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(座長 Dr. Kim) では最後のスピーカーは副座長の柴山先生です。先生には沿岸侵食のアジア諸国における問題を話していただきます。日本、タイ、ベトナム、インドネシアの問題が含まれると思いますが、比較研究ということで、この地域におけるアジア各国の侵食の問題です。
 
(柴山) この共同座長の役割として、アジア諸国における沿岸侵食プロセスの比較研究をお話したいと思います。10年間にわたるものですが、私の研究では沿岸工学の現状の問題を日本、タイ、ベトナムについて比較しています。私の観点からいうと、現状の問題を比較をすることが可能であるからです。そしてその中で共通のプロセスに沿岸工学の問題が浮かび上がってくるからです。私はこの沿岸侵食の問題に関する事例を収集しそれを分類し、議論を行いました。そして各国の経済発展の各開発段階に結びつけてみました。それは経済発展が1つの引き金になるのです。この沿岸堆積物、侵食の問題に関して、経済の発展が引き金になるようです。私の結論に関して申し上げると、時系列上の歴史と工学の発生が、経済発展および社会発展の各段階において関係があるということです。私にはこれは沿岸問題が産業化および各国の開発と発展に緊密な関係があるということが分かったのですが、これは共通のプロセスとして理解を深めていきたいと思います。これが沿岸部の問題、社会経済発展中の発展途上国に関連があるということを考えています。日本は120年間先進国として分類されていますが、最初が社会経済開発の発展でした。そしてこの社会経済開発に基づいて、1つ目は急速な経済成長があげられます。私の観点から申しあげると韓国の発展の経過は、1960年代にこれを経験し、日本における経験も1960年代初頭か1950年代の経済成長の経験によります。そして産業化、工業化、都市化また社会階層化の変化ということもあげられます。そして経済発展のあと、例えばたくさんのダム建設、道路建設、鉄道建設、その他のインフラが建設されましたが、この建設材料となる砂を河川からそして沿岸部から取りました。私どもも1950年代、60年代は同様でした。そして多くの発展途上国において急速な成長の結果、森林資源の減少、農業の発展そして道路建設および鉱物資源の探査が行われました。それから工業地域における港湾、埋め立て事業がありました。実際にこういった変化により、ダムの建設及び森林資源の減少、河川からの砂の供給量の変化が環境への影響として出ました。土地埋め立てによる川からの砂の供給は減ります。港湾建設でも長い海岸線の砂の供給がカットされ、これによって逆に沿岸、海岸線を維持するには重要だと考えるようになりました。その例が日本あるいは台湾の経験に見られます、また沿岸部における人口集中により、廃棄物の排出が河川あるいは海に対して行われています。大阪、東京あるいはジャカルタ湾、インドネシアにおいても同じような状況が見られます。その結果、沿岸工学上の問題、河口および港湾に堆積物が残りあるいは沿岸侵食や土砂供給が減少することから、この長い海岸線への砂の供給が不足し、同時にまた沿岸侵食の問題、沿岸への公害の問題が起こります。各国において同じように開発段階においてこのようなことが起こっているということです。
 今日は私の話の中で特に沿岸侵食に問題を集中して扱いたいと思います。各国の先生方からは今までに沿岸侵食の問題を述べていただいています。従って私の話は比較研究についてで、まずどの沿岸地域を開発したかということを話したいと思います。台北でのICC会議には私も参加しました。当時は台湾の沿岸工学の問題、課題というものの現状報告が行われました。それで台湾の歴史についても知識を得たのです。1997年にベトナム沿岸において調査を行いました。タイでは私の会社のアジアインスティテユートオブテクノロジーが90年代に仕事をしていましたが、1986年にタイ沿岸部のタイ湾からアンダマン海シーポートサイトの半島の調査を行いました。これはプーケットからシンガポールにまたがる地域です。それから頻繁に訪問しているのがインドネシアです。インドネシアに行って、現状の沿岸工学の問題にはどういうことがあるかを調査しています。スマトラ島のアチェでは非常に深刻な侵食の問題が起きています。これは日本の歴史でも似たものがあります。ということでタイ、ベトナムの話の前に日本およびいくつかの例を紹介したいと思います。
