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8月12日(月)
本日のスケジュール・日程
WHO西太平洋地域事務局訪問・研修
 
8:10〜8:30 Orientation and guideline
Dr. Hajime Inoue
Medical Officer, Programme on Technology Transfer
 
 今日の研修をコーディネートしてくださった井上先生から、それぞれのお話の概略と着眼点をアドバイスしていただいた。「日本の多くの大学で行なわれる講義と違って、国際社会では講義を受けたら必ず質問をするのが礼儀であり、常識。問題意識を持って講義に臨むためにも、例えばこんな視点を持って聞いてみてはどうか。」という趣旨でお話くださり、大変参考になった。また、質問しないことや居眠りをすることはルール違反であること、質問する前には自己紹介し、演者への謝辞を述べることなど、最低限のマナーについて注意していただいた。
 
8:30〜9:30 Mechanism of WPRO and its' role in the improvement of public health
Dr. Richard Nesbit
Director, Programme Management
 
 Dr. Nesbitは、WHO(World Health Organization:世界保健機関)の組織としての構造や、果たしている役割についてお話くださった。これは、私たちが知識を整理するのにとても役立った。講義の内容をまとめたノートを掲載する。
 
[WHOとは?]
・国際連合の保健に関する専門機関
・1948年4月7日に発足し、現在191ヵ国が加盟している。
[組織の構造]
WHOは以下の三つの基本的な組織によって機能している。
◇総会
−全加盟国代表によって構成され、毎年5月にジュネーブで開催。
−WHOのプログラムと次年度予算を承認し、主な政策課題を決定する
◇執行理事会
◇職員−事務局長(グロ・H・ブルントラント)を頂点とする
 
本部事務局、6つの地域事務局およびcountry officesがある。
◇本部事務局−ジュネーブ(スイス)
◇地域事務局
・アフリカ地域事務局−ブラザビル(コンゴ)
・ヨーロッパ地域事務局−コペンハーゲン(デンマーク)
・南東アジア地域事務局−ニューデリー(インド)
・アメリカ地域事務局−ワシントンDC(アメリカ)
・東地中海地域事務局−アレキサンドリア(エジプト)
・西太平洋地域事務局−マニラ(フィリピン)
◇country offices
[協力]
 WHOは国際連合内の他の機関と密接に協力して機能するとともに、以下の国や機関と協力している。
・国 ・二国間援助機関 ・政府間機関 ・非政府機関(NGOs)
・WHO指定研究協力センター
[主な機能]
一貫した、倫理的かつエビデンスに基づく政策とアドボカシーにおける立場を明言する。
傾向を評価したり、成績を評価したりすることにより情報を管理し、行動計画を決め、研究発展を促す。
協力と行動を促したり、持続可能な国家あるいは国家間の能力を築き上げるのを助けたりといった方法により、技術的、政策的支援を通した変革を促進する。
国家との、あるいは世界的なパートナーシップを結び、続けていく。
  規範や基準の適切な実行を決定し、合法化し、モニターし、継続する。
疾病コントロール、リスクの軽減、ヘルスケア・マネージメント、サービス提供などに関する新しい技術やツール、ガイドラインの発展と試験を促進する。
[戦略的方針]
1. 特に貧しかったり、周辺に追いやられたりしている人々における過度の死亡率、罹患率、障害による負担を軽減する。
2. 健康なライフスタイルを推進し、環境、経済、社会、行動などによる原因からなるリスクファクターを軽減する。
3. 健康に関する結果を公正に改善させ、人々の正当な要求に応え、財政的にも公平であるような保健制度を発展させる。
4. 権限を付与された政策を考案し、保健部門の制度的環境を創り出し、効果的な保健の範囲を社会、経済、環境そして開発政策に及ぶまで促進する。
 
 講義の後半は、WPROの構造と課題(issue)について話された。
[WPRO]
37ヶ国の中に、27の加盟国し、16億人の人口をカバーする。
<地域委員会>
 ”Formulate policies governing matters of a regional nature”という題材で毎年9月に開催。また、地域事務局の活動を監督する。
<課題(issue)>
・保健部門の改革−保険、地方分権化のissue
・疫学転換(疾病転換)−感染症→非感染症
・民主化転換
・不公正:貧困
 
9:00〜9:30 Expanded Programme on Immunization
Dr. Yoshikuni Sato
Medical Officer/Scientist, Expanded Programme on Immunization
 
