日本財団 図書館


2)弁案内
(1)構造と機能
 弁案内は吸排気弁シートの着座位置が変らないよう位置決めすると共に、弁からの熱を放出する役目をしている。
 弁棒と弁案内の間隙が大きすぎると着座位置が定まらず弁座の密着が不完全になる。排気弁の場合間隙が広すぎると燃焼ガスがこの隙間を通って漏出したり、弁案内への伝熱が悪くなり、弁が過熱したりする。吸気弁の場合には間隙から潤滑油が吸気中に吸い込まれ消費量が増加する等の障害が生ずる。これを防止するため2・57図に示すようなバルブステムシールが取付られている。一般に隙間を通っての漏気量は隙間の3乗に比例し、長さに逆比例するので、摩耗等が漏気量の増加に及ぼす影響は非常に大きくなる。反対に間隙が小さい場合、冷却は良好になるが熱変形による焼付の危険があり、常に適当な間隙を保持しなければならない。また最近では弁案内内面にねじ加工を行い耐摩耗性の向上と弁の焼付を防止しているものもある。
 小形の低速機関では弁案内を直接シリンダヘッドとする場合もあるが、一般には摩耗時の交換を考慮して、ねずみ鋳鉄等の弁案内をヘッドに圧入している。
(2)点検と整備
 運転中の熱により弁棒が膨張するためその分を見込んで適正なスキマが得られるように設定されている。弁案内の摩耗によりスキマが限度以上に多くなるといろいろな不具合を生じるため弁案内、内径を2・58図の3箇所でA、B方向に小径のシリンダゲージを用いて測定し、整備基準に示す限度以上になっている場合は弁とともに弁案内も新品に交換する。弁案内内壁に縦傷やその他損傷がないか点検する。弁案内に弁棒を入れて、軽く上下に円滑に動き、左右のガタが少なければ良い。
 なお、ステムシールは、弁案内から分解した場合は必ず交換する。
 
2・57図 オイル下り防止
 
 
2・58図 弁案内内径計測位置
 
3)弁腕(ロッカアーム)
(1)構造と機能
 2・59図に弁腕の構造を示す。弁側の潤滑油は弁腕上面にあけた油孔からの間欠注油がアームを伝わり弁棒に達する。弁押棒側は、弁腕軸より弁腕の下側の穴または弁間隙調整ねじ中心に潤滑油が供給され弁押棒両端部を潤滑する。
 弁腕には曲げモーメントが働くので、機械的強度、剛性を十分有するとともに軽量であることが必要である。弁押し棒又は弁棒端(バルブステムエンド)との接触部は点、線あるいは面であり、両者が直角に接触する時以外はすべりが生ずるので接触部は焼入又は、チル硬化によって硬度が高められている。従って弁腕の材料としてはパーライト可鍛鋳鉄、または鍛造材等を使用し、弁との接触部には表面硬化処理を施してある。
 
2・59図 弁腕
 
(2)点検と整備
 弁棒端との接触面を点検し、段付き摩耗、条痕のある場合は、油砥石またはグラインダで曲面を正しく修正する。ただし摩耗が著しく修正量が大きくなる場合は必ず交換する。
 弁腕軸受メタルの摩耗を点検する。メタル内径をシリンダゲージで測定し、軸との間隙が、メーカの指示した使用限度以上の場合は、メタルまたは、弁腕ごと交換する。
 また、弁腕軸の外径をマイクロメータで測定し、使用限度以上に摩耗している場合は交換する。
 弁腕軸の曲りをダイヤルゲージで測定する。曲りの有るものは交換する。
 
