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2.7 調速装置
 調速機はガバナと呼ばれ、負荷変動に対し回転速度が増減したとき、燃料の供給量を自動的に調整し、設定した回転速度を維持させると共に、機関の空転や急激な回転上昇に対して許容最高回転速度以上の規制及び最低回転速度以下でエンジン停止規制を行い、機関運転上の安全を図る操作を行う装置である。
 
1)ガバナの種類
 舶用機関のガバナにはその機能により下記の2種類がある。
(1)全回転速度調速機(オールスピードガバナ)
(2)定回転速度調速機(コンスタントスピードガバナ)
 又作動により下記のように分類される
(1)機械式調速機(メカニカルガバナ)
(2)油圧式調速機(ハイドロリックガバナ)
(3)空気式調速機(ニュマチックガバナ)
 中小形舶用主機関に用いられているガバナは、機械式全回転速度調速機(メカニカルオールスピードガバナ)及び、油圧式全回転速度調速機(ハイドロリックオールスピードガバナ)であり、舶用発電機用機関にはメカニカルコンスタントガバナや、ハイドロリックコンスタントガバナなどが使用されている。なお、油圧式ガバナとしては、ウッドワード社やゼクセル社のものが多く用いられている。
 又大型機関には油圧式ガバナや空気式ガバナが多く使用されているほか、超大型機関には最近、電子式ガバナが採用されている。油圧式ガバナと空気式ガバナの、燃料制御の機構はほぼ同じなので、ここでは機械式ガバナと油圧式ガバナについて説明する。
 列形噴射ポンプの場合は殆どが調速機と一体で造られ、単体形噴射ポンプの場合は主にリンク機構などを設けて調速機と連結されている。又列形噴射ポンプの場合でも油圧式ガバナを使用するときはリンク機構を用いて連結している。
(1)オールスピードガバナ
 使用回転範囲全体に亘って制御するガバナであり、最近のように低速から高速域迄の広い範囲を制御する機械式ガバナの場合、低速バネ及び高速バネを併用して行うようにしているがバネの適用範囲が広過ぎる等のため、ガバナ性能としてはコンスタントスピードガバナに比較し若干劣る。
(2)コンスタントスピードガバナ
 一定の範囲内の回転速度を制御するガバナであり、バネの適用範囲も狭く限られているため、ガバナ性能は比較的優れており、発電機用補機関など高度なガバナ性能が要求される用途に用いられる。
 
2)ガバナの作動原理
 ガバナ機構の基本構造は2・182図に示す如く、ガバナウエイトの回転遠心力と、ガバナスプリングのバネの強さを釣り合わせ、回転の増減により両者の力にアンバランスが生じたとき、図のガバナウエイトの動きによりシフタが動き、これに連動したレバーにより燃料の噴射量を自動的に増減して回転速度を常に一定に保持させようとするものである。
 
3)ガバナの性能
 運転中エンジンにかかる負荷は常に一定しているとは限らない。一定の回転速度で運転中の機関の負荷を急激に変化させると、機関の回転数は上下に変動し、変化した負荷に応じた回転速度で整定し運転が継続される。この場合の瞬間的に変動する回転速度の割合を瞬時速度変動率と云い、整定した回転速度の割合を整定変動率、又整定までに要した時間(秒)を整定時間と云う。
 