 沿岸工学の歴史で日本では多くの経験があり、この中から3つの例を選んでみました。まず、信濃川の大河津分水路や東京湾の土砂採掘の穴、3つ目が駿河湾の沿岸域保護作業、防護作業です。
 ではまず大河津分水路から紹介したいと思いますが、同じ現象が最近インドネシアでも起きています。私の見た観点ではこの沿岸侵食のメカニズムは、信濃川の問題とアチェにおける問題とメカニズムが同じではないかと思います。手短に言えば、ショートカットの分水路が洪水コントロールのために1922年に作られ、それ以降80年以上経っていますが、侵食とアグレッションが起きています。ここではなぜかという理由を申し上げたいと思います。日本の産業化プロセスの中で、100年前の日本政府にとっては農業が非常に重要でした。日本政府がしようとしたことは、新潟地域における洪水の管理であり、米の生産量を増やすことです。ご存じのように、新潟平野は日本における最も大きな米の生産地であります。しかし頻繁に洪水が信濃川沿いに起こりました。そしてこの洪水をコントロールするために大河津分水路という水路が1922年に完成しました。そしてそのあと非常に急速に沿岸侵食が起こりました。ホー先生からも話がありましたが深刻な沿岸侵食です。侵食の理由は流出土砂の不足による、河口からの土砂堆積の不足です。100年間にわたるものですが、この海岸線は侵食を続け、100年間におよそ350m侵食しました。これは水路が農業開発のために必要であったため、この分水路が建設されたことによります。それと同じことがインドネシアでも1990年にアチェで見られました。アチェにおいて建設されたのはダウンタウン地域のアチェ市を保護するために作られたものですが、同じ結果になっています。沿岸部の河口からの侵食による深刻な問題が起きています。そして2件目の例は埋め立てが頻繁に行われた60年代、70年代の東京湾の海底土砂採掘穴の例です。このプレゼンテーションの後の方でタイの沿岸侵食の問題を話しますが、そのうちのいくつかの例えばプーケット島等の場合はもともとこの土砂採掘の穴による環境問題です。これによってタイでは影響を受けていますが、同じことが東京の50年代、60年代にありました。ここでは東京湾において青潮の問題が生じました。これは60年代当時日本の急速な高度経済成長期に発生しました。この東京および大阪における湾の産業地域を工業のために供給したことから、60年、70年には16, 450haの土地が埋め立てられました。この埋め立て地で実際に何が起きたかを紹介します。この埋立地を作るための材料を別の海底から掘った土砂を用いたので、このような穴がほぼ20mの深さに掘られています。そしてこの穴が無酸素水の滞流域になり、拡散過程で無酸素水が東京湾に広がり、これが青潮の原因といわれています。そしてこの沿岸防御作業を行いました。日本の経験を皆さんの現在の問題、沿岸侵食の問題、その他タイ、ベトナムとの関係を例と比較していきたいと思います。
 日本の3番目の例は駿河湾の護岸工事についてです。駿河湾は日本の中心に位置します。駿河湾ではかなり重大な侵食が60年代から70年代にわたってありました。これはかなり急速に高速道路網を整備するため、東名・名神高速道路を東京、名古屋、大阪間で作ったため資材が必要になり、砂の採掘場を河口に持ってきました。1965年のことです。このために海岸の侵食がひどくなりました。これを防ぐためにデタチッドブレイクウォーターという分離式防波堤というものを河口域に設けました。この侵食の原因は建築資材を浚渫し採取したためだったのです。そこでこの作業を特にこの地域に関しては止めました。そして砂を河口から持ってきました。でもまだここでは河口の方向には流れていました。そして海岸沿いの輸送を止めるように壁を設けました。今は砂の供給は河口からありますが、砂は平岸流の方にはいかないようにしました。実際何が起こったかというと、安倍川には潮により砂が流れてくる部分があります。砂は共有して岸沿いの堆積物の輸送はこの方向です。そして68年まで経済が急成長し浚渫が行われました。そしてこの浚渫により海岸線の破壊が起こりました。そして分離式防波堤を作ったのです。そして岸沿いの堆積物輸送を達成しました。そして25年の間で、砂の供給を回復しました。しかし砂の輸送というのはデタッチドブレイクウォーターによって止められてしまい、新たな問題が起こりました。海岸に沿った動きを止めてしまい、下流方向への砂の流れがなくなってしまったのです。従ってこの侵食部分が下流方向に移動していきました。ここはデタッチドブレイクウォーターを作ったために、あまり砂が移動しなくなりました。この河口部分は回復していますが、別の部分の侵食は今も起こっています。河口部分には充分な土砂があるように見えます。充分な土砂が河口地域にあっても、防波堤のために砂が少なくなりました。これが実際に日本で発生したことです。
