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3. 応急修理と補修材料
 前項で機関各部ならびに付属機器類の部品交換、整備について述べた。しかしケース、軸、パイプ類等が、なんらかの原因によって急に亀裂したり、切損したり、摩耗をしたりすることがあるが、本船の操業予定から直ちにドックしたり、修理工場に持ちこめない場合、あるいは交換部品が間に合わない場合等がある。このような場合の処置としては応急修理をしなければならない。
 応急修理をする場合は、その対象物品の損傷の状況、個所、寸法等をよく観察検査して、手段を選ぶ必要がある。
 これら手段の一例として溶接、めっき、ろう付、接着剤(コードボンド、デブコン)、その他(ねじブッシュ、メタロック)等があげられる。
 
3.1 溶接
 シリンダブロック等に亀裂あるいは損傷が生じた場合、場所によっては、低温溶接による補修を行うことがあるが施工に際してはメーカおよび関係官庁と十分打合せを行い承認を受けると共に補修後、歪が発生していない事を確認した後使用せねばならない。
※ 溶接について
酸素アセチレン溶接および電気アーク溶接等は、法令で定めた免許制度になっているので、免許取得者以外は使用してはならない。
 
3.2 溶射
 溶射は各種部品の盛金を目的とし、主として緊急時の応急対策に用いられているが、実施に当っては慎重を要する。特に検査を要する部品は関係官庁と相談し、承認を受ける必要がある。
 使用例としては、とも廻り推進軸スリーブの摩耗再生等がある。
 溶射とは特殊なワイヤタイプのガンを用いて、酸素アセチレン焔により諸種の金属、合金を溶融噴射して母材に盛り上げること(メタライジングという)、又は自溶合金等の材料をパウダタイプのガンを用いて、溶融噴射し、さらにトーチで再溶融して、母材に盛り上げること(サーモスプレイという)である。
 特長としては
(1)加工物の表面加工温度を120℃〜150℃に調整できるので、母材のひずみを生じないし、組織の変化も起らない。
(2)被加工物と溶射材は同一材の必要はない。
(3)盛金の厚さは、0.1〜20mmくらい可能である。
(4)盛金の層は極めて微細な多孔状のため、軸受性能としても優れている。
(5)表面あらさは4S程度迄仕上可能である。
(6)溶射材の選定に依り、耐食性及び硬度が得られる。
(7)密着力は、約52〜108MPa(530〜1、100kgf/cm2)(剪断強さ)が保持されている。
 
3.3 めっき
 摩耗部分の再生、硬度保持又は向上、耐食性の向上等の方法として、硬質クロームめっきがある。クロームは摩擦係数が低いので、摺動部、シール部、油密部等に使用すると特に効果がある。
 クロームめっきの厚さは、仕上りで0.02〜0.2mm程度が妥当である。更に厚くすることもできるが非常に高価となる。
 
3.4 ろう付(鑞吹溶接)
1)ろう付(鑞吹)
 鑞付は、接着に余り強度を要求されない、振動の少ない、高圧、高温にならない様な管継手等の接着に多く使用される。この方法は二つの同種又は異種の金属を突合せ、その間に溶解温度の低い金属又は合金(鑞)を溶解させて接合を行う。この場合、接合された両金属は熱のため溶解されないが、その表皮の幾分かが接合金属に個体のままで溶融するので比較的強い接合が行われる。そのため、用いる鑞は母材の種類と、必要とする接合力の程度によって適当なものを選ばなければならない。鑞の中の溶解温度の高い物(500℃以上)を硬鑞、低いものを軟鑞と言う。
 硬鑞は溶剤とともに接合部に付け、吹管で吹いて鑞付するのが普通であるのでこれを鑞吹とよんでいる。又軟鑞、殊に「ハンダ」は「ハンダ鏝」で鑞付を行うのでこれを「ハンダ付」とよんでいる。
 
2)鑞の種類
 工業用の鑞には大体2・12表に示したようなものがある。また鑞の形状は粉末、薄片、板、線、帯、管等があり、用途によって適当なものを選定する。
 
2・12表 鑞の配合と溶融温度
  鑞の種類 配合 溶解温度(℃)
硬鑞 真鑞鐙 銅60 亜鉛40 880
黄鑞 〃54 〃40 840
白鑞 〃30程度 70 760
3分銀鑞 黄銅 3 銀 7  
5分銀鑞 黄銅 5 銀 5  
軟鑞 アルミニウム鑞   300〜350
ブリキ作業用鑞 鑞67 鉛33 182
鉛作業用鑞 〃34 〃66 250
亜鉛作業用鑞 〃40 〃60 237
 
3)溶剤について
 鑞付には接合部表面の酸化物を取り除き、かつ酸化物の発生を防ぐために溶融剤(フラックス)を必要とする。硬鑞付には一般に硼砂を用いる。ハンダ付に用いる溶剤即ち「半田液」は稀塩酸に亜鉛屑を溶かした液、塩化クローム、ペースト等を用いる。
 
