(3)減速装置
(イ)減速装置の目的
ディーゼル機関は、出力が同一ならば回転数を高くするほど小形軽量に設計できるので、船舶に搭載する場合機関室の広さや積荷量などの点で有利である。しかし、トルクが小さくなるので、このままでは大きなプロペラは廻わせず、従って漁船や貨物船に高速ディーゼルエンジンを使用しても実用にならない。そこで、トルクを大きくするため、或いは必要トルクを得るために機関の出力・回転数をそのままにしてプロペラ軸の回転数を低くするものが減速装置である。
なお、減速装置の減速比iとは次のように定義されている。
(ロ)減速機の種類と構造
減速機にはいろいろ種類があるが、私達に最も関係の深いものは、2)項で述べたように大小の歯車を組合せ、その歯数比によって回転数を変える「歯車式減速機」である。使用する歯車の種類(平歯車、ハスバ歯車、傘歯車、ウォーム歯車など)と歯車軸のトレイン(並べ方)等によって歯車減速機にもいろいろ種類があるが、現在舶用機関に使用されている減速機は「油浴式、一段歯車減速機」が主であり、歯車には強度や低騒音化の設計的理由により殆んどハスバ歯車が採用されている。このハスバ歯車は、歯の機構上推力の発生が伴うので、歯車軸受の組立やスキマのとり方などオーバホールの際には細心の注意が必要である。
(4)特殊減速逆転機
(イ)2機1軸形油圧クラッチ減速逆転機
2・170図に示すものは、同じ機関2台を1台の油圧クラッチ減速逆転機へ連結し大出力のプロペラを駆動する場合に用いられる。
また使用方法によっては片舷運転も可能であり368kW(500PS)以上の機関を2機1軸として使用する時等に用いられる。
(ロ)オメガパワーコントロール付油圧クラッチ減速逆転機
368kW(500PS)以下の機関用として開発された特殊な油圧クラッチ減速逆転機であり、オメガドライブ式クラッチを設けているほか補機類の動力取出し(P.T.O)軸を持つものである。クラッチをスリップさせ、プロペラ回転数を機関が高速運転中でも微低速まで自由にコントロールできる特長を持っている。
2・171図はオメガドライブ式油圧クラッチの機構を示したものであり、クラッチピストンに加わる油圧をコントロールすることにより、クラッチの伝達容量を変え、0〜100%スリップさせることができるようになっており、プロペラ軸の回転速度は摩擦係数や温度変化が生じても変らないようにしている。
2・170図 2機1軸形油圧クラッチ
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2・171図 オメガドライブ式油圧クラッチの構造
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その方法はオメガバルブに組込まれたオメガピストンの作動によるもので与えられた油圧におけるクラッチの結合度に変化が生じると、オメガピストンはプロペラ軸の回転速度の変化を遠心力として検出し、クラッチピストンに加わる油圧を制御してプロペラ軸の回転速度を一定に保っている。オメガパワーコントロール付油圧クラッチは航行時、トローリング時、あるいは曳航中において機関を高速運転状態にして固定減速比付クラッチと同じように運転できると共に、必要に応じ、可変減速比油圧クラッチとして用いることもできる。
2・172図は、368kW(500PS)クラスに用いられているオメガクラッチの断面を示す。潤滑油温の上昇を極力押えるため高性能なオイルクーラをケース下部に設けて潤滑油を冷却するようにしている。大形ではトルクコンバータを組合せたものが用いられている。
2・172図 オメガクラッチ断面図
(ハ)アングルドライブ式油圧クラッチ
アングルドライブ式油圧クラッチは2・173図に示すように機関の据付傾斜角度が大きくなり過ぎるような場合に用いる。図のように入力軸と出力軸は平行でなく、7〜10°位の角度を設け円錐歯車(コニカルギヤ)を用いている。プロペラ軸レーキの大きな小形高速艇などに有効でありこのほか2・174図に示すような入力軸と出力軸が同じ側となっているVドライブ式のものもある。