 ここで懸念しているのはこの日本の経験が、現在の実際の沿岸工事国であるアジア諸国、タイ、ベトナム、インドネシアでの工事に反映されないのではないかを心配しています。私は今アジアの開発途上国を回っています。タイはGDPが10億USドルです。69年から98年までに、非常に急速に経済成長を遂げています。この急速な成長は日本の60年代〜70年代の急速な経済成長に匹敵するものです。80年代に急速なGDPの成長を遂げたと同時に様々な沿岸の侵食問題が発生しました。スダラ博士がプレゼンテーションしていたように問題が発生しています。例えばプーケット島のバンタオ湾でスズの採掘によって急速に侵食が起こりました。この侵食問題は沿岸地域の開発と関連しています。私の結論ですが、タイの湾岸地域は日本のの60年代と類似しています。日本の経験を分析することによってタイの将来の沿岸の状況を予測することができます。80年代に私はタイのアジア開発機関にいました。そしてプーケットを訪れたとき、私自身急速に沿岸侵食が進んでいるのを実感しました。ここでごらんのように波が来て侵食が起こっています。何が起こったかというと、クリフの部分に高い波が来ました。そして一夜にして2〜3mの侵食が起こったのです。私の在籍した機関のスパット博士と私は、なぜこれが起こったかを分析しました。そして解ったことは侵食された箇所の前に大きな穴があるということでした。この穴はスズを堀った跡でした。スズの浚渫船が来て浚渫を行い大きな穴があいたのです。日本の歴史でもこれと同じことがありました。東京湾と瀬戸内海にその例をみることが出きます。
 ベトナムでも1996年に調査を行い、92年と99年のレポートを比較しました。私の研究所の生徒がホーチミン市の研究所で教えていますが、彼らはベトナムの沿岸侵食の状況を発表しています。経済の急成長が95年以降あったため、同じような侵食問題が50年代の日本でかつ80年代のタイで起こったものと同様にベトナムで起こっていました。これは私の結論です。ベトナム南部のムイネでは、最近の侵食の状況が分かると思います。3ヵ国の歴史を紹介します。実際、何がおこったかということを調査しましたが、最初に対応しなければいけないのが水の流れ、水路です。そして1870年代の明治維新以降におこったことですが、日本にとっては産業化の最初のプロセスでした。既に新潟湾に水路があり、私の知る範囲では有名な技術報告書が土木工学から出されています。65年に河口の河川の維持方法がありました。これは非常に重要なバンコク港に繋がる経路だからです。そして初期の海岸工学計画により、ベトナムで94年にメコン河の河口の維持方法が発表されました。そのあと新潟の沿岸での侵食がなぜおこったかという研究がされています。これは洪水に対する防止から取り上げられています。そして分水路が信濃川では作られました。海岸線の侵食はまだ70年代にも起こっています。1990年代の侵食の出現は非常によく似ていて報告もされています。そこではタイにとってもこの問題は非常に深刻だといっています。そしてベトナムで最近起こったのは南港域での海岸侵食です。
 この沿岸侵食の引き金となったのはこのような急速な経済成長、工業・産業化、都市化そして社会階層の変化です。そして最終的にこのプロセスによって沿岸侵食の問題が起こったのです。その中の仮説と証明があります。日本の沿岸工学学会は130年以上の非常に長い歴史を持ち、沿岸工学においてその対策がどうなるかを提起し、そういった分離式防波堤は必ずしも上手くいかないし、場合によっては海岸に沿った土砂の輸送を止めてしまうとしています。これによって、かえって海岸沿いの輸送の方向に向かって沿岸侵食が起こってしまうという問題があります。従って日本の経験からこれを使って発展途上国における将来の取り組みに生かしてもらえればと思います。そして沿岸侵食の引き金になっている急速な成長が既にスタートしています。
 
