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2)動物プランクトン
 表II.3.10-7及び図II.3-10-7には、高速処理(流速41.24m/sec、通常よりも約10m/sec速い)の場合における動物プランクトンに対する損傷効果を示した。
 高速処理の動物プランクトンに対する損傷効果は、二枚貝類を除いたすべての分類群が100%あるいは100%近い損傷率を記録し、全動物プランクトンでも99.9%と高い損傷率であった。二枚貝類に対しても、流速約30m/secの基本効果実験の1pass全サイズ合計損傷率が57.86%であったのに対して、約14%高い71.69%であり、2pass処理を想定すると損傷率約90%になる効果である。
 このように、高速処理は、動物プランクトンに対して極めて有効な処理効果向上方法である。
 
表II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果
 
スリット部流速:41.24m/sec
圧損:929.2kPa
単位:ins/L
    パイプ処理前 1pass処理直後 1pass損傷率(%)
多膜類繊毛虫 <20μm 4312.00 <0.1 100.00
≧20μm 2.93 <0.1 100.00
Total 4314.93 <0.1 100.00
輪虫 <20μm <0.1 <0.1  
≧20μm 1.40 <0.1 100.00
Total 1.40 <0.1 100.00
二枚貝 <20μm 0.00 <0.1  
≧20μm 0.71 0.20 71.69
Total 0.71 0.20 71.69
カイアシ類(アゴアシ) <20μm <0.1 <0.1  
≧20μm 328.32 4.60 98.60
Total 328.32 4.60 98.60
蔓脚類(フジツボ) <20μm <0.1 <0.1  
≧20μm 18.26 <0.1 100.00
Total 18.26 <0.1 100.00
全動物プランクトン <20μm 4312.00 <0.1 100.00
≧20μm 351.61 4.80 98.63
Total 4663.61 4.80 99.90
注)損傷率: 処理前の正常個体数に対する処理後正常個体の減少率、空白:算出対象外
<0.1:検出限界以下、損傷率算出時は0として計算
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(1)多膜類繊毛虫類、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(1)多膜類繊毛虫類、損傷率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(2)輪虫類、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(2)輪虫類、損傷率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(3)二枚貝類、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(3)二枚貝類、損傷率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(4)カイアシ類、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(4)カイアシ類、損傷率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(5)蔓脚類(フジツボ)、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(5)蔓脚類(フジツボ)、損傷率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(6)全動物プランクトン、個体数変化
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-7 小型装置の高速処理(流速41.24m/sec)における動物プランクトンに対する損傷効果(6)全動物プランクトン、損傷率
 
(3)閉塞対策の作動要件と水生生物損傷効果への影響
 2時間の連続運転(総流量約220m3)では、装置上流側圧力が515から560kPaに上昇したものの、600kPaには至らずに閉塞は起こらなかった。実験した場所の伊万里湾奥部は、プランクトン量が多い富栄養海域に属すると考えられる。よって、ゴミ等が多量にない通常の海水では、本装置は容易に閉塞状態には至らないと考えられた。
 しかし、何万トンというバラスト水を処理する場合や、ゴミ等が多量に存在する海水を処理する場合には、閉塞状態になり易いことも考えられる。よって、砂をポンプ口から注入し、強制的に閉塞状態を引き起こして閉塞装置を作動させ、閉塞状態を解消できるかを検証した。また、閉塞時における浮遊性甲殻類に対する損傷効果を調べ、閉塞によって水生生物に対する効果が低下するのか、あるいは向上するのかを調べた。
 表II.3.10-8及び図II.3.10-8には、強制閉塞時の物理条件と浮遊性甲殻類(20μm以上)の損傷効果を示した。
 閉塞対策による閉塞状態の解消については、2回の強制閉塞実験で可動スリットと可動衝突板を上下流方向に移動させる対策(図II.2-1-2参照)を実施したところ、瞬時に非閉塞時の圧力状態に回復した。よって、本閉塞対策は有効に機能することが検証された。
 浮遊性甲殻類に対する損傷効果は、非閉塞時の損傷率が92.72%であったのに対し、閉塞状態ではそれぞれ96.56%、97.73%であった。また、強い閉塞状態(高い圧損)時の方が高い損傷率を記録した。よって、閉塞状態が強くなるほど損傷効果が高くなることが明らかになり、実船での運用を考えた場合、閉塞の対策時間が短ければ、損傷効果に対してもほとんど影響しないことになる。今回の対策時間は、手動で行ったため約1分を要した。連続通水2時間でも閉塞状態には至らなかったが、仮に2時間に1分間の対策を実施した場合でも1分/120分で、0.8%の損傷率低下にしかならず、閉塞対策実施による損傷効果の低下は無視できる程度と判断された。
 作動要件としては、閉塞状態になっても損傷効果は低下しないので、閉塞がかなり進んでからの作動も考えられるが、ポンプの種類によっては閉塞が進むと処理流量が低下することもあり、一連の小型装置の実験で通常時の処理条件としたスリット部流速約30m/secの場合では、装置上流側圧力600kPa程度が適切であると考えられた。
 