 WHOが進めている拡大予防接種プログラムについて、ポリオ根絶計画を中心にしてお話いただいた。
 2000年までにポリオを根絶しようという目標を立てて取り組んできたが、すでにAMRO、WPROでpolio-free(eradicationは世界規模の「根絶」に対してしか使うことができない)が達成されており、今年EUROでも宣言された。残るはAFRO、EMRO、SEAROである。ポリオは、全ての人が経口弱毒化生ワクチン(OPV:oral polio vaccine)を3回接種することができさえすれば、理論的には根絶が可能な感染症であるため、いかにして接種してもらうかが活動のポイントになってくる。地域の人たちへの知識の普及、地域のリーダーの活動に対する理解などがカギを握る。
 しかし、根絶(eradication)を目前にして、polio-freeを達成した国々において新たな課題が生まれてきている。cVDPV(circulating vaccine derived polioviruses)である。これは、統計学的に100万回の接種につき1回の割合で、弱毒化ワクチンが強毒化してしまう(祖先返り)ことによって生じる問題である。祖先返りしてしまったOPVは糞便を介して次々に他の人に感染し、感染者の糞便中に排出される。そして、OPVを接種していない人に感染すれば発病する可能性がある。OPVを接種していない人が多い社会ほどcVDPVが問題になってくるため、世界的根絶が達成されていない現段階で、polio-freeが達成されている場合にも90%の接種率を維持していくことは非常に重要ということになる。それは、cVDPVの存在条件からも明らかである。
[cVDPVの存在条件]
1. Polio free area
2. Low OPV immunization coverage
3. Time for mutation to occur
 そうなると、世界的にポリオ根絶が達成されたのちに「いかにしてOPV接種を終了するか?」ということが課題になってくるだろう。永遠に90%の接種率を維持するという選択肢も考えられるが、根絶したのに接種を続けるというのは現実的な対策ではない。しかも、それはcVDPVという形で永遠にポリオウィルスを社会に存在させつづけることをも意味する。そこで、生ワクチンであるOPVから死活化ワクチンであるIPV(intravenous polio vaccine)に切り替える移行期を挟むことが検討されているが、コストや副作用などクリアしなければならない問題も多く、今後の課題である。
 また、ポリオの次に予防接種による根絶が目指されている疾患として、麻疹(measles)が挙げられた。予防接種(OPVとは異なり、注射針を使う)を安全に広めていく(safety immunization)上で取られている工夫の一例としてADシリンジ(safety immunizationのために全ての針を使い捨てにすることが決められたが、途上国では使い捨ての針が拾われて洗われ、売られるという事態が起こっているため、再利用できないような工夫を施したシリンジが開発された)についてもお話してくださった。また、コストの面からもIPVなどとのカクテルワクチンの開発が検討されているという。
 
9:30〜10:00 Tobacco Free Initiative
Dr. Harley John Stanton
Scientist, Tobacco Free Initiative
 
Dr. Stantonは、最初に抜き打ちの小テストをなさった。問題は以下のとおり。
1. あなたは喫煙者ですか?
2. 相対危険度の観点から見て、どれが喫煙の最大の問題だろうか? A〜Cのうちから選びなさい。
A)がん B)心疾患 C)呼吸器疾患
3. 日本では年間何人の肺癌による死亡者がいるだろう?
 
 この後Dr. Stantonは、タバコの消費を減らすことは若年者の死亡を予防するための最も効果的な方法なのだ、という情熱的なメッセージを込めてタバココントロールについて講義してくださった。
 現在、全世界で約11億人の喫煙者がいる。2025年までに、喫煙者数は16億人にまで跳ね上がることが予想されている。タバコの消費を減らすことで、何百万件もの若年者の死亡と数多くの障害の発生を予防することができる。先進国の男性におけるタバコ消費が減少しつつあるのに対して、低所得あるいは中所得国男性における喫煙は急速に増加しつつある。女性の喫煙もまた、ほとんどの国において増加傾向にある。
 喫煙により、致死的または障害を残しうる病気が引き起こされる。そして、危険因子となる他の行動に比べて、喫煙による若年者死亡の危険性はきわめて高い。半数の常習的喫煙者がやがてはタバコのために命を落とし、さらにその内の半数が中年期において死亡する。
 政策立案者は喫煙コントロールのための行動を起こすことをためらっている。それは、彼らが喫煙コントロールによって引き起こされる経済的影響について心配しているからである。例えば、
タバコ税の引き上げにより歳入が減少する
タバココントロールにより、永続的な失業が引き起こされる
 しかしながら、タバコ栽培に大きく依存している国でさえも、永続的な失業に見舞われることなどないだろう。それは、(タバコに関係する)職の減少はゆるやかであり、国の経済にはそれに適応するだけの時間があるからだ。
 タバココントロールのためのアプローチはいくつかある。
タバコ税を引き上げる
タバコの広告と販売促進活動を禁止する
反タバコキャンペーンを実施する
タバコのパッケージに健康への害についてはっきりと表示する
公共の場での喫煙を禁止する
 日本はとりわけ、盛んに行なわれるタバコ広告と販売促進や、パッケージにはっきりと健康への害について表示していないという点において、タバココントロールに関して大きな問題を抱えている。また、非常に多くのタバコ自動販売機がある。日本はタバココントロールにおいて他の先進国に大きく遅れをとっている。
 喫煙は、非喫煙者の健康にも悪影響を与える。喫煙する母親から生まれた幼児は大きな危険にさらされており、喘息などの呼吸器疾患にかかったり乳幼児突然死症候群で死亡する危険性が他の幼児よりも高い。
 喫煙者の多くがニコチン中毒の力がいかなるものかよく理解しておらず、急速にニコチン中毒となってしまう。それゆえ、タバコ依存に対する治療はタバココントロールにおいて重要な役割を果たす。治療+予防=最大の公衆衛生的利益、ということからNRT(Nicotine Replacement Therapy)へのアクセスを広めることは非常に重要である。
 Dr. Stantonは、喫煙を減らすための行動を起こすことは、それによって数多くの命を救える故に非常に大切なことであると再び強調され、講義の幕を閉じられた。







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