(Dr. Kim) この地域に関する非常に興味深い比較研究でした。続いてブイ・ホン・ロング先生にスピーチをお願いしたいと思います。ベトナムに関する話です。ロング先生は海洋研究所の副所長です。
 
(Dr. Long) 議長どうもありがとうございます。私は沿岸侵食に関する話をさせていただきたいと思います。ここではベトナムの海岸線について話させていただきます。
 ベトナムでは今までに多くの沿岸侵食に関する国家プロジェクトがありました。私たちは3つのプロジェクトを持っています。1つ目のプロジェクトは1994年からのものです。また96年が2つ目のものです。2つ目のプロジェクトは96年にスタートし、次に1998年からスタートして2000年に終了しました。次のプロジェクトは現在継続しています。その研究は沿岸侵食の問題に関するベトナム全体にまたがる広い地域までひろがっています。ベトナムには3, 200kmの海岸線があります。そして私たちはそれを3つの部分に分けています。北部の特性は赤土の河川、そしてベトナム中部にはラグーンがあります。というのはベトナムには80%の水たまり、すなわち淡水の池によるラグーンがあるからです。そしてメコン川が南部にあり、国土の沿岸に関して3地域に分けることができます。ベトナムではこの10年間に非常に大きな海岸侵食がありました。この原因の一つとして、18年の周期を持つ長周期潮汐の影響を考えました。この期間の平均潮位差は約1mあり、前半高く後半低くなっています。従ってこの10年の期間において、潮汐が非常に大きく影響していると考えています。別の原因として、6〜10年間隔で出没するラニーニャ現象の影響があります。この期間のラニーニャ現象は特に強いもので、中央から北部、特に北部に強い影響が出ています。この3年間にベトナム中部では大きな洪水が起きています。そして3点目は私の考えではベトナムの沿岸部において、例えば国民がマングローブ森を養殖などのために壊してしまい、それによって河川からの栄養塩供給がなくなってしまい、河口部に到達しない問題があります。この現象は現在研究されていますが、まだ解明には至っていません。アジアにおけるということですが、ベトナムにおける典型的な問題があると思います。2つ目の問題として陸地に向かって沿岸線が後退するということ、ベトナム中央部では河口が季節によって変動するということです。ベトナムは2つのタイプの典型的なモンスーンの存在する地域です。北東モンスーンと南東モンスーンがあります。このモンスーン気候によって河口が南に移動したり、北に移動します。3点目の問題は典型的なことですが、航路の問題です。すなわち土砂の堆積によって船の航路が変わるということです。それが3つの沿岸部における典型的な問題です。どうもありがとうございました。
 
