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8月8日(木)
本日のスケジュール・内容
国立国際医療センターにて研修
 
9:30〜9:40 開会挨拶
国際保健協力フィールドワークフェローシップ 企画委員長
国際医療福祉大学 総長 大谷 藤郎 先生
 
 このフェローシップも今回で9回目を迎え、医学部の学生に国際性を身につけてもらい、先生方にお世話になってフィリピンの学生と共に体験学習してもらいたいと抱負を述べられた。本当は全員に行ってもらうといいと思っているのだが、お金を出してもらっている民間団体の笹川記念保健協力財団の事情もあり、今回は14人を選ばせてもらったということで、その14人には是非がんばってこいとエールも頂いた。
 大谷先生は、この企画の始まりから話し始められた。この企画は、30年ほど前にさかのぽり、その頃はインターンシップを撤廃せよという紛争が起きていた。先生はその当時、厚生省の課長補佐に就いてその問題に関わっていた。そして、日本が選んだのは、自由な研修という制度だった。この結果生まれたのが、もともと閉鎖的な医学部がますます国家や人々に対して閉鎖的になったことを先生は嘆いていた。このような状況を見て、先生は医療の社会性の教育が必要と考えた。その頃、日本ではほとんど問題とされていなかったが、「社会的な健康」、これを大事にしなくてはいけないと考え、冬期大学というのをつくった。そこで武見太郎先生、日野原先生らに協力いただき、学生に社会性や国際性などの教育をするようになった。このOBからは、川口先生や何人かの現厚生労働省高官などがいる。その当時は、WHOに日本人のスタッフはほとんど居なかったが、最近では、事務総長をされていた中嶋先生など、何人もの日本人が活躍するようになった。
 最後に先生は、今日のこの機会を通じて、たくさんの質問をして知識を深めてもらい、また2日間と短い期間ではあるが同士の交流を深めて、将来の活躍を期待しているということであった。
 
9:40〜9:45 来賓挨拶
国立国際医療センター 総長 矢崎 義雄 先生
 
 日本のODAは世界第一位のシェアを占めていたが、昨年から米国にその座を譲ってしまったという現状を踏まえ、ODAが日本の最強の外交カードだったころから、今は枠組みが変わりつつあるというお話を頂いた。また、日本の国際協力も、ハード面の支援から人材派遣などの協力というソフト面の支援への方向転換の時期であるとのことである。そして、最後には、私たちが国際医療協力の場で活躍することを期待してくださり、応援のメッセージを頂いた。
 
9:45〜9:50 来賓挨拶
厚生労働省医政局 局長 篠崎 英夫 先生
 
 冒頭で30年ほど前の冬期大学についてのお話をされた。ハンセン病は冬期大学の頃から扱っていた問題だったそうだ。昨年解決した訳であるが、医系技官としてこのハンセン病の問題は原点となる問題であるとおっしゃった。「厚生労働省は伝統的に国内問題を中心に扱っているが、海外で活躍している方もおり、将来海外でも活躍してください」とのお言葉を下さった。
 
9:50〜10:20 「アジアと日本−わが国の国際協力」
前駐中国日本大使 谷野 作太郎 先生
 
 谷野先生からは、(1)日本が行っている資金協力と技術協力について、(2)日本の国際化について、という大きく二つの点から、わが国の国際協力について包括的にお話して頂いた。
(1) 日本が行っている資金協力と技術協力については、自虐的な批判から、日本の国際協力が正しく評価されていないこと、また経済協力の単独の法律がないことによって起こる問題などがあるという現状を踏まえ、医療協力では、援助する側とされる側、双方の顔が見える援助である技術協力が最重要であるということを強く訴えられた。技術協力のための人材の育成が急がれるところであるが、日本の大学の閉鎖性、そしてNGOを政府が支える体制の甘さなどの問題点が依然として残っている。
(2) 日本の国際化については、「国際化が進められるためには、語学をしっかりと身に付けること、そして、他国の人と会った時に常に意見を持っていることが必要だ」とおっしゃっていた。その言葉には、先生から未来を開拓していく私たちへの強いメッセージが込められていたように思う。最後には、中国やインドなど、多くの国の人々と交流されてこられた御経験から学ばれたという、「no problemの精神(未来に対して限りなく明るい楽観心を持とう)」についてのお話も頂くことができた。
 
10:20〜10:50 「日本の国際協力の現状」
国際協力事業団医療協力部 部長 藤崎 清道 先生
 
 Power Pointを用いて具体的なJICAの活動のお話をされた。JICAは創立以来、開発途上国の経済・社会が、自立的かつ持続的に発展できるように「人づくり」や「国づくり」を支援してきたそうだ。この活動の特徴はownershipとsustainabilityである。開発途上国が持続的発展を遂げる為には、途上国側が開発の主体者として自ら努力することが必要で、援助においては途上国側の主体者意識を育てることが重要である。先生は、援助について、相手の自立も視野に入れなくては、結局相手の経済や政治などの力がつかず、私たちが相手に与えた援助というものが、相手側によりただ消費されるだけで、相手側はそれでお腹いっぱいになっているだけであると言う。そうではなくて、相手にレシピを渡すのだと先生は言っておられた。私もこのことは同感だった。もし、こうしなければ、真の援助とは言い難く、援助国の満足感で終わることがあったと考えられる。つまり、自国は国際援助協力国だと自信満々にアピールするわけだが、本当にこれが真の国際協力なのかと先生は首を傾げたのではないのかと思う。
 先に述べたように、自助努力の支援という考えが大切である。これについて先生は、昔からこのような自助努力を重んじてきた日本があり、これを世界に広める為にJICAが活動した。その結果、最近まで自助努力の支援をないがしろにしてきた西欧諸国が、最近この重要性を認識したということである。しかし、その割には世界から、つい昨今までお金しか出さない国と非難されていた日本、これについて疑問が残るのは私だけであろうか。(実はこれには、メディアの報道に問題があると言っていた先生がいた。)いずれにせよ、自助努力の支援というものが大変重要なものであることは分るが、ではどのような方法が相手側のownershipやsustainabilityを十分に引き出すことができるのかを私たちは自分で考えていかなければいけないと先生の話を聞いて思った。
 
