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2)電子ガバナシステムと機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナ
株式会社 赤阪鐵工所
 
1. はじめに
 回転速度制御に使用されるガバナの仕様は、設定回転速度とガバナ出力に応じて設定されます。舶用機関の分野では、小形の高速機関から大形2サイクル低速機関まで幅広く、使用する用途によって各メーカーが独自に開発を進めています。
 当社4サイクル低速機関に搭載されるガバナは堅牢で信頼性の高い油圧ガバナが多く採用されていますが、近年の2サイクル大形機関のように低回転(例:UEC60LSIIの連続最大回転速度は105min-1)での制御になると、減速運転時や、出入港時の微速回転領域で回転制御を行う場合、機関駆動付での負荷の増減が激しい場合等、油圧ガバナでは回転制御が難しくなってきました。また、乗組員の少人数化に対処する為にメンテナンスフリーを含めコンピュータ制御による電子ガバナを搭載する機関が増えてきました。
 当社においても、UE機関を始めとして、特殊用途の4サイクル機関に電子ガバナを採用するケースがあり、UE機関、4サイクル機関を含めて累計約70台以上の実績を有しています。
 
2. 電子ガバナシステムの概要
 電子ガバナシステムはアクチュエータの動力源の種類により全電気式、電気油圧式、空気式に分けられます。当社UE機関で採用しているタイプは全電気式です。基本システムは図−1に示すようにガバナコントローラ、ドライバ、アクチュエータ、回転速度検出器の4つの装置で構成されています。
 
図−1 電子ガバナ系統図
 
3. 電子ガバナシステムの特徴
1)最適制御
 PID定数などの制御パラメータを運転状況に応じて自由に設定変更出来ます。最適モードの運転が可能であり、広い回転域及び負荷領域で安定した制御ができます。
2)燃料制限
 機関の過負荷運転防止の為の、トルクリミッタ、掃気圧リミッタ、始動時用リミッタを装備することにより燃料の過剰投入を抑え、黒煙の発生が軽減されます。
3)モニタリング
自己監視機能により、制御の状況が監視できます。異常が発生した場合は故障箇所を表示して、早期に故障対策が行えます。
4)データの設定
 制御パラメータの設定値をテンキーにより任意に数値入力出来るため、運転中に最適な調整が出来ます。
5)保守
 全電気式のため、保守点検が容易です。DC電源タイプはブラシの掃除が必要ですが、今後標準として採用されるAC電源タイプはブラシレスで更に保守が容易です。また、油圧ガバナには必要な駆動装置が不要なため、アクチュエータ設置箇所の自由度が向上します。
 
4. 機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナ
 低中速4サイクル機関に於いては、2サイクル機関に比較して回転速度が高く油圧ガバナが一般的に採用されています。この度、遠洋漁業実習船(A34CFD形1618KkW×310mim-1)の主機関に搭載するガバナとして、電子制御式で且つ機械式バックアップ機構を有することを指定されました。これは実習船として電子ガバナを体験できるようにするためです。以下をコンセプトに選定しました。
 
1)高い信頼性と多数の実績を持つガバナであること
2)幅広い制御と敏感な追従性能を兼ね備えたガバナであること
3)バックアップ機構が単純であるガバナであること
 これらのことから日本ウッドワードガバナ製の機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナを採用することに致しました。
 以下に製品の紹介を致します。
 
機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナの電子制御側の要目及び仕様
メーカ 日本ウッドワードガバナ(株)
コントローラ 723Plus(アクチュエータ PGA−EG12)
速度検出器 電磁ピックアップ
アナログ入力 速度設定 DC20〜4mA/ラックMin〜Max
アナログ出力 フィードバック表示 主機回転信号0〜400min-1/DC4〜20mA
消費電力 DC24V 約40W
 
5. 機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナシステムの特徴
 このシステムの最大の特徴はシステム内部に電子式制御部と機械式制御部を併せ持つところにあります。通常の制御は電子式制御部で行い、万一故障した場合は、自動的に機械式バックアップに切り替わって運転を継続できます。このため、万一の場合でも航行に支障をきたしてはいけない特殊船や客船等に数多く使用されています。機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナシステムの使用例で最も有名なのは、クィーンエリザベスII世号に搭載されたものです。
 
6. 機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナシステムの概要(図−2)
1)電磁ピックアップ(MPU)による速度検出
 フライホイール外周部に設置された二系統の非接触形ピックアップで回転信号を検出しており、一方のピックアップが故障しても運転が可能となっています。
2)デュアル制御機能
制御機能(PID)を2種類持たせることで、機械式制御ではむずかしい低速回転域での安定性が優れています。
a)機能1:クラッチ脱で作動
 無負荷時のハンチング防止及び、機械式からの切り替え時、回転速度の落ち込みを抑えます。また、クラッチ脱時の機関回転の飛び上がりを抑えます。
b)機能2:クラッチ嵌で作動
 負荷時のハンチングを抑え全負荷領域での安定運転を行います。
3)速度変化に対するガバナの追従性が良好
 低ゲイン領域を設けてあり、速度変化が少ない場合には反応を抑え、大きな速度変化があった場合にはすばやく反応するウインドウ機能を持たせています。
4)バックアップ用速度設定
 電子式が故障した場合、機械式により運転を継続できる機能です。単に機械式バックアップと言っても、電子式使用時には常に電子式の入力を若干(5%)嵩上げしたところを推移していなければバックアップになりません。また機械式の方も時には確認が必要となります。そこで機械式は電気―空気式で行い、機側運転時は機械式を採用しました。機側運転時には電子式の入力は最大値としておき、遠隔運転になると自動的に電子式の信号を下げてから機械式を嵩上げするように構成しています。
 
図−2 機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナ系統図
 
5)不具合警報
 ガバナの不具合であればその不具合原因を特定して警報します。速度設定入力値異状、速度検出値異状、コントロールユニットの異状等を出力します。その他機関回転速度や燃料ポンプラック位置などの常時監視が行えます。
(図−3)
 
図−3 ガバナコントローラ(723 Plus)の外観
 
7. おわりに
 今回紹介した機械式バックアップ付電子制御油圧ガバナは機械式油圧ガバナに電子頭脳が取り付けられた高度なシステムになっています。船舶の用途に応じた機関開発とともにガバナシステムも進化しています。当社は今後も船の要求仕様、お客様のご要望にお応えできる最適なガバナシステムを提案させていただきます。







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