2.3 動弁装置
吸・排気弁を適当な時期に開閉させて空気の吸入および燃焼ガスを排出させる装置で2・51図に示すように吸・排気弁、バルブブリッジ(4弁式)弁腕(ロッカアーム)、弁押し棒(プッシュロッド)、タペット、カム軸、カムギヤ、中間ギヤ、クランクギヤ、クランク軸などから成り立っている。
2・51図 カム軸駆動装置
(a)カム軸駆動装置
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(b)動弁系
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1)吸排気弁
(1)構造と機能
弁は、弁機構により開閉され、空気を吸入し燃焼ガスを排出する。また、シリンダ内の気密を保つ機能をもっている。一般の4サイクルエンジンに使用されている吸気弁形状は、吸気ポートの形状と関連し、吸気抵抗が小さいことが望ましい。また排気弁材料は弁が600℃〜800℃程度の高温になるため、熱伝導がよく、高温に対する耐久性の優れた材料が望まれる。一般にはキノコ弁(ポペットバルブ)が広く用いられているが、キノコ弁は傘部の形状によっていろいろな名称が付けられている。マッシュルームタイプはSAEの標準型で、中心部の強度を考慮し、ヘッド部を球面としている。この形式の弁は主に低速ディーゼルエンジンに用いられるが、重量および受熱面積が大きくなるのが欠点である。
また、フラットヘッドタイプの弁は、マッシュルームタイプの欠点を除き、製作も容易で最も広く用いられている。排気弁は吸気弁と異なり、絶えず高温の排気ガスにさらされるため、特に高温強度が要求される。
弁の数は一般には吸気弁、排気弁を各1個ずつもつ2弁式が多いが、特に高速性能や高出力を望む場合、充填効率を高めるため3弁式あるいは4弁式が採用される。4弁式の場合、2弁式に比較して弁の総開口面積は30〜40%増加するが、弁の総重量は10〜15%増加するほか、弁装置が複雑化する欠点がある。
燃焼ガス温度は瞬間的には2,700℃にも達し、この温度は鋼の溶融温度(1,500℃)よりもはるかに高いので、弁は高温時強度低下の少ないクローム鋼、オーステナイト鋼などの耐熱鋼が使用される。耐熱鋼は加熱しても成型加工が難しいため、型打鍛造、押出し加工などにより成形後、バルブシート面、弁棒部、ステムエンドなどにラップ仕上げを行い衝撃荷重のかかる部分に対し強度が減少することのないよう配慮されている。
なお最近の機関には弁シート、弁座シートおよびステムエンドに耐摩耗性を高めるために2・52図に示すように硬度の高いステライトを溶着したものも多く採用されている。
2・52図 バルブ各部の名称
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(2)点検と整備
弁シート部の亀裂、欠損、シート面の当たり、傘部付け根付近の曲り、亀裂、弁棒の摩耗腐蝕、スティック、その他カーボン付着状態、弁止環部のまくれ・へたり、腐蝕亀裂などを点検する。
(イ)弁軸の摩耗、腐蝕、スティック、曲り
弁案内部と弁軸部の組立スキマは重要であり、このスキマを知るために弁案内内径の測定位置に対応する弁軸径をマイクロメータで計測する。弁軸の摩耗が限度を超えるもの及び弁案内内径との組合せスキマが使用限度以上の場合は弁及び弁案内の両方を新品に交換する。
弁棒外周面の点蝕や腐蝕のひどいものは交換する。又スティックやかじりなど、軽度のものは細かなサンドペーパなどで修正する。当りの強いものは曲がりの恐れがあるので曲りを点検する。
(ロ)弁傘部の亀裂、欠損および弁止環部のへたり、まくれ亀裂
目視又はカラーチェックで亀裂欠損などの有無を点検し、亀裂欠損のあるものは新品に交換する。弁止環部のへたり、まくれはヤスリなどで修正する。
(ハ)弁シート面の当り、摩耗、吹抜け
弁シート面の段付摩耗およびガス吹抜け等軽微なものはバルブリフェーサを用いて研削修正する。なお2・53図に示すバルブマージンが使用限度を超えるものは新品に交換する。吹抜けのひどいものやシート面の亀裂、はくりのあるものは交換する。弁シート面の当りの悪いものは摺合せが必要である(2・54図参照)。
2・53図 バルブマージン
2・54図 弁・弁座の当り幅
(ニ)弁座面の当り
弁座面に傷、異常な段付き、吹抜けがみられる場合は、バルブリフェーサで修正する。弁座面の摩耗については弁座、シリンダヘッド弁座金(インサート)部ともに総合的な判断をする必要がある。
弁座シート面などにカーボンが噛み込んでいる場合はカッタが滑ったり、カッタを損傷することがあるためヤスリ又はサンドペーパなどでシート面を研磨してからカッタを使用するとよい。
(ホ)弁座シート面の摺合せ
弁と弁座は2・54図のように弁のシート面中央部に弁座のシート面が当り幅1.5〜2.0mm程度で当るようにする。弁シートの上端や下端部に弁座シート面が当る場合は弁座をカッタで切削修正する。(2・55図参照)
弁座シートの摺合せは弁シート部にラッピングパウダを塗布し、工具を使用して弁を回転させて摺り合せする。なお最近の高速機関には弁および弁座シートにステライト盛りしたものが多く使用されているので、この場合は弁を回転させて摺り合せるとシート面に傷がつくので弁を弁座に叩きつけながら摺り合せねばならない。
2・55図 弁シートの修正要領
仕上げは潤滑油で油摺りをして終る。最後に青ペン又はベアリングレッドをうすく弁シート面に塗布して強く弁座へ叩きつけ弁座シート面へ転写した青ペン又はベアリングレッドの付着状態により、当りの点検をする。2・56図にその一例を示す。なお弁の摺り合せは機関の使用時間や負荷の程度、燃焼状況、燃料中の硫黄分の多少により変るが定期的に年1回程度実施することが望ましい。
2・56図 弁座の当り
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