2. 事例から導出できる取組推進の条件・必要資源、留意点
連携・協働事業に何かをきっかけとして取り組み始めることができたとしても、継続的な駆動力がなくては、立上げ時点と同じ状況を保つだけとなってしまう。また、活動が形骸化したり、なくなってしまい、それ以上の発展につながっていかない恐れもある。つまり、連携・協働事業を成功させるためには、事業を立ち上げるために地域が持つ風土や資源といった環境や、開始した事業を推進する駆動力が必要なのである。
そこで以降は、推進要因を明らかにするとともに、連携・協働事業が安定し定着化するための継続的取組の要件を確認していく。
(1)連携・協働事業の背景
(1)連携・協働のきっかけ・経緯
連携・協働事業が実施される経緯としては、主に、行政と大学のトップの合意による場合と、個人による連携に関しての実績が集積する場合とがあり、トップ同士の意思の共有がある場合は、協力のための基盤ができていることから、事業を円滑に進めることができる。また、長期にわたり個々に連携がなされている場合には、それをベースとしながら本格的な連携・協働事業に発展する可能性を持っている。
さらに、高等教育機関がアイデアを持って主体的に連携・協働事業をしようとする場合や、研究会で行政と高等教育機関で意思の一致をみた場合にもそれをきっかけとして連携・協働事業が始まることもある。
(2)推進要因
連携・協働事業を推進する要因として、行政と高等教育機関の間で協定書を締結から始まることがあるが、これは行政と高等教育機関の関係者にとって組織全体の合意であることから、連携・協働事業に参加しやすくなるだけではなく、市民にとっても行政と高等教育機関でどのような事業が行われているのかをPRする機会ともなり、効果は大きい。
また、連携・協働の窓口となる事務局体制を位置付けることも重要な推進要因の一つであり、大学生のインターン、ボランティア制度を構築する際にも、事務局がある場合にはそれぞれに受入れ基盤を整備することが比較的容易である。行政と高等教育機関の双方に担当者がいることはもちろん、共同の事務局体制を組み立てることができれば、よりいっそう事業を充実させることが可能になる。
(3)連携・協働立上げの環境(風土、資源)
連携・協働を実施する直接的な経緯とは別に、地域の風土や資源の状況は連携・協働の立上げに影響を与えているものであり、市民からの課題の指摘や行政への要望は、それに応える手段の一つとして高等教育機関と連携・協働を始める推進要素となる。
また、大学が組織全体として地域開放や貢献を目指しているかどうかは、教員や学生と地域との関わりやすさを左右する。大学内の空気が地域活動への参加に否定的であり、閉鎖的であれば、教員や学生も活動をしづらくなるものであり、行政各分野への委員会参加や調査研究に対する教員の参加も鍵となる。さらに、教員がゼミの学生を動員する力を持っていれば、組織的・継続的な事業へと発展する可能性が高くなっていく。
このように、行政と大学の間に何らかの人間関係(人脈)が構築されていると、円滑に事業を進めることができる。もちろんそこに信頼関係があることが望ましいが、人と情報のネットワークが形成されているだけでも十分な駆動力となる。また、地域活動に積極的なリーダーや団体に恵まれていると、立上げが円滑に進んだり、各種事業を行うための人材構成が豊かになるため、充実した活動を展開することができる。
なお、高等教育機関や地域の連携・協働事業への関心や地域貢献への意識の高さは、地域によって差が大きく、地域に活動を行うゆとりがあるか、外国人に対して開かれているか、あるいは若者層や活動を希望する高齢者層などが多いかといった諸条件が、地域活動を積極的に実施できるかどうかにもつながってくる。
(4)連携・協働の阻害要因
次に、主な阻害要因としては、第一に行政と大学という組織間における連携・協働推進に対しての意識が低いことや、その人的交流を含めた体制が未整備であることである。第二に、教員や学生の地域活動への意識が低いことである。特に、高等教育機関の学内における地域活性化に対する意識や見解が不一致である場合には、大学全体で連携・協働事業を起こすことは難しい。
第三に、市民の地域活動への意識が低いことである。市民のニーズがなければ、連携・協働事業を始めるきっかけも生じにくく、また、実際に事業が開始されても運営主体が枯渇してしまうことも多い。さらに、地域での人々の交流が薄く、活動団体が特定の層や小地域に偏っていること、市街地に若者がおらず地域が閉鎖的であることなどは、地域連携の推進を難しくする。
(5)連携・協働事業のテーマや分野
最後に、地域と高等教育機関の連携・協働事業として、取組が始めやすい分野やテーマを述べる。事業で果たす役割や取り組める事業分野は、その取組主体が行政と高等教育機関の双方か、行政だけか、高等教育機関だけかなどによって異なる。
ア. 行政と大学
行政と高等教育機関との共同テーマ・事業としては、まず、公開講座などの生涯学習の共催や講座開催のための情報交換があげられ、インターンシップ、実習などの学生の受入れ体制やボランティア活動支援の仕組みの整備なども、共同で取り組むには適当な内容である。さらに、国際交流事業などの地域イベントを行政と高等教育機関が共同で開催し、市民に参加を呼びかけて多様で魅力ある内容とすることもできる。
イ. 行政
行政機関の仕事を経験してみたいと考えている学生は多く、また、行政活動の現状を広く知らせるためにも、インターンシップやボランティアの受皿を行政機関で準備するとともに、市役所からも職員を派遣し、市役所の仕事や市の情勢、市でのくらし等について説明する出前講座を開くことも大きな情報公開につながる。
さらに、図書館や公民館といった市内の施設を充実させ、事業を実施する上で必要な際に特定の施設を開放することも、連携の一つである。
ウ. 大学(経営・事務局・教員等)
大学での地域貢献として、施設開放があり、図書館やグラウンド、キャンパスの開放のみならず、会議室や試験場、実習室としての教室の開放もある。インタビュー先の大学では、ゴルフ場や体育施設を開放しているところもあった。
また、知的機会の提供として、大学独自の公開講座、出張講座や文化講演会の開催があげられ、教員の各行政分野委員会や研究会への参加や、学生も含めた共同研究などを通し、地域への専門的知識の還元も重要な内容である。
エ. 学生
連携・協働事業への学生参加としては、イベントやボランティア活動の参加に関して地域からのニーズが高く、特に福祉分野や心理・教育分野、国際交流分野を支援する人材が求められている。
また、事例で述べたような、情報ネットワーク関連でのボランティア活動も地域から高い評価を得ているほか、学生団体(自治会、サークルなど)による特定分野における地域貢献活動も重要な役割を果たしている。
オ. 地域(個人、団体、企業等)
地域活動団体やリーダー層が活発な活動をしている場合、高等教育機関との連携・協働事業にも積極的に取り組む人材を比較的容易に確保することができ、市民が自発的に課題を決めて活動することも求められている現在、大学と市の連携・協働事業への主体的な参加も期待される。
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