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2002 国際保健協力フィールドワークフェローシップ参加報告
 
フェローシップから得た自信
伊藤 淳(横浜市立大学医学部6年)
 「今回の学生は純粋な心を持っているのが伝わってくる。しかし、ギラギラしたものが感じられない。そのままこの世界に飛び込んでも、いつか周囲に飲み込まれてしまう。したたかになれ。精神的にmatureする必要がある。」尾身先生の言葉である。自分のキャラクターであると同時に、自分自身コンプレックスに感じていた点を鋭く指摘され、私は衝撃を受けた。
 なぜ私は国際保健に関わろうとするのか。
 社会に興味を持ち始めた中学時代、将来は国際協力の世界で働きたいという希望がすでにあった。そして、高校生の時には医療分野に進もうと決めていた。この動機の根底にあるのは、自分が小さい頃に抱いていた素朴な疑問だと思う。「なぜ自分は自分の両親との間に生まれたのだろう?」・・・子供は生まれる場所も親も選べない。自分は他の親の間に生まれていたかもしれない。他の国で育ったかもしれない。自分はたまたま経済的に恵まれた国の家庭で育っているが、もしかしたら厳しい環境での生活を余儀なくされていたかもしれない。・・・私は途上国の子供たちの境遇に自分を重ね合わせて、そこに生まれ育っていたかもしれない自分のために、国際協力を仕事にしたいと思ってきた。
 一言で言えば、人道主義に基づいた純粋な動機。一般的に、純粋なものほど壊れやすいと言われる。壁にぶつかったとき、挫折感を味わったとき、どこまで耐えられるか今の自分には分からない。どの仕事であれ競争はつきものであるし、はったりが必要になることもあるだろう。特に国際機関のような、世界各地からスタッフが集まり、各国政府の思惑も交錯するような職場では、高度な交渉力や駆引きの巧みさが求められる。長年WHOで働いてきた尾身先生から発せられる「どんな環境でもsurviveしていけるようなtoughな精神を身につけなさい」という言葉は大変説得力があった。私は自分の未熟さを省み、更なる努力の必要性を痛感した。
 一方で、自分の新たな一面も発見した。フィリピン滞在中、私はリーダーとして14名をまとめ、訪問する先々で挨拶をし、レセプションではホストとして振る舞った。連日、日中は常に緊張しながら周囲の状況に気を配り、次に何をすべきかを考えていた。おかげでホテルに帰る頃には精神的疲労が極度に溜まっていたが、夜は仲間たちとの語り合いを大事にしたかったので睡眠時間も十分にはとれなかった。滞在中の平均睡眠時間は3時間以下である。しかし辛いと思うこともなく、むしろこのような生活を楽しんでいた。毎日が自分の限界に挑戦しているようであった。緊張感を楽しめる自分がいたのだ。これは大きな自信になった。
 夏休み前、卒業したら臨床を続けるのか行政に進むか、留学はいつするか、専門を何にするかなど、進路のことで悩んでいた。フェローシップに申し込んだのは、自分が将来、どのような立場で国際保健に関わっていくのかを見極めるためであった。
 フェローを終え、私はある見解に達することができた。それは、将来をどうするか細かく計画するのではなく、ある程度は流れに身を任せて、自分が好きだと思う方向に進んでいけば、きっと大きく道を踏み外すことはないだろうということである。私は自信を手に入れた。そして夢を再確認した。自分の判断を信じて、挑戦することを忘れずに生きていきたい。
 大学生活を終える年に、このような境地を与えてくれたフェローシップに感謝したい。また、この夏を共に演出してくれた仲間たちにも感謝したい。いつか挫けそうな時があっても、この夏を思い出せばまた前に向かって歩き出せそうな、そんな気がする。
 
Tarlacの子供たちと







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