3.5 メタロック
 鋳造部品が亀裂破損した場合、専門業者に依頼して修理する。
 2・181図のような形状の特殊合金鋼メタロック材を使用し母材にクラックを横切る方向に、メタロックと同じ形状の溝を掘り、母材厚さに応じ何段かに分けてメタロック材を挿入し、各段ごとにピーニングを行い母材と完全に密着させる。メタロック材の寸法および挿入数は母材の材質および肉厚、またクラック部に働く応力に応じて決定する。肉厚100耗程度までは母材の片面よりの加工で充分加工し得る。
 上記メタロックとメタロックの間には、亀裂線上に沿いメタロック材と同じ材質の2・182図のごときメタレース材を、互いに重ねるようにネジ込み上部よりピーニングし、油・水等の圧力部の漏洩を止めると同時に、クラック部に働く剪断応力に対し有効に作用せしめる。
 施工仕様はメタロック同様修理品の条件により決定する。
 
2・181図 メタロック
 
 
2・182図 メタレース
 
 上記2方法にて未だ強度不足を生じるような応力集中個所には2・183図のような高抗張力鋼の各種形状のブロックを嵌め込み周囲にピンを連続して打ち込みピーニングを行う。このマスタロックを更に加えることによって大荷重に耐えるよう施工できる。形状(リングロック、アングルロック等)材質等の仕様は修理条件により決定される。
 
2・183図 マスタロック
 
 以上3種類の組合せによりクラックの冷間修理が可能であるが、その他破損が非常に複雑な場合や破損片が小さく復旧困難な場合には該部を一部切り取って整形し、この欠損部分に相当する鋳造片または鋼板片(鋳鉄と鋼板との接合も可能)を挿入して接合し、完全に修理することが出来る。
 
3.6 穴埋め、肉盛剤
1)マリンテックス
 特殊合金微粒子配合のエポキシ化合物で船体の傷・金具を取外した後の穴埋め・隙間埋め・塩蝕電蝕部分の肉盛修理・排気管およびマフラの漏れ・燃料および水タンクの漏れ等の修理に使用する。
 アルミニウムと鉄・プラスチックと金属やグラス・金属と木やセラミックス等異質材料でも接合できる。
 
2)ベロメタル
 ベロメタルは、ガソリンタンク、オイルタンク、排水システム、水用配管、スチームライン、ラジエータ、温水タンク、空調ユニットなどの修理をするに際し、システムの中味を空にしないで数分間で補修することができる。ベロメタル急速型は、5分間で硬化し、油、グリースまたは水等で濡れている表面にも接着する。ベロメタルの耐熱温度は約300℃である。
 
3)デブコン
 デブコンは、鋳物製品の巣埋めから、各種治具の製作、簡易プレス型の製作、パイプの漏れ止め、タンクのライニング、更に船舶・車両・航空機等の応急修理材料として使用されている。
製品の種類は、内容により、次のようにわかれている。
(1)プラスチック・メタル〈金属粉配合エポキシ樹脂〉
 特殊加工したエポキシ樹脂に、約80%のごく微粒の金属粉を配合した複合材料である。金属粉の種類には、鉄、アルミ、アルミナ、ブロンズ、ステンレススチールなど各種のものがある。これらの主剤にアミン系硬化剤(毒性はほとんどなし)を混合するだけで、化学反応をおこし、常温短時間で硬化する。硬化後は金属に類似する固体となり、耐薬品性、耐摩耗性などにすぐれ、機械加工することも自由にできる。
(2)フレクサン〈室温硬化型特殊ポリウレタン樹脂〉
 室温硬化型の特殊ポリウレタン樹脂で、二液を混合することにより常温短時間でゴム状の弾性体となる。
(3)特殊接着剤〈エポキシ系〉
 エポキシ系の増力接着剤である。
 
4)スリーロイ
 スリーロイとは、優れた諸性質をもつエポキシ樹脂を配合したもので、合成樹脂ともいわれ、接着、充填、肉盛り、コーティング、ライニング、電気部品の埋込み、積層等広範囲な用途をもっている。
 機械的特性、耐化学薬品性、電気的特性、耐熱性に優れ、常温で使用できる。
(1)種類および配合率
スリーロイには、用途、目的により鉄系、アルミ系、真鍮系、プラスタ系、水晶系の5種類がある。
 スリーロイは、本剤および硬化剤の二種よりなり、本剤の種類によりそれぞれの硬化剤を混ぜ合せて使用する。
 使用に際しては表面の処理を完全に行う。即ち錆、油脂分、水分その他夾雑物を完全に除去する。方法はハンドグラインダ、ワイヤブラシ、サンドペーパ、サンドブラスト等にて脱錆し、金属の地肌を完全に出してからメチルエチルケトン、トルオール、シンナ、トリクロールエチレン等にて脱脂する。
 塗布は、刷毛、又はスプレガン等の使用が便利である。
 完全硬化には、12時間〜1週間を要する。
 なお、スリーロイは、一度硬化したものは、決して復元できない。







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