以上、日本籍船の競争力を高めるための船員制度の面からの措置といった流れをお話ししたのですけれども、これについては船員費の比較ということで日本船主協会が試算しています。これは公表されていますが、1船あたりの船員費を比較しています。いちばん左側が配乗形態です。配乗というのはどういった人たちを船に乗せるか、これは全部、配乗という言葉で呼んでいますが、その配乗形態です。それから船員数、年間経費です。下のほうにあります日本人だけで運航する近代化船はもうありませんから、参考的な数字として出しているわけですが、16名の日本人船、それから11名の日本人船でも、いちばん下にあげてあります全員、東南アジア船員配乗の船には完全に負けてしまうといった状況にあります。
図4 船員費の比較
一船当り年間経費 2001年日本船主協会試算
配乗形態 |
船員数 |
年間経費 |
FOC混乗 |
日本人9名、外国人14名 |
約203万ドル |
|
日本人5名、外国人18名 |
149 |
近代化混乗 |
日本人6名、外国人17名 |
175 |
国際船舶 |
日本人2名、外国人21名 |
103 |
日本人配乗 |
16名 近代化船 |
301 |
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14名 近代化船 |
269 |
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11名 近代化船 |
220 |
外国人配乗 |
東南アジア船員 23名 |
60 |
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それでは混乗のほうがどうなっているかというのが上のほうにあります。FOC、便宜置籍船への混乗、日本人9名と14名、日本人5名と18名、これでも負けてしまう。近代化の混乗でも負ける。国際船舶にして日本人2人と残り外国人21名でいけば、負けてはいるけれども、なんとか太刀打ちできるといった数字です。これも船主協会が出している数字でして、これがそのまま定量的な数字として正確かどうかはわからない面もあろうかと思いますが、定性的にはこういった傾向にあることは間違いないと思います。
こういったかたちでどんどん日本人の船員が減っていって、いちばん最初に表をお見せしましたけれども、日本が支配している商船は2,000隻くらいありますが、その数が変わっていません。この状況で日本人の船員が減っているということは代わりの船員を雇ってこなければいけないことになろうかと思います。
これはボルチック国際海運協議会というところと国際海運連盟がだいぶ前に予測した数字ですが、世界の船員の需要と供給といった予測をやっています。2000年の分を見ていただければわかりますように、職員につきましては、すでに世界的に供給が需要に追いついていない、4%くらい不足があるといった数字が出ています。部員については余っているという数字です。これは2010年につきまして予測しているのですが、どういう前提で予測しているかというと、2000年からの船舶の年間の増加を1%と見込んでいる。そういったことで職員の需要、44万3,000人に対して、39万7,000人しか供給されない。すなわち4万6,000人、12%の職員が不足するといった予測が出ています。
図5 船員の需給予測
ボルチック国際海運協議会(BIMCO), 国際海運連盟(ISF)の予測
単位 千人 |
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供給 |
需要 |
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2000年 |
職員 |
404 |
420 |
▲16(4%) |
部員 |
823 |
599 |
224(27%) |
合計 |
1227 |
1019 |
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2010年 |
職員 |
397 |
443 |
▲46(12%) |
部員 |
858 |
603 |
255(30%) |
合計 |
1255 |
1046 |
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部員につきましては引き続き3割くらいで、2000年と変わらないのですが、オーバーという数字が出ています。したがいまして、わが国が現在の商船隊の規模を維持して、また日本人配乗船舶の数を現在と同水準に保っていこうということをやりますと、先ほど一番の問題と言いましたが、わが国の職員の年齢構成という問題が出てきます。これは将来日本人の職員が不足してくるということが明らかかと思います。
仮に日本人配乗船舶を、先ほど言いましたように日本人は船長、機関長の2名だけといった国際船舶にした場合も、船長、機関長の養成には一定の数の日本人の若手の職員の雇用と、これを国際船舶に乗せて指導して育ててゆくことが必要ですが、これを行う場がどんどん減ってくるという問題が起こります。これも一般的な話ですが、同じ国の船員というか1つのグループを維持して、自分の海運会社のノウハウをきちっと伝承していくためには、最低5隻くらいはないとうまくいかないといった数字も漏れ聞きます。したがいまして国際船舶とするも、国際船舶に乗せる船長、機関長をどうやって育てるかといった問題が出てきます。
