3. 可変ピッチプロペラ装置
3.1 可変ピッチプロペラの特徴
可変ピッチプロペラ(CPP)は制御に主機関回転数と翼角の2要素があるため、この2つの組合せを変えることにより、積荷の変動による排水量の変化、海洋気象の変化による船体抵抗の変化などに起因する主機関の負荷の変動に対し、プロペラピッチを制御することにより、常に目的に合った主機関の出力を吸収させることができる。又、微速航行等最近の低回転大直径の固定ピッチプロペラ(FPP)では得られない低速力を得ることも可能である。
1)特長
(1)積荷の変化による船体抵抗変化に対応できる
(2)海洋気象の変化による船体抵抗変化に対応できる
3・60図 積荷の変化と海洋気象変化
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積荷の変化および海洋気象変化により、3・60図に示すようにプロペラピッチを変えることにより目的に合った主機関の負荷に合わせることができる。FPPではピッチが一定であるため、主機関のトルク制限値により回転が限定され、全出力を出すことはできない。
(3)主機関を最適状態で使用できる
CPPは船速、積荷、海象状態に関係なく、常に主機関を最適状態で運転ができ、燃料消費を節約することができる。3・61図は、機関性能曲線の一例であるが、出力、回転数、燃料消費率、船速、翼角の関係が示されている。
3・61図 機関性能曲線
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船速、積荷、海象状態の変化により、同一プロペラピッチでは主機関の負荷を一定に保つことはできない。その主機関に於ける最適状態で使用するためには、常にその状態に合ったプロペラピッチを選定し使用することが必要になる。
コンビネータコントロールにより数種類の状態を想定した主機関回転数とプロペラピッチの組合せを作っておき、選定使用する方法と更に自動化を進め、ALC運転をする方法がある。
例えば図中のA点とB点で運転した場合、同一船速に於いてB点の方が主機関出力が少ないことがわかる。
(4)常に主機関出力を100%発揮できる
例えばサプライボートのように、ボラードプル運転から独航全力運転までするような船であっても、常に主機関の出力を100%プロペラに吸収させることができるため、スラストおよび独航船速共FPPに比べ優位である(3・62図参照)。
3・62図 CPPとFPPのスラスト比較
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(5)主機関で発電機を駆動することができる
CPP装備船では、主機関回転数を一定に保ち、プロペラピッチで操船することができるため、発電機を駆動することができる。燃費の節約、補機関整備費の節約が可能である。特殊な一例を3・63図に示す。
3・63図 主機関駆動発電機の一例
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(6)フェザリング式プロペラ
多軸船、帆走船、両頭船等で使っていないプロペラをフェザリング状態にすることにより、プロペラの遊転抵抗を減少させることができるため、燃費の節約ができる(3・64図参照)。
(7)微速運転が可能
主機関は最低回転数に限界があるため、FPPではプロペラを回転したままでOkt船速を得ることはできない。CPPでは翼角の操作でOktまで操作できる(3・65図参照)。
3・64図 プロペラのフェザリング
3・65図 翼角操作の一例
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(8)急速停止性能が良い
プロペラ軸の回転数を一定にしたままで、プロペラピッチにより後進にする操作時間が短いので、停船までの時間および距離が短かくなる(3・66図参照)。
3・66図 停船までの時間・距離の関係
(9)その他
(1)逆転機構不要
(2)主機関始動回数が少ない。
(3)過負荷防止ができるため機関部品の寿命をのばす。
(4)一方向回転のため、ハイスキュープロペラの採用が容易である。
(5)ねじり振動危険回転数域を回避して使うことができる。
2)欠点
(1)ボス比が大きいため固定ピッチプロペラより効率が若干悪い
ボス比は、固定ピッチプロペラでは、一体形は0.16〜0.18、組立形は0.22〜0.25程度であるが、可変ピッチプロペラでは普通0.26〜0.32程度であり、わずかではあるがプロペラ効率が低下する。ボス比による効率の変化については、固定ピッチプロペラに比べてだいたい1〜3%低下するということである。ただし船に装備する場合、固定ピッチプロペラは、回転数マージン及びシーマージンを見込み設計する必要があるので、実船での推進性能は、ほぼ同じか、むしろ可変ピッチプロペラの方が良くなることもある。
(2)価格が高い
固定ピッチプロペラに比較して構造が複雑であるので価格は高くなる。
しかし、これらは可変ピッチプロペラの装備によって機関室の省力化、合理化ができるとともに、操業能率の向上を可能にするので十分償い得るであろう。
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