3.2 プロペラトルクリッチ対策
船舶は、就航後の船体の汚損、主機関の汚損、プロペラ汚損などの経年変化によって、主機関回転速度が低下し主機関のトルクが過度になり、所謂トルクリッチの状態になることがある。これを通常プロペラが重くなったと言っている。この対策として、プロペラ設計時に予め経年変化を考慮して、プロペラ回転速度マージンを付ける手法が約30年前から行われている。
主軸回転速度回復のためのプロペラの修正量としては、プロペラ効率に影響を及ぼさない範囲で工事を行うが、プロペラ翼後縁側ウォッシュバック修正による方法の場合、回転速度で3〜5%が多い。プロペラ直径カット法の場合、プロペラ回転速度で3〜5%(プロペラ直径で5〜7%)が多い。プロペラ翼を捩りピッチ修正する方法は小型プロペラで行われている。
1)プロペラが重すぎる場合
海上試運転で、プロペラをまわした際に、機関の排気温度が高くなって、定格回転速度まで回転を上げることが危険になる場合がある。すなわち、この時には、規定の回転速度まで回転を上げることができない。
この原因としては、プロペラのピッチが大きすぎて、プロペラをまわすに必要とされるトルクが予想外に大きいことにある。
また、このようにピッチが大きくなりすぎた原因は、船の馬力と速度の推定に誤りがあったか、伴流係数の推定が不適当であったかのいずれかにある。
この対策としては、プロペラのトルクを小さくする為に次の三つが考えられる。
(1)翼断面形状を変更して、プロペラの有効ピッチを減少させる。
これは7・13図に示すように、翼断面の後縁の圧力面側をけずりとって、ウォッシュバックをつける方法で、有効ピッチが減少し、若干プロペラの回転速度を上昇できる。
この場合、プロペラの静的バランステストを省略することがある。翼後縁側ウォッシュバック加工時には各翼の加工切削量が均等になる様に切削し各翼の切削量の重量を計測して、各翼の重量バランスを確認する。
7・13図 翼断面形状の変更
(2)プロペラ直径をカットする
直径が小さくなれば、ピッチが同一であっても、プロペラを同一回転速度でまわすに必要とするトルクの量は著しく減少し、同一出力における回転速度は上昇することになる。
プロペラ直径カット量によっては、プロペラ性能が低下し従って船速が低下することがあるので、直径カット量の決定に当っては十分留意のこと。
(3)プロペラ翼を捩る
この方法はプロペラの翼根部をソフトバーナなどで加熱し、翼先端に治具を固定し油圧ジャッキなどで、翼を捩りピッチを減少させ、翼を永久変形させる。
この場合、捩り修正作業時は、プロペラ加熱温度管理に十分留意し、プロペラ材質に影響を及ぼさない温度(高力黄銅の場合500〜800℃、アルミニウム青銅の場合750〜950℃程度)とする。
2)プロペラが軽るすぎる場合
この場合、海上運転時の定格回転数における機関の排気温度が低くすぎて、計画の馬力を発生することができない。従って船は計画船速を出すことができない。この原因は、プロペラピッチが小さすぎることにある。この対策には、良い方法はなく、ピッチがあまりにも小さすぎる場合には、新たにプロペラを設計しなおして、換装するより他に適当な方法はない。
また、プロペラが重すぎたり、軽るすぎたりする場合に、特に小型プロペラで修正する目的で翼をハンマで叩いて、ピッチの加減をすることは賢明な策ではない。ハンマで叩くだけで、各翼を同一ピッチに修正することはできない。もし、各翼の間にピッチのアンバランスが生ずると、運転中に振動の原因となるので留意のこと。
プロペラピッチ、回転数、および直径との相関関係は近似的に次のようにいえる。
回転数1%(min-1)はピッチで約1.5%に相当する。
プロペラ直径(D)とピッチ(P)の和は一定である。
D+P=一定
(1)プロペラ翼面のき裂の有無の確認。
通常型プロペラの場合、プロペラ前進面側の翼根元部のカラーチェックなどの非破壊検査を行い、き裂が検視された時は、き裂の深さを確認しながら、スムースに加工修正する。ただし、検査官と協議、立会いの上施工しなければならない。
(2)ハイスキュプロペラの場合
上記の翼根元部の精査は勿論のことであるが、ハイスキュプロペラの場合、翼後縁側の0.6〜0.8R付近に最大翼応力が発生する個所があるので、その付近のカラーチェックを行い、き裂の有無を確認する。き裂が検視された場合は、検査官と協議し、対策を行う。
(3)プロペラの曲損、欠損の確認
プロペラの曲損、欠損が発見された時には、プロペラの補修に記した要領で工事を施工する必要があるが、船級協会によっては、0.7R以下の位置での新しいピースによる切継ぎ溶接を認めていないので、工事を行う際は検査官と十分協議をする必要がある。
(4)プロペラの翼面は、海洋微生物による汚損によって生じる翼面粗度の変化、自然損耗によるプロペラの翼面粗度の経年変化、キャビテーションによって生じるプロペラ翼面粗度の変化などによって、肌荒れ状態の場合は、プロペラ効率に影響を及ぼすので、翼面研磨が必要である。
(5)プロペラボスをプロペラ軸から引抜く場合の加熱温度は100℃を超えないこと。
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