もう1つの大きな問題としまして、日本人の船員が減ってくれば、陸上でのいろいろな業務にも問題が出てくるということが指摘されています。ここで初めて海技従事者といった言葉を使わせていただいています。海技従事者というのは船員の教育機関を出て、船員に必要な資格を持ち、外航船での船舶運航の経験を持っている人です。いわゆる一般の商船の運航に関するいろいろな知識をすべて知っている人を海技従事者と呼んでいます。こういう人が減ってくると、どんな問題が出てくるかというのを整理したのがこの図です。
まず先ほど来申しています国際船舶に乗せる日本人の職員を育てるためのOJT、訓練、教育の機会の減少で、どうやって海技従事者を育てるかという問題が出てきます。それから2番目としまして、ここで新しい言葉として海事関連領域という言葉を出しています。これは船員教育を含む船舶運航実務の経験を直接生かして仕事をしているといった職業分野と考えていただければと思います。平たく言えば、外航船員の経験者が外航の船舶以外のところで仕事をしているといったことを想定していただければと思います。
どんなところがあるかというとまず船会社の技術部門です。船舶管理会社といった技術部門や、船舶管理といった陸上から船舶の運航管理を行っている業務です。いろいろな日本の海運会社がありますが、自分の会社の海技従事者のアシスタントなしには海運は運営できないといった状況です。
それから行政の面で言いますと海難審判であるとか、免状を出すための試験を行う海技試験官といった業務です。それからよく聞かれると思いますが、外国から来る船の内容が条約に合っているかどうかを監督する、ポート・ステート・コントロールと言うのですけれども、これを行う外国船舶監督官がいます。こういった船の実際を知らずにはできない業務への人の供給が止まってしまいます。たとえば海難審判庁でやっている海難審判官、理事官といった仕事は、船長、機関長の経験2年を要求しています。それから私どものような大学や高専で海事教育や研究を行う人たちも減ってくるでしょう。
これも大きな問題ですけれども、パイロット(水先案内人)、それから海事検定、港湾運送事業、保険といったサービス業で働いている人です。特に水先人につきましては3000トン以上の外航船舶に3年以上乗船の履歴をもって、初めて水先人の受験資格が与えられると法律で決まっています。3年の乗船実歴を持つということは、5年以上は船に乗っていないと、休暇等もありますから、履歴を付けるのは難しいかと思います。こういった仕事を行う人がいなくなってくるということです。
もちろん海技従事者のいろいろなアイディア、経験をもとに、造船や舶用機器等の開発、製造といったことを行っている分野もありまして、ここでの人材というものがいなくなってしまう。このように船員が減ることは、ただ船員が減るだけではなくて、海運に関連した日本のいろいろな分野、海事関連領域に大きな影響を及ぼすということかと思います。
長々とお話ししましたけれども、これから少し教育の現状についてお話をさせていただきます。今日お配りしました資料の中に私どもの大学の案内と、それから船員教育機関の実習を担当しています航海訓練所の案内、パンフレットを入れておきました。この二つを見ていただければ、わが国の船員教育、いわゆる大学等での座学でどういった教育が行われているか、さらに航海訓練所の練習船を使った実習の場ではどういった教育がどういうふうに行われているかということが詳しく書いてありますので、のちほど参考にしていただければと思います。
まずここに海技資格制度という言葉を持ってきましたけれども、海技従事者、船長、機関長はどうやって育てられるかを書いたのがこの絵です。いろいろなルートがありますが、大学、商船高専といったところを考えれば、そこで座学をやったのちに、練習船の実習を1年、これは航海訓練所の練習船でやっています。この1年の実習は、国際条約にちゃんと決められているものです。
これを終わってはじめて3級海技士という資格が得られます。これには航海とか機関とかいろいろなカテゴリーがあるのですが、いわゆる初級の船舶職員としての資格をとるための受験資格が与えられます。海技試験官による試験にパスすれば、この免状がもらえます。この免状を持って一般の商船に乗るわけです。その商船で1年間乗船の実歴、これは最低ですが、それを積めば、次の2級海技士という上のクラスの受験資格を得ることができます。また試験を受けて、合格すれば免状がもらえます。
これから3年の乗船実歴を持てば、1級海技士、これは船長、機関長の免状ですけれども、これの受験資格が与えられ、この試験に受かれば、実際に船長、機関長として仕事ができるというシステムになっています。図を見ていただければわかりますように、簡単には船長、機関長は育たない。時間が要るということになります。
いままで日本人の船員にとって都合の悪いような話ばかりやってきたのですが、日本の船員教育は世界の船員教育に比べて非常に優れたシステムとなっています。そのあたりを整理したのがこの絵です。世界の国に対するわが国の船員教育の比較優位性をまとめれば、まず明治以来の伝統と書いてありますけれども、船舶の運航はぱっとできるものではありません。やはり船舶の運航技術、船員の教育方法、いろいろ試行錯誤しながら、いままでに貯えてきたノウハウがしっかりと蓄積されていることが必要になります。
その次に教育機関です。外航船員の養成では商船大学が2校、高専が5校、内航船員には海員学校が8校、さらに再教育を行う海技大学校といった組織、実習訓練をやる専用の練習船を持った航海訓練所といった組織があります。教育システムが新人教育から再教育まできっちりと整備されていることになります。
さらにもう1つ、これも重要な話になると思いますが、教育者とか研究者、上級管理者を養成するための大学院、博士の前期課程と後期課程が東京と神戸につくってあります。船員の教育については完璧なシステムがつくりあげられていて、これを利用しない手はないということになろうかと思います。