4)弁ばね
(1)構造と機能
 弁ばねは、弁と弁座を密着させ、圧縮、燃焼によるシリンダ内の圧力より高い密封圧力を弁座の当り面に与えると同時に、機関最高回転速度時においてもカムの運動を忠実に弁に伝え、弁腕、弁押し棒を介してタペットがカム面から離れぬようにする。
 ばね力が不十分の場合、弁の運動がカムのリフトどおりに作動せず弁の開閉時期に狂いを生じ、機関出力の低下原因となる。またタペットが急激にカム面と衝突し打音を発生することもある。逆に、弁ばね力が強すぎる場合弁座シートおよび弁シート面の摩耗、損傷を早めることになるので、弁ばねの設計には十分な考慮がはらわれている。弁ばねは、通常円形断面の鋼線を巻いたコイルスプリングを用い、1個の弁に対して1個または数個取付けられている。
 最近の高速機関には高速回転時の弁のおどり、およびサージング等の異常現象を防止し、弁系統の耐久性向上、騒音の低減などに効果のある多重スプリングおよび2・60図に示すような不等ピッチスプリングが使用されている。
 弁ばねの材料として通常使用されるのはピアノ線オイルテンパ線などである。ピアノ線は冷間加工硬化した素材から製作されるが、オイルテンパ線は成型後熱処理を施して使用される。
(2)点検と整備
 弁ばねの外観を目視で点検し、腐蝕、傷、折損の有無を調べ少しでも異常があるものは交換する。又弁ばねのばね力および自由高さをスプリング・テスタで測定し、メーカの指示する使用限度を超える場合には必らず交換する。
 定盤上に弁ばねをのせ、直定規を当ててタオレを測定し、メーカの指示する使用限度以上の場合は交換する。
 
2・60図 不等ピッチスプリング
 
5)バルブローテータ
(1)構造と機能
 弁と弁座のシート面の当たりを、全周にわたり、まんべんなく当らせ、シート面の偏摩耗を減少させるため弁が運転中、回転するようにバルブローテータが用いられている。構造の一例を2・61図に示す。
 
2・61図 バルブローテータ
(拡大画面:22KB)
 
(2)点検と整備
 運転中に弁腕室フタをはずして弁の回転状況を点検する。
 分解状態では、弁頭の弁腕当りを目視して作動の良否を判断する。不良なものは仕組で交換する。
 
6)弁押し棒(プッシュロッド)
(1)構造と機能
 タペットの上下(往復)運動をなめらかに弁腕に伝える働きをする。弁押し棒には慣性力およびばね荷重が働く。高速回転時には荷重が大きくなるので圧縮荷重に対する十分なる強度が必要であると同時に剛性を高め変形量を少なくする必要がある。変形量が大きいと、回転数により弁開閉時期が変化し、高速時の吸・排気効率が低下したり、弁のおどりが発生し、吸入効率の低下、騒音その他の不具合が発生する。
 このほか、慣性力を小さくするため重量を軽くし、また機関の過熱、過冷に対する熱膨張の少ない材料を使用することが望ましい。したがって形状としては径を大きく長さを短くした中空の構造となる。また機関作動時の温度で熱膨張による弁間隙の変化を少なくするためシリンダブロック、シリンダヘッド、弁腕軸受部の熱膨張による長さの増大量と弁押し棒および弁の熱膨張による長さの増大量に大きな差を生じないよう材料ならびに長さが考慮されている。
 形状は、前述のように中空丸棒となるが、2・62図に示すように両端の形状は球面が多く用いられる。球面の形式には弁腕側を凸球面とするか凹球面とするかの2種があり、後者は弁腕に弁間隙調整ねじを設けるにも潤滑油供給にも都合が良いので多く用いられている。
 弁押し棒の材料は、鋳鉄製シリンダブロックの場合は、一般に機械構造用炭素鋼管が用いられ、その両端は衝撃荷重を受けるため、CrMo鋼で作った前記球面部品を焼入れし、弁押し棒両端に溶接している。
 
2・62図 弁押し棒の形状
 
(2)点検と整備
 弁押し棒を定盤上に置き、転がしながらスキミゲージで曲りを測定する。曲りが使用限度以上の場合は修正する。また弁押棒両端の球面部分の偏摩耗についても点検する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION