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考察
1 子どもの立場とニーズ(構造化)
 10ヶのニーズは、構造的に5つに分類できるかと思う。1つは、親の衰弱の姿に接する中での、医療者や看病する親も含めた大人に対する期待のニーズである。《親を苦しませないでほしい》《親の状況の本当のことが知りたい》が入る。2つめは、《不安な自分をわかってほしい》《置き去りにしないで》というふうに、親の近い将来の死におびえる自分自身の心理的状況からのニーズであり、3つめは《親の病気はふれられたくない》《ふつうになんでもなく過ごしたい》というふうな、まわりの人々の関わりや日常生活へのニーズである。4つめとしてあげられるのは、家族への思いや家族の中の自分の位置付けのニーズであるである《親の役に立ちたい。頼りにされたい》《家族が1つになりたい》。5つめにあげられるのは、思春期特有の発達過程と関連するニーズである。思春期での親との葛藤の中で《ごめんねと謝りたい》という詫びのニーズと《(大人に)甘えたい》という願いがある。
 この5つは、子どもの立場と交差させて構造化することができる。子どもは、(学校)生活者であること、家族の一員であること、思春期にいること、そして、親の病いと死に直面している、という4の立場にいる。この立場にニーズを交差させたのが図1である。
 これまで、医療者の議論は子どものニーズを、子どもへの告知〔親の病名や死が近い病状〕のあり方に年齢からの発達課題を絡めて、議論することが多かったが、学校生活も含めた、生活者としての立場や家族員と立場など包括的に見つめる必要性があることが本研究から示唆された
 
図1 子どもの立場とニーズ
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2 思春期の子どものニーズの特徴
1)思春期の発達段階からの特徴
 家族ケアの中では、家族の看取りのニーズとひとことでいうことが多いが、配偶者など大人が看取る場合のニーズと、子どもが親を看取る場合のニーズはどこが異なるのであろうか。大人の場合は、次の8つがあるといわれている。9)すなわち(1)患者の状態を知りたい(2)患者のそばにいたい(3)患者の役にたちたい(4)感情を表出したい(5)患者の安楽の保障を得たい(6)家族メンバーからの慰めと支持を得たい(7)医療従事者からの受容、慰め、支持を得たい(8)患者の死期が近づいたことを知りたい、である。
 ニーズの中でも、<病人が苦しむ姿を見るに忍びなく、なんとか安楽にしてやってほしい>、<医療者は全力をつくしてほしい>などは、どういう立場であれ、家族メンバー皆に共通する切実なものである。また<死期が近づいた事実を知りたい>というニーズも共通性はあるが、子どもの場合はストレートな欲求ではなく、事実を知るのは怖い、不安だと、事実に目をつむりたい思いを持ちながら、それでも事実を知ろう、蚊帳の外におかれるのは嫌なんだ、という感情をもつのである。
 子どもに特有なのは、死が近い親に対しての<(ごめんねと)あやまりたい>と親も含めた大人への<甘えたい><おきざリにしないで>というニーズであろう。あやまりたいという謝罪感情がなぜ生じるのか。思春期は内的な心理的依存と自立の問題が重なり絡まりあってやりとりされる年代であり、親子関係は緊張にみちたものになる10)。こうした中で、子どもは親に対して何となく疎ましく感じ、時に衝動やつきあげてくる感情で、親を嫌悪し、攻撃的言動を起こしてくる。親の死が近いことを知ったとき、反抗が親を苦しめ弱らせたのでは・・・、という罪障感と、和解を求める気持ちが<あやまりたい>のニーズに含まれている。また、<甘えたい>はこの年代の自然なニーズであり、<おきざりにしないで>は見捨てられるという、おびえからの欲求である。「自立」ということを発達課題に持ちながら、その表裏に「依存」の感情がある。依存のニーズは、亡くなる親のみならず、残る親も含めた大人に向けられるものである。この依存の感情から、<甘えたい><おきざりにしないで>のニーズは出てきている。
2)ニーズにおけるアンビバレントな願い
 子どものニーズの特徴として、<本当のことが知りたい>と<何でもないようにふつうに暮らしたい>(事実から目をそむけていたい)があり、また<役に立ちたい・頼りにされたい>と<親の病気はふれられたくない>(自分もふれたくない)というふうに、相反する感情が同時に存在していることがわかる。アンビバレントな感情のゆらぎである。
 正確なことを知りたいと願う一方で、病状が悪いとは言ってほしくないと願っていること、親に甘えたい、そばにいたいと思いつつも、衰弱していく親の姿がつらくてそばにいることにおびえを感じている。さらに、家族の一員として役割があることを自覚しつつも、役に立てない自分を感じており、また家族の生活、自分の生活が変化していくことへおびえの感情をもっている。
 こうしたアンビバレンツな感情のゆらぎの中から生まれてくるのが、<不安な自分をわかってほしい>というニーズなのである。子どもはちぐはぐな言動、どうしようもない感情、それらを自覚することはできる。だからこそ、この不安定な自分を、丸ごとわかってほしい、包み込んでほしいというニーズが生まれてくるのであろう。
3 子どものニーズと支援
 ターミナル期の親を看取る子どもの支援は、この10のニーズに1つ1つこたえていくだと思う。ただし、ニーズがアンビバレントなものを含んでいるため、基本として、<不安をわかってほしい>という願いにこたえることがベースなると考える。
 子どもの死別体験からの悲嘆を支援するアメリカの「ダギーセンター」の活動は、傷ついている人〔子〕が必要としているのは説明や保護ではなく、痛みを感ずるチャンスであり、またその痛みを感じても良いし表現してもよいということを知ることだ11)という考えを活動の基本的スタンスとしている。すなわち、傷つき、不安に思っている子どもをありのままに受け入れようということである。
 医療者は、親のベッドサイドに子どもの「居場所」を確保しつつ、彼らの10のニーズのうち、今何を欲しているのかを知り、そのどの感情も自然であたりまえのことなのだというスタンスから、ニーズにこたえていくことが重要であると思う
 