これが船員教育機関の概要です。大学は東京と神戸にあります。高専は富山、鳥羽、それから大島というのは山口県、柳井の沖にあります。広島は大崎上島という、竹原の沖にあります。それから弓削、この5校に商船高専があります。
主として再教育を担当しています海技大学校が芦屋にあります。海員学校は、個々の学校はいま制度改正で、海上技術学校と海上技術短期大学校と呼んでいるのですが、小樽、宮古、館山、唐津、口之津、沖縄です。清水と波方の2港が短期大学校のほうです。
それから航海訓練所では実習訓練を担当しています。帆船が2隻とディーゼルで動く船2隻、それからスチームタービンの船2隻ということで、ありとあらゆるカテゴリーの船を用意して、船で使われる技術と言いますか、必要な訓練はすべて行えるような専用の練習船が整備されているということです。
次はこういったきっちりと整備された船員教育機関にアプライしようとする若い人がどのくらいいるかという数字をまとめたものですが、入学試験の倍率ということでまとめてあります。92年から昨年までです。上段の青いほうが大学、下の赤いほうが高専です。高専はほぼ2倍くらいで推移しています。大学のほうは97年にぐっと減っているのですが、何か受験の制度上の変更があったのかといろいろ調べたのですが、理由はどうもはっきりしません。高校の卒業生が減ったとか、いろいろな高校のほうの受験指導で何かあったとか、そういったことかと思います。現状ではだいたい3.5倍くらいのところで推移しています。これは東京、神戸、機関科、航海科、すべてを合わせた数字になります。
次は育てた学生がどうなっているかという卒業生の就職状況について整理したものです。
大学の卒業生数は最終的に免状をとるコース、のちほど説明しますけれども、乗船実習科といって航海訓練所の練習船で1年間実習をやった人たちの数です。東京、神戸の両方を合わせてl10くらいの数字がありますが、その人たちの2001年の就職先は、外航は38%、そのほかの海上、たとえば練習船とか官公庁船も含んでいます。そういった海上が20%です。
図6 船員教育機関への入学希望者数の変化
入学試験倍率
図7 卒業者数と外航海運への就職状況(大学)
卒業生の就職状況(大学)
6割くらいは実際に船に乗る仕事に就職をしています。残りは、造船とか海上関連ということで、倉庫業とか保険といった海運と関連した領域に出ています。赤丸はその他です。こういった状況にあります。この黄色が外航船への就職の状況ですけれども、やはり定性的には減少傾向にあるかと思います。40〜50人くらいが外航の海運会社に就職している現状です。
図8 卒業者数と外航海運への就職状況(高専)
卒業生の就職状況(高専)
これは商船高専の例ですけれども、93年に卒業生がどっと減っているのは、機関科の養成定員を減らした影響です。その後、だいたい140〜160人が卒業しています。ただ外航船の運航会社で仕事を得ている人が少なく、2001年では外航は4%、ほかの海事関係を合わせても26%で、4分の1くらいしか海事関連産業に就職できていないことになっています。
特に外航海運に就職している人たちは、ここのところ約30人です。これにはのちほど少し触れるかと思いますが、卒業生と雇う側のミスマッチがあります。教育の内容であるとか、卒業生の能力といったことについてやや需要と供給が一致していないという面があるのではないかという感じを持っています。
これからが本題になりますが、では船員教育の将来はどうあるべきかという話をさせていただきます。これからの外航船員は海技従事者で代表させていただこうと思いますが、これにはどういった資質が要求されるであろうかという雇う側からの話です。やはり船舶の運航要員としての役割、これにはやはり免状が要ります。それからこういった役割のみならず、船の安全管理、船舶管理、荷物関連、集荷、新しい形態の貨物輸送といったことについての技術的なサポートができる。すなわち乗船経験であるとか、船舶の運航技術だけではだめです。これに加えて技術の進歩に対応できる、より高度な技術力、それから陸上部門で活躍できる知識、その意欲です。あともう1つ、外国人の船員が増えていますから、これを使うマネジメント力です。もちろんこれには語学が必要ですから、語学を含めたOJT、船でのOJTの担当者としての能力が要求されるかと思います。
この絵は、私は学生によく話をするのですが、学卒者にどういった資質が要求されるか。これは私論ですが、まず必要なのは知識、ノレッジでしょう。それから技術、スキルです。それからアティチュード、リーダーシップ、英語、もちろん健康でなければいけません。でもこの中でスキル、技術はやはり各船会社が独自に培った船舶運航についての、その船会社が得意とする輸送形態、どういった荷物を運んでいるとかいうことも含めて、会社独特の技術がありますので、練習船で学ぶ基礎的な運航技術を除き、船会社でのOJTをとおして学ぶ部分が多いと思います。
整理すれば、いちばん上にあります私どもの学校では何を教えるか。これはやはり知識でしょう。できるだけたくさんの知識を学んでもらいたい。なおかつ語学力です。この語学力につきましては、STCW条約でもちゃんと基準が定めてありまして、海事英語、マリタイム・イングリッシュというカテゴリーで括られていますけれども、これについての教育をどういうふうにやらなければいけないかということが条約で決められています。したがいまして私どもの学校では、この条約に対応した英語教育はやっているわけですけれども、それ以上に、英語の能力が求められることになろうかと思います。
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