第1回 「なぜ、今社会起業家なのか?」
日時: |
2002年11月19日 午後5時半〜午後7時半 |
会場: |
日本財団ビル2階・大会議室 |
講師: |
飯島 博 |
特定非営利活動法人アサザ基金代表理事 |
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藤岡亜美 |
スローウォーターカフェ有限会社代表 |
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木下 斉 |
株式会社商店街ネットワーク取締役社長 |
司会: |
町田洋次 |
社団法人ソフト化経済センター理事長代行 |
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井上英之 |
特定非営利活動法人ETIC. |
■東京財団会長 日下公人 挨拶
東京財団では「虎ノ門DOJO」をずっとやってきていますが、通常シルバーの参加者が多い。しかし、本日お集まりになった皆様はこれまでと比べ一段と若く、非常に元気があるように見えました。皆様は好奇心に満ち満ちており、さすがは、社会起業家について勉強しようという方であると、頼もしく思っているところです。
東京財団は競艇の収益金の一部を頂戴しております。収益金の3.3%を公益、世のため人のために使えば、博打をして遊んでも良いという法律になっております。その3.3%が日本財団に入り、会長の曾野綾子さんが良いと信じる方へ回すわけですが、そのごく一部が東京財団に回ってきまして、私がよいと思うことをやらなければいけない。
本日は、一番良いことだと思って「社会起業家シリーズ」の費用を負担させていただきました。これは来年も再来年も続けていきたいし、世のため人のためになることだと思っております。
町田 去年の秋、東京財団からの委託調査で、NPOとか社会起業家を研究する若い研究者集団「Center for Active Community(CAC)」が20数人の社会起業家の研究を行いました。
受付にその報告書『地域社会のリインベンション』が置いてありますが、それが東京財団がやった社会起業家研究の第1弾で、今回のシリーズが第2弾です。
私は3年程前から、「社会起業家」を提唱していますが、若者と女性がこの新コンセプトに飛びつき、今どんどん広がりつつあるのではないかと思っています。
ところで、私が色々な場で社会起業家についてお話しますと、「早く社会起業家本人の姿や事業活動を見たい」と言われます。そこで皆さんに直接社会起業家のお話を聞いていただき、一体全体どういうことをやっているのかを理解していただきたいと思った次第です。
未来をつくっているのはこういった方々なのに、それをマスコミが報道しないから、世の中に明るいことが伝わらない。そこで、未来をいち早くつくり始めている人々の話をお聞きし、明るくなる会を開きたいと思ってこのセミナーシリーズを企画しました。
井上 今の若い世代でこういうことに興味を持っている人が非常に多い。金儲けだけには関心がなく、環境や教育にまつわる身近な原体験をもとにして、社会のために何かしてみたいという意欲に溢れた人が結構います。
本日、最初にお話する木下さんと藤岡さんは、今年の4月にETICが「STYLE2002」というタイトルで行った日本で初めての、ソーシャル・ベンチャー向けビジネスプランコンテストで賞を獲得した2人です。全国から71件もの応募があり、色々なメディアに取り上げられましたが、「日本はこれでよくなるのではないか!」と思えるようなプランがたくさん集まりました。
今まで政府だけに任せてきた公共のことに対し、なぜ自ら率先して取り組もうとしているのか、そのとき、なぜ事業的な手法を用いるのか、個人としてどのような動機や背景でやっているのか、こういうことをお聞きいただきたいと思います。
■木下斉 (株)商店街ネットワーク取締役社長
「STYLE」で参加者の一番の感動を博したのは、藤岡さんのカフェスロー・コタカチで、
私がNO.2で表彰していただきました。
本日、飯島さんが20年間活動されていると知り、私は今年で二十歳になりましたので、私が生まれたときからずっと活動されている方と同じ席に並んで発表することにとても恐縮しております。