(座長 Dr. Kim) ロング先生ありがとうございました。素晴らしいプレゼンテーションでした。角野先生、韓国のヨウ先生、台湾のホー先生、中国のワン先生、ベトナムのロング先生、それからタイのスダラ先生と最後に柴山先生がこの地域に関して話していただきました。ということでプレゼンテーションを終わりディスカッションの場に移りたいと思います。
 このパネルのプレゼンテーションで気付いたことが1つあります。プレゼンテーションで分かったことはアジア地域に共通のプロセス・問題があるということです。つまり日本での経験がアジア各国にも当てはまるということです。日本の沿岸の自然は大きな河口からの土砂の供給と高速道路等インフラの整備のバランスでできているということです。日本の沿岸部では徐々に河口からの土砂流出が減少しています。これが基本的な問題となっています。沿岸侵食の問題はすなわち土砂供給量の不足、河口からの砂の供給の不足が回答なのですが、これがアジア諸国にも当てはまります。ベトナムの場合にはロング先生が話したように、ベトナムの中央部においてラグーンが形成されているということ、すなわちラグーンの基質となる土砂はもともとベトナム中部の中規模の河川から供給されているわけです。従って現状では以前は大量の砂の供給があったのですが、徐々に侵食の問題が起こっています。これは台湾でも同様です。あるいは中国もそうです。そしてタイも然りです。一方アメリカやあるいはヨーロッパ諸国とは状況が違います。ただ例外としてはミシシッピ川河口の状況は類似しています。従って沿岸部における自然状態と海岸線の形成が西洋諸国とは違うけれども、しかしアジア諸国では同じか類似しているということが言えます。
 
(Dr. Dong) いろんな経験が東南アジア諸国にもありますが、侵食の多くの主要な問題は、土砂の供給が河川から起こっていることでした。主要国では、例えば日本、タイ、ベトナムでは主な原因はなんでしょうか。その土砂の移動の原因についてです。例えば韓国ではダストを主要なところに作っています。ハン川(漢江)は作ってはいませんが、クム川(錦江)サンジンガン川に大きな台を作っています。他の国では何が主要な原因となっているのでしょうか。
 
(Dr. Kim) 最初に作ったのはダムで、これが日本の場合の現状です。ダムに堆積物がたまってしまったら問題ですが、マレーシアの西岸の場合に実際何が起こったというと洪水の問題がありました。以前はかなり降雨量が多かったため、洪水が起こりそれを止めようとしたのです。そして成功しました。そのような洪水の対策をとったため、山からの土砂の供給が沿岸へ届かず減ったのです。マレーシアの場合はそれが原因です。これは表面表土の保護のためだったのです。そして川の主流の流れの保護も含みます。そして徐々に川における輸送が減ったということです。これはマレーシアの例ですが、おそらく同じプロセスがタイでも取られたと思います。これは半島地域においてはどこでも同じだったと思います。
 柴山先生、4〜5年前に日本を訪れたときに新聞で読んだのですが、それによると、水力発電のダムの堆積土砂を流すプロジェクトを行い、沈殿した土をダムの穴を通して放出するというニュースがありました。このようなダムから沿岸に放出するというプロジェクトは今もあるのでしょうか。
 
(柴山) 最初の例は黒部川で、ダムは関西電力という会社に管理されていました。そして国土交通省が河口下流域にダム沈殿物の放流を認めました。その最初の段階で何が起こったかというと、その堆積物を含む汚水が出てきたのです。それが非常に大きな公害、環境問題を引き起こしました。河川エリアだけでなく沿岸地域にも大きな問題をもたらしました。そのため国土交通省の担当者は非常に驚きました。ダムの底だけではなく、流出物も堆積土砂だけでなく、落ち葉や有害化学物質がその放流によって流出してしまったのです。私が関係者から聞いたところによると、最初は問題が大きかったのですが2回目は問題はそれほどではなく、放出による問題はだんだんに減ってきました。いろいろな試みが国土交通省によって行われました。いくつかのケースは成功していると思います。従ってこれからダムを作る場合には、最初の段階から堆積物や砂の放出を考えなければいけないということです。日本のダムの設計でいうとこの問題は最初から組み込まれています。ただ開くのが難しいのです。エンジニアは非常に環境に気を遣っているので、もしそれを開くと何かが起こるのではないかと考え、そして実際に起こったわけで、それを心配しているのです。従ってこの堆積物をダムから放出するということにしたのです。角野先生も言われたように、現在、全体の堆積物調節を河口域と沿岸域について考えています。以前は河口のエンジニアと沿岸のエンジニアは分かれていました。政府は国土交通省に属しますが、ある人は河口、湾岸域、そしてある人は沿岸地域の担当と分かれています。これは科学者の分野でも同じで、川の担当の方が分かれています。現場ではこの分かれている物を一つにしようとしています。
 
