3. ディーゼルエンジンの基礎
ディーゼルエンジンは、シリンダ内の空気を急激に圧縮し、高温高圧となった燃焼室内に燃料を高圧の霧状にして噴射させ、燃料を自己着火させ、燃焼により発生した圧力をピストンで受けて、連接棒を介してクランク軸を回転させ、動力を発生させる装置である。
3.1 ストローク(行程)とサイクル
ストロークとは、ピストンが上死点から下死点又は下死点から上死点まで運動する1行程のことでエンジンが1回転すれば、ピストンは2行程(2ストローク)動いたことになる。又毎回同じ動作を繰り返している場合、ある点を起点にして再び元の起点に戻ってくる迄での1周期のことをサイクルという。
ディーゼルエンジンには前項で述べた如く、ピストンが4ストローク動く間、即ちクランク軸が2回転する間に吸入、圧縮、燃焼、排気の1サイクルを完了する4サイクルエンジン(4ストローク1サイクルエンジンの略称)と、ピストンが2ストローク動く間、即ちクランク軸が1回転する間に、1サイクルを完了する2サイクルエンジン(2ストローク1サイクルエンジンの略称)とがある。
3.2 ディーゼルエンジンの作動
1)4サイクルエンジンの作動
4サイクルエンジンは、1・6図に示す如く、吸入、圧縮、燃焼、排気の各作動を、クランク軸が2回転、即ちピストンの4行程で行っている。下記に4サイクルエンジンの作動及び燃焼について説明する。
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1・6図 4サイクルエンジンの作動
(1)吸入行程
排気弁が閉じて、吸入弁が開いた状態でピストンが下降すると、シリンダ内に負圧が発生し、空気が吸入される。この時ピストンは、上死点から下死点まで1ストローク動き、クランク軸は1/2回転する。
(2)圧縮行程
吸入行程が終わり、吸気弁が閉じてピストンが上昇を始めると、シリンダ内の空気は圧縮され上死点近くになると高温(550〜600℃)高圧(3.9〜4.4MPa)になる。この行程でピストンは下死点から上死点まで動き、クランク軸は吸入行程の始めから丁度1回転したことになる。
(3)燃焼行程
圧縮行程の終わりに燃料を霧状にして、高温高圧となったシリンダ内に噴射させると、着火燃焼して温度、及び圧力が急上昇する。この燃焼ガスがピストンを押し下げクランク軸を回転させる。この行程でピストンは上死点から下死点まで1行程動く。なお、この行程のみが実際に動力を発生する行程である。
(4)排気行程
燃焼行程の終わり頃に排気弁を開き、ピストンが上昇を始めると仕事を終えた排気ガスはピストンによってシリンダから排出される。排気行程でピストンが下死点から上死点まで上昇するとピストンは計4行程(クランク軸は2回転)動いたことになる。これらの行程がそれぞれ規則正しく繰り返されることによりエンジンは回転し続けるのである。
2)2サイクルエンジンの作動
ピストンの2行程で1サイクルを完了するエンジンであり、シリンダ内の排気の排出、及び空気の吸入にピストンのポンプ作用が利用できないために、別ポンプ・補助ブロア又は過給機により大気圧以上に加圧した空気を、シリンダの側面に設けた掃気口より押し込み排気を追い出したあと、引き続き空気を充填する方法がとられている。
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1・7図 2サイクルエンジンの作動
(1)第1行程(燃焼、排気、掃気)
圧縮されて高温高圧となったシリンダ内に、燃料を霧状にして噴射させ、着火燃焼させると、高温高圧の燃焼ガスによってピストンは押し下げられる。ピストンが下降してくると、下死点のかなり前で排気弁又は排気口が開き排気ガスの逃げ出しが始まる。更にピストンが下降したところで、ピストン側面で閉ざされていた掃気口が開き、加圧された空気の吹き込みが始まり、ピストンが下死点に達したとき、掃、排気口共に全開となって、さらにシリンダ内の掃気(排気の排出と充気)が行われる。
(2)第2行程(掃気、充気、圧縮)
ピストンが下死点を過ぎて上昇を始めても、しばらくはシリンダ内の掃気は行われているが更に上昇して、掃気口、排気弁又は排気口が閉じると、圧縮が始まり圧力、温度が上昇する。高温高圧となった上死点の少し前で燃料を噴射させると、着火燃焼が始まり第1行程に移る。
以上のように、ピストンの2行程、即ちクランク軸1回転で1サイクルが完了する。
3)4サイクルエンジンの弁線図
弁線図は、ディーゼルエンジンの作動、即ち吸入、圧縮、燃焼、排気の各行程の作動をタイミングよく完全に行わせるための、吸気弁、排気弁の開閉時期や、燃料噴射の時期を、クランク軸の回転を表した線図の上に印したもので、1・8図に4サイクルエンジンの弁線図の一例を示す。
1・8図 4サイクルエンジンの弁線図
(1)弁線図に使用される用語
弁線図には用語が記号で記されているのでその意味に付き下記に説明する。
1・9表 弁線図に使用される用語
用語 |
記号 |
記号の語源 |
上死点 |
T.D.C. |
Top Dead Center |
下死点 |
B.D.C. |
Bottom Dead Center |
吸気弁の開き |
I.O. |
Inlet Valve Open |
吸気弁の閉じ |
I.C. |
Inlet Valve Close |
排気弁の開き |
E.O. |
Exhaust Valve Open |
排気弁の閉じ |
E.C. |
Exhaust Valve Close |
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(2)オーバラップの上死点と、圧縮の上死点
弁線図を見るとわかるように吸気の始まる上死点では、吸気弁はすでに開いており、又排気弁は上死点過ぎ何度かで閉まるため、この上死点では両方の弁が開いている。このように両方の弁が開いている上死点のことをオーバラップの上死点と云う。この位置よりクランク軸が1回転した上死点、即ち燃焼前の上死点は、圧縮行程の終わった時であり、当然吸、排気弁とも閉まっている。この上死点を、圧縮の上死点と云う。
なお、弁スキマの調整はこの圧縮の上死点で行う。又燃料はこの上死点前何度かで噴射される。
4)着火順序
(1)クランク角度と着火角度
クランク角度とは多気筒エンジンの場合に各気筒のクランクアームが軸心を中心にして互いに開き合って配置されている角度をいう。
着火角度とは今1つのシリンダが上死点に達し着火燃焼し、そして次の着火を起すシリンダが上死点に至るまでの角度である。
その角度は次のようにして算出する。
(クランクが2回転に1回の着火であるから360°の2倍となる)
(2)クランク角度の定め方
クランク角度は振動を防止し効率をよくするために次の事を考えて定められている。
(1)ピストンや連接棒などの慣性によって生ずる振動防止をエンジン全体から見てアームを配置する。
1・10表
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弁調整をするときは、この着火順序に従って実施すれば無駄を省くことができる。
(2)各クランク軸に与える回転力を均等にして回転性能を良好にする。
(3)クランク軸のネジリ振動をなるべく少なくする。
(4)主軸受に対し互いにとなり合った気筒から連続的に荷重を与えないようにする。
(3)着火順序
以上にのべたような配慮からクランク角度と着火角度が定められ、着火順序が決められる。参考までに着火順序とクランク角度を1・10表に示す。
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