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グループホームの窓辺で
入居者を支える運営者の顔
毎日大忙しのオーナー兼お世話係
 海辺のふれあい型グループホームを訪ねた日、オーナーのAさんは車で駅まで迎えに来てくれた。「せっかくいらしたんだから、風光明媚な当地を見て行ってださい」と、大海原を一望できる公園やリゾートマンションが立ち並ぶ市内を車で案内してくれた。
 Aさんは他県の出身、車中で「なぜ、この町にグループホームを?」と尋ねると、「以前に勤めていた児童福祉施設の保養所がここにあって、子どもたちを引率して来ているうちにすっかり気に入ってしまって」とAさん。土地代、建築費などは他県にあった自宅を処分して捻出し、不足分は銀行から借り入れの開設だったという。
 Aさんはこのグループホームに妻とともに住み、ここに暮らす8人の高齢者に細やかに気配りをするお世話係でもある。食材の買い出し、入居者の外出の送迎などで1日に何度も車を走らせ、入居者が病気になれば必ず病院に付き添う。
 訪問した日も、ホームに着くと、「ちょっと待っててもらえますか。先に風呂の掃除をしてきちゃいますから」と浴室に消えた。浴室には建築時に掘り当てたという温泉が湧き出ていて、ここの掃除は男手のAさんの担当だ。
 台所を切り盛りするのは奥さん。「次は何を食べようかと、頭の中はいつも献立のことばかり」と笑うが、食事はスタッフの手を借りて、毎食手作りしている。みんなで一緒に食事をしながら、奥さんは一人ひとりの箸の進み具合をそれとなくうかがい、体調の変化に気を配る。食欲がないので体温を測ってみたら熱があったということもままある。
 入居者の女性は「ほんとによく面倒をみてくださいますよ。いつ休んでいるのかと心配になるくらい」と言う。オーナーではあるが、ひとつ屋根の下に住み、みんな同じご飯を食べ、何くれとなく世話をしてくれるAさん夫妻に入居者は大きな信頼を寄せている。
コーディネーターは止まり木的存在
 所は変わって、住宅地のグループホーム。ここを運営するのはNPOの市民団体。高齢者の自立と共生をテーマにふれあいのある新しい住まいをつくろうと研究会を重ね、運営主体のNPOはこの研究会から立ち上がった。
 ここにはAさん夫妻のようなお世話係はいない。「お世話するのは地域。われわれNPOの役割は、外と入居者との間に立ってコーディネートすること」と話すのは、運営主体のIさんだ。昼と夜の食事は生協の配食サービスを、ホーム共用部分の掃除も生協の家事サービスを利用しているが、これがIさんの言う「お世話するのは地域」ということである。
 「つまり、地域が持っている福祉力や人材力を使わせてもらえば、お世話係がいなくても日々の生活はまわっていくんです。ここでは入居者はみんな対等。お世話する人、される人という関係ではないから、決め事はミーティングでみんなで話し合うというのがルールなんです」(Iさん)。雑用の分担やお誕生会の運営など、入居者にかかわりのあることがらは全てミーティングで決めてきた。
 しかし、みんな対等の関係性の中にもリーダー的存在は必要である。入居者の意見を取りまとめて運営主体に伝えたり、ミーティングをリードしたりという調整役としての役割はもちろんだが、入居者が日常的に信頼を寄せることができるAさんのような存在である。このグループホームでは、それをコーディネーターと呼び、運営主体のNPOのSさんがひとつ屋根の下に住み、その役目を担っている。
 「コーディネーターといっても、私も高齢の入居者の1人という点ではみんなと同じ。みんな自分で決めて入居してきた自立した人たちなので、相談されれば一緒に考えますが、多少もめ事があっても介入しません。ただ、何かあったときに相談に乗れる止まり木的な存在は必要でしょうね」とSさんは控えめに語るが、実はコーディネーターの人間観や人柄がホーム全体に及ぼす影響は大きく、「Sさんがいるからうまくいっている」と入居者は声を揃える。
共に寝起きしてふれあってこそ
 ふれあい型グループホームの運営者は、Aさんのように自己資金でホームを新築し入居者とともに暮らすオーナーの場合もあれば、Sさんのように運営主体の理念や考え方を示しながら共に暮らすコーディネーターの場合もあるが、どちらも入居者にとって最も頼りになる存在である点は同じである。
 「ひとつ屋根の下で寝起きすることに大きな意味がある」とAさんは言う。かつて児童福祉施設で子どもたちと寝起きをともにした経験から、「そうすることで人は安心し、心を開いてふれあえるようになると実感しました」。独りになった高齢者が仲間と暮らすことで最後まで安心して人生を楽しめるようなグループホームをつくろうと決心したのは、そのときの経験からだという。
 ふれあい型グループホームは、人と人がふれあい、ひとつの家族のように暮らす、そのソフトの部分にこそ意味がある。極端に言えば、設備の整った容れ物(家)がなくても、ソフトの部分さえ満たすことができれば、それは立派なグループホームだ。そして、そのソフトの質を決める一つの、そして大きな要素は、オーナーやコーディネーター、あるいはスタッフや管理者と呼ばれる人たちの人柄や思いの深さであるといっていいだろう。
グループホームに入居する際に知っておきたいこと
 ふれあい型グループホームってどんな雰囲気で、どんな人が暮らしているの? ―入居を考えている人は体験入居というシステムがある。体験入居は規定の宿泊料金はかかるが、単独でも親しい友人とでも可能。設備の確認や日常生活を体験するだけではなく、ホームの責任者に運営方針、利用料金の明細や使途、緊急時の対応、将来的に想定される事態への対応(介護など)等々について聞いておこう。すでに入居している人に直接、住み心地などを聞いてみるのもよい。
 体験入居や入居を前提にした相談で、よく質問に出ることがらの中から、いくつか紹介しよう。
 
(1)住民票は移動しなくてはいけませんか?
 入居条件になければ自由だが、介護保険を申請する場合は居住している自治体に申請することになるので、この場合は住民票は移しておく必要がある。また住所がホームにないと、福祉行政の対象から外れてしまうなどの支障をきたす場合があるし、年金の現況届けにも注意が必要だ。
(2)入居に際して、保証人は必要ですか?
 保証人の必要は緊急時に発生するため、ホームによっては緊急時の身元引受人として保証人を義務づけているところもある。仮に入居の契約に保証人の必要がなくても、緊急時に頼れる人を決めておくとよいだろう。
(3)自分の持ち物を持ち込むことはできますか?
 グループホームの間取りは入居者専用の個室とみんなで利用する共用部分からなっているので、個室には私物を持ち込むことができる。部屋の広さ、収納スペースなどを事前に確認して、どの程度の私物を搬入できるかを調べ、必要かつ大切な物を選んでおこう。
(4)入居したものの退去することはできますか?
 もちろんOK(のはず)。退去については入居時の契約書の中で「契約の終了に関する事項」などとして記されているはずだが、事前にしっかり確認しておこう。一般的には本人の意思で退去を申し出たとき、本人が死亡したとき、ホームから退去を言い渡されたときなどがこの事項にあたる。
 
 実際に入居を決めるまでに、こうしたさまざまな疑問をきちんと解消しておくことが大事。入居したいグループホームがあったら、体験入居や訪問をして、運営責任者から納得できるまで話を聞こう。







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