2・173図 アングルドライブ式油圧クラッチ
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2・174図 Vドライブ式油圧クラッチ
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(5)点検と整備
(イ)クラッチ
クラッチの点検項目と整備方法については、摩耗量等、各メーカにそれぞれ限度基準があるので、これに基づいて点検し、使用限度を超えるものは部品を交換する。
スチールプレート、摩擦板の焼き付き、はくり、転移(相手板の一部が付着する現象)がある場合、目視で確認し、軽度のものは手入れする。
スチールプレートのそり量・変形量及び摩擦板の変形量はスキミゲージを使って定盤上で計測する。
スチールプレート、摩擦板の摩耗は、ノギスで厚さを測定し調査する。
スチールプレート、摩擦板のスプラインに摩耗欠損がある場合、摩耗の軽度のものは相手スプラインと噛合せ、バックラッシュ量を点検する。スプラインの歯の一部欠損はメーカと協議のうえ処置する。
ピストン、およびクラッチドラムの摺動面に強い当りや掻き傷がある場合、相手側部品も調査しその原因となる部分を油砥石等で修正する。
Oリング、Vリングの変形、摩耗は2・175図に示すように、リングを溝内に入れ締め代が十分あるか否かの確認を行うが、分解時は新品と交換する。
2・175図 シールリング
クラッチ油通路部のシールリングの摩耗は外周、側面の摩耗が滑らかな場合、シリンダ側に入れ、シールリング突合せ部のスキマを調査し判断する。面にカジリがある場合はシールリングを新品と交換する。
ピストン戻しバネのヘタリはノギスでスプリングの全長を測定し判断処置する。
(ロ)軸受
ころがり軸受内外輪のはめ合い部に傷や摩耗がないか点検し、軽度の時は油砥石等で傷を修正し、軸あるいは外輪嵌合部に傷があればヤスリ等で修正する。
ころがり軸受はメーカの定めた使用時間毎に新品と交換する。メーカの定めた使用時間内での分解時には、手で回してみる他、ボール、ローラの転動面を点検し、異常を発見した場合は、新品と交換すると同時にメーカと協議して再発防止対策を立てる。
(ハ)油ポンプ
油圧ポンプは性能上、精度の高い部品の相関関係で全体の精度を保っているので内部に損傷が認められる場合は仕組みで新品と交換する必要がある。
シール部品については分解点検した場合にはOリング、パッキン類を必ず交換する。
オイルストレーナは定期的に点検し、洗浄する。破損個所はハンダ付け、その他の方法で修復するか交換する。
ケーシング、サイドカバー内面の掻き傷、摩耗については軽度のものは油砥石で修正する。
歯車のピッチング、摩耗については軽度のものは油砥石で修正する。
軸受部の摩耗については軽度のものは軸をサンドペーパで仕上げし、軸受を新品と交換する。
クラッチ減速機または油ポンプを分解した時は試運転時に作動油圧と潤滑油圧を確認する。
(ニ)歯車
次に揚げた各現象について極く軽度のもの以外はメーカと協議の上適切な処置が必要である。
歯当り面積が極端に狭く、片寄っている場合には歯車組立上の問題がないか調査、修正する。
歯面に局部的な強い当りがある場合は、歯面コーナ部等の強い当りをグラインダ等で除去したのち油砥石で修正する。
歯面にピッチング、圧痕、欠損、異常摩耗が認められた場合、軽度のものは油砥石で除去して丸める。
歯面にスコアリングが発生した場合、軽度の時は歯先、歯元を油砥石で修正する。
歯面、ボス等に亀裂が発生した場合には、カラーチェックで亀裂の程度を確め、軽度のものはグラインダで除去する。又亀裂の残る場合は交換する。
歯車組付部にフレッティングコロージョンが発生した時は、組付部のゆるみがないように締付けを十分行い、ゆるみ止めを施す。
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