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3)連接棒
(1)構造と機能
 連接棒はピストンピン部に連結される小端部とクランクピン部と連結される大端部およびこれを結合する桿部より構成されており、小端部はピストンに、大端部はクランク軸にそれぞれ連結され、ピストンの往復運動をクランク軸に伝え回転運動に変える役目をしている。又連接棒は機関部品の中では最も大きな変動荷重(圧縮、引張りの繰返し)を受ける、曲げ作用も働き熱や振動も加わるため、中高速エンジンでは桿部断面がI字形の型打ち鍛造品(炭素鋼鍛鋼品:ニッケルクローム鋼など)を用い、鍛造後熱処理を施し、十分な強度をもたせている。なお、低速エンジンではフリー鍛造で多く作られている。中高速エンジン用連接棒の形状および構成の1例を2・34図に示す。
 
2・34図 連接棒
 
 連接棒ボルト(ロッドボルト)もまた最も苛酷な繰り返し応力を受ける部分であるから、ニッケルクローム鋼、またはクロームモリブデン鋼等の強靱な材料を使用している。
 連接棒の小端部には燐青銅製のピストンピンメタル(ブッシュ)が挿入されており、ピストン頂面で発生する爆発圧力をピストンピンを介して受けている。
 大端部はクランクピン部と連結され、2つ割りの薄肉精密メタル(クランクピンメタル)でクランクピンを握り、連接棒ボルトで締め合わされている。
 クランクピンメタルはスチールの裏金に銅鉛合金(ケルメット)を溶着又は焼結し、表面に錫鉛合金をオーバレイしたケルメットメタルが多く使われている。
 連接棒ボルトはエンジンの内では最も重要なボルトで、その締付加減は非常に大切で必ず指定の締付トルクで締めるようにする。
 連接棒の大端部は、2・34図に示すように斜め割りにしたものと、水平割りにしたものとがある。最近の傾向として中高速高過給機関はクランクピン径を太くしているため斜め割り大端部を採用し、整備時ピストンを上部に抜出し可能にしている。又桿部の中心にピストンピンの潤滑油及びピストン冷却用の油孔を設けたものもある。
(2)点検と整備
(イ)連接棒とキャップ
 連接棒の桿部と小端部ならびに大端部の付け根およびセレーション部などの亀裂の有無をカラーチェック又は磁気探傷法で点検する。
 連接棒の曲りや両端の軸受メタル穴の平行度を点検する。桿部に曲りのあるものは交換する。小形の連接棒は両端部の軸受メタル穴へそれぞれマンドレル(模範)を挿入し、2・35図に示すようにしてダイヤルゲージを用いて平行度を点検する。大形になるとマンドレルが無いため実際のクランク軸とピストンピンを利用して測定する。なお、ウォータハンマや焼付事故を起した場合は必ず曲りや平行度を調べ異常のない事を確認した後使用すること。
 小端ブッシュ内面の損傷などを点検すると共にブッシュが回転していないか(油孔がずれていないか)点検する。ブッシュが回っている時はブッシュを交換する。またブッシュの摩耗しやすい位置は2・36図に示すAの矢印箇所であり、ブッシュ内径を測定する時はこの方向Aとこれに直角方向Bを測定する。摩耗量が使用限度を超えている場合はブッシュを交換する。
 大端ハウジングはクランクピンメタルを取外し、裏金が密着するハウジング内面を点検する。勿論キャップ側についても同様に点検する。叩かれた痕跡や油焼けが見られるものは変形していることがある。次いでキャップを規定トルクで締付けシリンダゲージで穴の内径を2・37図のA、B又はA、B、C方向で測定し、真円度が使用限度を超えているものは変形しているため交換する。
 
2・35図 計測方法
 
 
2・36図 小端ブッシュ内径計測
 
 
2・37図 大端ハウジング内径計測方向
 
(ロ)クランクピンメタル
 メタル摺動面の当たり、摩耗、損傷、腐蝕、異物埋没、亀裂や剥離などについて点検し、程度のひどいものは交換する。またメタル背面の当たり、叩かれ、油焼けなども点検する。メタル合せ面に叩かれた痕跡のあるものは締付力の不足やボルトの伸びなどによることがある。(個々の例を2・26図から2・33図に示すので参照方)
 次いでメタルの摩耗量を計測する。これは大端ハウジング内へメタルを組み込み、キャップを規定トルクで締め付け、シリンダゲージを用いて、ハウジング内径測定位置(2・37図)と同位置同方向で内径を測定する。摩耗やクランクピンとのスキマが使用限度を超える場合はメタルを交換する。なお、一般にケルメットメタルの場合、オーバレイが1/3以上摩滅したものは交換する。
(ハ)ロッドボルトおよびナット
 連接棒ボルト(ロッドボルト)およびナットは亀裂の有無を磁気探傷法により調査すると共に外観上の点検で異常が認められなくてもメーカの指示する使用時間又は分解回数に達したものは交換しなければならない。勿論交換時間に満たない場合でも曲りやネジ部にへたりが認められたり、ボルトが伸びたものは交換する。これは繰返し応力により材料が疲労限度に到達し、破損が予想されるためである。そのほかピストン、ライナの焼付き事故を生じたもの、クランクピンメタルの焼付き事故ならびにオーバラン事故を生じたものについては修復時に必らずロッドボルトおよびナットは交換しなければならない。







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