3. 義務教育の教科書に見る「海」の詳細分析
前章、とりわけ2.3では、小中高校の理科の教科書についての検討を行ったが、本章では、義務教育である小中学校の教科書全般を対象に、詳細な検討を試みた。
教科の選定方法として、本研究では、海の教育に関する内容が数多く含まれる教科を選定するため、文部科学省が、教育課程編成の一般方針等を定めた総則や各教科に定める目標と内容等を記載した「学習指導要領」から教科を選定する。
なお、文部科学省により、教育課程編成の一般方針を定めた総則や各教科に定める目標と内容等を記載した「学習指導要領」において、海の教育内容を具体的に述べる語句(水産業・海洋等)はわずかしかみられなかったため、海に関連すると思われる語句(自然・地域・環境等)にまで教科対象を拡大した。
教科書の選定方法として、選定された教科の中から、本研究の研究対象となる教科書を、文部科学省発行による義務教育諸学校において使用する全教科書が記載されている目録である教科書目録(小学校=9教科11科目、全318冊/中学校=8教科16科目、全139冊)より選定する。
掲載内容の抽出は、教科書内に掲載されている本文・補足文(行数指定がないもの)・図・表・写真を対象とし、「海」もしくはそれに関する内容(船・港等の記述)の掲載を抽出し、図・表・写真は、本文やそれに付随する補足文の内容に基づいて抽出する。
海以外の「水」(河川・湖沼・池等)もしくはそれに関する内容(船・堤防等)の掲載も抽出した。図・表・写真は、海に関する抽出の際と同様に、本文やそれに付随する補足文の内容に基づいて抽出する。
「海」または「水」に関する事項について抽出したものを、分類項目によって分類を行う。分類項目として扱うキーワードは「学習指導要領」に記載されている語句の中から抽出する。分類項目は掲載事項とその前後の文章などより最も適切と思われるものを使用する。
掲載数の数え方としては、掲載されているページをカウントすることにした。つまり、あるページに「海」に関する述語、キーワードが掲載されていれば、それを1件とカウントする。同一ページ内に同一の掲載内容が複数存在する場合は1件とし、異なる掲載内容が1ページに複数ある場合は、その数を件数とする。また、ページ数は、1ページに異なる掲載が複数ある場合においても1ページとして数えていくものとする。
「学習指導要領」から抽出した「海」または「水」に関する記述の総項目数と該当項目数およびその割合を示したものが表4である。これより、「学習指導要領」において各教科の「一般方針」、「内容等の取り扱いに関する共通事項」内にある項目の総項目数に対する該当項目数の割合は、小学校では、全9教科のうち『社会』(76.7%)・『生活』(72.2%)・『理科』(44.8%)、中学校では、全8教科のうち『社会』(90.0%)・『理科』(63.2%)・『美術』(58.3%)が高く、小・中学校ともに上位3教科に次ぐ教科(小学校『体育』20.0%、中学校『技術・家庭』25.8%)とは、割合に倍以上の大きな差があるため、本研究ではこれら6教科を分析対象とした。
表4 総項目数に対する該当項目数の割合
|
教科 |
該当項目数 |
総項目数 |
割合 |
教科 |
該当項目数 |
総項目数 |
割合 |
小学校 |
社会 |
33 |
43 |
76.7% |
家庭 |
1 |
17 |
5.9% |
生活 |
13 |
18 |
72.2% |
図画工作 |
1 |
31 |
3.2% |
理科 |
26 |
58 |
44.8% |
国語 |
1 |
42 |
2.4% |
体育 |
16 |
80 |
20.0% |
算数 |
1 |
114 |
0.9% |
音楽 |
4 |
40 |
10.0% |
合計 |
96 |
443 |
21.7% |
中学校 |
社会 |
36 |
40 |
90.0% |
音楽 |
2 |
15 |
13.3% |
理科 |
24 |
38 |
63.2% |
国語 |
1 |
19 |
5.3% |
美術 |
7 |
12 |
58.3% |
数学 |
0 |
49 |
0.0% |
技術・家庭 |
8 |
31 |
25.8% |
外国語 |
0 |
9 |
0.0% |
保健体育 |
11 |
45 |
24.4% |
合計 |
89 |
258 |
34.5% |
|
表6は「学習指導要領」から選定した6教科において、教科書目録に記載されている教科用図書のうち、教科別・発行者別にみた教科書の学校での使用率12)の上位3者を示したものである。これらの教科書は、小学校『社会』18冊・『理科』21冊・『生活』6冊、中学校『社会』9冊・『理科』12冊・『美術』9冊の計75冊であり、これにより、小学校『社会』『理科』『生活』、中学校『社会』『理科』『美術』において全国で使用されている教科書8408万冊のうち、最低の教科でも過半数を超える64.5%(243万冊)を、また6教科においては義務教育全体の85.6%(7197万冊)の教科書を把握できるため、この75冊を分析対象とした(対象とした教科書を本章の最後に示す)。
表5 2002年度用教科別・発行者別にみた教科書の使用率
|
教科 |
分野 |
第1位 |
(%) |
第2位 |
(%) |
第3位 |
(%) |
計(%) |
小学校 |
社会(18) |
− |
東京書籍 |
54.5 |
教育出版 |
25.6 |
大阪書籍 |
14.0 |
94.1 |
理科(21) |
− |
大日本図書 |
31.2 |
啓林館 |
28.5 |
東京書籍 |
27.8 |
87.5 |
生活(6) |
− |
東京書籍 |
34.0 |
啓林館 |
17.7 |
教育出版 |
12.8 |
64.5 |
教科書数(45) |
− |
− |
39.9 |
− |
23.9 |
− |
18.2 |
82.0 |
中学校 |
社会(3) |
地理 |
東京書籍 |
44.5 |
帝国書院 |
