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喜・涙・笑 ふれあい活動奮戦記
「学ぶ輪」「働く輪」「楽しむ輪」の3つの輪を通して地域に根ざした活動を行っていきたい
NPO法人クローバー・サービス(京都府)
 
 「こうした活動をしていると、“ボランティア精神にあふれた奇特な人”という目で見られることがよくあります。でも、服屋が洋服を売るのと一緒で、自分たちが得手とすることをしているだけ。ちっとも特別なことじゃないんです。誰もがそんな感覚で福祉の仕事を捉えられるようになれば、“人様の手をわずらわせるなんてとんでもない”といった考え方もなくなり、困ったときには気軽に“助けて”“手伝って”といった声が出せるはず。また助ける側のヘルパーにも“プロ”としての自覚と誇りが生まれ、質の高いサービスが提供できるようになるのではないでしょうか。それがひいては、住み慣れた地域で安心して暮らしていくことにもつながると思うんですよ」
 
 明快な口調で、ズバッとこう指摘するのは、京都府船井郡で在宅福祉サービス活動を展開するNPO法人クローバー・サービスの代表を務める三科晃子さん。
 
事務所の前で、念願の「クローバ車」と
有償だからこそ、地域の抱える課題が見えてきた
 大阪生まれの大阪育ち。結婚後は京都府の宇治市内に住んでいたという三科さんがNPOの世界に足を踏み入れたのは、まったくの偶然からだという。
 「10年ほど前にこの町に引っ越してきましたが、誰一人として知り合いもいない土地。それで町が主催する趣味の講座に通い始めたところ、たまたま掲示板に社会福祉協議会(社協)の職員募集のお知らせが張り出されていたの見つけましてね。仕事でもしてみるかと応募をし、ボランティアコーディネーターとして働き始めた。それがきっかけでその後、在宅福祉サービス団体の設立を目指す仲間と知り合い、誘われるままに会の設立メンバーに加わったんです」
 NPOのことも、ホームヘルパーの世界も何も知らない。でもちょうど社協の仕事を辞めて暇もできたことだし、コーディネーターの経験ならあるので、事務局くらいなら務まるかも・・・。当初はその程度の軽い気持ちだった。
 「代表になったのも、“占いの先生に聞いたら三科さんがいいとの御告げが出た”と仲間が言うもんだから、行きがかり上引き受けただけ。だから青天の霹靂だったし、いまだに何でこんなことをしてるのかわからないところもあるくらいなんですよ(笑)」
 それでも何はともあれ、WAC(長寿社会文化協会)所属の団体として1998年2月に「クローバー・サービス」を設立し、有償の在宅福祉サービス事業を開始。三科さんはコーディネーターも含めて、事務局運営を一手に引き受けることになった。
 「このあたり一体は過疎の農村地帯ということもあって、営利団体もNPO団体も皆無。この会ができるまでは行政の福祉サービスしかありませんでした。ですから住民にはサービスの選択権などなかったし、たとえば町外の病院への送迎などは行政区域が違うということで対応してもらえないこともあったようです。それだけに、私たちは活動範囲を広範囲に設定。1市5町をカバーすることとしましたし、介護だけでなく、子育て支援から家事援助までどんなニーズにも応えるスタンスで臨みました」
 また、「家庭の事情を知られたくない」という利用者の気持ちを配慮して、派遣するヘルパーも町内在住者か町外の者かを選べるようにした。さらに一昨年春には、広い一軒家に事務所を移転したのを機に、お年寄りや子どもを対象にミニ・デイサービスもメニューに追加。これも丹波町内にはお年寄りや子どもを短時間預かるサービスがなく、住民から「春休みの間だけでも子どもを預かってほしい」との要望に応えるためだという。こうした利用者本位のきめ細やかなサービスを心がけた結果、現在では介護保険の枠内と枠外の活動を合わせると、1か月に400時間前後のサービスを提供。地域の重要な福祉サービスの担い手へと成長を遂げた。
 「有償ということで、利用者も気兼ねすることなく必要とするサービスを申し出てくれたのがよかったと思います。そんな中から、地域の福祉の現状やさまざまな課題も見えてきましたし、在宅で要介護者を抱える家族などの生活上の問題点も知ることができた。そして何よりも、人は息さえしていればいいものではない。いくつになっても、たとえ体の自由がきかなくなっても、生活を楽しむことができなければ生きている甲斐がない。そのことに私自身が気づかされたように思います」
 
ある日のミニ・デイサービス(育児援助)







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