2・182図 ガバナの基本機構
 
 それぞれの速度変動率は次式で算出され、機関の用途によりJIS規格や、船舶安全法でガバナ性能が規定されている。
 
 (注)過渡的回転速度:負荷投入の時は変動最低回転速度 負荷遮断の時は変動最高回転速度
 
4)ガバナの構造と作動
 2・183図に単体形噴射ポンプ用機械式ガバナの構造の一例を示す。エンジンの回転速度を決める調速ハンドル、エンジンの回転と連動して回転するガバナウエイト部分、燃料ポンプの噴射量調整桿とその連結リンク、及び調速ハンドルとガバナレバを結ぶレギュレータスプリング、等により構成されている。
 遠心力によって作動するガバナウエイトはウエイト支え台にピンで取り付けられている。
 ガバナウエイト支え台はガバナ軸及びガバナギヤに、キー又はナットで固定されており、エンジンが回転するとガバナギヤも回転し、ガバナ支え台に取り付けられたガバナウエイトに遠心力が生じる。エンジンの回転速度が高くなればガバナウエイトに働く遠心力は大きくなり、ガバナウエイトはガバナウエイトピンを支点としてレギュレータスプリングを引っ張りながらガバナスプリングを圧縮して外側に開く。ガバナウエイトが開くとウエイトの爪の部分でガバナスピンドルを左側へ動かし、このスピンドルの頭部がガバナレバーを動かし更に燃料噴射ポンプの調整桿を動かして噴射量を少なくする。
 又反対に回転速度が下がってガバナウエイトにかかる遠心力が小さくなると、ガバナスプリングの圧力とレギュレータスプリングの引張り力によってガバナウエイトが閉じて、燃料ポンプの調整桿を左に動かし燃料の噴射量を多くする。
 即ちガバナウエイトの開きが多くなるほど燃料の噴射量は少なくなり、開きが少なくなる程、噴射量は多くなる。このガバナウエイトの開閉を調整し回転速度を上げ下げさせるために、レギュレータスプリングがある。
 このスプリングは調整ハンドルを上げる程力が強くなり、ガバナウエイトは開きにくくなり、燃料が多くなって回転速度が高くなる。反対に調速ハンドルを下げればスプリングの力は弱くなって、ガバナウエイトは開きやすくなり、燃料が少なくなってエンジンの回転速度は低くなる。
 従って調速ハンドル位置を定にしておいた場合の、回転速度の変化とガバナの作動には次の関係がある。
 回転速度上がる→ガバナウエイト開く→噴射量少くなる→回転速度下がる→ガバナウエイト閉じる→噴射量多くなる→回転速度上がる→ガバナウエイト開く→噴射量少くなる→回転速度下がる。
 
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 (注)
 開=ガバナウエイトの開くこと。
 閉=ガバナウエイトの閉じること
 このような働きにより常にエンジンの回転速度は一定に保たれる。
 
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2・183図 単体形噴射ポンプ用機械式ガバナ
 
5)自動進角装置(オートマチックタイマ)
 燃料が噴射されてから着火するまでには多少の時間がかかり、この時間を着火遅れの期間と云っている。着火遅れの期間(時間)は機関の回転速度が変わっても余り変化しないため、高速回転になればなる程、着火遅れの期間にクランク軸は大巾に回転してしまうので、最適噴射時期を得られなくなる。そのために着火遅れの期間を予め予測しておき高速回転に合わせ、噴射時期を進ませてやらねばならない。しかし噴射時期を高速に合わせてしまうと中低速回転時には逆に噴射時期が早すぎてしまい最適噴射時期が得られない。
 この問題を解決するために、高速回転になったとき噴射時期が自動的に進み常に最適噴射時期が得られるようにするために取り付けられているのが自動進角装置である。
(構造及び作動)
 2・184図に示すような部品で構成されている。ウエイトの一端に穴があり、この穴をハブのボルトに嵌め、ハブは燃料ポンプのカム軸に固定されている。ドライビングフランジのジャーナルがウエイトの曲面に接しており、ジャーナルとボルトの間にスプリングが取り付けられている。ドライビングフランジはカム軸により駆動され、ジャーナルはウエイトの曲面を押してハブに動力を伝える。
 2・185図A)は低速時を示したもので、ウエイトには大きな遠心力が働いていないのでスプリングの長さは最も長い状態となっている。(Bは高速時を示しており、ウエイトは遠心力によってハブのボルトを支点にして外側へ拡がっている。ウエイトの曲面はジャーナルを支点にしてスプリングを圧縮し、ハブボルトを引き寄せ、ハブはその分だけ燃料ポンプのカム軸回転を進ませるので噴射時期を早くすることが出来る。
 2・186図はタイマの進角特性の一例であり、カム軸が300min−1(rpm)の時を基準にして、1,350min−1(rpm)では、6゜進角することを示している。
 (点検整備について)
 年一度は必ずオイルを全量抜きだし、金属粉が検出されれば分解して摩耗部品を交換整備する。
 
2・184図 タイマの構成部品
 
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2・185図 タイマの構造と作動
 
2・186図 タイマの回転数と進角の関係例







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