表II.3.10-8 小型装置の強制閉塞時の物理条件と浮遊性甲殻類(20μm以上)に対する損傷効果
  連続運転:非閉塞 強制閉塞:第1回 強制閉塞:第2回
圧損:441.3kPa 圧損:558.9kPa 圧損:593.0kPa
パイプ処理前 1pass処理直後 パイプ処理前 1pass処理直後 パイプ処理前 1pass処理直後
正常個体数
(inds/l)
291.06 21.20 807.92 27.80 1102.45 25.00
損傷率(%) 92.72 96.56 97.73
注)損傷率: 処理前の正常個体数に対する処理後正常個体の減少率
 
スリット部流速:41.24m/sec、圧損:929.2kPa
図II.3.10-8 小型装置の強制閉塞時の物理条件と浮遊性甲殻類(20μm以上)に対する損傷効果
 
(4)長時間連続運転による機械的問題点の検討
 2時間での連続運転では機械的問題点は生じず、また、砂投入による強制閉塞においても特に問題点は見あたらなかった。
 ただし、実船に搭載する場合には、閉塞対策装置を自動制御にする必要がある。また、スリット板と衝突板の強度を増して、より安全に運用できるようにする必要性もある。よって、船上搭載試作機には、自動制御を付帯した閉塞対策装置を設置し、スリット板と衝突板の隅部を厚くするなどの改良を加えることとした。
 
3.11 小型装置の水生生物損傷及び閉塞対策と長時間運転による機械的問題点
 小型装置の水生生物に対する損傷効果は、次のようにまとめられる。
●細菌類に対しても殺滅効果を有していると考えられる。しかし、細菌類の特性により、完全に殺滅しない限り再増殖を招き、処理前よりも増加させる可能性がある。実船での運用を考えた場合においては、一連の航海中においてバラスト水を循環処理するか、排水時に処理することが必要になると考えられる。
●植物プランクトンの主要な構成分類群である渦鞭毛藻に対する損傷効果は、いずれのサイズでも1passで60〜70%、2passで80%前後であった。もう一つの主要な構成分類群である珪藻に対しては、50μm以上のサイズでは1passで90%に達し、2passでは98%を超え、全体(全サイズ)でも2passで約80%となった。すべての植物プランクトンを合計した場合には、珪藻が多くを占めているため、珪藻の傾向と同じとなっている。
●全動物プランクトンの損傷率は、2passですべてのサイズで90%を超え、全体では約99%と高い値となった。各分類群でばらつきが認められた中で、このような高い損傷率が得られたのは、すべての海域において常時出現数が多い多膜類繊毛虫やカイアシ類の終生プランクトン生活者に対する損傷率が高いためである。一方で、二枚貝類をはじめ本来(成体が)底生・付着性の生物の浮遊期幼生に対しては効果が低い傾向が認められた。これら分類群は、卵や幼生など一生のうちの一時期をプランクトン(浮遊生物)として生活するものであり、常時分布するわけではなく、出現数もカイアシ類等の終生プランクトンに比べて少ない。したがって、これら分類群に対する損傷効果が低いことは大きな問題とはならないと考えられる。
●魚卵・稚仔は、本装置でほぼ完全に殺滅あるいは排除できると考えられる。
●以上の水生生物に対する損傷効果を向上する方法としては、ポンプ能力に関する問題が残るものの高速処理が有効であり、スリット部流速約40m/secで漲水時と排水時の両方で処理すると、すべての植物プランクトンを対象とした場合でもほぼ損傷率95%に達し、二枚貝類にはやや低いものの動物プランクトン全体に対しては100%近くになる。
 
 閉塞対策は、有効に機能することが検証され、対策実施における損傷効果への影響も無視できるほどであることが明らかになった。なお、今後の実船への適用を考えて、自動制御装置を付帯することとし、作動要件としては、装置の上流側圧力600kPaを一つの目安にすることとした。
 
 機械的問題点に関しては、2時間の連続運転では観察されなかった。ただし、強度向上のために、スリット板と衝突板の隅部構造に若干の改良を加えることとした。







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