まとめと今後の課題
 本研究では、ターミナル期の親を看取る思春期の子どものニーズを10に整理し説明した。その中で、(学校)生活者であること、家族の一員であること、思春期にいること、そして、親の病いと死に直面している、という4つの子どもの立場から、ニーズを分類してみた。また思春期ゆえのニーズの特徴にふれ、医療者の支援方法も提言した。
 本論は、グラウンデッドセオリーアプローチの研究方法を用いたが、限られた子どもへの聞き取りデータからの分析であり、データが飽和に達しているかの確認はとれていない。その意味で、今後も継続して研究を続け、この10のニーズの妥当性を検証していく必要性がある。
 
研究の成果等公表予定
日本死の臨床研究会〔学会〕で発表
日本看護科学学会で発表
日本家族看護学会誌に投稿
 
参考文献
1)CancerLink編 かながわがんQOL研究会訳:Talking to children〜がんに罹った患者や家族が子どもに真実をどう話すか〜. 2000
2)田中慶司訳:Caring about kids, Talking to children about deathママ死ぬってどういうこと−子どもに死をどう教えるか. 保険社会出版社. 1979.
3)あしなが育英会機関紙:NEWあしながファミリー、レインボーハウスの活動紹介
4)阪神・淡路大震災支援委員会編:喪失と家族のきずな. 金剛出版. 1998.
5)あしなが育英会編:自殺っていえなかった. サンマーク出版. 2002.
6)立花エミ子:ターミナル期の親を看取る子どもへのケア(1)−ホスピス看護者のとまどい. 死の臨床24(2). p198. 2001.
7)平山正実:死別体験者の悲嘆について、松井豊編:悲嘆の心理. p85−111. サイエンス社. 1997.
8)柳原清子:がんターミナル期の親を看取る子どもの悲嘆に関する研究、第19回看護科学学会誌. 2001.
9)Hampe. S, O 中西睦子他訳:病院における終末期患者および死亡患者の配偶者のニード. 看護研究10〔5〕p386-397
10)林幹男編著:精神保健. p55−67. 建帛社. 2002.
11)The Dougy Center 日本語版作成 ルーテル学院大学:死別を体験した子どもたち−トレーニングマニュアル. 1999.







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