10:50〜11:20 「国際医療協力の課題」
東京女子医科大学 客員教授/笹川記念保健協力財団 理事長 紀伊國 献三 先生
 
 はじめに紀伊國先生の経歴と、笹川記念保健協力財団が設立された過程・きっかけについて、これまでに出会われた先生方の言葉等含め話された。
 国際協力はbilateralであること、つまりこれは援助をする側とされる側の力(経済、などいろいろな面)の差はあるが、結局は持ちつ持たれつの関係にあり、そのことを認識しておくことが大切だということだと思う。国際協力の組織について、国も大切であるが、国以上にNGOも大切であり、flexibleな活動を求められることを知った。しかし、先生の発想の展開にはいつも興味深いものがあり、驚かされる。
 また、懇親会でも先生の英語のショータイムには、先生のエネルギーに本当に驚かされた(年とともに若さの陰りが見えてきた私には刺激的で、逆に先生からパワーをもらった感じです)。またそれ以上に楽しい懇親会となり、同士が集まる中で飲むお酒は大変おいしく、最高のひと時を過ごせたことに本当に感謝する次第です。
 
11:20〜11:50 「開発途上国に於ける寄生虫症の現状」
杏林大学大学院国際協力研究科 客員教授/広島大学 名誉教授 辻 守康 先生
 
 国際寄生虫学会が4年前行われ、そのとき天皇陛下にお会いした。天皇陛下はまず、「温暖化などにより、ますますマラリアなどの寄生虫症が日本まで忍び寄る可能性があると聞いていますが、日本の寄生虫学講座が減少しているのはなぜですか?」と、おっしゃられ、寄生虫教育の現状を心配しておられた。辻先生は、痛いところを突いてきたと思いつつも、これには色々な事情があると我々に説明してくださった。現実的に今日本では、寄生虫学講座が減少傾向にあるらしい。その点も踏まえて、先生が繰り返し強調していたことは、「日本にも、寄生虫症は今でもある」ということであった。先生自身が見た患者は、平均8軒の病院に見てもらい、それでも診断が付かずにいるということである。先生は、胃カメラ、X−rayなどは使わず、検便さえすれば簡単に原因の虫を見つけられると嘆いていた。さらに、先生は生々しいいくつかのスライドを見せ、こういうのがあると知っていてほしいと強調していた。我々学生が、将来医療に携わるとき、寄生虫症を頭の片隅に置いていてほしいということであった。
 先生の余談の中で、今からフィリピンの海外研修に行く人や、また海外に行く機会のある人は、ドリアンとビールの食べあわせは危険だと注意を促した。体格のいいオーストラリア兵でさえ亡くなったことがあるということだ。さらに黄熱病の危険のある地域に出かける場合は、黄熱の予防接種もきちんとするようにと注意を促した。
 最後に、この研修者の中から将来なんらかの形で「国際協力」に関わる人がいると思うが、その時は自然体の態度で接してほしいということを強調していた。先生は、国際協力をしてあげるという態度は絶対に取らないで欲しい、そして、逆に国際協力をさせてもらうという態度もとらないでほしいとおっしゃった。あくまで自然体で接することが大切なのではないかと強調していた。
 
11:50〜12:50 「WHO:その内外における課題」
WHO健康開発総合研究センター 所長 川口 雄次 先生
 
 本当に限られた時間しかなかったので、その限られた時問で(約20分以内)世界のWHOの中で起きていることを4つのポイントに絞って話して下さった。
 一つ目は”政策”の問題であり、将来を予測した上で一つの方針を立てるということである。何をどうしたら良いのかをまとめなくてはならないことである。二つ目は“priority=戦略”の問題で、将来を予測しながら政策を作るが、この際に“how to do that?”という考えが重要になる。どうしたら一番効率よく政策を成し遂げられるかを考える必要がある。三つ目は人間やprogramのmanagementをしなくてはならないことである。誰が何をどの様に、どれくらいやれるのかをしっかり把握して、効率の良い労働(仕事に応じた人数の割り振りなど)を考えることも大切になってくる。4つ目は「お金」の問題である。より創造的な有効な使い道を考えていかなければならないことである。どのようなことに対しても、cost effectivenessであることがその組織の運営を発展させていき、良い流れが生まれ、よりよい国際協力につながると先生の話を聞いて思った。そして、これは繰り返しになるが、そのためにも政策や戦略などの外のマネージメント、人、お金などの内のマネージメントの双方が、重要である。以上簡潔に、しかし、内容濃く深くとても分かりやすいように話して下さった。先生の表情や話し方から、今の職業に生き甲斐を持って取り組んでおられることを感じた。
(担当:阿久津 真弓、井上 明日美、佐々木 健一、佐藤 郁子)







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