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平成14年度
ホスピスナース養成研究事業助成報告書
宗教法人
在日本南プレスビテリアンミッション
淀川キリスト教病院
 
4.1 事業の目的・方法
1. 目的
 当院では、「全人医療」と全国ホスピス・緩和ケア連絡協議会の基本的な考え方を理念とし、終末期の患者と家族のQOLを高め、その人らしい生を全うできるよう、キリストの愛を持って最後まで仕えることを目的にチームでのケアを実践している。ホスピスについて杜会の関心が高まってきている中で、わが国の承認緩和ケア施設も増加し、そこでホスピスケアに携わる看護師の専門的スキルへの期待も高まっていると言える。こうした状況において、特に、臨床実習に重点をおいた専門的な訓練を実施し、その実際からホスピスケアの基本理念や知識、技術を学び、より質の高いホスピスケアが提供できるナースを育成することを目的として、財団法人笹川医学医療研究財団からの助成により1999年度より「ホスピスナース養成事業」を行っている。
 
2. 方法
 緩和ケアナース養成研修のプログラムの一環として、日本看護協会から決定された研修生に対して、看護部が窓口となり、研修案内を送付した。
 
4.2 内容・実施経過
1. 内容
(1)研修の目的
(1)ホスピスケアの基本理念を理解し、実践を通して、ホスピスケアに必要な知識、技術、態度を習得する。
(2)チームアプローチの実践を学び、チームの中でのナースの役割を考える。
(3)自施設において、ケアの実践のための具体的な方略が考えられる。
(2)研修期間
 3週間
(3)研修プログラム
 1週目:研修の目的、目標を明確にする。病院全体におけるホスピスの位置付け、場の特徴を理解し、ホスピスの1日の流れがわかる。担当看護師が受け持ち患者の問題点とケアの注意事項を説明し、共に行動する事でケアの概要を把握する。研修担当者と面接を行い、研修目的に応じて研修内容の調整を行う。
 2週目:日常生活の援助、症状マネジメントについて学ぶ。担当看護師と共に患者を受け持ち、症状マネジメントの実際を体験し、ケアの評価を行う。また、家族ケアについても実践を通して学ぶ。
 <中間振り返り>前半を振り返り評価し、後半の目標、研修内容の調整を行う。
 3週目:チームアプローチについて学び、チームにおけるナースの役割を考える。担当看護師と共に患者を受け持ち、他職種との連携、調整の実際を体験する。他職種とその役割と実践について話し合う。お茶会などの活動に参加する。ホスピスケアに必要なケアの継続性について学ぶ。入院相談から退院後のサポート体制について実践を通し理解する。
 <まとめ>研修の振り返りおよび評価の面接を行い今後の課題を明確化する。自己の研修課題にそって、レポートを提出する。
 
2. 実施経過
 前述した内容で研修を実施した。<まとめ>に関してはホスピス病棟課長および研修担当者の面接以外に看護部長および教育担当課長が面接を行い、研修が円滑に行われているかを評価した。その結果、日本看護協会よりの研修生計14名が研修を終了した。
 
3. 成果
 成果については研修生の実習報告書とレポートより報告する。
I. 実習形態や運営について
1. 実習期間については、14名中10名が適当と回答しているが、4名が見学実習という形態では長いと感じていた。
2. 実習時期については、14名中10名が適当と回答しているが、講義の後の実習が効果的という意見が多かった。
3. 実習プログラムの内容については、14名中3名が大変良い、6名が良いと回答しており、回診の見学、外来見学、ボランティア実習などが組み入れられていて良かったという感想が多かった。
4. 受け入れ態勢については、14名中3名が大変良い、10名が良いと回答していた。
5. 指導体制については、14名中3名が大変良い、7名が良い、4名がまあまあと回答していた。その日の担当看護師によって、指導内容や関わり方が異なって戸惑ったという意見や、研修生慣れしている感じでやりにくさを感じる事もあったという意見もあり、検討が必要である。
 
II. 実習目標の評価
 実習方法は、3週間を通し、毎日の担当看護師と共に患者を受け持ち、ケアに参加した。2週目の終わりに中間評価を行い、それぞれの課題に対して経験できていないことはないかを確認し、可能な範囲で調整した。ボランティア、外来見学、電話相談は、研修生の希望に応じて行った。また、研修終了時間に本日の疑問点解決のための話し合いや、毎日の研修レポートを書いてもらい担当看護師からのコメントを返せるようにしたことで、学びが深まったのではないかと考える。必要に応じて、文献の紹介をするとともに、院内の勉強会、症例検討会にも自由に参加できるようにした。
 評価については、個々の目標によるものであるため、目標として多く上げられていた項目と、こちらが提示したポイントについての評価についてをまとめる。
 
