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はじめに
 市町村合併特例法の期限切れまでに残すところ2カ年と迫った今日、全国各地で、地方分権の具現化をにらみながら、市町村合併への模索が懸命になされている。また、地域の個性・特性の明確化や自立性・主体性の確立を目指して、地域の様々な資源の利活用、パートナーシップを基本理念に据えた地域づくり・まちづくりの推進が、住民の意識・生活、生活基盤、産業経済などの動向を踏まえつつ、取り組まれているところである。しかしながら、市区町村、広域市町村圏、都道府県など地方自治体は、産業経済や財政事情が深刻さを増しつつあるため、新たな施策づくりにあたってはかつてないほどの厳選主義で臨まざるをえなくなっており、また、既存の施策についてもスクラップアンドビルドを原則にせざるをえなくなってきている。
 当機構では、地方自治体が直面する様々な課題の解決に資するため、一つは全国的な視点から、一つは具体的な地域の実情に即した視点から、できるだけ多角的・総合的に課題を取り上げ、研究に取り組んでいる。本年度は7つのテーマを具体的に設定し、研究した。本報告書は、このうちの一つの成果を取り纏めたものである。
 本研究の対象地域である椎葉村は、九州山地に囲まれた典型的な中山間地域であり、かつては林業を中心に発展していたが、近年では産業構造の変化や少子高齢化の影響等により、急速に過疎化が進み、地域の活力低下が懸念されている。しかし、地域には、豊かな自然や山村独特の伝承文化など地域固有の地場資源が多く残っており、これらを活用した地域活性化の可能性を秘めている。
 本研究では、こうした地場資源の活用による地域活性化の可能性について観光・交流及び特産品開発の両面から検討したものである。
 本研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員各位をはじめ、関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
 また、本研究は、競艇の交付金による財団法人日本財団の助成金を受けて、宮崎県椎葉村と当機構が共同で行ったものである。ここに厚く感謝する次第である。
 本報告書がひろく地方自治体の各種課題の解決と施策展開の一助となれば幸甚である。
 
 平成15年3月
財団法人 地方自治研究機構
理事長 石原信雄
 
序章 研究の概要
1 研究の背景
 本研究の対象地域、宮崎県東臼杵郡椎葉村は、典型的な中山間地域で、九州山地に囲まれた緑豊かな環境の中に位置し、観光資源となりうる山村独特の生活文化や伝承文化を育んでいる地域である。これまでも、伝統芸能・農業等の地域資源を活かした観光振興、特産品づくりの展開が図られ、一定の成果をあげてきた。
 しかし、周辺地域との競争の激化やバイパスの開通といった周辺環境の変化の影響もあり、観光・交流人口の伸び悩みや季節的偏重の問題を抱えている。また、過疎化の進行により、自然環境や伝承文化を守っていく地域の担い手の減少が懸念され、このままでは、山村文化や集落のコミュニティ機能の崩壊を招く恐れがある。
 こうした状況を打破するべく、地域資源の活用を再考し、市場に十分に対応していくための観光振興、特産品づくりの展開を上積みしていくことが求められている。さらに、椎葉村らしい独自の観光や特産品の振興は、観光・交流人口の増加による地域活性化が期待できるだけでなく、文化伝承や環境保全の役割を果たすと同時に、住民の農山村生活に対する生きがいと誇りを育成し、地域活力の向上に貢献するものと思われる。
 
図表0−1 月別にみた椎葉村の観光客の推移(平成12年度)
(拡大画面:92KB)
資料:椎葉村
 
図表0−2 推葉村の人口・世帯数の推移
(拡大画面:67KB)
資料:総務省統計局「国勢調査」(各年分)
 
2 研究の目的
 本研究では、椎葉村の地域特性、担い手の活力、観光・交流の現状把握とともに、地域の魅力の再発掘・再評価を行い、市場への対応を踏まえ、観光振興・特産品づくりにおける問題点・課題の整理を行った。
 そして、今後の村の活性化に必要な、
(1)地域資源を活かした観光振興方策
(2)地域資源を活かした特産品づくりや販売促進方策
の2点を提示することを目的として掲げた。
 
3 研究の視点
 本研究を進めるにあたり、以下の視点を重視した。
 
(1)『椎葉村長期総合計画』『新椎葉村観光振興計画』の具体化
 『椎葉村長期総合計画』(平成11年)、『新椎葉村観光振興計画』(平成7年)では、本村の将来ヴィジョン、観光・特産品開発等の振興の方向性が示されており、今後はこうした将来ヴィジョン、振興の方向性を具体化・具現化する取組が必要となっている。
 そこで本研究においては、本村の上位計画、関連計画で示された指針を基に、具体的な観光振興、特産品開発の考え方、方策等について提案を行った。
 
(2)地培資源を活かした地域活性化
 近年、「もの」より「心」の豊かさを求める風潮や、環境保全、健康づくりへの関心の高まりがみられる中、都市住民は、都会では味わえない山村での自然体験や独自の文化体験に、おもしろみややすらぎを感じる傾向が現れており、こうした地域資源を活用した観光や特産品へのニーズも高まってきている。地場資源を活用した観光の一つである農山村体験型観光では、自然環境や農林業関係資源、生活文化、人材等をありのまま活用できるのと同時に、都市住民に心身のリフレッシュの場を提供することができる。これにより、農林業の活性化、村民の生活環境の向上、景観・文化等の保全・継承への貢献も期待でき、地域全体の活性化に大きく寄与するものと思われる。
 本研究では、本村の地場資源について改めて検証し、農山村体験型観光・交流を通した地域活性化に資するよう、既存資源の改善や、潜在資源の顕在化に向けた方策について、調査・検討を行った。
 
(3)市場性を重視した観光振興・特産品開発
 近年、地域活性化方策として観光振興、特産品開発に取り組む地域が増加してきている。低迷する個人消費、個性化・多様化する消費性向の中で、各地域とも消費者ニーズヘの対応や競合相手との差別化など、市場性を重視した取組に大きな比重をおいてきており、地域間の競争が激化してきている。このため、良質的・良心的な商品の供給だけでは、厳しさを増す市場競争に勝ち抜くことが困難な環境となってきている。海外旅行の定着や輸入農産物の増大など、観光、特産品市場における国際化も着実に進展してきており、今後とも一段と厳しい市場環境が創出されることも考えられる。
 本村においても、『第3次椎葉村長期計画(後期計画)』、『新椎葉村観光振興計画』において競争力の確保、商品(観光、特産品)の良質化など、市場性の確保が地域活性化の鍵となることが指摘され、すでに村内各団体において市場性の確保に向けた取組が進められつつある。
 このため、本研究においても、地場資源を活用した観光振興、特産品開発から発想を一歩進め、「これまでの地域の取組に欠けていた市場性の確保」に、これから村がどのように向き合い、競争力のある観光振興、特産品開発を進めていくかという視点から調査・検討を行った。







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