全国の商店街をネットワーク化する会社をつくる
私の携わっている「商店街」という活動は、色々な方々による長年の取り組みという布石の上に今の私の事業が成り立っているということを感じながら聞いていただければと思います。
1996年から始まっている早稲田大学の周辺地域のまちづくりの活動について、1998年、私は高校1年のときに知り、大学の付属高校に通っていたこともあり、ボランティアとしてそれに参加しました。
そこで知ったのが、早稲田商店街は全国の商店街から注目を受けていることです。
それをきっかけに全国の色々な商店街と知り合うようになり、現在では全国にある2万〜2万5千とも言われる商店街の中で、北海道から九州までの60カ所の熱心な商店街とパートナーシップを結び、緊密な連絡を取れるようになりました。例えば、北海道、長野県、新潟県、宮城県、滋賀県、高知県、和歌山県、大分県、熊本県、沖縄県などです。
これまでの商店街活動は、地域別もしくは地域をまたいでいても分野別で分かれており、既存のしがらみに縛られてなかなか自由なことができない。しかし、まちづくり活動にかかわり始めると、教育の問題から防災だとか、様々な問題が芋づる式に上がってきて、なかなか単独では解決できないことも多々出てくる。
だったら、みんなで一緒になって組織的に解決していこうではないか、今までのように売り上げを伸ばそう、アーケードを作ってポイント事業をやって、カラー舗装をしてといったことだけではない、何か商店街の新しい活性化につながる活動を起こそうということで、NPO法人を作るなど他に色々と選択肢がある中、皆で共同出資して事業として行っていくことが必要ではないのかという思いで株式会社を選択しました。
新商品−震災パッケージ
私の両親は中小企業で働くサラリーマンですので、最初は社長という職業像さえ抱くことができませんでした。株式会社なのだから収益をあげ配当し公開することが、会社として一番のミッションではないかという意見を聞きながら、なかなか自分としてはそれを認めることができなかった。
会社は社会に対して何かをやるべきだ、一個人の資金ではできないことを、皆でお金を出し合い協力してやることこそが会社という目的の一つなのではないのか。そのような事を考えていた時、ちょうどETICの皆さんとお話しする機会があり、海外にはそういう事例が多数あるという事、株式会社という形をとりながらも理解ある株主とともに事業化していくことが日本でも少しずつ始まっている事を知りました。
その動きが今地盤沈下の激しい商店街という組織からも生まれてきたという時代背景を、皆様に少し感じ取っていただければと思っております。
本日ご紹介するのが震災保険です。保険と書くと少しまずいこともあるので「震災パッケージ」と私たちは略して言っています。震災時には私たちの提携している地域の旅館とかホテルに宿泊ができ食事もでき、福利厚生サービスも受けられる。何もなかったときには商品で返還するというサービスです。
地域へのサービスとしては、平常時は地域間交流、観光や物流等様々な側面で地域間協定のようなものを結ぶ。そこにいざというときの災害時のフォローアップを含めていこうというもの。
ただで助けてくれというのはあまりにも都合が良いので、お金もつけて保証をしようというところで共有のファンドをつくりました。ファンド自体が破綻する恐れの解消や販売等のノウハウにおいても損害保険会社やコールセンター業務の会社にご協力いただき、商店街の連携した活動が色々な企業と一緒になって形になるというケースもある。
かつ、地方の振興にはこれまでのように観光資源等を有効活用する他、都会の若者のアイデアやノウハウを、地方の様々な所に人材交流を介して注入していく。そういったことを60の商店街をベースにその地域の観光協会、地方自治体、JA全農等、様々な組織が一体となって始めております。
今年の新規参加地域は6地域が確定。本商品については、先日「はなまるマーケット」という番組で取り上げられたりもしました。
いざというときに色々なところに避難できる、いざというときだけ機能するシステムでは使えないに違いないので、平常時にどういう形で稼動させるのか。また、遠方において行政情報などの獲得しにくい情報の整備、応急住宅の問題が出てくる場合もあるので、そういう部分でも行政との連携を図っています。