(1)ホスピスナースの役割について理解する
 「患者がその人らしく生を全うできるように援助することであり、そのためには、対象をトータルに把握することが大切」「患者の希望に応えるためには幅広い知識と技術を身につけることが重要である」「患者、家族のQOLが高められるようにあらゆる環境を整える重要性について学んだ」「日常生活の基本的な援助を患者の視点で大切に考えること」などの感想があり、ほとんどの研修生が達成できたと答えている。
(2)症状マネジメントについて理解する
 「症状コントロールは患者のQOLを高めるための基本である」「患者の訴えを信じること、患者の言葉を正確に聴くことが基本であることを学んだ」「患者の症状だけでなく、表情、言動、日常生活動作からコントロール状況を評価していくことが重要」「患者が感じている変化を的確に捉え、速やかに対応していくことが大切」などマネジメントの大切さ、姿勢に対する感想が多くそれについては達成できたと言える。また「症状マネジメントを行ううえでは、病態や薬剤についての幅広い知識と洞察力が不可欠であり、もっと深く学習する必要性を感じた」という意見も多かった。症状マネジメントの理解においては見学だけでなく、文献を紹介して自己学習してもらうことや、症例を提示して具体的に学んでもらうことが必要であると考える。
(3)チームアプローチについて理解する
 「全人的なケアを行うためには専門職種がそれぞれの特徴を生かしたチームアプローチが必要である」「多職種が患者のニーズに対応していくことで、残された時間をその人らしく生きることができる」という感想があり、チームアプローチの重要性については理解できたと言える。多職種との連携については直接関わらなかった職種についてはイメージしにくい点もあったようであるが「必要な時を見逃さず専門家に依頼する事が患者のQOLを向上させることにつながり、看護師はそのコーディネーターの役割がある」という感想もあった。
 「カンファレンスでチームでの情報交換、ディスカッションが密に行われ、その中でケアの方向性を明確にさせていた」「チーム間で目標を統一させるためにコミュニケーションを充実させることが重要」「カンファレンス以外でも話し合いが多く、そのプロセスの重要性を実感した」などチームアプローチにおけるカンファレンスの重要性やチームメンバーを尊重し協力し合う姿勢についても考える機会になったようである。
(4)インフォームドコンセントの実際について理解する
 「終末期にある患者の状態は変化しやすくその時に応じた情報を提供していくことが重要である」「相手に意図を正確に伝えるために、一方的な説明でなく理解の程度や受け止め方を確認していくことが重要」「患者自身が人生の最期を選択をできるように真実を伝えていくことの重要性を学んだ」「何のために伝えるのかが重要」などの感想があり病状説明に同席したり、カンファレンスでの話し合いに参加したことで多くの研修生が理解できたと答えている。
(5)家族ケアについて理解する
 「家族は患者を支えるケアの担い手としてだけでなく、ケアの対象という視点でも捉える必要がある」「さまざまな場面において家族との関わりが重要であることが理解できた」「家族とのコミュニケーションの取り方やポイントについて理解できた」「患者にとって家族はかけがえのない存在であり、家族がその役割を十分果たせるようにサポートする必要がある」など家族ケアについての感想も多く、ほとんどの研修生が理解できたと答えている。
(6)継続ケアについて理解する
 外来見学、訪問看護ステーションとのカンファレンスを見学することにより、それぞれの連携、継続看護については理解を深めることができたようである。しかし実際訪問については研修生が同席しておらず、具体的にイメージすることは難しかったようである。
 
 以上が実習における研修生の評価と感想である。研修生により目標が異なるが具体的に学習目標を挙げている研修生は、実習のポイントが明確であり積極的に学び目標達成度も高かった。目標が漠然としている研修生には面接により調整を行ったが、自己の課題として取り組むには困難もあったように思う。研修参加までの過程においても講義での学びや自己学習が行えているかでより効果的な研修になるのではないかと考える。
 今年も毎日の研修レポートを提出してもらい、実践と考察、感想を記述してもらい担当者のコメントを返すようにした。これは研修生と担当者との情報交換となり、疑問点に対する解決の糸口にもなったのではないかと思う。また毎日の振り返りが継続して学ぶことの動機づけにもなった。昨年度から研修生より、自己の施設や立場からどのような目的で研修に参加したのか、どのような学びがあったのかをスタッフに向けて話してもらう機会を設けている。しかし意見交換があまり活発でなく報告だけに終わっている。スタッフ自身も研修生との関わりを通して多くの刺激を受けていると考えられるため、自らの看護について振り返ったり、学習したりして双方の学びにつなげられるようにする事が課題である。研修生の目標を研修担当者だけでなく日々関わるスタッフにも理解してもらい、適切な助言や共に考える姿勢を持ってもらいたいと考えている。
 今年も患者への影響を考慮し、3週間を通して見学実習とした。担当者と共にケアを実施してもらうということで、単独で患者を受け持つことは控えてもらった。今後も基本的な方法については同様に考えているが、できるだけ実習効果が上がるように、ただ見学に終わるのではなく、実際、患者や家族との関わりがもてるように検討しスタッフにもはたらきかけていきたい。研修担当者は研修生とより密に情報交換が行えるようなシステムも検討し、経験したい項目をチェックし意図的に経験してもらえるような調整を行っていきたい。
 
4.3 まとめ
 実習における評価と感想をまとめた。ほとんどの研修生は自己の課題に対してまあまあ達成できた以上の評価をしている。実習を通して学んだ知識を実践に生かすための課題を明確にすることや自己学習を深めることの必要性に気づいている者も多く、今後の活動の動機づけができたと考えられる。施設側の問題としていくつかの課題をあげたが今後具体的に検討し、よりよい研修プログラムにしていきたい。また研修を終了した研修生が自己の施設に帰り、どのように研修の学びが役立てられているのかをフィードバックしてもらえれば、私たちの振り返りにもなり、励みにもなるのではないかと考える。







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