窒素酸化物の抑制に成功したが、燃料の高圧化によって超微粒化した微粒浮遊物が極めて健康に悪い影響を及ぼすとの医学的問題提起が出され、十分な解決に至っていない。
石油燃料からの脱却として天然ガスが有力との考えが広がり、CNG(圧縮天然ガス)を用いたエンジンを搭載した自動車、船舶が現れ始めた。天然ガスはその主成分がメタンなので発熱量が高い割に二酸化炭素の排出が少ない。このガス燃料をガソリンエンジンのように予混合燃料化し、燃焼させると窒素酸化物が殆ど排出されず、クリーンな排気ガスとなる。しかし、熱効率は30%程度と悪く、二酸化炭素の削減に寄与しない。
こうした中で天然ガスを用い、圧縮比が大きく、燃費の良いディ−ゼルエンジンで予混合気を作り燃焼させ、熱効率を大きくし、排気ガスをクリーンにする技術開発が行われている。また、エンジンの熱効率を改善する方法として大気中に廃棄される排気ガスエネルギーを再利用する方法が多く試みられているがその方法はターボチャージャー、スチームタービンが主なものであった。
そのような中でエンジンの燃焼室を遮熱し、冷却水への放熱量を排気ガス側に移動させ、その熱を用いて、燃料を改質し、燃料の熱発生量を20〜25%増加させ、燃費と出力を上昇させ、更に排気タービン、蒸気タービンを用い排気ガスの熱量から動力を取り出し、燃費の大幅向上を図れる「天然ガス改質舶用セラミックスエンジンの研究開発」事業が始められた。
このエンジンでは燃料に排気ガス中の二酸化炭素を加えて改質を行わせる新しい方法を試みており、この技術はアメリカのエネルギー省(DOE)が今後の極めて有力な技術であるとして注目しているが、未だ、日の浅い技術であるためその実用化には未だ多くのイノベーションが必要となっている。
こうした多くの未踏技術を含んだ「天然ガス改質舶用セラミックスエンジンの研究開発」に対し、本年は産学協同事業としてプロジェクトの促進を図り、世界が競っている予混合圧縮着火ディーゼル、高効率コンパクト熱交換器等の研究を行い、成果を上げるとともに、燃料改質装置、二酸化炭素吸着、脱離、の研究開発では、極めて難しい技術開発に取り組み、問題点を摘出した。
燃費、環境の問題は人類にとって、益々重要な課題になっている状況の中で本事業は、極めて難しいが期待の大きい技術開発であることには変わりない。更にこの技術の完成を期す為に多くのイノベーションの創生を行う努力の継続が必要であると考えている。
|