■藤岡亜美 スローウォーターカフェ代表
本日はとても緊張していますが、気持ちを奮い立たせるために大好きなエクアドル製のセーターを着てきました(笑)。私は今、エクアドルで鉱山開発が行われている地域とのつながりをつくるために、日本で「スローウォーターカフェ」という名のカフェを立ち上げ、コーヒーを売りながら環境問題を発信していこうとしています。
このセーターの配色のように、赤と青と黄色でエクアドルの国旗はできています。赤は太陽、青は水、黄色は鉱物を意味します。それほどエクアドルは鉱物が豊富な国なのです。
文化人類学の実習で行ったエクアドルで、鉱山開発で汚染された環境を知る
私の活動は「ガイアの夜明け」というTV組で紹介されましたが、エクアドルに最初に行った時に聞いたことをずっと忘れないで生きていこうと決意しました。
1992年、日系企業とエクアドルと国際協力事業団のODAによる鉱山開発がこの村の使っている川の上流で行われ、その試掘で流れ出た鉱滓が川の水を汚染したことが原因で、動物がその水を飲んでバタバタ倒れ、水道がないので川で水浴びをする村の子供は皮膚病にかかってしまった。
人口300人という小さな村なので、開発について事前に話し合いをきちんと設けてもらえなかった。村人は、自分たちはこの鉱山開発にイエスと言うべきなのか、それともノーと言って今までどおり森を残すべきなのか。村人たちは、鉱山にノーと言おうと決断した。ただそれを表現する場がなかったため、日本人がキャンプにいない間にキャンプ地から機材を全部運び出し、そこに火をつけて追い払いました。
それを聞いたときに、私は日本人として、今までのライフスタイルが地球の反対側にこういう負荷を与えているということ、私たちの周りにも声も上げないで汚され破壊されていった自然がたくさんあるのに、なぜエクアドルの人々はきちんとノーと言って自らのライフスタイルを自分たちで選び取れたのだろうかと思いました。
エクアドルに住む
翌年エクアドルに3カ月間住むことになりました。村人は鉱山開発にノーと言い続け、森にコーヒーの木を植え、エコツーリズムというツアーを企画してサイザル麻のビジネスとして水筒ホルダーをつくって販売する他、民芸品等を作る女性組合を立ち上げる等、新しい生き方のための新しい事業を起こそうとしていました。
そこで私たちも何か日本でできることがないかと思い、卒業後も彼らにかかわっていくことを決めました。
私は、一番問題があるのは、エクアドルではなく日本だと思っています。日本の人たちが変わることを、エクアドルと日本の間にある1杯のコーヒーを飲むことによって伝えたい。日本でコーヒーを売り、フェアトレードの雑貨を販売することが、実はエクアドルの森を守ることにつながっていると信じています。
今の2国間の構造は、鉱山開発やコーヒー貿易でエクアドルの方にすごく負荷がかかっています。コーヒー貿易においては、小農民と消費者の間に大勢の人が介入していて、しかも仲買人や商社といった人々が市場の知識をすべて握っているので、本当にコーヒーをつくっている小農民は搾取されてしまうだけでなく、気候の変動等のアクシデントをすべて被ることになってしまう。
今、フェアトレードという言葉で、新しい貿易のあり方が注目されています。「買い物で国際協力」とか、よくそういうことが言われていますが、そうではなく、商品をつくってもらって、その商品に乗せて日本よりもっとスローな、生きることに対してすごく考えているエクアドルの人々のストーリーを伝えていけたらいいなと思っています。
フェアトレードの“フェア”というのは色々な意味で使われているのですが、生産者と消費者がフェアなのは勿論、南と北、生産者同士、人間と自然、今の世代と未来の世代がフェアになるような仕事の仕方をしたい。
来年度には出店する予定ですが、まずはウェブと通信販売とケータリングで動き出そうと思っています。顧客層は、肩書で生きていたり、人の話をゆっくり聞かなかったり、いつも同じ人間としか会わなかったりという都会で忙しいライフスタイルを送っている方々に来ていただきたいと思っています。ご提供する価値は、エクアドルがモデルとなったスローなライフスタイルです。