32.8 |
大阪書籍 |
10.2 |
87.5 |
社会(3) |
歴史 |
東京書籍 |
51.3 |
大阪書籍 |
14.0 |
教育出版 |
13.0 |
78.3 |
社会(3) |
公民 |
東京書籍 |
60.1 |
教育出版 |
12.3 |
大阪書籍 |
11.0 |
83.4 |
理科(6) |
1 |
東京書籍 |
40.9 |
大日本図書 |
30.4 |
啓林館 |
21.9 |
93.2 |
理科(6) |
2 |
東京書籍 |
40.5 |
大日本図書 |
29.9 |
啓林館 |
22.4 |
92.8 |
美術(9) |
− |
日本文教 |
78.2 |
開隆堂 |
14.6 |
光村図書 |
7.2 |
100 |
教科書数(30) |
− |
− |
52.6 |
− |
22.3 |
− |
14.3 |
89.2 |
計 |
教科書総数(75) |
− |
− |
46.3 |
− |
23.1 |
− |
16.3 |
85.6 |
*出版労連:教科書レポート2002 No.46、P.71、P.77、2002.2 |
|
表6は教科別にみた「海」および「水」に関する掲載数を示したものである。義務教育全体の『「海」および「水」』に関する掲載総数は1401掲載であり、そのうち「海」に関する掲載数が834掲載(60%)で、全体の約6割を占めていることが把握できた。
なお、表中の掲載数の単位は「掲載」である。「%」は、『「海」および「水」』に関する掲載総数に対する「海」および「水」に関する掲載数の割合を示したものである。また分野名の「地理」「歴史」「公民」はそれぞれ「地理的分野」「歴史的分野」「公民的分野」の略称であり、「理科1」「理科2」も同様に、「理科1分野」「理科2分野」の略称である。
表6 教科別にみた「海」および「水」に関する掲載数
範囲 |
教科 |
分野 |
発行者名 |
海に関する掲載数 |
水に関する掲載数 |
海および水に関する掲載数 |
小学校 |
社会 |
- |
東京書籍 |
114 |
309
62% |
368
51% |
73 |
190
38% |
357
49% |
187 |
499 |
725 |
教育出版 |
97 |
61 |
158 |
大阪書籍 |
98 |
56 |
154 |
理科 |
- |
大日本図書 |
9 |
51
28% |
44 |
134
72% |
53 |
185 |
啓林館 |
23 |
37 |
60 |
東京書籍 |
19 |
53 |
72 |
生活 |
- |
東京書籍 |
0 |
8
20% |
12 |
33
80% |
12 |
41 |
啓林館 |
5 |
13 |
18 |
教育出版 |
3 |
8 |
11 |
中学校 |
社会 |
地理 |
東京書籍 |
78 |
208
66% |
391
72% |
466
69% |
22 |
109
34% |
149
28% |
210
31% |
100 |
317 |
540 |
676 |
帝国書院 |
38 |
34 |
72 |
大阪書籍 |
92 |
53 |
145 |
歴史 |
東京書籍 |
44 |
150
83% |
7 |
30
17% |
51 |
180 |
大阪書籍 |
62 |
15 |
77 |
教育出版 |
44 |
8 |
52 |
公民 |
東京書籍 |
15 |
33
77% |
6 |
10
23% |
21 |
43 |
教育出版 |
14 |
2 |
16 |
大阪書籍 |
4 |
2 |
6 |
理科 |
理科1 |
東京書籍 |
8 |
13
45% |
59
53% |
9 |
16
55% |
52
47% |
17 |
29 |
111 |
大日本図書 |
2 |
7 |
9 |
啓林館 |
3 |
0 |
3 |
理科2 |
東京書籍 |
15 |
46
56% |
7 |
36
44% |
22 |
82 |
大日本図書 |
20 |
13 |
33 |
啓林館 |
11 |
16 |
27 |
美術 |
- |
日本文教出版 |
7 |
16
64% |
2 |
9
36% |
9 |
25 |
開隆堂出版 |
7 |
2 |
9 |
光村図書出版 |
2 |
5 |
7 |
6教科合計 |
834(60%) |
567(40%) |
1401 |
|
表7より小学校では、『「海」および「水」』に関する掲載総数が725掲載で、「海」に関する掲載数と「水」に関する掲載数がほぼ同数であることがわかる。
教科別にみると、「海」に関する掲載数は、小学校の3教科では『社会』のみ62%と過半数を超えているものの、『理科』においては28%であり、『生活』においても20%程度であった。
また、発行者別にみると、『理科』『生活』の3者すべてにおいて、「水」に関する掲載数が「海」に関する掲載数よりも多いが、『社会』においては「海」に関する掲載数が3者すべてで多くなっていた。
表7 小学校における「海」および「水」に関する掲載数
範囲 |
教科 |
分野 |
発行者名 |
海に関する掲載数 |
水に関する掲載数 |
海および水に関する掲載 |
小学校 |
社会 |
- |
東京書籍 |
114 |
309
62% |
368
51% |
73 |
190
38% |
357
49% |
187 |
499 |
725 |
教育出版 |
97 |
61 |
158 |
大阪書籍 |
98 |
56 |
154 |
理科 |
- |
大日本図書 |
9 |
51
28% |
44 |
134
72% |
53 |
185 |
啓林館 |
23 |
37 |
60 |
東京書籍 |
19 |
53 |
72 |
生活 |
- |
東京書籍 |
0 |
8
20% |
12 |
33
80% |
12 |
41 |
啓林館 |
5 |
13 |
18 |
教育出版 |
3 |
8 |
11 |
|
|