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 PACON2002特別フォーラム
 「21世紀早急に解決すべきアジア・太平洋諸国の海洋の諸問題」
 1)水産および資源管理に関する諸問題
 日時:2002年7月22日
 
「日本における水産工学関連の技術開発」講演要旨
 山本正昭
独立行政法人水産総合研究センター 水産工学研究所長
 
 日本では、沖合漁業においては、200海里内の漁獲能力の増大による水産資源の減少が顕著であり、沿岸資源も水域環境の悪化が加わり資源が減少している。
 この状況に対処するため、2000年6月水産庁により水産研究技術開発戦略がたてられ、以下の重点課題が設定された。これを受けて水産に関する研究開発が国の独立行政法人等を中心に進められている。
1 水産資源の持続的利用のための調査研究の高度化:A、B
2 積極的な資源造成と養殖技術の高度化:C
3 水域生態系の構造・機能及び漁場環境の動態の解明とその管理・保全技術の開発:D
4 水産業の安定的経営の確立のための研究の推進
5 消費者ニーズに対応した水産物供給の確保のための研究の推進
6 漁業地域の活性化のための研究の推進:E
7 水圏生物の機能の解明と高度利用技術の開発
8 国際的視野に立った研究の推進
 ここでは、このような状況に対処するための水産工学関係のいくつかの技術開発を取り上げた。
 
A 音波を用いた資源量推定手法の改良
 平成9年1月1日からの年間漁獲量(TAC)が、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、サバ類及びズワイガニについて初めて定められた。我が国周辺海域における水産資源の合理的な管理方策を検討・提言するための前提となる資源水準や漁獲能力の定量的把握は未だ十分ではない。しかし漁獲情報から従前のような資源状態に関する情報が得られなくなるため、計量魚探を中心とした直接推定する方法の技術開発が必要とされて、進行している。
スケトウダラ資源量推定における計量魚探の有用性が確認(北海道・北海道大学)
科学魚群探知機による計測が困難なイカ類やオキアミ類等を対象として、反射強度など音響特性を実験的・理論的の解明(水工研)
計量魚探を用いたスルメイカの資源量推定の試み(東北水研)
大規模魚群のシミュレーションモデルの開発(水工研)
生物ソナーの仕組みを応用した魚群探知システムの情報処理手法の開発(水工研)
B 生態系に優しい漁業生産技術の開発
 我が国周辺海域の生態系や生物多様性の保全を図りつつ持続的な漁業生産をあげるためには,生態系の保全に配慮した漁業生産に係る技術の確立が必要である。具体的には,小型魚等の漁獲対象外の生物や希少生物の混獲防止のための選択的漁具・漁法、逸失漁具によるゴーストフィッシングの防止法を開発する。
小型底曳網の網目拡大によるカタクチイワシ小型魚の保護(徳島県等)
混獲防除ウインドーを備えた2階式コットエンド底曳網(水工研・千葉県)
ズワイガニとかれい類を分離漁獲するかけまわし式底びき網(福井県)
マグロ延縄漁業における染色餌を用いた海鳥類の偶発的捕獲の回避(遠水研)
生分解性繊維を用いたベニズワイガニかにかごの試作(水工研)
C 人工湧昇流発生施設
 湧昇流とは、季節風、貿易風などの風、地形変化、潮流等が要因で、海洋深層水が表層近くへ湧き上る現象のことである。栄養塩の豊富な深層水が光の届くところに運ばれるため、食物連鎖の源となる植物プランクトンが大量に繁殖し、良好な漁場を形成する。このような海域は湧昇流海域と呼ばれ、その面積は全海洋面積の0.1%にすぎないが、その漁獲量は世界の50%を占めるといわれている。近年、この湧昇流を人工的に発生させ、新たな好漁場を形成させる取り組みが行われている。
内部はエネルギーを利用する湧昇流施設適地の選択手法(北海道)
経済的素材を使用したマウンド漁場造成を効率的に行うシステムの開発(ハサマ)
底層の水平流を鉛直渦に変換する人工湧昇流発生構造物(北海道)
 そのほか様々な形状と配置の衝立型構造物などの開発が行われ、ある海域では、植物プランクトンの増殖が確認されている。
 
D 藻場の造成
 埋立て等により繁殖の場としての藻場・干潟が喪失しており、その場を利用する沿岸資源の減少が懸念される。また、岩礁域では、磯焼けと呼ばれる海藻が長期間生えなくなる現象が進行している。この根本原因は、まだ解明されていないが、日本海の北部海域等では、その阻害原因であるウニを取り除くことにより海藻群落が回復することが実証された。
 この具体的工学的技術として、
波動が大きくしてウニの摂餌を妨害する方法
ウニの食害を受けないよう、砂地に海藻の着定基盤を設置する方法や
ウニの移動能力を分析し適したフェンスを設置してウニの進入防止方法する方法
 が開発されている。胞子を供給するための成熟したアラメの葉状部を網袋を取り付けたり、幼体を付けた基質を移植する技術も開発された。しかし、魚による食害が原因と推定される所ではまだ有効な対策は、開発されていない。また、海草場は、移植や播種の技術とあわせて、底質を安定させる技術が開発され、群落を回復させた例がある。
 
E 漁港泊地の水質改善技術
 多くの漁港は、静かなるが故の水質汚染に悩まされている。漁港は、水産物流通の起点であり水質が清浄であることが要求され、泊地は、蓄養場や幼稚仔保育場としても有用である。また、海洋性レクリエーションの拠点にもなっており、ゴミのない良好な景観が要求される。これらの要求を満たすため、外海水との交換を促進し、底質も改善する外郭施設を開発している。具体的には、近年、次の技術が開発された。
波動エネルギーを利用した潜堤付き孔空き防波堤による海水導入工法の開発
大水深防波堤に適したパイプ式海水導入工の開発







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