「ナマケモノ」のライフスタイルを広げる
私たちのモデルとしているのはナマケモノなのです。「ナマケモノ倶楽部」というのをエクアドルに行ったメンバーとやっています。
ナマケモノは中南米のエクアドルなどにしか生息していないとてもエコロジカルな動物です。1日に葉っぱを3枚しか食べず、糞をするときは木の上から降り、穴を掘ってそこに糞を入れることで木に栄養を与え、また葉っぱを食べるという循環をしています。
また、「カフェスロー宣言」というのを出しています。そこでは、(1)オーガニックカフェ・カブヤトレードショップを出店、(2)スローフードを提供、(3)地域通貨を使用、(4)環境運動や南北問題といったことを自分たちのスタイルで発信しています。
具体的には有機無農薬コーヒーの販売をします。現在、焙煎業務や税関の手続きの仕方を覚えていますが、そういったことによって、スローフード、フェアトレードグッズ、エコツアー、音楽にまでも事業を広めていきたいと思っています。
私は大学時代、環境運動とビジネスと学問と全部一緒くたにやってきましたが、本来環境運動をやる人は純粋な気持ちで行動を起こしている人しか認められなかった。しかし、ビジネスの新しい形、「ソーシャル・ベンチャー」というやり方においては、たとえ気持ちが純粋でなくとも、行動を起こす人を次々巻き込むことができる。コーヒーが美味しいから飲む、店員がかわいいから行く、お得そうだから地域通貨を使う、もうかりそうだから、楽しそうだからかかわるということで、人をインボルブしていきたい。
原子力発電所をなくすために水筒ホルダーを販売
先ほどの国旗の話のとおりエクアドルは鉱物資源が豊富なところです。この国は石油で債務を返済していますが、世界的に石油が枯渇してきている現状もあり、エクアドル大使館のホームページを見ると、トップにエネルギー鉱山省のページがリンクされています。
村の人から月に1回程度ある連絡では、「また新しい鉱山者が村に入ってきた」と言われるほど鉱山開発が頻繁に行われています。それに伴い、森の中でコーヒーを植えて、オルタナティブを探していこうとしている人たちの数も、年々増えています。
今年はコーヒーを3百俵輸入しましたが、来年5百俵、再来年8百俵、次は千俵というように増やしていき、カフェのイメージ戦略をうまくつくりながら販売していきたいと計画しています。
具体的なライフスタイルの提案ということで、水筒ホルダーを紹介したいと思います。
エクアドルの鉱山開発があった地域に自生している「カブヤ」というサイザル麻が原材料となっています。日本の自動販売機を全部無くすと、原子力発電所が1つ必要なくなるということから、空き缶を使い捨てにするライフスタイルにノーと言うためこの商品を作りました。
これは現地の女の子と一緒に作っています。彼女らはこれを編んでいても、子供が泣いたり鍋がコトコトいったときには手を休めるのです。以前は仕事がなかったので、飴を買うにも旦那さんに許可を取らなければいけなかったのが、この仕事を始めて医療や教育や自分の好きなことにお金を使えるようになった。
このように、私たちはこの水筒ホルダーを持つことでメッセージを発信できるし、作っている人たちも自分たちの生活を守りながらやりたいことをやれる。しかもこれは自然染色です。こういったことを、これからカフェを中心に発信していきたいと思っています。1980年代は特に環境問題とか何の問題でも反対だったと思うんです。「缶飲料を買わない」で終わってしまったのですが、私たちの時代はその先を提案していかないと駄目だと思っていて、まず水筒を持つことから始める。
何とかせずに、ではどうするかというところを問題にしていて、水筒や箸を持ち歩く、ティッシュでなく手ぬぐいを使うといったように、新たな何かエコロジカルな、それを持つことで何かを使い捨てたり、環境に負荷を与えずにすむグッズを、格好いいスタイルで提案していきたいと思っています。それがZOONY(ズーニー)運動です。「〜(ほにゃらら)せずに」の「ずに」を伸ばして、ZOONY運動と言っています。
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