(DR. Than) 私はタイの近くのミャンマーから来ました。長い川がミャンマーにはありますし、我が国にも非常に長い海岸線がありますが利用していません。3つか4つの海岸線がありますが、まだ自然が残っています。我が国にも川の問題があります。2億6, 000万トンの土砂がデルタから流れてきています。デルタは海に対して土砂流出のじゃまをしていて、300年から400年にわたって積みあげたものもあります。現状の問題は船の航行上の問題です。そして今対応しなければならないのは河川システムを改善することです。そして皆さんの理論というのは川の改善システムが完了すると沿岸システムの問題が始まるということですが、これは本当でしょうか。
 
(柴山) 日本の場合とタイの場合、ベトナムの場合では、まず河口における水路のメンテナンスをはじめたという歴史があります。そして経済開発が進むとそれがきっかけとなって10年、20年で侵食が始まります。私の経験からいうと、ミャンマーの海岸線は砂地の湾で、西の部分は天然のビーチになっていて、そこには充分な砂が存在します。経済開発が非常に急速が伸び始めたあと、侵食、コースタルイリュージョンがその地域でおこり始め、そしてミャンマーとタイの境界のところでも起こったのです。
 
(質問) 柴山先生にコメントをいただきたいのですが、同じことがいろんな国で起こったとおっしゃいました。例えば大河津分水路です。そして政府の人もその効果にジレンマを感じていると思います。例えば分水路を作ると何かが侵食されてしまいます。一方で水路を作らないと経済的な成長が見込めないということで、この問題に対する解決策はどうなるのでしょう。
 
(柴山) 私の答えは、エンジニアが結果をちゃんと認識している必要があるということです。インドネシアのスマトラ島にあるアチェの場合は、分水路が作られました。そして沿岸の侵食が始まりました。ここは非常に重要な海岸であり、地域であったのです。最初のイスラム教徒がインドネシアに来た時、そこに足を踏み入れたと聞いています。シャアクアラという人たちですが、彼らが最初にインドネシアに来たイスラム教徒でした。従ってイスラム教徒にとってそこは非常に重要な地域なのですが、徐々に侵食されていきました。そして非常に深刻な聖なる地域が失われていくということで、イスラム教徒にとって問題となりました。もしエンジニアがそのことを知っていれば選ぶことができたはずです。でもそのエンジニアが水路を作ることを決めたとき、何が起こるかを予測し得なかったのです。ですからエンジニアができることは、何が起きるかを予測をすることです。もしエンジニアがそういった結果を予測できていれば何らかの対処法ができたわけです。しかし情報がなければ対処もできません。従ってエンジニアはそういった作業をしなくてはいけないと思います。
 
(Dr. Than) 私もナビケーショナルインランドの問題を抱えています。もし砂を海に流すと漂砂のバランスの維持はできます。またダムを作るときには海に流すという技術が必要ですし、ナビゲーショナルインランドを深く入れていくとしても実際にミャンマーで起こっていることは砂を自然な形で流すべきだと思います。何らかの人工的な妨げを行ってはいけないと思うわけです。これが私の意見です。
 
(Dr. Kim) ご意見ありがとうございます。私の考えではこの問題の対処のためにいろいろな可能性があり得ると思います。堆積および侵食に対する問題に対してですが、沿岸工学者としてできることにはいくつかの選択肢があると思います。それで将来予測をしていく上で、この1つの技法を選んだときにどうなるかを考える必要があります。そうすることによって、皆さんが1つの技法をその将来がどうなるかという予測も含めて考えることができるというのが私のポイントです。何かご質問はありますか。それではこれで終わりにします。







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